皆殺しから始める現代戦国物語/敵家を潰し、報酬として美少女を奪い、喰らい、辱める 作:三流木青二斎
「紫さま」
風呂から上がり、ニケの髪の毛をドライヤーで乾かしている紫に女中が声を掛けていた。
「どうかしました?」
ふわふわのタオルで髪の毛を拭きながら、女中の声に反応する。
「あの……私たちは、これから……どうなるのでしょうか?」
未来の心配をする女中。
救世川家の当主は死亡した。
それを含めて、二つの家系、その当主すらも殺してしまった。
これがどうなる事になるのか、理解出来ていない紫ではない。
「復讐を遂げました、私には、もう何も残っていない」
紫の生きる理由は、両親を奪った救世川家の滅亡だった。
それを実現して見せた時、彼女にはもう何も残っていないのだ。
少なくとも、彼女はそう思っていた。このまま死んでも良かったが。
「けれど……まだ貴方たちが居ます、このまま、死を選ぶなんて真似はしません」
自らが命を断てば、救世川家に属していた非術師たちは、その大半は人狩りに遭うだろう。
他の術師家系から身柄を奪われて、救世川家で得た他家の情報を抜き取られる可能性がある。
救世川家が滅んでも、関係者が安全になるとは限らなかった。
紫は、術師だ。自らを守る為の術式は持ち合わせている。
けれどそれを持たない非術師たちは、誰かの保護の中でないと、生きる事が出来ない。
「……貴方たちを守ります。幼い私ですが、力を貸して頂けますか?」
紫は女中たちの方をまっすぐと見つめて言う。
女中は感涙していた、涙を流して何度も頷いている。
「ありがとうございます……先ずは知恵が必要です、広間に人を集めて下さい。話し合いを始めましょう」
「分かりました」
女中はニケと紫の衣服を洗面所の籠に入れて後にした。
紫はこれから他の家系が襲って来る可能性を考慮していた。
このまま散り散りになって逃げた方が、各々の生存確率が上がるのではないのかと。
けれど、この救世川家に滞在する事を選んだ。
その理由は、ニケにある。
「ニケ。私の傍に居てくれる?」
「おー?」
ニケを後ろから抱き締める紫は、耳元で話し掛ける。
「私を助けて、私を守って、そうしてくれたら、私は貴方の為に尽くしてあげる……もっと、気持ち良い事をしてあげる」
「気持ちいい事? またしてくれんのかぁ? だったら、俺はねぇさんを守るぞ」
何とも打算的な少女であった。
ニケを篭絡して、彼を自らの手駒として仕上げて見せた。
目を細めて、「嬉しい」と甘い声で囁いた。
紫とニケは手を引きながら広間へと向かった。
広間には、二十名程の非術師が座っている。
彼らの殆どは天童家だ。遊垣家は基本的に年齢層が若い為に酒池肉林の性交渉相手が殆どであった。
逆らえぬ様に救世川淡海から『血胤』の話も聞いていた為、謀反を起こす事すら出来なかった。
残りの非術師は救世川家に滅ぼされた別の家系の人間だ。
「お待ちしておりました。紫さま」
若い女性が多いが、その中に居る男性は四名程で、その四名は年老いている。
「私は経理面で救世川家の棟梁に生かされていました、
その老人は渠と呼ばれていた。
他にも、領土内に展開されている商業施設からショバ代を徴収する政役や、様々な事務関連を引き継ぐ事務員も居る。
「渠さん」
「さんなど必要ありません、渠とお呼び下さい」
「では……渠、貴方は救世川家の経理を担当していると言いましたが……救世川家の人間であったと解釈しても良いですか?」
救世川家の経理を任されると言う事は、余程救世川から信頼を置かれていたのだろう。
だとすると、救世川に対して恩義を感じていて、紫たちに対して反感を覚えているのではないのかと思った。
「そう思われるのも無理はありませんな。しかし、私は数字しか出来ぬ極端な男であります。数字が強いから生かされてきた木偶の坊で御座います。その点だけ言えば、私めに役職を与えて下さった救世川には感謝をしておりますが……忠義などはありません、私は、与えられた仕事を全うしてきただけの男で御座います。復讐と言うものは一切考えてはおりませぬ……尤も、私が役職を失えば、後は首を括るだけではありますが」
