※この作品はR-18です。

神宮司まりもの恋愛遍歴   作:ろっくLWK

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〈19-B〉

 

 

 都内某所の超高層タワーマンション。その最上階を占有する斧澤の自宅。そこへまりもが案内されたのは、レストランを出てからほんの数十分後の事だった。東京の夜景を贅沢に一望できるリビングの窓辺で「飲み直しに」と二人してワイングラスを少量傾けた後、彼はまりもにシャワーを勧めてきた。

 

『僕はもう一つあるシャワールームの方を使うから、君はそっちで浴びて来なさい。気兼ねなく、ゆっくりとね』

 

 その意味が分からぬほど自分もおぼこでは無い。大理石仕立ての広いバスルームで念入りに体を洗い、湯から上がった後は薄化粧を施し直すと共に、口中に残る酒の残り香もきちんと始末をする。淑女の嗜み。その準備を、まりもは抜かりなく行った。そうしてバスローブ姿で浴室を出たまりもを、斧澤はすかさず捕らえてきた。

 

「――お、斧澤さ……んっ、んく、ちゅぷぅぅ……んは、あふっ、んむふっ……」

 

 下着姿の彼が注いだ少し強引なディープキス。背中にごつごつと当たる厚い胸板の感触。ジム通いで鍛えた、というその筋肉質な体で後ろから羽交い絞めみたいに抱きすくめられ、食い散らかすように唇と舌を奪われながら体中を撫でさすられて。それまで一貫して紳士の振る舞いをしていた斧澤の獰猛な男ぶりをここで一気に見せつけられ、まりもは早くも目が眩んでしまう。

 

「――キスが上手いね。こちらの舌使いにもすぐに反応してきた辺り、やっぱり経験豊富なのかな?」

 

「もう。そういう事、女の子に聞かないで下さい」

 

「僕はもう君の事を立派なレディとして扱ってるつもりだよ。こんなセクシーな姿を見せられたら、誰だってそうなるさ」

 

「あっ……やん」

 

 速やかにローブの結び目をほどかれ、まりもは己が肢体を露わにされる。今身に付けているのはホワイトピンクのレースショーツ、ただそれだけ。漆黒の摩天楼を捉える壁一面の大窓は室内の情景ごと、まりもの裸身を鏡映しに晒していた。ぷるりと弾む二つの乳房を、背後の斧澤が鷲掴みにするその様子も。

 

「あ、あの…………カーテン、は?」

 

「この高層階、外から覗き見なんて出来やしないよ。まあそれでも、あえて覗きに来る好き物がいるなら見せびらかしてやってもいいけどね……君の濡れ場を」

 

「あぅんっ……ダメです、そういう事言うの……ッ」

 

 まりもは息を呑む。いかに高層と言えど、少し離れたところには同程度の高さのビルもある。そこから望遠鏡か何かを使われたら? 見せびらかす、という言葉の意味するところを想像して興奮を高めるまりもの乳房を、斧澤はゆったりと揉みしだいてきた。

 

「ああ……素晴らしい胸だ。この手応えから言ってE(イー)はゆうにあるかな。若々しくてハリがあるのに、揉んでみるとほど良く芯を残してふわふわに柔らかで、それにこのたぷたぷとした重量感……艶めく色気と母性を感じさせてくれる。教師を目指してるって言ってたけど、そんな地味な仕事に就かせるなんて勿体ないぐらいにエロティックだよ」

 

 ぐにゅぐにゅ、と乳房を揉み込む斧澤の力加減は絶妙だった。痛い、と感じるその直前ぐらいの圧迫を加えたところで指の力が緩まる。それはあたかもこちらの感度を全て把握し切っているみたいだ。手形がそのまま残っているかと錯覚しそうになる程の、じわりと沁み込む感触の余韻。それは時間が経てば経つほど、疼かされるような快感へとすり替わってゆく。

 

「あふ、あ、ふぁ……きょ、教師になるのは中学生の頃からの夢、なので……」

 

「分かっているとも。君ならきっと生徒達に慕われるいい先生になれるよ。……でもいつか周りの同僚や男子生徒にぱっくり食われてしまいそうで、それだけは心配かな」

 

「そ、そんな事っ、ある訳無いですよぅ。私だって教師になったら、そういう所の線引きはちゃんとするつもりですし……」

 

「どうかなあ、僕には解るんだ。君の中にはどうしようもないくらい強い『雌』の気配が漂ってる。男を虜にし、男の虜にならなければ決して満足できない……そういう気配がね」

 

「めっ、メス……」

 

 そのたった一言で、まりもの芯は強く揺さぶられた。それと同時にさっきから忙しなくお尻をさする、硬く突き出た剛直の感触。尻肉の谷間を捉えていきり立つように前後する彼の欲深い腰の動きが、こちらに何を求めんとしているかをまりもの情欲に訴えかける。

 

