皆殺しから始める現代戦国物語/敵家を潰し、報酬として美少女を奪い、喰らい、辱める 作:三流木青二斎
「ニケッ」
鼻や口から血を流すニケはそれを拭い、手の甲に付着した血を舐めながら笑う。
「やべぇ。力が使えねぇ」
ニケは何故自分の術式が使えないのか考えるが、考えられる事があるのだとすれば、流辰の枯渇だろう。
『幼少期に見られる現象だな、術式を覚えたての子供は、力の配分を知らずに流辰使い切ってしまう』
律儀に凰母万仲が説明を交えた。
それは単なる優しさではない。
『大方、頼みの綱はこの小童だったのだろうが……流辰を使えなければただの餓鬼、このまま、弄り殺してやろう』
わざわざ説明を加えさせる事で、より絶望を引き立てた。
豚の姿に変わる凰母万仲が大斧を振り下ろす。
大振りの一撃にニケは目視をして上で回避する。
一撃が重たい分、その振り下ろす速度も遅い。
だから回避自体は容易なのだが、斧の刃が地面に接触すると同時に、地面が抉れて石礫がニケを襲い出す。
「いでッ!」
後ろに後退するニケ。
凰母万仲はそれを容赦なく狙い、真横に斧を振ってニケを胴体から真っ二つにしようとする。
「おっ」
ニケは頭を下げて、凰母万仲の攻撃を回避する。
刃はスレスレで、ニケの髪の毛を切り裂いた。
『そうれぃ!』
地面を蹴ると同時に、凰母万仲の肥えた足でニケの腹部を蹴られる。
「がッ」
ニケは大量に血を吐き出しながら、凰母万仲の剣術部隊の死体へと叩き付けられた。
圧倒的な力である。
これが、術式を持たぬニケの実力であり、これが、術式を発動した凰母万仲の実力である。
『小童めがッ! ゆかりぃ……貴様は、儂が折角手助けを出し、娶ってやろうと考えておったのに……儂のマラを美味しそうに咥えておったメスガキが、とんだ罰当たりな真似をしてくれるわい』
一歩、救世川紫の方へと歩き出す凰母万仲。
救世川紫は、手元に握り締めていた包丁を取り出す。
それは、自決用にとっておいた武器だ。
凰母万仲に体を貪られるくらいならば……、いっそこのまま、死んでしまった方がマシだからだ。
手が震える。彼女は自らの腹部にそれを突き刺すのをためらう。
腹部には、救世川寂弦が傷つけた傷跡が生々しく残っていた。
切腹は、あの時受けたものよりも痛いのだろう。
そう思うと涙が出て来る。恐怖で唇が震えてしまう。
「……ねえちゃん」
死体の山から立ち上がる、ニケの姿があった。
ニケは、救世川紫の方を見て、首を横に振る。
「ねぇちゃん。あのさぁ……痛いのはスゲェ痛いぞ……ねえちゃんは、耐えられないから、止めた方が良いって」
『そうだ、小娘。死から先は何もない……儂に服従を誓え、そうすれば貴様の命は助けてやろう。もっとも救世川家は滅ぼすがな』
ニケが救世川紫の包丁を握り締めた。
救世川紫はニケの方を見て、呼吸を荒くしながらニケの目を見詰める。
「おー……だからよぉ。俺が何とか倒すからさぁ……ねえちゃんは逃げてくれよ、あいつを倒したら、俺の勝ちだからよぉ」
「ニケ……私は、逃げたくない……」
涙を流して救世川紫は包丁を握る力を強くする。
「いーや、ねえちゃん。逃げる事は逃げる事じゃねぇよ。逃げるってのは戦う事なんだよ、分かるかぁ?」
ニケの言葉は矛盾していて、本質を突いていない。
いや、もしかすれば、本質を得ているが、救世川紫が確信してい無いのかもしれない。
「戦う為に逃げるんだぁ……そうすりゃ、俺が勝てるからなぁ」
だから、と。
ニケは前に進む。
そして凰母万仲へと挑み出す。
凰母万仲は素早く、地面を蹴ってやって来る餓鬼一人を煩わしく思いながら紫の方に目を向けると、従士たちに声を掛けた。
『あの女を捕まえろッ、決して殺すなよッ!』
武器を持って来た従士たちが頷くと、紫を捉えようと向かっていく。
救世川紫は、凰母万仲の従士に捕まらない様に、その場を走り出した。
「おー、逃げろよぉ、ねえちゃん」
『逃げれば逃げる程に、絶望は増すだけよ……』
「そりゃ違うだろぉ」
凰母万仲に向けてニケがそう言うと、血を流しながら笑みを浮かべた。
「ねえちゃんはスゲェんだ。お前なんか、泣いて詫びる程だぜぃ」
『泣いて詫びるのは貴様の方だぁ!』
そう叫び、凰母万仲はニケに斧を下ろした。
