※この作品はR-18です。

神宮司まりもの恋愛遍歴   作:ろっくLWK

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CASE.5 遊ばれた夜
〈23〉


 

 

「どぉ~~していっつもいっつも、一方的に私がフラれなくっちゃなんないのよぉぉ~~~」

 

 何杯目かのジョッキを一口に呷り、どん! とカウンターに下ろす。その日まりもは久方ぶりに荒れていた。このところの恋愛模様は大嵐ばりの絶不調。折角この春から教職に就いてそれなりに品行方正に見える社会的ステータスを得たというのに、男共との関係は相も変わらず付き合い始めては程なくして別れ、を繰り返すばかり。それも必ず向こうから離れていく形で。まるで連中、揃って示し合わせているかのようだ。

 

「こぉ~んないい女がさぁ、アンタの為に尽くしてやるって言ってんのよぉ? それをさぁ、お前の愛が重い~だの、そんなヤツだと思ってなかった~だの、まぁ~好き勝手言ってくれちゃってええ~~」

 

 追加で頼んだジョッキのサイズは、もう『大』を超えて『漢気』とかいう訳の分からないものになっている。だがチマチマ飲んでいるよりはこっちの方が手っ取り早くて好都合だ。どうせならピッチャーサイズでもいいのだが、それだと飲んでるうちに泡が引けて不味くなる。飲み切りの良さは大事にしたい。……この時はまだ、そんな事を思っていられるだけの理性が働いていた。

 

「すいませーん、こっちにも漢ジョッキ一つ」

 

「はいよっ。漢ジョッキ入りまーす」

 

 そんな折、隣の席に座る髪色の明るい男が店員に注文をする声が耳に入った。……こっちにも? そう思って男を見やると、彼は自分が散らかした空ジョッキやら料理皿やらを丁寧に片付けてくれていた。何でなのかは分からないが、とにかくこっちのやるべき事に代わって始末をつけてくれたのなら感謝するのが筋だ。「ありがとぉ~」と回らない呂律で礼を告げると、振り向いた男はへらりと破顔した。

 

「お姉さん大丈夫? 結構酔っ払っちゃってるみたいだけど、一人?」

 

「あ~~、ん~~そうなのぉ。さっきまでは友達がいたんだけどねぇぇ……」

 

 まりもは既におぼろげになりかけた記憶を辿る。この飲み屋を訪れた折、まりもの隣には夕呼がいた。『アンタ今日は荒れてるから居酒屋はダメ』『じゃあ食事だけで酒は無し』なんて会話をしていたような気もするが、その辺は良く覚えていない。というよりはむしろ、全く理解を超えていたのだが。

 ありのまま、今起こった事を話そう。『自分は酒を呑み始めたと思ったら夕呼を見失っていた』。……何を言っているのか分からないと思うが、自分も何をされたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった。記憶違いだとか一瞬寝落ちたとか、そんなチャチなものじゃあ断じて無い。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった――そんな気分だ。

 あれから待てど暮らせど夕呼は一向に戻らなかった。初めはトイレにでも行ったのかと思っていたのだが、彼女の荷物ごと一切合切の痕跡が失せている事に気付き、そこで初めてまりもは事態の全容を把握した。さてはアイツ、一人で帰ったな。その後はもう何に憚ることも無く、遠慮無しに盃を呷っては独り愚痴をこぼす事に躍起になっていたのである。

 

「こんな美人が一人酒なんて勿体ねえなぁ。良かったら俺がご相伴するけどどう?」

 

「えぇ~、一緒に飲んでくれんのぉ? やったぁ嬉し~~。一人で飲んでたってつまんないんだもぉん」

 

「だよねだよね、誰かと一緒に飲んでる方が酒も美味く飲めるってモンだって。――お、来た来た」

 

 男の前に自分のと同じ、特大サイズのジョッキが置かれる。二人して各々のジョッキを手に取り構え、そこではたとまりもは考えた。

 

「何に乾杯するぅぅ~?」

 

「決まってんじゃん。二人の出会いに、よ」

 

「出会いぃぃ~? あ~まあ、それでいっかぁあ。じゃ~僭越ながらぁわたくし神宮司まりも、乾杯の音頭を取らせていただきますっ。二人の~、出会いに~」

 

「――かんぱーいっ!」

 

 重なるジョッキ同士が鳴らす景気の良い響き。ぐびぐび、とビールの味を堪能するまりもはハッキリ言って、目の前の相手が何者であるかなどどうでも良くなっていた。出会い、か。真っ当に求めても逃げていくんなら、こういう出会いもあっていいかな。そう考えたのはまさしくいつかの時と同じ、完璧に『油断』と呼ぶべき状況だった。

 

 

 

 