人差し指を伸ばしてくるくると宙に円を描く。
恐らく、それが首を括ると言う意味合いを持たせているジェスチャーなのだろう。
「……分かりました、現状では引き継ぎなども難しいでしょう。このまま継続して経理の方を担当していただくよう、こちらからお願いします」
「ありがとうございます」
渠は深々と頭を下げて、嬉しそうに笑った。
依然と同じ仕事を任されて嬉しいのだろう。
そういった面を見ると、中々に愛嬌のある男だった。
着物の襟を正して、正座で坐する渠が咳払いをすると、改めて伺った。
「早速ですが、紫さま、今後の予定をお聞かせ下さい」
渠が取り仕切って、紫にこれからの事を伺う。
「私たちは新たに遊垣家として再興し、龍脈戦線へと参加を表明します」
術師たちは、皆、地に根付く龍脈を欲している。
だから術師たちは龍脈を我が物とする為に争っているのだ。
彼女たちが居る場所こそが、龍脈が存在する大地、其処に滞在する以上は龍脈戦線に参加している他ならない。
「それは難しいかと思われます」
渠が嶮しい表情を浮かべながら紫の予定を否定した。
「何故です?」
「紫さま、此度の強襲は見事なものでした。救世川家は隙を突かれ、当主及びその配下を討ち取った……当事者である我ら以外は誰も知らぬ程に……これは良い方向です。時間を稼げているのですから」
救世川家の滅亡は、未だ他の術師家系の耳には入っていない。
これは時間の問題ではあるが、それでも時間を稼いでいる内に入る。
「しかし、今。術師連盟に救世川家を滅ぼし、新たに遊垣家とすると宣告した場合はどうなると思われますか?」
「……どうなるのですか?」
紫は首を傾げた、無理もない。彼女はまだ十二歳、小学生なのだから。
「新しく立ち上げた家系は弱いのです。更に救世川家と戦い、無事では済まないと他の術師の家系は思うでしょう。実際の所は、ほぼ戦力はゼロですが……その状態で再興したと報告すれば、他の術師家系が攻めて来る可能性があるのです」
弱い家系は叩いて潰すのは鉄則だ。
早い内に潰す事で肥大化して攻めて来る可能性を潰す事が出来るからだ。
「幸いにも、儀式によって新しい当主が決まる事だけが知らされています。なのでこれを利用しましょう。救世川太歳が救世川生類へと当主の座を渡したのではなく、救世川太歳が紫さまにその座を渡した事にするのです。こうすれば当面の間は救世川家が滅んだ事を報せるのを遅らせる事が出来ます」
紫は気乗りしなかった。
何故、憎き救世川家の名を継いでいかなければならないのかと。
しかし、今は私情で動くべきではなかった。
渠の言う事に耳を傾けて、彼女は頷いてみせる。
「分かりました、ではその様にしましょう。……救世川家の名を継ぎ、私は救世川紫となります」
自ら口にして、何かを失った様な感覚が過る。
遊垣の名を切り離したようで、少し悲しくなった。
「あのう」
手を挙げる若い女中。
紫は彼女の顔を見て発言を許可した。
「その、伏木羽様と歩衛様の件は如何しましょう?」
そう言った。
救世川家の同盟である伏木羽家と歩衛家の両名がニケの手によって殺されてしまったのだ。
「……両名は隠す事は出来ません、殺したと言う事実を報告します」
紫はそう言った。
「救世川家の儀式の際、謀反を起こしたと告げるのです。事実、私はそうする様に仕向けていました。救世川家と抗争を始めましたが返り討ちに遭ったと告げましょう。すべての非はそちらにある。此方はそれに対処したと」
事実と虚実を交える事に賛同し、渠が更に口を割って入れる。
「それに付け加えて、伏木羽家と歩衛家を脅しましょう。『親交を築いたのに裏切られた、此方は戦争を始めても良いのだぞ』と」
実際には戦争を始める程の武力は揃っていない。
けれど脅し文句を加える事で、此方が正当性を持った様に演出出来る。
何よりも、伏木羽家と歩衛家は保守派だ。
実力も下から数えた方が早い弱小家系、無駄な争いで事を荒げたくはないだろう。
「では当面は救世川家の隠蔽を行い、傷を癒す方向を取ります」
渠は頷く、他の女中たちも紫の言う事に手を叩いた。