「自分では気付いてないんだろうが、僕のように色を好む男からすれば一目瞭然なんだよ。ああ、この女は男を求めている、抱かれたがってる、ってね。もっと言えば、全身からそういう『匂い』が立っているのさ。この大きく実ったお尻や細くくびれた腰背中、潤んだ唇に大きな瞳……それにココからも」

 

「――んっんあああ、」

 

 両の乳首を人差し指の先でくりくりと転がされ、まりもは軽く悶絶してしまう。それ弱いのに。ほんの一瞬でこちらの弱点を見切ってきた斧澤は多分、いいや間違いなく、女の扱いにも長けていた。

 

「そういう女は普段しっかりしていても、ひと度タガが外れれば一気に崩壊してしまいそうで、だからこそその危うさがまた魅力的に映るものだ。是非とも一度味わってみたい、いざ崩れたらどんな貌を覗かせるのか暴いてやりたい、と。例えば、こんな風に」

 

「んんっ……あ、ふうぅうぁっ」

 

 やわやわと胸を揉みながら前に回り込んできた斧澤が、「ちゅうぅ、」と音を立てて片方の乳房にかぶりついた。優しい舌の動きとしつこい吸い上げの連携、先っぽだけを唇で啄んでのぷりぷりとした揺動。それにまりもはすっかり翻弄されてしまう。

 

「あぁダメっ、そんな、じっくり味わっちゃうようなしゃぶり方はぁっ……!」

 

「若い男だとこんなねちっこい責めはしてくれないだろう? 女は激しくされればいいってものじゃないからね。ほら、こうして歯を立てて、先っぽだけをくすぐるように動かされたりすると……」

 

「はぁふっ、んくっ、あふあぁぁぁあっ」

 

 硬く鋭利な感触がカリカリと、乳頭の表面を忙しなく往復する。噛みつかれる寸前の不安感とそれに至らない掻痒感。直後にずるずる音を立て乳首を啜られつつ舌先で左右に嬲られると、「もっとして」と自分から胸を差し出したくなるような衝動に駆られてしまう。己の技巧をそこへ沁み込ませるかのように念入りな斧澤の乳房責め。過度なよがりなんてしたくないのに、肩まで勝手に跳ね上がってしまうほど気持ち良くて堪らない。

 

「とてもいい反応だ。やはり性には開放的(オープン)な方が、女性の魅力はより浮き彫りになるものだね」

 

 ちゅぱん、と斧澤が一度唇を離し、それから涎まみれの乳頭に断続的な舐め転がしを与え始めた。同時にもう片方も乳輪ごと啄むように指できゅうきゅうと搾られ、絶え間ない快感の絨毯爆撃にまりもはひたすら喘がされるばかりになってしまう。

 

「ふあぁぁぁ、んうぅくっ、……きゃぅぅぅうんっ。だめ、声ガマンしたいのに、口から出ちゃうっ……!」

 

「それにしても実に僕好みのいい胸だなあ。形良さや飽きの来ない触り心地もさることながら、この大ぶりでこりっこりに硬く勃った、それでいて処女のように鮮やかなピンク色の乳首が特にね。……ふふ。女の胸に興奮させられるのも久しぶりだ。右乳首(こっち)ももっと良くなるように、たっぷり舐ってあげるとしよう」

 

「あん、あうぅっ。ダメっダメ……! そのしつこくじゅるじゅるされちゃうの、身体のビクビク止まんなくてっ、んあああ、あぁぁぁあ……」

 

 斧澤の責めは全体的に執拗で、こちらの性感を否が応でもこじ開けるかの如き大胆不敵さに満ち満ちていた。危うさに摩(さす)られるようにして狂おしく打ち震える体を巧みに誘導され、まりもは薔薇色のシーツに粧(よそお)われたベッドのふちにぼすりと腰を落とす。そうなったら後はもう、まな板の上の鯉みたいなものだ。

 

「ふふん。透き通るように白い柔肌と鮮やかな桃色に上気した頬、実に良くベッド映えするね。この色気、一晩で帰してしまうのは実に惜しいな。……どうだい。これを機に、僕だけの女になってみる気はないかな?」

 

「んふ、んっ。斧澤さんだけ、の……?」

 

「そう。そしたらもっと沢山見せてあげるよ、大人の世界というものを。例えば君が望む教職の仕事も、僕の伝手で私学のいいところを紹介してあげよう。仕事と家庭を容易く両立できる、そういうところをね」

 

 ぐいと押し広げたまりもの太ももや股の周辺を、斧澤が手のひらで丹念に撫でつける。そのくすぐったさと敏感なポイントを掠めるしたたかな指の蠢きを受けて、劣情を煽られたまりもの喘ぎは一段と強まってしまう。

 

「他にも君に見せたいものは沢山ある。世界中の風光明媚な景色。ここなんて比にならないくらいの大都会を眼下に収める眺望。世界中のセレブが集まるパーティやイベントにも、ドレスを着せた君を連れていきたいな。――そして、社長夫人の椅子。それは君だけに許された特別な光景、という事になるかな」

 

「……社長、夫人」

 