 

「――――ん、んん……」

 

 何だか体が揺れている。覚醒した意識が最初に捉えたのはそれだった。あれ? 何処だここ。暗くてシンとしていて良く分からない。どうやら自分は仰向けで横になっているみたいだ。ただ深酒のせいで全身のありとあらゆる神経が鈍麻していて、もう一つ身体感覚が得られない。ただリズミカルに体が跳ねるこの感じ、ひょっとして酔い潰れる前に終電に飛び乗って、そのまま眠ってしまったのか? そう考えつつ瞼を開いたまりもはその先の光景を目にした途端、驚きの余り叫び声を上げそうになってしまった。

 

「……………………えっ!?」

 

 寝そべる自分の目の前に裸の男がいる。いや、よくよく確認してみるに、こっちも素っ裸だ。その男が自分の足元、いいや股のところに座り込んで体を小刻みに動かしている。さっきからギシギシしているこの揺れはそのせいだ。そしてもっととんでもない事に気付いた。覚醒から時間が経ったことで徐々に蘇ってきた己が神経。それは間違いなく自分の秘所に硬くて熱いものがずぽずぽと出入りしている事を、まりもの脳髄に訴えていた。

 

「あっ、え? ふえ? ……えええっ!?」

 

「――ん、あれ? 目ぇ覚めたのまりもちゃん」

 

「ちょっと誰よあなたっ、こんなトコで何して……ッ」

 

「『誰よ』はヒドくね~? さっきまで一緒に飲んでて、今こんなコトしてる関係だっつうのに」

 

「……は? えっと、ええっと……」

 

 まりもは必死に記憶を探る。そう言われればごくうっすらとだが、そんな記憶もあるにはある。一人で飲んでいたところに声を掛けてきて、乾杯して一緒に酒を飲んで、その後ぐだぐだと撒き散らす愚痴を聞いてもらって……ダメだ。そこから先の記憶がすっぽり抜け落ちている。

 焦っても何にもならない。ひとまず現状を確認しよう。まりもは周囲に視線を巡らせる。……この部屋の作り。ムーディな照明。これはあれだ、繁華街の一角にあるいつものラブホテル。そこへ自分は、連れ込まれた? いや酔っていたなりに合意の上でここに入ったのか? それが分からない。分かっているのはただ一つ、この名も知らぬ男に自分はいま犯されている、その真っ最中だという事だ。

 

「そのカンジだと、さっきイって気絶した時に記憶ごとすっ飛んだ感じ? ダメじゃんよ~。そんな我忘れるまで飲んじゃさぁ」

 

「それはまた別の……んっ! やだちょっと、おっぱい触んないでっ」

 

「だから、もうとっくにヤっちゃってんのに今更過ぎんでしょ。こうなったらもう楽しもーよ、開き直って」

 

 そう言って一方的に二つの乳房をくにゅくにゅ捏ねくってきたその男は、よくよく見るまでも無くかなり軽薄そうなナリをしていた。ほぼ金色に染まった頭髪。耳に幾つも通したピアス。細身の体は引き締まっていると言えばそうだが、さほど鍛えている風でも無い。そして全身から醸される、上っ面だけで生きてきたみたいな雰囲気。有り体に言って、こういうチャラい男は最も嫌いなタイプだった。――過去に好いたあの男と、まるで正反対だから。

 

「うは、マジやーらけー。こんな美巨乳とヤれる機会なんて滅多に無いからさぁ、マジ興奮してるわ」

 

「あなた大学生っ? 女を酔わせてホテルに連れ込むなんて、やっていい事と悪いことがあるわよ!」

 

「んだよ、急に説教モードかぁ? 酔ってたのはそっちの勝手だし、ラブホ(ここ)だってアンタが行くっていうから連れてきてやったんじゃねーか」

 

 ……え? まりもの脳内が一瞬真っ白になる。嘘。よもやそこまで己を見失っていたとは。愕然としかけたまりもはしかし、いや待て、と冷静な思考を保つことに腐心する。

 こういう場合というのは相手の記憶が無いのにつけ込んで、ありもしない話をでっち上げている可能性だってある。そもそも最初っから『そういう気』が無ければ、向こうだって見も知らぬ女と酒の席を共にしたりなどはしない筈だ。その可能性を排除し切れない以上、この男の言い分を鵜呑みにする訳には到底いかない。

 

「とにかく抜いてっ。私、そういうつもりだった訳じゃないのようっ」

 

「んだよ、こっちだってそろそろ二発目イキてーんだからよ。減るもんじゃなし、このままイかせろってのっ」

 

「あっ、や、や、あぁぁあ……!」

 