「それと……彼のことです。名前はニケと言います。彼は術式持ちですが、私はあまり把握していません。『
「しちよーかんいん?」
ニケは首を傾げて、初めて聞いた単語に疑問符を浮かべた。
彼の疑問を解消するべく、女中の一人が手招きをする。
「私が教えます。紫さまはお話を続けて下さい」
ニケは女中の方へと向かい、『七曜冠印』を聞く。
まだ子供であるニケにどういった説明をしようかと悩みながらも、説明を始める。
「『七曜冠印』は、能力の属性を指すの。一週間の曜日は分かるかな?」
「なんだぁ、それ?」
それすら分からないらしい。
無理もない事だろう。
『七曜冠印』とは、術師が宿す能力の方向を示す属性である。
万象に対して特定のものに負荷を加える『月印』。
火熱系の属性である『火印』。
水氷系の属性である『水印』。
樹木系の属性である『木印』。
金属系の属性である『金印』。
大地系の属性である『土印』。
万象に対して特定のものに付加を与える『日印』。
この七つの属性を以て『七曜冠印』と呼ばれている。
『七曜冠印』は、大別が七つであり、詳細属性は多岐に渡る。
例えば遊垣家である紫、彼女の属性は『香印』と呼ばれている。
これは、『毒印』の遊垣龍紀と、『薬印』の遊垣姫矩の属性が交じり合う事で誕生する新属性だ。
術式継承の形式は全部で六つある。
母親の術式のみを引き継いだ『
父親の術式のみを引き継いだ『
両方の術式が組み合わさった『
両方の術式を引き継いだ『
両方の術式を引き継がず、別の術式を引き出した『
両方の術式を引き継がず、術式を宿さない『
紫は『太極型』に分類される『香印』術師であるのだ。
ニケもこの六つの形式の中でどれかを発揮している様に見える。
女中は、この説明をかなり分かりやすくしてみたのだが。
「ん? ……んー、分かんねぇ」
彼にとってはちんぷんかんぷんであった。
「ニケの術式は追々と言う方面で宜しいですね?」
渠の言葉に紫は首を縦に振った。
会議は粗方話終わった所で、紫は纏めだした。
「では、今後は救世川家の屋敷を業者に頼み改築をする、次に救世川家の戦力を補強する、伏木羽家と歩衛家には事情説明と亡骸を返して、其処で私が棟梁になった事を改めて説明をする……そして、ニケにも救世川の名を与える、我々の目指す方針、まず最優先は最初に言った二つを重点とします」
従者たちは頷いた。
多くの話しておきたい事を語ったので、紫は早々に締めに入る。
「最後に……皆さま、よく耐えて頂きました。苦しかったでしょう、遊垣家の従者として、それを憎んだ事もあったでしょう。その呪縛も終わりを迎え、ようやく私たちは救世川家から解放されました……まだ、自由とは言い難いですが……皆さまが、胸を張って生きられる様に、私は尽力します……なので、今一度、いえ、もう一度……私に、お力を下さい」
深々と下げる紫に、従者たちは声を荒げた。
それは、彼女が頭が下げる事ではないと言う優しい言葉だった。
「紫さまが頭を下げる事ではありません」「そんな小さな体で私たちを守って下さいました」「性交と言う行為を自ら引き受けた紫さまを、私たちは責めたりしません」「私は最後まで紫さまと共にします」「私たちをどうか、最後まで面倒見て下さいませ」
従者たちは涙を流して紫を支えると発言した。
紫は従者たちの涙を見て、自らも涙が溢れそうになって堪える。
「ありがとう……ありがとう……」
感謝の言葉を口にして、渠が手を叩いた。
「何にせよ、今日くらいは派手に騒ぎましょう、健闘を称え、祝杯を……もとより、戦の勝利とはそうするものです」
渠の言葉に頷いて、紫が従者たちに命令を下す。
「では、最初の、主君としての命令を下します。皆で抑圧からの解放を讃えましょう。美味しいごはんを食べて、また明日から、頑張れる様に」
「はいっ」
女中たちはその命令に頷いて席を立つ。
ニケは女中たちが消えたので、のこのこと紫の方へと向かうと、彼女の膝の上に乗る。
「これからなにをするんだぁ?」
「美味しいご飯を食べるの。お腹がいっぱいになるまで沢山食べて、そして朝まで眠って、また明日を頑張る」
「それは面白いのかぁ?」