皆殺しから始める現代戦国物語/敵家を潰し、報酬として美少女を奪い、喰らい、辱める 作:三流木青二斎
覚束ない足取りで地下室を目指す救世川太歳。
彼が其処へ目指すのは、救世川天遇を見つける為だった。
確かに、救世川太歳は死亡した。
そしてその死体は廃棄場に棄てたままだった。
だから、救世川太歳は廃棄場へ行き、救世川天遇の死体を見つけようとしていた。
彼は、救世川太歳が転生したと勘違いしている。
だから、その勘違いが勘違いである為に、死体を探そうとしていたのだ。
第一層から第二層へと続く階段を転げ落ちる。
「ひっ……ひっ! ぐあッ」
そして救世川太歳は床に叩きつけられて周囲を見渡す。
地面には、救世川寂弦が血を流して死んでいた。
周囲には割れた酒瓶があり、鞘が放り投げられていた。
だが折れた刀は見当たらない。
その惨状を見た救世川太歳は恐怖した。
「ひぃッ! じゃ、寂弦ッ!!」
いよいよ、信憑性を帯びて来た。
救世川寂弦は殺された。
他でもない、救世川天遇の手によって、だ。
これはきっと、自らを殺した救世川天遇が起こした呪いなのだと悟った。
「ひぃい! やめろ、やめろ天遇ッ! 儂を殺すなッ! 儂はもうやめたのだッ! 争いなどどうでも良いッ! 儂は生きていたいのだッ! 救世川など、どうでも良い!! 儂は、儂は死にたくないッ!!」
何と言う、みすぼらしい男の姿だろう。
数年前であれば、このような思想を抱く事など無かっただろう。
あの頃とは違い、救世川太歳は骨抜きにされた。
牙を抜かれてしまったのだ。
今では死ぬ事を恐れる人でしかない。
「……おいッ」
階段から降りて来る、二人の姿があった。
救世川生類と、救世川淡海の二人だった。
救世川太歳の本心を聞いて、彼は憤りを覚えていた。
「先程の台詞はなんだ……それが、救世川家の元棟梁だったアンタの台詞か」
不退転を喪った救世川生類でも、それでも救世川と言う家系には誇りを持っていた。
誰よりも、救世川太歳に憧れていたのだ。
なのに……救世川太歳は、腑抜けた事を口にする。
それは酷い裏切りであった。
「だ、黙れェ! 貴様だとて、心の内では戦う事を止めようとしていたのではないのか!?」
「俺が? 違う、俺は救世川家を強くする。その為に侵攻するのをやめようとしていただけだッ。お前の様な、争いも救世川を捨てようとしている人間と一緒にするなぁ!」
二人の争いに、救世川淡海は極めてどうでも良かった。
救世川淡海は自身の術式を磨く求道者だ。
自身の術式を必要としてくれている救世川太歳は感謝している。
血を媒介にする為に必要な人間を分けてくれる人間。
しかし、老いぼれとなった彼には、最早微塵の興味も無い。
餌を提供してくれるのなら何度でも尻尾を振ろう。
けれどそれが無ければ、もうどうでもいい。
少なくとも、もう救世川家は壊滅的だと言う事だけは分かる。
だから、出来るだけの材料を持って、この場から離れる。
そして、また自分の力を欲している人間の元で術式を磨き続けるのだ。
救世川淡海は、第三層へと降りていく。
そして……第三層の異様な臭いを感じ取り、その惨状を見た。
「なんだ、これは……お、おぉおおおッ!!」
声を荒げる。
人が死んでいる。
大切な材料が命を失っている。
血は固まっていて、地面へと流れて下水溝から流れていた。
「そんな……誰が、誰がしやがった……こんなひどい真似をッ」
泣き叫ぶ。
何処かに、生きている材料が無いか探し出す。