 その誘惑は想像以上に甘やかで、とても危険な香りがした。社会経験の少ない自分でも、大人がこういう事を囁く時には相応以上の見返りを求めるものだというのは分かっている。それにこの強引さ。こちらに返事をさせぬまま話を進め、後から肯定の意思だけ確認しようとするみたいな根回しの良さ。それらはまさに世渡りを重ねてきた者ならではの手際と評すべきだ。斧澤が内に秘めるものはまだまだあって、それは決して綺麗なものばかりでは無い。大人のえぐみ。そういうものを、まりもは本能的に感じ取る。

 

「その代わり……分かるね?」

 

 ぱさ、と下着を脱ぎ去りベッドに乗り上げた斧澤が、ちょうど自分の顔面を跨ぐように覆いかぶさってくる。そこにぶら下がるものを見てまりもはぎょっとした。

 ――大きい。曝け出された斧澤の男性自身。そのサイズは想像していたものの倍、いや三倍近くはあるのではないか。それは言い過ぎとしても、目測ですら彼のモノの長さは二十センチ近くもあった。太さにおいてもこの手で包み切れるかどうか。そんな代物をいきなり目と鼻の先に突き付けられ、まりもは完全に委縮してしまう。

 

「僕だって遊び人じゃないからね、女性との交際は真剣に考えたい。今さらながらに子を儲けたい、という諦め難い願望もある。相手が君ともなれば特にね。でも決めるのは君だ。君が望むものを僕が叶えてあげる代わりに、君にも僕の望んでるものを叶えて欲しい」

 

 ツヤツヤに黒光りした全容。強烈な雄の匂い。舌先に垂れ落ちる先走りの濃い味。まりもはソレに、さっき飲んだ高級ワイン(ペトリュス)以上の酩酊を覚えてしまう。ここで求めを断ったなら、そしたら自分は彼にどうされてしまうのか? そんな事は想像も付かなかった。辛うじて感じ取ることが出来たのは、事前通告も無くこちらのショーツをずり下げ花弁を剥き出しにした斧澤が、その太い指を尺取り虫のように恥丘へ這わせ始めた事。そしてそれに自分の膣奥が大きく疼かされてしまった事実とその意味、この二つだけだ。

 

「コレ(・・)はその誓いの証だ。さあ、受け入れてくれるね、まりも?」

 

 斧澤が自分の呼び方を変えた。そこで求められたものが何かは重々承知している。名刺に書かれてあった下の名は勿論、しっかりと暗記してあった。

 

「………………は、ぃ。秀策(しゅうさく)、さん……」

 

「――いい子だ」

 

 その一言をもって、斧澤が腰を下ろし始めた。まりもは舌を伸ばして先端を迎え入れ、突貫してきた彼の男根を口腔で受け止める。

 

「はふ……くぷ、んんんぅぐぷ……ぐじゅぷ、っ…………」

 

 先走りと唾液に浸された雁首がいやらしい音を立て、舌の上を滑ってゆく。年月に伴い濃縮された淫臭が凄まじい。けれどそれより何より、やっぱり想像以上に長くて太い。顎を一杯に開いてもなお頬をめりめりとこじ開けようとする巨根、その熱く脈打つ肉の塊をまりもは呑み込みかね、うねらせた舌の腹で「ぬりゅん」と亀頭の先を遮ってしまう。と、それを跳ね除けるような強い力でもって肉棒が一気に突き進んできた。

 

「あふゅあぁうっ、」

 

「いけないなあ、まだ半分も収まっちゃいないよ。僕はもっと奥底まで君のことを埋め尽くしてあげたいんだ。そう、この愛らしい唇がコレの根元にくっ付くまで」

 

 ――根元まで? その一言が信じられず、まりもは眼前に垂れ下がる皺だらけの大きな陰嚢を凝視する。それがぐんぐんと近付いてくる事はそのまま、斧澤が自らの巨塊をより奥へ奥へと捻じ込んでいる事を意味していた。込み上げる吐き気。ままならぬ呼吸。「ん~~~っ、んん~~~~!!」と悲鳴にもならない呻きを上げるまりもの目頭に涙が湧き上がり、ぼろぼろと視界の端から流れ落ちてゆく。

 

「……んむっ! ぐぷぅっ。おぐ、んぶ、ぅぅぐ、」

 

「おお、あ……よしいいぞ。このまま喉の奥に直接射精(だ)してやるからな。僕に誓いを立てるというのなら先端を喉輪で締めて、全部こぼさず飲み切るんだ」

 

 斧澤はそう要求してきたが、それ以前に喉奥を突かれたせいでさっき食べたものが逆流しそうになっている。これでは例え今すぐ射精(だ)されたところで、とても飲み込む事など出来そうもない。そうこうしているうちに斧澤が花弁のぬめりを指先に絡め取り、その一本をずぶりと膣に差し込んできた。上と下、両方の口への同時攻撃。特に上側の苛烈な責めに、まりもの思考が急速に麻痺し始める。

 

「んんっ! ごぷっ、ぐぷっ、ん、んぐぅ、ぐっ、んぐ!」

 