救世川紫は、走った。従士たちに捕まらない様に、凰母屋敷へと硝子を破って侵入すると、土足のままで走り出す。
「はっ……はっ……ッ!」
「家の中に侵入したぞぉ!」「逃がすなッ!」「千遊さまの下へ向かうかも知れんぞッ!」
従士の一人がそんな事を言っていた。
救世川紫の進む場所は、まさしく、凰母千遊が眠る部屋へと向かっていた。
そんな事はつゆ知らず、救世川紫は少女の眠る部屋へと向かい、扉を開けて中に入る。
その行動は、ただ単に、従士を撒く為に別の部屋に入り、やり過ごそうと思っての行動であった。
従士たちの足音が聞こえる。
救世川紫は息を殺しながら、部屋の中を見た。
なんとも、幸せそうな部屋だった。
普通の少女として生きている様な部屋であり、その中は、救世川紫が手に入れられなかった、普通の女の子としての全てが揃っていた。
「んん……」
眠っていたが、大きな音が聞こえて来たので目を開く凰母千遊の姿がある。
凰母千遊は、眼を擦りながら、救世川紫の方を見た。
「ん~……どなたですかぁ?」
首を傾げながら、凰母千遊が救世川紫に名前を聞く。
救世川紫は答えない。代わりに、凰母千遊に名前を伺った。
「……貴方の名前は?」
そう言われて、寝惚けている凰母千遊は簡単に答える。
「私は……凰母千遊です、歳は十一歳です」
自分よりも一歳年下だ。
救世川紫は、彼女が凰母万仲の関係者だと知ると、途端に怒りがこみあげて来た。
自分は、不遇な人生を送って来た。術師の家系とはこのような人生を送るのだとそう思った。
だが違う。この少女は何一つ不自由なく暮らしていた。
彼女は、普通の少女として生きていたのだ。
その事実が、彼女を狂わせた、嫉妬して、彼女を恨み出した。
その恨みなど、普通に考えれば逆恨みでしかない事は分かっているのに。
心の内で叫ぶ「ずるい」と言う言葉が、心の内で呟く「許せない」と言う声が、救世川紫の心を黒く染めていくのだ。
「……貴方の、父親は」
「お父さん? ……いないです。いるのは、おじいさまだけです」
どうやら、彼女と万仲の関係性は祖父と孫であるらしい。
「おじいさまは、とても優しいかたです。いつも、私の為に色んな事をしてくれます。おじいさまは、私が、両親が死んでから、それでも、私を寂しくさせまいと、常に私を考えてくださいます。私は、そんなおじいさまを尊敬しています」
嬉しそうに語り出す凰母千遊。
彼女にとって、凰母万仲の表の顔しか知らないから、彼女の言う事は、救世川紫には納得できない。
救世川紫にとって、凰母万仲とは自分を性欲処理に使う汚らしいおっさんだった。
この体をいいように使われて、多くの精液を注ぎ込まれた。
綺麗な彼女を見ていると、救世川紫は、まるで自分が汚らしい存在だと思えていたたまれなくなる。
「……貴方のおじいさんは……最低な人」
救世川紫は、包丁を握り締めながら、凰母千遊へと迫り出す。
「お嬢様ッ!」「千遊さま、大丈夫ですか!?」「扉を抉じ開けろッ!!」
そんな従士たちの声が聞こえて来る。
救世川紫は、凰母千遊を布団から剥がすと、彼女の体を掴んで、首筋に包丁を添えた。
「きゃあッ!!」
悲鳴が発せられる。
扉が蹴り壊されると、部屋の中には、凰母千遊を人質にする、救世川紫の姿が其処にあった。
「貴様ぁ!」「千遊様を離せェ」「この売女めがぁ」
「黙れェ! 貴方たちは、この子が大事なんでしょう、だったら、黙りなさいッ!」
刃を首筋に添えて、彼女の皮膚を軽く切る。
血が流れて、凰母千遊は涙を流した。
「痛い……痛いです、やめ、止めて下さい……」
「離しません……これから、貴方の祖父がどれ程汚い人間か、見に行きましょう」
救世川紫はそう言って、凰母千遊を連れながら凰母万仲の元へと向かい出す。
凰母万仲とニケの争いはいよいよ終盤に差し迫っていた。
ニケは息が絶え絶えであり、動きがトロくなっていた。
凰母万仲は逆に、軽い運動をしたかの様に熱気を帯びて調子が良い。
「へっ……へッ……腹ァ、減ったなぁ」
ニケは空腹を告げながら、凰母万仲に蹴りを喰らわす。
しかし、子供の蹴りなど、術式で分厚い脂身の皮膚鎧の前では意味を成さない。
ニケの足を掴むと、凰母万仲はニケを宙吊りにしながら臭い息を撒き散らす。