廃棄場のゴミを手で漁り続ける。
「お前は、救世川に相応しくないッ……此処で、死ねェ!!」
叫び、救世川生類は怒りのあまり術式を発動した。
彼の声には怒りと嘆きが募っていた。
嘗て恩義を感じていた男は最早何処にも存在しない。
目の前にいるのは、過去を語る狼藉者だ。
それが許せない。
だから救世川生類は、目の前の男を殺そうとしていた。
「き、貴様ぁ! 儂を誰だと思っているッ! 儂は救世川家の棟梁、救世川太歳なのだぞぉ!」
「貴様なぞ知るかぁ!!」
術式を発動する。
彼のあらん限りの力を開放して隕石を作り上げる。
「ぐ、うぉぉおお!!」
救世川太歳は胃袋から熟成させておいた蠅を生み、食堂を通して口から蠅を全て放出した。
自らを殺そうとする救世川生類に向けて蠅が飛んでいく。
蠅が救世川生類の皮膚や目を突いた。
痛みに反応して、救世川生類は周囲に飛ぶ『落火星』を周囲に叩き付ける。
その一部が地面に衝突した。
此処は地下室だ。
衝撃を発生させる救世川生類の『落火星』が多量に発生してしまえば、地下室は崩壊する。
地面が崩れる。
第三層には巨大な地響きと共に、天井が崩れ出した。
「何処だ……誰、誰でも良い、返事をしてくれぇ……俺、俺の、命たちぃ……」
天盤が救世川淡海の真上から落ちる。
上を振り向いた救世川淡海は、分厚い瓦礫を視認すると同時に圧殺した。
「ひぃ、ひぃいぃぃ!!」
床が崩れていく。
救世川太歳は、目を潰された救世川生類を置いて第一層へと避難する。
「何処だ、何処だァ! 救世川、救世川太歳ィィィ!!」
叫びながら、救世川生類は瓦礫と化した床と共に第三層へと落ちていく。
床を補強する為に使われた、今では剥き出しとなった鉄棒に体が貫かれた。
「あ、がッッ、な、ぐッ、お、俺、が……この、このまま……し、死ぬ……の……」
鉄棒に串刺しにされた救世川生類は、百舌鳥の串刺しの様に絶命するのだった。
階段にしがみつきながら、救世川太歳は何とか生きていた。
そして腰を抜かしながら第一層へと戻っていく。
「し、死にたくない……死にたくない……ひぃ……ひぃ……」
第一層へと戻った時。
地上へと続く階段の前に、誰かが立っていた。
その姿に一度は身を震わせて驚きの形相を浮かべたが、すぐに、天女に出会ったかの様な柔らかな顔に変わる。
「おぉ……おぉぉ、ゆ、ゆか、りぃ……」
其処に立つは。
散々弄んできた、紫の姿があった。
己を騙していた紫は、本来憎むべき存在だが、今では地獄の最中で仏と会った様な安堵に包まれる。
彼女は安全だ。
此方が許してやれば、すぐにでも股を開いてくれるだろう。
そうだ、このまま紫を連れて逃げよう。
そしてこの小娘の膣に射精して、一晩中遊んでやろう。
「(そうじゃ、そうじゃ……それは素晴らしい事だろう、きっと、夢に浸れる、今と同じ様に……甘い匂いに包まれながら……あ……?)」
そこで感付いた。
この部屋の中で、甘い匂いがする事に。
何時だって、その匂いは彼女を抱いた時に匂う香りであり、それを嗅ぐ度に陰茎は回復して来たものだ。
しかし、今ではまったく、陰茎が勃つ事は無い。
それもそうだろう。
紫が放つ香りは、今までは媚薬の効果を含ませていた。
けれど、今は媚薬の効果など混ぜてはいない。
「か、かかか、か、かーッ、かッ……カッ」
体が動かない。
そう言おうとしても、呂律が回らない。
紫は、この第一層に麻痺を引き起こす薬品の香りを分泌させたのだ。