 ぱたんぱたん、とバウンドする陰嚢に目頭を叩かれ、まりもは視界すらをも封じられてしまった。やむを得ず口腔の状況だけに意識を集中させると、少し柔らかい斧澤の陰茎がみきみきと顎関節を揺すりながら舌上を滑り、理解不能なぐらいの喉穴深くを突いている。そこから滾々と湧き零れる先走り汁が文字通りストレートに咽頭に沁み込んでくるせいで、鼻腔はもはや噎せ返るほど強烈な酸味がかった匂いで充満し切っていた。

 容赦無しの喉奥プレス。かっぽかっぽ、と鳴らされるピストンの音も彼自身の圧し掛かる体重も、今にも外れそうな顎の痛みも先走りの苦酸っぱさもその臭さも、何もかもが苦しくて堪らない。なのに、その筈なのに。こんな暴虐的な征服に曝される己自身の痴態を無意識のうちに俯瞰して、まりもはかつて無いほどの興奮を覚えてしまっていた。

 

「ああああ~……いいよ、実にいい。この愛らしい唇と顔立ちを好き勝手に蹂躙していると思うと、それだけで震えるほどの昂揚と満足を覚えてしまう。この日の為にずっと禁欲してきたんだ、今夜はそれを全部まりもに吐き出してあげよう。この艶めかしく蠢く下の口にも……ね」

 

 斧澤の腰の動きが速まってきた。それと同時に膣へ指が二本、いや三本挿入してきたのが分かる。それら全てに対してまりもはもう、ただ愕然としながら身を任せる以外に手の打ちようが無い。雁首の膨張が拡張具(ステント)のように内側からごりごりと喉の径を押し開き――う、と斧澤が呻いたと思った、その瞬間。

 

「……ご、ぷ……!!」

 

 まりもの喉に灼けつくような辛みの洪水が流れ込む。びゅっ、びゅ! と尚も凄まじい勢いで撃ち放たれる強欲。跳ね上がる陰茎の動きに揺すられる頭蓋。その全てが強烈にまりもを酔わせる。

 ひとしきり射精を終えた斧澤は、恐らくは意図してゆっくりと蛇行を加え、尚も尿道から漏れる精の残滓を舌の上へこすりつけるようにしながら肉竿を後退させた。がふっ、と苦々しさに激しく咳き込んだまりもの喉には、とても一息には飲み込めそうも無いほど大量の粘液がへばりついていた。

 

「――――ふう、慣れないうちはこんなものか。まあ口の方は今後じっくり調教してやるとしよう。どれ、出されたものをちゃんと全部飲み込むところを僕に見せるんだ。それとまだ竿内(こっち)に残ってる分も、手で搾りながら啜り出して綺麗にしたまえ」

 

「あぐ、かはっ。……ん、ふぁ……いぃ……」

 

 舌を動かしてどうにか唾液を分泌させ、それを媒介にしてぷるぷると凝(こご)った精の塊を食道へ流し込む。――熱い。喉から胃袋までが火で炙られてるみたい。続けて眼前に差し伸べられた肉棒を半ば放心状態でしゃぶりながら、まりもはぼんやりと思考する。

 こんなに濃いのは勿論のこと、こんなやり方で無理矢理飲まされたのだってこれが初めてだ。斧澤が見せたサディスティックな一面に、けれど今の自分は、どうしようもなくこの身体を疼かせてしまっている。どうして? こんな粗末に扱われるのが良いとでも言うの? ……その時ふと先日の、夕呼との会話の情景が頭の隅をよぎった。

 

『そんなにいい物件(おとこ)なら、どうして夕呼(アンタ)が手を出さないのよぅ』

 

『いくら年上セレブったって、あたしにも好みってモンがあんのよ。それと相性ってヤツもね』

 

『相性?』

 

『そ。アンタとあたしがつるんでるのだって半分くらいはソレ。そこら辺の機微が分かってないからまだまだガキんちょだっていうの。御託はいいから本人に会って、自分で見極めてきなさいな』

 

 ――これだったのか。今更になってまりもはようやく理解に至る。斧澤がこういう性的嗜好者なのであれば、同じくサディスティック嗜好の夕呼とはなるほど反りが合いそうにない。恐らく夕呼は何らかの形でこれを知り得ていたか、或いは実際に彼と関係してそれと思ったからこそ、自分にお鉢を回したのだ。

 尤もそれは彼女が『嫌なものを他人に押し付けた』という事では無い。単に自分と相性が合うか合わないか、それだけの話。そして自分がどうであるか、彼の責めを本気で嫌がる性質の人間なのか、と問われれば。

 

「美味しかったかい、まりも?」

 

「……んぐんっ…………はい。すっごく濃ゆくて、たっぷんたぷんでぇ……病みつきになりそうなオスの匂いとエッチな味が、たまんなかった、ですぅぅ……」

 