 急に抵抗されたことに腹を立てたのか、男が腰の動きを加速させてきた。決して快感の類を覚える事は無かったのだが、ずりずり、と粘膜を滑る肉筒の感触のせいで身体から力が抜けてしまうのはきっと、一種の生理的な防衛本能によるものだろう。

 

「うお、今の反応いいぜまりもちゃんっ。そろそろイクからさぁ、またキュッと締めてくれよ。な?」

 

「その前に、何で私の名前知ってんのっ?!」

 

「飲んでる時に自分で名乗ってたじゃねーかよ。――ああそんなんよりイクッ、もう出るぞ、出るっ。あ~~~」

 

「ちょっ……ダメよやめてっ、早く抜いてぇっ!! ふぁっ、あ、ああっ……!」

 

 必死の抵抗も虚しく、陶酔の表情を浮かべた男が天を仰いでびくびくんと震えた。――――え? 嘘、でしょ……? じゅわ、と胎内に広がったその感覚に、まりもはぞわりと総毛立つ。

 

「おっ……おふ……――ってうぉ、」

 

 続けて余剰分を放とうとする男の腹を足でどかして後ずさり、竿の抜けた己の股間を慌てて手で探る。そこには行為によって分泌された愛液以上にどろりと粘つく液体が蓄えられていた。――そして、ぶちゅぶちゅ白濁液を垂れ流す男の肉竿には、薄膜の一つも付けられてはいなかった。

 

「急に何すんだよ。人が気持ち良くイってる時によぉ」

 

「な、ナマでなんて……アンタ何考えてんの!? せめてゴムくらい付けなさいよおっ」

 

「はぁ? それも忘れてんのかよ、めんどくせー女だなぁ。これもそっちから言い出したんだぜ、ナマでもいいから早くしよぉーってさ。俺も嬉しかったぜ? ゴムなんてつけねー方がめちゃくちゃ気持ちいいもんな」

 

 己のモノを手で扱き、男が残りの精を吐き切る。シーツをほんのり黄色く染める出来立てのシミ。そこから漂う青魚みたいに不快な生臭さから「う、」とまりもは顔を背けた。

 

「ふざけんのもいい加減にして!! いくら見境なくなるぐらい酔ってたって、知りもしない男にそんなの許す筈無いわよ。それに仮にそう言われたからって『ハイそうですか』でしていい事じゃ無いでしょっ! その歳でお互いのリスクとか責任とか、そういうの想像出来ないの!?」

 

「平気だって、ビョーキとかそんなん気にしたって仕方ねーし。それにナンパでもナマ欲しがる女って結構多いんだぜ? 中出し気持ちいーとか、ナマじゃないとイけなーいとかってさ。だいたい責任だ何だって、そんなめんどくせーこと言ってきた女なんて今まで一人もいねえっての」

 

 平然とそう語る男を前にして、まりもは激昂と戦慄、その両方の感情にどぶ漬けされたような心地だった。どうやら万一の事があった場合に女に掛かる負担というものを、こいつはまるで考えていないらしい。しかも男はさっき「二発目」と言っていた。それはつまりこっちが酔いどれるか気を失っている間に既に一度膣内射精を許していた、という事か? しかもここ数日は自分にとってあまり安全とも言えない、いや、はっきり言えば危ない日に直撃している。そんな状況で、名前も知らない行きずりの、しかも嫌いなタイプの男に中出しされてしまっただなんて。――最悪だ。それがまりもの全身をふつふつと煮え滾らせる。

 

「それに良かったろ~、まりもちゃんも? 久しぶりに男に抱かれてさぁ。まともに相手してくれる男(ヤツ)がいなくて飢えてる、っつってたもんな」

 

「バカ言わないでっ。誰がアンタみたいなので満足するもんですか。それに大して良くも無かったし」

 

「…………あぁ? おめえ今何つった」

 

 口をついて出た言葉が、どうやら向こうの自尊心を傷付けてしまったらしい。さっきまでヘラヘラしていた男の顔が剣呑な形に引き攣る。

 

「調子こいてんじゃねーぞこのアマが。さっきパコられてあんあん喘いでたのはテメーだろうがよ」

 

「だからあれはっ。あれは酔ってたせいで気持ちが昂ってただけで、別に感じてたとかじゃ……」

 

「デタラメ言ってんじゃねえよ。あんだけマンコきゅうきゅうに締めてよがってたクセによお。そんなに言うんだったらな、もっかいハメ倒してやんよ。その身体に思いっ切り分からしてやる」

 

「な、ちょっ、あ、やめなさいっ。大声出すわよ!」

 

「出せるもんなら出してみろや。あ?」

 

 凄む男の低い声。その全身から色濃く放たれる黒い気配に『ぞわ、』とまりもは危機感を覚えた。いくら啖呵を切ってみせても自分はただのか弱い女。護身術の心得も何も無い以上、男に力で掛かって来られたらどうやったって抗えない。