これによって、救世川太歳は動く事が出来なくなっている。
何故動かない、と言う救世川太歳の疑問。
不安の感情は、すぐさま恐怖へと彩られる。
紫の手には、刀が握られていた。
救世川寂弦が使用していた刀である。
刀身は半ばで折られ、刀としての能力は半減以下となっているが。
それでも、人を殺す事に何ら支障はない。
尤も……切れ味が悪い為に、激痛を齎すだろうが。
「や、やややや、や、ッヤッ」
やめてくれ、たすけてくれ、ゆるしてくれ。
救世川太歳はそう口にした。
「ははさまと……ととさまの……仇ッ!」
走る。
紫が刀を構えて、救世川太歳の心臓に突き刺した。
激痛が走る。唾液が口から零れて、続く様に血を吐く。
体中から痛みが発生する。それに耐え切れず、救世川太歳は声を漏らす。
「く、くくく、くッ、くぅ、ッくく、く──ーッ!!」
くるしい。と。
その滑稽な言葉に、紫は叫んだ。
「くたばれェえええ!!」
刀を捻る。そして強く押し込める。
救世川太歳は刀を突き刺したまま、後ろへと倒れる。
そして……第二層へと落ちて、第三層まで落下した。
頭部から落ちた救世川太歳は、死んだ救世川生類を虚ろとなった目で見続けていた。
「はぁ……はぁ……はは、あ、はは……」
紫は、声を漏らす。
それは、笑い声だった。
笑いながら……彼女は泣いていた。
「ははは、ははははははッはは、あ、ぁ、は、ぁ、はぁ……ぁッあ~ッ……ひぐっ…、ぐ、ぅぅぅ…ああぁぁ……とと……ととさまぁ……かかさまぁ……あいたい……あいたいよぅ……」
全てを終わらせた紫は、今は亡き母と父を想い続ける。
ようやく全てが終わったのに、晴れやかな気持ちである筈なのに、哀しみの涙しか出てこなかった。
地上では最後の戦いを繰り広げていた。
「『
伏木羽六朗は着物を剥いで全身に力を籠める。
すると、筋肉が盛り上がり、二メートル程の大男と化した。
肉体を膨張させることが出来る伏木羽六朗は、肉弾戦を得意とする老人である。
周囲に作られた瓦礫を掴んでは、それを野球投手の様に振り被り、投げつける。
コンクリートの壁や木材が少年に向けて放たれるが、手を翳す。
それだけで、進行を遮断するバリアが発生する。
空間を操る術式を持つ彼は、空間中の空気を圧縮させて不可侵の壁を築くのだ。
その隙を狙い、歩衛清七が地面から黒い砂を引き出す。
砂鉄を操る事が出来る術式を持つ歩衛清七は、その砂鉄を硬質化させてダガーを数本作り、それを少年の周囲に向けて放つ。
少年は前進する事でその攻撃を回避する。
「(無敵じゃねぇな、その能力は)」
術式は肉体に宿る生命を源にしている。
『流辰』と呼ばれる力の源は無限ではない。
絶対的な不可侵の壁を作るのにもそれなりの力の消費があるのだろう。
そうでなければ、攻略は難しい所だった。
バリアが解かれたと同時、伏木羽六朗が距離を詰めて爪先蹴りを少年の腹部に喰らわせる。
「ぐぶッ」
血を吐き出しながら蹴りの勢いによって弾き飛ばされる。
苦痛に歪む表情は、少年以外にも、伏木羽六朗も顔を浮かばせていた。
「ぐぅッ」
爪先が食われている。
親指の付け根、人差し指の第一関節から先が齧られていた。
「(『七曜冠印』を二つも所持しておるとは……こやつは危険じゃ)」
子供でありながら、何十年も生きた術師を相手に接戦出来る。
このまま成長すれば……一体どれくらいの術師が誕生するのか身震いした。
早急に、若き芽を潰しておかなければならない。