 顔一面を唾液と涙と鼻水まみれにし、それでも熱に浮かされたような惚け顔で、まりもは斧澤が喜びそうな淫語を自ずから並べ立ててしまう。身体どころか心まで穢され踏み潰されるみたいなこの仕打ち。それが己の中に隠されていたマゾヒスティックな部分を揺り起こし、屈服と従属を強いられる事でのみ得られる精神的な悦びというものをまりもの心底に根付かせる。

 

「いい表情だ……やっぱりまりもには素質があるな。もう五年もする頃には、最上級の娼婦よりももっと魅惑的な女になってる事だろう。そうなった君を抱ける日が実に楽しみだよ。ご褒美に、今度はこっちをたっぷり気持ち良くしてやるぞ」

 

「あっ、んん……え、やだっ、いつの間に……!?」

 

 口にばかり意識を向けていたせいで気付かなかったが、まりもの陰核(クリトリス)や陰毛は既に大量の唾液にべっとりと濡らされていて、膣もだらだらと愛液を垂らすまでにほぐし尽くされていた。そこに股を割って入った斧澤がご自慢の剛直をあてがう。ほぼストレート形状かつ亀頭周りが異常に膨らんだ、過去最大級の肉棒。こんなものが本当に入り切るのか、勢い余って腹を突き破られやしないか。それが唯一にして最大の不安要素だ。

 

「さあ、もうココに欲しくて欲しくて堪らないだろう? だったら僕におねだりしてみせてご覧。とびきり可愛らしく」

 

「……あぁ……お願いです秀策さん。私のこのはしたないおまんこに、あなたのその素敵で逞しいオチンチン……下さい」

 

「それから?」

 

「それから……あなたの満足いくまでずぶずぶってして……そして……あなたのエッチなおちんぽ汁を、この中に沢山注いで下さい」

 

「もう一声だ」

 

「あ、あなたの精子を……。真っ白でどろどろな赤ちゃん汁をっ、まりもが孕んじゃうくらい、沢山……っ」

 

「…………良く出来たね。じゃあ望み通りのものをあげよう。君の、子宮(ココ)に」

 

 おへそと恥部のちょうど中間辺り。そこを斧澤は指でトントンと叩いた。そして、

 

「――っ!? ん、くっ、あふぁあ……~~~ぁぁっ」

 

 予想外の滑らかさで、斧澤の肥大した亀頭が内側にずぶずぶと挿入(はい)ってきた。これは、角度のせいか? それとも加齢のせいで微妙に軟らかい彼の肉竿が、こちらの形状にぴったり噛み合いながら侵入してきているのか? どっちとも判らないが、いずれにせよサイズに比して並ならぬ圧迫感が発生している事に違いは無い。んうぅ、と苦悶するまりもの乳房を斧澤が両手で鷹揚に弄びながら、更に腰を押し進めてくる。

 

「んん、おお……。指で確かめた時以上に中はいい具合だな。柔らかいが襞の溝がくっきりしていて、特に上辺のこの粒立った感触が堪らん。それにこの絶妙な締め付け……歳の割に使い込まれてるな。今まで何人の男に抱かれた? 経験人数は10人どころじゃない、そうだろう?」

 

「んぁっ、そ、そんな。私そこまで遊んでる訳じゃっ……」

 

「訊かれた事には素直に答えるんだ」

 

 乳首をギュウとつねられ、ひんっ、とまりもは悲鳴を上げてしまう。それは痛かったからではない。その後のやわやわとした刺激を含め、突き刺すような気持ち良さと残響のせいだ。

 

「――じ、じゅう、はちっ。18人、ですっ……」

 

「思った通り、やっぱりお盛んじゃないか。まあ君みたいな美女が媚を売ってカマトトぶるのも嫌いではないけどね。――でも今日からは男遊びはもう禁止だ。君は僕だけの女(もの)、なんだから」

 

「は、はいっ……私はもう、斧澤さんの女で……あぅあああ、中でまたおっきくっ……!」

 

 その感触をあえて喩えるならば、まるで炙られたお餅が胎内でぶくぶくと膨張するかのようだった。まだ大きくなるのか。驚愕するまりもを見て愉悦にその口角を歪める斧澤が、両掌を使ってまりもの乳房を円運動の要領でゆるぅりと嬲る。

 

「いかんせん歳でねえ。すぐフルサイズにならないのがもどかしいが、その分こうして後からどんどん大きくなるのさ。これで気が狂いそうになるほどねっとりグチュグチュ掻き回してやるからな。……知ってるかい? 絶頂時の膣道というのはね、男の精子をどんどん奥へ運ぼうと蠕動するんだよ。子宮の奥の奥まで、ね。それをしかと意識しながら、たっぷり愉しむといい」

 

 想起を促す淫言と共に、斧澤が律動を開始し始めた。ぐりゅりゅりゅ、と引きずられる柔襞の感覚。それにまりもは早くも他の男達との差を感じ取る。

 

「あっ……あっ、あ、あ! んぁうっ! な、なに……こ、れ、すごい……何これっ……!」

 

「何がどう凄いんだ? 言ってみろ」

 