 

「オラ、とっととケツ出せ。早くしねえとシバくぞ」

 

「やめてっ。イヤ、誰かッ――」

 

「騒ぐんじゃねーよ!」

 

 ばん、と胸元を強く押され、まりもはベッドの上にでんぐり返しの状態になってしまう。慌てて起き上がろうとするも、だぷだぷと撓むウォーターベッドの上では素早く体勢を立て直すことが出来ない。そうこうしていたところに男が腰をガッチリと掴んできて、そのまま力尽くでごろりと四つん這いの恰好に反転されてしまった。この姿勢では脚を使って抵抗することも満足に叶わない。明らかに、この下衆男はこうしたシチュエーションに手慣れている様子だった。

 

「ホレ見ろ、何だかんだ言ってもまだココは濡れ濡れじゃねーか。この欲しがりなメス穴にたっぷり教えてやんよ、俺の生チンポの味をなぁ」

 

「あ、あ、やだっ、やだああっ! お願いだから、せめて今からでもゴム付けて――」

 

「もう遅せー……よっ!!」

 

 ずぶり。再び、いや三度か、男のモノがまりもの中に侵入(はい)ってきた。遠慮も何も無いそのひと突きに、んぐぅぅ、とまりもは苦しみの呻きをこぼす。

 

「――お、入れた途端に大人しいもんじゃん。やっぱ身体は逆らえないってかぁ? もう二回も射精(だ)されちまってんだもんな」

 

「あうぅぅぅ……な、何てコトするのあんたっ……いい加減にしないと……あ、あふぅんっ!」

 

「しないと、何だよ? 言ってみろよオイ」

 

 男がごりごりと肉棒を揺すり、凌辱を開始する。……その刺激は正直な話、脱力こそすれ全くもって気持ち良くなかった。

 こっちの気分が乗っていないせいもあるが、そもそもモノも動きも粗末なせいで少しもイイ所に来てくれない。愛撫の出来も並以下で、ただ乳房をぎゅうと握り潰したり乳首を痛くなるほどつねったりと、まあ相手を感じさせようというつもりが無いのが丸分かりだった。それでも張り切って腰を前後に揺らす男のテンションは勝手にどんどん高まり、それと相反して、直前まで恐慌に陥りかけていたまりもの思考はするすると醒めてゆく。

 

「あ~~~、ほんとマジで中の具合は神懸かってんな。俺の形にどんどん馴染んできてんじゃねーの? なあオイ、ちっとは声出して楽しませろよっ」

 

 ぺちん、とお尻をはたかれてもまりもは一つも動じなかった。その時の心境たるや、それまでの怒りとは真逆の感情である消沈、いや失望に近いものだったかも知れない。――こんなものか。極めて不謹慎ではあれど、そう思ってしまうのも仕方無いぐらい、その男のセックスは何もかもが拙かった。

 

「ほらほら、イイだろ? さっきみたいにマンコきつきつにしてよがってもいいんだぜ。そしたらションベンみたいに中出ししまくってやるからよぉ。身体がエロいだけの生意気女にゃあ似合いの末路だぜ」

 

 コイツ、好き勝手言ってくれて……待てよ? その時一つの天啓がまりもの脳裏に舞い降りる。このタイミングでそれが訪れたのは、ある意味奇跡みたいなものだった、あるいはまだ体に残るアルコールのお陰かも知れない。そうでなければ自分は恐怖に飲まれて文字通り好き放題にされていたか、それとも迂闊な反撃を試みて結果相手の怒りを買い、もっと酷い事態を迎えていたかも知れなかったのだから。

 

「……そんなに言うんなら、いいわよ。したい放題させてあげる」

 

「お、ようやく素直に楽しむ気になったぁ? ったく。最初からそうしてりゃあ、こっちだって手荒な真似しなくて済んだのによぉ」

 

「けどね、アンタに私をイカせる事なんてできんのかしら」

 

「はぁ? 急に何言い出してんだよ」

 

「さっき言ったでしょ、小便みたいに中出ししまくるって。――それってそっちが勝手にイキっ放しになるって訳で、つまりはセックス下手な上に一方的に搾り取られたアンタの負け、ってことよね。逆に毎回アンタが中イキ決めさせてくれる、っていうなら話は別だけど」

 

「……何だテメエ。しおらしくなったと思ったら今度は挑発するつもりか?」

 

「どう取ってもらってもいいけど? 私だってどうせなら楽しみたいもの。だからアンタが私を一回でも満足させてくれたら素直に負けを認めて、今夜の事は犬にでも咬まれたと思って目を瞑ってあげる。ついでにそうね、今夜一晩好きにしたっていいわよ。お望みだったら一生懸命ご奉仕だってしてあげる」

