休憩所の聖域 2-A専用”女子トイレ" 作:jadenoshon
”トイレ”で”お花を摘み終わった”クラスメイトの女の子たちと待機スペースで合流すると、みんなでぞろぞろとバスに乗り込む。
「すいません お待たせしました〜 それとティッシュ、ありがとうございました〜」
別に対して罪悪感もなさそうに、先生が運転手のおじさんに向かってフランクな口調で謝っている。
どうやら、ここでずっと女の子たちがすっきりするまで待たされて、異様な空気感の中待機していた男子生徒や運転手に対し申し訳ないという気持ちは微塵もないらしい。
お互いに楽しそうに談笑しながら、次々に座席に戻っていく女の子たち。
「さあみんな、出発するよ~」
楽しそうな先生の声。
動きだしたバスの中で、すっかり我慢の苦しみから解放されて、元気を取り戻した2-Aの女子生徒たち。
「ね~ありさ~ おかし食べよ~♪」
「チョコだ~ ありがと~」
「あ・・・チョコだ。おいしそう・・・」
「ななみったら、お菓子持ってきたの?お菓子持ってきたらダメだよ?」
「そんなこといってるけど、りんかちゃんもすごく食べたそう・・・」
「べ、別に・・・」
「はい。あげる~」
「あ、ありがとう・・・」
「あれ?りんかめっちゃうれしそうじゃん!」
「うう・・・」
「修学旅行、楽しいね~」
(うんうん。楽しそうでいいね。私まで、つられて楽しくなってきちゃいそう。せっかくの修学旅行、思いっきり楽しまないとね!)
生徒達の様子を見て、満足気な表情を浮かべるまりん先生は、金魚と澱んだ黄色の水槽の事など、もうとっくに忘れていた。
ここの座席では、ありさと隣のななみ、そしてその後ろの座席のゆきねと、ゆきねの隣に座っているりんかがおしゃべりに花を咲かせている。
他の座席でも、女の子たちの明るく楽しそうな声がいたるところであがり、バスの中は愉快な雰囲気に包まれた。
みんなで、“トイレ”を使ってしまったというイケない秘密の共有。
共犯意識による連帯感が、さらにみんなの絆をさらに強めたのか。
はたまた、男子もいる空間で、自分たちがなしてしまった恥ずかしいことへの照れ隠しなのか。
このクラスでは少数派である男子が、気まずそうに俯いている。
そんな男子生徒たちをよそに、黄色い声できゃっきゃとはしゃぎ戯れる女の子たち。
我慢という共通の目的のために我慢という戦いを経て、あの“トイレ”にみんなで並ぶという行為に対する背徳的な連帯感。
とある休憩所にあった運の悪いあわれな小屋は、後の掃除の事や持ち主のことなどなんら顧みられることもなく、それでいて、少女たちの一風変わった大切な思い出の1ページとなったのであった。
ん?あの惨状の責任は誰が取るのかって?
そんなことを聞くのは野暮だ。
なぜなら、彼女たちの楽しそうな戯れに水をさしてしまうことになってしまう。
女の子たちには、いろんなことをエンジョイする権利がある。
もし仮にあのまま小屋を使わずに漏らしてしまっていたり、扉が開かずに小屋の後ろでおしっこをして誰かに見つかったりでもしていたら、せっかくの修学旅行なのに、最悪の思い出を使ってしまうことになる。
彼女たちの楽しい思い出のためにも、私有地の小屋をダメにしたことくらい、許されるべきなのだ。
まぁ、無理にでも責任の所在を求めるのだとしたら、それはここにトイレを設置しなかった休憩所の設計者か、戸締りをちゃんとしていなかった小屋の持ち主になるのだろう。
彼女たちの楽しい修学旅行は、まだまだ始まったばかりだ・・・