「おなかっ、上から下まで全部引っ張られてっ。オチンチンぴったりくっ付いて、離してくんないっ……! 初めてっ……こんなしつこいオチンチン、初めてえぇぇ……っ!」

 

 歳を重ねた斧澤の男根が有する絶妙な軟度。それが若さに満ちたまりもの膣壁を隅々まで侵略している。引けば内側の粘膜が丸ごとめくり出され、押せば最奥まで畳み掛けられるかのような感触。そのどっちもがあり得ないくらい気持ちいい。とりわけ膣襞の形状に追随してぶりぶりと柔らかく蠢く彼の雁首、それが感度の高いところを余すことなく掻き分けてゆく感覚が余りにも強烈だ。抽挿自体はやきもきするくらいねっとりと遅いのに、一回一回の動作が加えてくる快感情報の量があまりにも多すぎるせいで、たった数十秒間動かされただけでも脳がパンクしそうになってしまう。

 

「あっああぁぁぁ~~! ダメなの、これっ、このおっきいオチンチン、いいトコ全部こすってくるのおっ! ……んっ、やだ、ゆっくり動かされるのぞわぞわ止まんなくてやだぁっ。そんな風にされっ、たらぁっ……どこで息継ぎしたらいいかっ、分かんなくなっちゃうぅう~~っ!」

 

「どうだ、単に速く激しく突かれるより何倍も気持ちいいだろう。僕に抱かれた女はみんな言うんだよ、『このチンポ、クセになる』ってね」

 

「な、なっちゃうっ。クセになっちゃうっ。……あぅぅんいじわる、わざと抜こうとしないでっ。もっと奥っ、奥までずりゅ~~ってしてえぇっ」

 

 斧澤に力任せに抱き起こされ、座位の体勢で「ちゅるるるぅ、」と乳房を啜り尽くされる。それもあくまで優しくじっとりと。同時に腰の動きはぐりゅぐりゅと円を描きながらの抽挿で、それは確実にまりもの欲しいところを捉えていた。

 

「ふわっ、あくっ、ああぁぁあ……そ、こぉんッッ……!!」

 

「なるほど、君は弱いところが『点』ではなく『面』のタイプなんだな。しかも何ヵ所かに分布していて、それぞれに強弱がある。これじゃあ同年代の男共相手ではさぞかし物足りなかったろう。連中は直線的に突くしか能の無い、盛りのついたサルも同然の生き物だからねえ。だがその分、今は満足できているだろう?」

 

「で、できてるっ。満足出来てるぅぅっ! このねばっこいオチンチン、イイとこ全部にみっちゅみっちゅって吸い付いてきてぇぇぇ……今までで一番気持ちいいのおぉぉ……!」

 

「そうさ、君も薄々感じ始めている筈だ……君の中の『雌』、その器を満たしてやれるのは、僕だけだとね」

 

「あっうっ、ひあっ、おまめっ――あぁあうううぅぅっ」

 

 空いていた手がまりもの陰核をくりくりと擦ってきた。口と両手、そして陰茎による性感帯への四点同時責め。強制口淫(イラマチオ)の際の暴虐ぶりとは打って変わって、あたかも快感の真綿でじわじわ絞めてくるみたいないやらしさ。それにひたすらよがり狂わされ、まりもの理性はすっかり弾け飛んでしまう。

 

「この味を知ったら今更他の男になんて抱かれる気が起きないよなあ? もう後戻りなんて出来ないぞ。どうするまりも、本心から『俺』の女になるか?」

 

「なっなるうっ、なりますぅっ……! あなただけのものになるからぁっ、だからもっと……あん、もっとおおおっっ」

 

「このまま俺のチンポに逝かされて、ザーメンまみれにされたいか?!」

 

「してぇっ。されたい、秀策さんのざーめんで、たぷたぷにしてぇぇっ!」

 

「じゃあ望み通り出してやる、子宮の口を開けとけよっ。――ほらイクぞ、孕めまりもっ!!」

 

「はう、あっ、ああぁぁ……んうっ! ……あふあぁぁあああぁぁあんっ…!!」

 

 ぶくん。際限無く膨らんだ亀頭の先から極大の滾りが飛び出した。それを最奥に浴びて、まりもは瞼を半開きにしたまま忘我の境地に至ってしまう。

 

「はーーっ、はーーーー……んっ、あうっ。……はーー、はーー――あ~~~っ……ああぁぁ~~…………はーーーっ、…………」

 

 ――斧澤の二度目の射精。その量自体はさほどでも無かったが、元々大きな彼の肉棒が絶頂に際して容積を増したことにより、撒かれた精をまとった亀頭が一番敏感なところを直撃したらしい。歳相応にと言うべきか、現在の彼の性機能ではこの短時間のうちに一度目ほどの量を賄う事は出来なかったようだ。それをまりもが察するのはもう少し後、肉竿を抜き取られた膣の奥から漏れ出る白濁の多寡を確認した時だった。

 