 

 けどね、とまりもは矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

「私がイク前にアンタの方がすっからかんになったらそっちの負け、その時は全部の責任を取ってもらうわ。お互い相手をイカせる為ならどんな事でもしたっていい。ただし道具や暴力は禁止、使っていいのはお互いのカラダだけ。自分から勝負を投げ出した場合も負け。どう?」

 

「ふーん、要は絶頂チキンレースって事か。面白えじゃん、どっちにしたって俺は中出ししまくれる訳だしな。――その勝負、乗った」

 

 やった。上手く乗ってくれた。にやり、とまりもは微笑む。客観的に見れば自棄になったとも思える無謀な提案。だがそこにはまりもなりの見通しというものが、れっきとして存在していた。

 そもそも既に膣内射精を許してしまっている以上、この先何度出されたってリスクは同じ。だったらその状況を逆手に取ってしまえばいい。本音を言えばもうこれ以上こんな男に体を許したくなど無いのだが、無理にそうしてしまうと相手の要らぬ怒りを買って復讐される恐れがある。それならいっそ向こうの要求を叶えてやるフリをして身の安全を確保し、その上でぐうの音も出ぬほど相手を打ち負かしてしまえばいいのだ。

 しかもまりもには明確な勝ち筋も見えていた。ぶっちゃけるとこの男、抽挿は下手だし愛撫も碌に出来ないし、おまけに早漏だ。さっきもこちらが感じもしないうちに、一発出して余裕があった筈の向こうは一人であっという間に果ててしまった。それに今だって表情にこそ出ていないが、まだ挿れただけでしか無いにも関わらず、膣内に埋もれた肉竿はひっきりなしにびくびくと跳ね回っている。これは性感が高まっている時の男性自身の不随意な反射運動、即ち既に一定以上気持ち良くなっている事の証左だ。

 

「じゃあ、今からスタートね」

 

 そう告げて、まりもはまず手始めに膣をきゅうっと強めに収縮させる。刹那、男が「ぅお、」と苦悶の声を上げた。

 

「あれえ、どうしたのぉ? まさか今のだけでもうイキそうになっちゃった?」

 

「ち……違っげぇよ。今のはちょっと、チンポが突っ張っちまっただけだ」

 

「ならいいけど。ほら、もっとグネグネ動かしてあげるわよ。それと胸も触らなくていいの? 私まだまだ絶頂の『ぜ』の字も感じてないんだけど~?」

 

 ホントはそんな事無いクセに。強がる男の不毛な意地っ張りを嘲りつつ、その反応にまりもは確かな手応えを得ていた。たったこれだけで男の快感は峠の半ばまで来ている。これならば行ける。次に腰をゆったりと左右へ動かし、緩急を付けながら徐々に円運動へと変え、それを不規則に揺すって亀頭全体を膣壁で撫で回すように相手を責め立ててゆく。

 

「……ぐ、腰クネまで。ちくしょ、無駄にいいケツしやがって……今に見てろ。ぜってぇ情けねえアヘ顔でアクメ決めさしてやる」

 

「へぇ、楽しみ。――ああそうそう。一回でもイカされたら目を瞑るって言ったけど、更にもう一回イカせてくれたら今後もカラダだけの関係になってあげてもいいわよ。気持ちいいの嫌いじゃないし」

 

「そんなん今はどうでもいいって……ふぉ、くっそ、話し掛けながらマンコで搾ってくんじゃねーよ、のやろ……」

 

「えぇー、好きな時にいつでも私をハメ倒せるのよ? しかも大好物のナマで。さっき褒めてくれたこのおっぱいだって揉み放題吸い放題。ムラムラ来た時にすぐ性欲解消に使える女をキープするのなんて、高い金払わなきゃそうそう出来ないっていうのに。……ぁん。ほら、オチンチンは素直じゃない」

 

「るっせぇよアバズレが。おぅっ……そんなに揉まれたきゃあ、今揉んでやるよっ」

 

「ふふっ……そうそう、そうやっておっぱいも一生懸命いじって、感じさせてちょうだい」

 

 相手の動きが次第に激しさを強める。だがそれも全ては想定の範囲内。むしろぎこちなささえ覚えるこの責め方では残念ながら、こちらを昂らせる一分の要素すらも無いのだった。