伏木羽六朗が、救世川家を覆う壁に叩き付けられた少年を殺すべく突進する。
伏木羽六朗の腕には、屋敷の大黒柱とも言えよう太き材木を握り締めて、それを槍の様に投擲した。
槍の切っ先が、少年に向けられて迸る。
「(この状況下、バリアを張らねば潰されるッ! バリアを張り、無敵時間を終えた後にトドメを指すッ!!)」
槍の後ろを疾走する伏木羽六朗。
強化し、隆々となった筋肉に圧迫されて血液が血管から噴き出るが関係ない。
此処で確実に潰す、潰さなければならない。
その一心で少年に立ち向かうが。
「はははぁ」
少年は笑ってた。足に力を込めて、垂直で飛び上がる。
バリアは張らずに、材木の槍を回避。
「喰らえェ!」
歩衛清七が叫び、砂鉄のダガーを飛ばす。
少年はその攻撃をバリアで防いだ。
「(よくやったッ! これで無敵時間を消費、儂が殺すッ!!)」
上に飛び、落下に合わせて少年に五指を揃えた徒手による突きを喰らわそうとする。
だが、何故だろうか。
少年は、蹴った。
何もない場所を蹴ったのだ。
普通は、人間は二段階で跳躍する事は出来ない。
単純な話だ。地面があるから、人間は跳躍が可能なのだ。
決して、何もない空間では、地面を蹴る事は出来ない。
「ちょぉわ……」
無敵のバリアだけが、少年の能力ではない。
空間内の空気を圧縮して、足場を作る事など容易だった。
突きは空回る。空を見上げていた伏木羽六朗は、瞳に何かが降り注いで、目を瞑った。
それは、雨雫だった。曇天だった空に、雨が降り注ぐ。
その一瞬の隙を突いて。
落下する少年が老人の頭部に触れた。
つるっぱげで、光があれば反射しそうな、丸い頭を不遜にもなぜるように。
「ぶぎゅ」
掌から牙が生えて、老人の頭部を削り食った。
膨張させた肉体は血管を圧迫していたから、頭部が消えた事で、さぞかし美しい赤い噴水を流す。
「く、ああああッ! まだだぁ!!」
地面から砂鉄を掻き集め、歩衛清七は疾走する。
彼の周囲には砂鉄で作られた部品が覆われていく。
芝刈り機の様なローラーが地面を削りながら、歩衛清七の脚部には回転ローラーが付属され、列車の様な黒色のボディで覆われた巨躯の車輪と化す。
「『
地面を抉りながら疾走し、目の前に立つ者を鋭利な刃が敷き詰められた回転ローラーで切り刻む。
歩衛清七の最終奥義である。
それを目前にして、少年は面白そうに笑いながら避ける様な真似はしない。
「(分かってる……分かってんだよ、最初から)」
歩衛清七は頭の中では分かっていた。
最初から、その少年には適わない事に。
だから逃げようとしたのだ。此処から、少年から。死から。
どうしてこうなったのか、考える。
いや、考えた所でどうしようもない。
「(俺が、一体、何をしたって言うんだよ)」
後悔が過る。
あの時、救世川家の交渉を拒否していれば。
あの時、酒池肉林を最初から断っていれば。
けれど、今ではもう遅い。
空間を遮断する不可侵の壁が張られる。
清七の『轍人』では破る事の出来ない無敵のバリア。
疾走し、壁に衝突して、歩衛清七は、刃で出来た回転ローラーに自ら突っ込む様な形で切り刻まれる。
血飛沫が、ドーム状のバリアの姿を現した。
砂鉄が地面に落ちる。
バリアが解除されると、歩衛清七の血が、少年に掛かる。
暖かな血。それを、冷たい雨が洗い流していく。
全てが新鮮で、全てが眩しい。
「ははは……あぁ……楽しいなぁ」
少年は笑う。
この虐殺を嬉々として受け入れる。
その姿を……地下室から出て来た、少女は見た。