「……ふぅぅぅ。予想以上の使い心地だった。こんな極上の女体に種付け出来るなんて、男に生まれた甲斐があるというものだよ。まさに至上の喜び、だね」

 

「んっ、ぴちゅ……褒めて下さって、ありがとう、ございます……んむ、れるっ」

 

 愛液まみれの肉棒に口でのお掃除を求められ、まりもは喜んでそれに従った。さっきは無理やり捻じ込まれてひたすら苦しかっただけの口腔愛撫も、自分からする分にはさほど嫌でも無い。それどころか今はもう、逞しさと柔軟さを兼ね備える彼の肉竿の魅力に憑りつかれてしまったかのように夢中で唇を這わせ、飢えた野良犬みたいな夢中ぶりでこびり付いたぬめりを舐め取ってすらいる。そんな己の痴態を通じてまりもは痛切に思い知らされた。これが、これこそが、男に犯されるという事なのだと。

 

「さあ、夜は長い。まだまだ種付けの時間は続くぞ。今度は君の方からの責めをご披露願いたいな。得意な体位は?」

 

「んちゅ、ごく……ん。えっと、……騎乗位、です」

 

「じゃあそれでお願いするよ。もっと淫らで煽情的で、貪欲に男を欲しがる『雌』の貌を見せてくれ。それを君は望んでいる。本当は曝け出したがっている。なあ、そうだろうまりも?」

 

「はい……全部、全部お見せします。……私はもう、秀策さんだけのものだから………………」

 

 

 

 

 こんな斧澤との倒錯的な関係はその後も月に数度ずつ、一年近くに渡って続いた。勿論社長夫人なんてはなから本気にしていなかったし、妊娠なんて事態も初回を除けば全く懸念しなかった。それは情事の後で彼がいつも、『ちょっとした抜け道』を使って手配した国内未認可の避妊薬(アフターピル)を渡してくれていたからだ。

 

『僕だって物事の線引きぐらいはするよ。あれは一種のプレイというか、そういうものだから。でも僕との将来については心に留め置いてくれると嬉しいな。……君がその気になったら、それ(・・)は飲まずに捨てなさい』

 

 要は選択権をこちらに委ねるという体だったのだろうが、結論から言ってその「将来」とやらですら、二人にとっては行為を盛り上げる為の嗅ぎ薬みたいなものでしかなかった。そう、本気じゃなかったのは向こうとて同じ。そんな大人びた、けれどあやふやな愛欲関係に破綻をもたらしたのは、斧澤の身の不始末とでもいうべき事態だった。

 彼の会社で筆頭秘書を務めていた二十代後半の女性。実はまりもが情婦となるよりも以前からずっと、その美人秘書と斧澤は深い仲にあった。その女性の存在をまりもが知り得たのも、例のタワマンでいつものように斧澤と睦み合っていたある日、それを察知した秘書が預かっていた合鍵を使って情事の現場に踏み込んできたからである。

 

『どういうつもりですか社長っ!! あんなに私のこと抱いておいて、僕には君だけだよなんて言ってたクセして、それなのにこんな泥棒猫連れ込んだりしてっ! ……あの約束もウソだったんですか? 近い将来タイムズ・スクエアを丸ごと借り切って盛大な結婚式を挙げよう、って私に言ってくれたのは、全部口から出任せだったんですか!?』

 

 こんな修羅場を見せつけられて、ハッキリ言えばこっちが呆れ返ってしまったというのもある。自分もかつて男の浮気心に泣かされた立場。知らぬ身とは言えあの秘書には嫌な思いをさせてしまったと思っているし、同情できる部分も大いにある。何より斧澤にとって彼女は業務上重要なパートナーでもあったが故に、その関係性を断ち切る事は公私両面で不可能らしかった。――だったらどうして浮気紛いの事などするのだ、と罵声の一つも浴びせたくなったのはここだけの話だが。

 何はともあれ、以上の理由をもって斧澤に別れ話を切り出されたまりもは即座にそれを了承し、事実上振られた割にはせいせいした心境で彼との爛れた関係に終止符を打ったのであった。

 

「――で、どうだったぁまりも? この一年を通じてアンタなりに得られるものはあったワケ?」

 

「まあ有ったというか、それほどでも無かったというか」

 

 大学構内のカフェテラスにて、夕呼に感想を求められたまりもは返答に苦慮していた。

 そもそも発展的な男女交際……という観点での収穫なんて殆ど無かったと言うべきだろう。斧澤の目的は一貫して若く見目好い女を侍らせる事、そしてその身体を思う存分弄んで傅かせ、男としての自尊心を満たす事のみだった。そうとさえ分かってしまえば何の事は無い。要するにこの一年、自分は彼にとって都合のいい愛人的存在か、さもなくば性奴隷じみたお妾役を務めさせられていたという訳だ。

 

「だから恋愛の機微だとか何だとか、そういうのだって殆ど無かったし。まあでも一口に男女関係って言っても色々あるんだって知った事と、他にも沢山の物事を知る機会が沢山あったって意味では、これも収穫なのかな。あの人と出会ってなければ知らないままだった事も多いと思うし」