 そもそもバックで責められる状況というのは本来女側にとって不利な筈なのに、それですらこっちが腰をくねくねと動かしてやるだけでいとも容易く主導権を握れてしまっている。そしてこうも必死に胸をタプタプと揺すられても体の一部が弾んでいるなと思う程度で、何一つ気持ち良くなどならない。その一方で、男はその弾力や情景に勝手に生理的興奮を覚えてしまう哀れな生き物だ。女の柔肌や艶姿についても然り。つまるところ、向こうの仕掛けはそのほぼ全てが一人相撲状態、言ってしまえばただの自爆に等しい行為なのである。

 

「ほらほら、オチンチン膨らんできちゃってるわよぉ。もう極上トロまんこにびゅっびゅーって出したいんでしょ? いいのよぉ出したって。アンタは打ち止めになるまで何回だってチャレンジ出来るんだから」

 

「う、うぉわ……はぅ。うっせ、ちょっと黙れ、って……」

 

「ほぉら、オチンチン素直になっちゃえ。ぱすぱすぱすって腰振って、一番イイとこでトロトロおまんこに白いのぴゅーって出しちゃお。すっごく気持ち良いよ? ね? 悪いこと言わないからぁ」

 

 わざと鼻にかかった甘声を出し、官能的に男の聴覚を揺さぶる。早くぅ、せーしちょうだぁい。そんな風に科(しな)を作ったおねだりも織り交ぜながら。こういった本職顔負けの芸当も、かつて嗜虐趣味の強い男に散々嬲られ仕込まれた、その賜物というやつだ。

 

「…………く、……そ、が…………ぁぁ」

 

 もうそんな風に呻く余力しか、男には残っていないようだ。――そろそろ仕掛けるか。まりもはこっそりと後ろ手を回し、アタリを付けて中指を尖らせ、その先端でごく軽めに「えい」と男の尻穴をつついた。耐えに耐え抜いたであろう絶頂へのトリガーを、本人に代わって引いてあげるみたいに。

 

「は、ぅあっ!!」

 

 びゅるん、という迸りの感触。腰を打ち付けて痙攣する男から尻を離して肉竿を抜き取ると、赫々と膨れた亀頭の先端から真っ白な液体が弧を描いてピュッピュ、と噴き出した。これも予想通り、都合三度目になる男の射精は実に水っぽく、この時点でもうだいぶ薄まっているのが見て取れた。

 

「あーあ、出ちゃったわね。気持ち良くなったオチンチン『よしよし』してあげよっか? ほーら、よしよぉし」

 

「……っ! ふざけんな、反則だろ今の……。急にケツ穴なんかつつきやがって……」

 

「言ったでしょ? 暴力無しで自分のカラダを使ってなら、お互い相手に何してもいいって」

 

 ふう、とまりもは中指に吐息を吹き掛ける。女が感じるところは得てして男にだって性感帯である事が多い。そして責められることに慣れていない分、実際には男の方がより過敏な反応を示しがちなものだ。それをまりもは数多抱かれた男達との行為を通じて知り得ていた。先に答えを言ってしまえば、粗末な行為しか知らないこの男と揉みに揉まれた自分とでは積んできた知識と経験の質および量、その全てに圧倒的な開きがあるのだ。

 

「さあ、休んでないで次始めましょ。さっきは先手のアンタが後ろからだったから、今度は私が上ね」

 

「はぁ? 何勝手なこと言って……いいからちょっと休ませろっ。お前は俺に好き勝手パコられてりゃいいんだよ……!」

 

「いいの? その様子だと暫く足腰も立たなそうだし、そうしてる内に私の興奮が冷めちゃって、ますますイケなくなっちゃうと思うんだけどぉ。男の精子(タマ)ってそんな短時間ですぐ回復するもんじゃないわよね」

 

「ぐ、」

 

「それと再確認だけど、この勝負に引き分けなんて無いわよ? 途中下車した方の負けってルールなんだし。まさか一回受けた勝負を反故にしたりなんてしないわよねぇ? 大の男が」

 

「むぐぐ、……この不感症女が……!」

 

「やあねぇ、こっちのせいになんてしちゃって。ダウンする直前まではアンタが私をあんあん哭かせてたんでしょう? その時を思い出して頑張んなさいよ。もしかしたらまぐれ当たりでイっちゃう、って事もあるかも知れないんだし」

 

 等とは嘯いたが、この男となら何回セックスしようが自分が絶頂に至る事は無い。意図して快感を享受しようとしない限り。それは確信を持って断言する事が出来た。既に勝ったも同然とばかり、まりもはひっそりとほくそ笑む。

 であれば、だ。ここでペースを緩めて相手の補充を許すよりも、畳み掛けるように責めを仕掛けて向こうの弾切れを加速させる方がこっちにとって遥かに有益で、しかもこの下衆のプライドまで木っ端微塵に打ち砕く事が出来る。これぞまさに神宮寺まりも、完勝への戦略図(ロードマップ)。我ながら実に天才的な閃きぶりだ。夕呼と違ってこういう駆け引きに滅法弱い自分の何処からこんな攻撃的なアイデアが出て来たのか、それはさっぱり分からなかったが。