『手古摺らせおって……餓鬼がァ!!』
斧を手放して、ニケの左腕を掴む。
そして、力任せに、左腕を引っ張り出した。
「おッ、い、て、ででッ!!」
軽く、骨が折れた音がする。
皮膚が千切れて、血が噴出する。
筋肉の繊維がズタズタに裂けて、ニケの左腕を、凰母万仲は引き千切った。
「あ、がッ!! あああああッ!!」
『ぶふぁあああああッ!! これで済ますと思うなよぉ! このまま、貴様の四肢を捥いでくれるわぁ!!』
興奮し、ニケの血を浴びる凰母万仲。
ニケは目が回っていた。大量に血を消耗した故に、段々と意識が薄れていく。
「あ、や、べぇ……駄目、だ、これ……」
寒気がする、ニケはだらだらと零れる血液が顔に掛かった。
血の臭いが薫り出す、ニケは、その臭いを感じると、更に空腹が巡り出す。
腹の音が鳴り出して、ニケの口から血が混じった唾液が分泌された。
口から垂れる唾液が、地面へと落ちていく。
「へ……へへへ」
ニケは笑っていた。
どうやら、痛みのあまり狂ってしまったのだと凰母万仲は思った。
事実そうだ。既に、ニケは狂い出している。
何故ならば、ニケの足を掴む豚の手が、ごちそうに見えだしたのだから。
体を振る。
残された右腕で凰母万仲の手に食い込ませると、凰母万仲は激痛を走らせた。
最初は、蟻に咬まれた様な小さな痛みだった。
しかし、今では、万力で手の皮を引き千切るかの様な激痛が走ったのだ。
『ぐぉぉッ!!』
痛みのあまり、ニケを離してしまう。
自らの掌を確認すると、自らの小指が無くなって、血を流していた。
地面に垂れる血は水溜まりの様に増えていく、そして、その血をニケは啜っていた。
「あぁ……うめェ、うめぇッ……うめぇなぁ……これぇ」
口に血を付着させながら、ニケは顔を上げる。
欠損していた左腕は、いつの間にか断面が塞がっていた。
『な、んだ、貴様ッ!』
ニケが手を伸ばす。
その手が、凰母万仲の前腕に触れると、ニケの掌から牙が出現し、牙が前腕を食いちぎった。
『が、ぁあああッ!!』
腕を貪る右腕、凰母万仲の腕は一瞬で食い尽くされると、欠損した左腕から、筋肉繊維が噴出して、左腕を形作っていく。
凰母万仲の肉を喰らい、ニケはその肉を使って、自らの左腕を生やしたのだ。
「おー……治った治った、全快だぜぃ」
嬉々として喋るニケに、凰母万仲はたじろいだ。
自らの腕を無くし、満身創痍だったニケが全回復している。
状況が一変した。凰母万仲は、地面に落とした斧を握り締めると、ニケに突撃する。
『腕が一本、戻った所でッ! 腕を一本無くした所でェ!』
戦力の差は多少傾いた。
だが、それでも凰母万仲は戦う。
それは、未だにニケが流辰を枯渇したままだと思っていたからだ。
しかし。
「なんか知らねぇけど……力も戻ったからよぉ」
手を翳す。
凰母万仲に向けて、ニケは真空空間を作り出す。
その中に居る凰母万仲は、全身を沸騰させた。
『ぐぉッぶ、ぎぁああっあがああ!!』
ニケの術式を喰らい、あり得ないと思った。
『まさか……両儀型、だったのか……貴様、はッ』
両儀型。
二つの『七曜冠印』の属性を持つ人間。
ニケは、空を操る力に加えて、喰らう力も持っている。
空は使えば使う程に流辰の消耗が激しいが、喰らう力は、ニケが食物の体内摂取をする事で怪我を回復させたり、流辰を回復させたり出来る。
凰母万仲の肉を喰らった事で、ニケは流辰を回復させたのだ。
それでも、多少の回復であり、真空空間を作った時点ですぐに枯渇してしまったが。
そのおかげで、凰母万仲は肉体に大怪我を負っても未だに生きていた。
けれど、得体の知れないニケの姿を見て、心の内で勝てない事を悟った。
切り刻んでも、肉を喰らえば回復する。そんな化物染みた術師に一体どうやって勝てと言うのか。
『ぐ、ぐぐぐッ』
凰母万仲の脳裏に敗北が過る。
それを払拭する様に頭を振るい、大斧を掴んだ。
『負けぬ、負けぬわ、この、儂がァ!!』
叫び、ニケに立ち向かおうとした最中。
「おじいさまぁ!!」
少女の声が聞こえて来た。
その声に、凰母万仲は足を止めて、振り向いた。
後ろには、たった一つの宝物である凰母千遊と、彼女の首に包丁を添える、救世川紫の姿が其処にあった。