 

「そういう事ね。良い男女関係ってのはお互いに心身の満足感だけじゃなくて、人間的な器も育ててくれるものよ。今までに無いタイプの男と関わった事で自分の見識が広がったって実感、ちょっと位はあるんでしょう?」

 

「そりゃあね。けどやっぱりお父さんよりも年上の人と本気の恋愛するのは、私には無理かな~」

 

 その事は今回の一件で痛いほど良く分かった。斧澤と会う度抱かれる度、自分はどうしても彼に恋愛的な意識を向けることが出来なかった。どちらかと言えば頼り甲斐のある父親とか、さもなくば時々遊びに来てくれる親戚のおじさんに向ける情愛、といったものに似ていた気がする。斧澤との縁が切れた事にさして後腐れの念を覚えなかったのも、有り体に言ってしまえばそれが全ての理由だ。

 

「ふふん、まだ年上男の本当の魅力ってモンに気付いてないのね。よぉし分かった、そんなら今度こそあたしイチ押しの男紹介したげるわ。次のはねぇ……」

 

「あーごめん。アンタの紹介はもう懲り懲り、っていうのも収穫の一つってことで」

 

「なんでよー」

 

「何でもよ」

 

 それは半分以上が本音だった。交際中にはこの身に余るほど良い思いをさせて貰ったのは確かだし、その面では斧澤と夕呼に感謝もしている。……が、あれほどまでに住む世界が違う相手とは、あらゆる意味で対等な交際なんて出来そうにない。あるいは器用な人間ならそれでもうまく立ち回れるのかも知れないが、人には各々の領分というものがあり、それに適した振る舞いというものがある。ああいう視座を得られたのは貴重な経験ではあったが、そこに自分が居たいと思えるか、というのとはまた別の話なのだ。

 

「それより夕呼ぉ、知ってたんなら斧澤さんが変態的な(ああいう)人だってのはちゃんと事前に教えなさいよ。そしたら私にだって判断の余地ってものがあったのに」

 

「バカねぇまりも、そういうのは人から言われて鵜呑みにする方が間違ってんのよ。自分で経験して自分のアタマで出した答えだけがこの世の真実。そういう風に考えられなくっちゃ、長い人生ずっと誰かの言葉に振り回されて生きてくだけよぉ。アンタだって斧澤(アレ)と付き合ってみて、ちったあそういう考えを持つようにはなったんでしょ?」

 

「そりゃあ……まあ」

 

 まりもはつい頷かされてしまう。口惜しいがそれは確かな事実だ。恋愛面では色々と酷い男だった斧澤にだって仕事の手腕や社交能力は勿論の事、それ以外の面においてもそんなに悪い人でも無いと思えるところが幾つかはあったのだから。……特に性癖面での相性が良かった事とか、男を悦ばせる上で有用な知識と性技の数々を仕込んでくれた事だとか。

 

「まー別にいいけどね。この経験を活かして、次の男はもう少しマシなの探しなさい。そんじゃ私はそろそろ研究室行くから、まったねぇ~」

 

「ハイハイ。――そっちこそ年上男(オジサン)との火遊びに狂い過ぎてうっかり火傷しないよう、せいぜい気を付けなさいよ」

 

 去り行く夕呼を手で追い払い、ふう、とまりもは嘆息を洩らす。それは破天荒な友人に対して覚える気苦労のせいだけでは無い。実は夕呼に対してもう一つだけ、まりもは斧澤絡みの隠し事を抱えていた。それはきっと今後誰にも言う事の無い、自分だけの秘密となる筈だ。

 

『大学生活は何かと不自由する事も多いだろう? 遠慮せずしまっておきなさい。アンケートに回答してくれた君への弊社(ボク)からの謝礼とでも思って――ね』

 

 会う度にそう言って、斧澤は分厚い封筒に入った『何か』を渡してきた。その数、実に27封。束ねた厚みは10センチ弱にもなる。その『何か』が入った封筒の口を、自分は今も切れずにいた。

 いや、何となく中身の見当はついている。だが開けてしまえばそれが何なのかが確定してしまう。それをした瞬間、斧澤との関係はただの愛人どころか、もっと現実的な危険度の高いものに早変わりしてしまうだろう。それはお互いの為に良くない事だ。

 あんなものは無かった。私は何も受け取っていない。そう、これは夕呼お得意のナントカの猫みたいなものなのだ。少なくとも自分にとって、封を切るまで中身の状況は不確定。それは無いのと同じ。だから今の自分がそれに心を迷わせる必要なんて、これっぽっちもありはしない。

 

「さあて、そろそろレポート書かなくっちゃ」

 

 まりもの心境は実に晴れ晴れとしていた。綺麗な薔薇には棘があるのと同じように、甘いものには毒がある。それを知識としてでなく実体験で知り得た事が、強いて言うなれば彼との交際によって得られた最大の収穫であった……と、言えるのかも知れない。

 

 

 

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