 

「ふふ、一回出して萎んじゃったオチンチン、よしよししてるうちにもう勃ってきちゃったわね。えらいえらーい。その調子で次はもぉっといっぱいぴゅっぴゅしちゃおうね~」

 

 でろり、と亀頭を舐めてあげると、いよいよいきり立った肉竿が物欲しそうにびくびくと跳ね出した。素直なのは良い事だ。それに平均より短くて笠の張り出しにも乏しい分、何となくマスコットじみた愛らしさを覚えるものがある。今夜はひたすらこの子を愛でるつもりでコイツを絞め落としてやるか。そう考えるまりもの瞳は、明らかに普段のそれよりも数倍濃い妖しさに満ちていた。

 

「じゃあ行くわよぉ。ほぉーら見なさい、にゅるにゅるのおまんこにオチンチンがずぶずぶずぶー、って……んっ、あーん、やだぁカタぁい」

 

「うぉぉ……! ちょっと待っ、待っ、て、」

 

「だぁめ。ほら、おっぱいもちゅーちゅーさせたげるから張り切ってよね。ん~、中でびきびきって反応しちゃって、ホント素直ないいオチンチン」

 

「ちゅる、ちゅぽっ。待っ……て、くれ……頼む……かっ、ら、」

 

 挿入状態で腰を捻り、にゅるにゅると回転運動で肉竿を責める。一度中腰になるまで浮かせてストロークを溜め、そこから膣をキュっと締めて実にゆっくりと腰を下ろし、亀頭をじわじわ圧迫してゆく。――それ見たことか。堪え性の無いガキチンポはたったこれだけで、あっという間に絶頂寸前だ。ぷくぅ、ぷくぅ、と苦しげに膨張収縮を繰り返す挿入物の感触から、まりもはそれを確信する。

 

「じゃあこのまま特大ぴゅっぴゅ、いただきまぁ~す」

 

「ふああぁ、あ、うわああああああ!!」

 

 

 

 

 以下は昨夜の結果報告(デブリーフィング)となる。

 交戦時間47分。男のイった回数、事前の2回に勝負中4回の計6回。まりもがイった回数、当然の如く0回。従ってこの勝負、まりもの圧倒的完勝であった。

 尤も敗者であるところの男には更なる気の毒な事態が待っていた。四度目の射精直後、勝敗判定を付ける為の手コキによる無精絶頂(ドライオーガズム)状態が1回。それで白汁の一滴も出てこなかった為に敗北確定となったその直後、ウイニングランとばかりにまりものディープスロートが炸裂。喉輪まで使った超絶技巧フェラにじゅぼじゅぼと責め立てられ、その後10分と経たずに重ねて無精絶頂2回。かくして男は頼みもしなかった『ご奉仕』という名の苛烈なダメ押しによって、キッチリ止めを刺されてしまったのである。

 

『んふふ~、まだビクビクいってる。そんなに私の口がイイの? もう出るものも出なくて情けなく突っ張らせる事しか出来ないってのに』

 

『……ぁぁぁ……もお、やめへくへ……こえ以上、イっひまったら、ひんぽもたまひんも、壊えひまう……』

 

『だぁ~めぇ~よぉ~。もしかしたら飛びっきりの一回分が、このタマタマに残ってるかもでしょぉ? 勝負はもうついちゃってるけど、まだ出せるなら特別にあと一回だけボーナスチャレンジさせたげる。ね? ――ちゅぶぶぶ、』

 

 その後も窓の外が白み始めるまで、あらゆる絶技を駆使するまりもの絞り上げは果て無く続いた。すっかり萎びた肉竿を延々しゃぶって先走りすら枯らしたのは男の為などでは無く、あくまで『こんなになるまで頑張ってくれたオチンチンへの私的なご褒美』である。相手の反応に物足りなさを覚えて途中からは再びの膣内挿入まで行い、もう殆ど動けなくなった男を上下前後を問わずあらゆる体勢で責め立て、文字通り干上がるまで吸い尽くしてやった。

 この卑劣な男の事は反吐が出るほど嫌いだが、種を吐き切ってもまだ飽くなき快感を求め続けるこの短小肉棒だけはどうにも憎めない。その様がまりもの瞳には、きもちいいのちょうだいちょうだい、と必死におねだりをしている小動物みたいにすら映って見えた。叶うならばこんな奴からはちょん切って、家へ連れ帰って大事に飼ってあげたいぐらいだ……と、こんな話はいささか猟奇的に過ぎるというものか。

 

 

 

 

 

 

 いずれにせよこの夜はまりもの勝ち、男は精も根も尽き果て気絶、という最高の形で幕を閉じたのである。

 ……ただし、それは『この夜』までの話なのであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どこ行ったのよアイツうううううううっっ!!!!」

 

 明け方に寝落ちたほんのひと時。そのほんのひと時で、男は忽然と姿を消していた。慌ててベッドの周辺を探ってみても、男の衣服はおろか手荷物の一つさえもどこにも残っていない。ただどういうつもりなのか知らないが、枕元にはここの宿泊費用を十分賄って尚余るだけのお札が二枚分と、震える筆致で『ゆるしてください もうしません』と書かれたメモの切れ端だけが置かれてあった。

 しまった。逃げられた。こんな事なら昨夜のうちに連絡先だけでも押さえておくべきだった。まりもは深く後悔し、そして激怒の咆哮を上げたのである。

 

「あッ――っ痛(つ)う……!! ああんもお、ゆうべ飲み過ぎちゃった……」

 

 二日酔いに揺れる頭を押さえ、ぐううう、とまりもは唸る。視界揺れが酷い。意識も胃の中もぐちゃぐちゃだ。それでも昨日のアレが全て夢だったなんて、そんな事も無かった。

 ベッドには行為の痕跡があっちこっちと残っているし、下半身周辺も乾いた愛液の痕でかぴかぴになってしまっている。口中に残る苦りみたいな風味も明らかに、男性のアレを含んだときの名残だ。おまけに己の恥ずかしい所からは、粘性を失った半白濁の液体がたらたらと流れ出ていた。

 財布やら何やらを盗られた形跡が無いのは不幸中の幸いだが、肝心なのはそこじゃない。あの下衆男を取り逃がしてしまった。相手にきっちり責任を取らせ、その内訳に加えて二度とこんな事はしないという署名付きの念書まで書かせる、そのつもりでいたのに。

 

「ん……でも、どうやってそんな事させるつもりだったんだっけ? 向こうが寝た隙を突いて朝イチで警察に電話しよう、って考えてたとか……??」

 

 そこら辺の細かい記憶がどうにもぼんやりしている。ただ覚えている限りの事として、あの男に何度も膣内射精された事、どこかの時点でその攻守が逆転していたっぽい事、最終的に相手が伸びていた事、そんな端々の光景だけが微かに脳裏に残っていた。

 だがそれらの光景の意味が、頭の中で全く繋がりを結ばない。その間あの男とどんな会話をしたか? 何がどうなって事ここに至ったのか? 男が金とメモだけ置いて煙のように消えたのは何故か? 今や全ては忘却の彼方、永遠の謎だ。

 

「――――って、そんなこと言ってる場合じゃないわ! どうしよう、危険日なのに中出しされちゃったああああ……!!」

 

 まりもは狼狽し、室内をばたばたと駆け回る。氏素性どころか連絡先も知れない相手による、避妊無しの危険日中出し。しかも向こうにはナンパ常習犯みたいな雰囲気もあった。それなら場合によっては妊娠どころか、もっと恐ろしいものを伝染(うつ)されてしまった可能性だって否定できない。

 もしも対処不能な事がこの身に起きていたら、どちらにせよ最悪の事態だ。その時自分はどうなるの。どうすればいいの。慌ててホテルを飛び出して土日に開いていそうな婦人科の病院をあちこち必死の形相で探りつつ、まりもはもう泣きたい気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 念の為に言っておくと、後日受けた検査でも特にその手合いの問題や兆候等は見付からず、まりもは心からの安堵感に「うはぁ」と胸を撫で下ろすに至った。早期の対処が功を奏した、というのも勿論あるだろう。ただそれが幸運を超えた僥倖、いや奇跡であるとも重々理解していた。

 もし『病気』の一つにでも罹っていたなら、その時は何年掛かってでも血眼になってあの男を探し出し、あらゆる賠償を行わせなければ到底収まりがつかなかった。そっちの意味でも大きな事態に発展せずに済んで本当に良かった。だがあんな男に身体を許してしまった事実。そして大元の原因が自分自身にあるという事実。それだけは、何をどうしたって覆す事が出来ない。

 ――かくなる上は、犬にでも咬まれたと思うしか無いのか。

 チラリとよぎったその考えを認識した瞬間、まりもは異常なほどの敗北感にどっぷりと心を呑まれたのだった。

 

 

 もう二度と酒には呑まれるまい。特に落ち込んだり気分が荒れてる時は。そしてどれだけ酔ったとしたって、行きずりの男に身体を任せるような愚行も二度と繰り返すまい。

 ……己に厳しく科したその禁が破られるのも、そう遠い未来の話では無いのだが。

 

 

 

 

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