休憩所の聖域 2-A専用”女子トイレ" 作:jadenoshon
―――2時間前
「ん~~~~~~ 空気がおいしいね~~~!!」
カラフルなシートが床一面に花畑のように咲き誇り、その花弁の一つの上に座るななみが伸びをしながら元気いっぱいに声をあげた。
「そうかなぁ あんまりわからないなぁ」
その隣で、少し地味なブルーシートの上に腰を下ろした少女が答える。
一見地味なブルーシートに見えるが、ところどころに綺麗な花柄が描かれており、上品な趣を感じる。
なんか、授業で見た昔のヨーロッパの貴族のセンスみたい。
こういうときにも、ちょっと変わったセンスのものを持ってくるあたり、ゆきねちゃんらしい。
「もう、ゆきねちゃんは風情がないなぁ~ これだから都会っ子は困りますなぁ~」
「だって、ここ虫が多いんだもん・・・お弁当食べるのに集中できないよ。。。」
からかうように悪戯っぽく笑い、ゆきねの脇腹をつんつんと指先でふざけて突こうとするななみと、ななみのちょっかいと、時々あたりを飛び交う小さな虫からお弁当を守るように両手で大事そうに抱えたお弁当をおなかのあたりに置き、かがみこむゆきねがじゃれあっている。
「もう!こんな山奥なんだから虫くらいいるにきまってるでしょ?ねぇありさ? それに、早く食べないと出発の時間になっちゃうよ?」
「う、うん。そうだね。さ、みんな、急いで食べよ」
利発そうな声にいきなり同意を促されて、ちょっとびっくりしながら返答する。
声の主の少女、りんかはそういうと、お弁当の残りに箸を伸ばした。
はきはきと喋り、少し気が強そうな印象を受けるが、嫌みのない子だ。こういうしっかりしたところがある彼女が、学園で美化委員を務めているという事実を、私たちのことを何も知らない初めて見た人が耳にしても、納得するかのような性格と、綺麗で凛とした顔立ちをしている。
それに、スタイルもいいんだよね・・・ ちょっと悔しく感じてしまうけど、そんなことを感じさせないような気さくさも彼女は持っている。
「いただきます。 きゃあ!?虫⁉」
「あれ~ りんかも虫怖いんだ~ かわい~」
「べ、べつにこわいわけじゃなくて!お弁当に虫が入ったらいやでしょ!」
飛んできた虫にびっくりしたのか、突然いきなりすっとんきょうな声をあげたりんかを見て、ななみが水を得た魚のようにけらけらと笑いながらりんかをいじっている。
こういうところも、りんかのかわいいところだ。なんて彼女に伝えたら、きっと否定するだろうな。
私たちが何をしているかというと、お昼のこの時間は、山道の中腹にある開けた広場で各自持参したシートを地面に広げて、昼休憩をかねて、先生が配ったお弁当を食べる というプログラム通り、山道の中腹の道にバスを停車させ、ここの開けた広場でクラス全員でお弁当を食べているというわけだ。
まぁ、手作り弁当というわけではない。自分でお弁当でも持ってきたら、修学旅行の間に腐っちゃうからね。
多分どこかの弁当会社に注文した、プラスチックの容器に入ったコンビニ弁当のようなお弁当だ。
「でも、こういうのって小学校の遠足以来かも... なんか、懐かしい気分だよ」
「だよね~ やっぱり、自然の中で食べるお弁当っておいしいよね~」
「私も、たまにはお勉強から離れて自然の中にいくのもいいね...」
「もう!別にゆきねはいつも勉強してないでしょ?こないだのテスト、生物赤点ギリギリだったじゃん...
でも、たまにはこういうのも、悪くないかもね。あれ、ななみとゆきねはブロッコリー食べないの?」
「うん、実はあんま得意じゃなくて・・・」
「あたしブロッコリー嫌いなんだよね~」
「もう、しょうがないから食べてあげる。高校生にもなって好き嫌いはだめだよ?」
「あたしりんかがトマト食べられないの知ってるよ?」
「な、なんでそれを知ってるの!?誰から聞いたの!?」
「ひみつ~♪」
「りんかちゃんにも、嫌いな食べ物あるんだね」
最初はあまり楽しそうにはしていなかったゆきねも、ななみやりんかとおしゃべりしているうちに、だんだんと表情が明るくなってきているように見える。
お互い性格は結構ばらばらな私達だけど、実はクラスでも皆に周知されている仲良し4人グループだ。
私はこんな3人と一緒に過ごす学園生活を、結構気に入っていた。学校帰りには、お洒落な飲み物屋さんで、ジュースを買って飲み歩きしたり。
私は別に、そのジュースが好きなわけじゃないけど、みんなが飲んでるから飲んでいた。
そういう、みんなとの時間の共有が、私は好きだった。
「そうそう、ありさは嫌いな食べ物とかあるの~?」
ななみからの質問に、しばらく頭を悩ませる。いわれてみるとあまり思いつかない。あんまり嫌いなものってなかったかも?あ、そうだ。苦手だから家族もあまり出さないから思い出すのに時間がかかってしまったけど、あった。
「あんまり嫌いな食べ物はないけど、辛いのはちょっと苦手かな。」
「へえ~ ま、意外って感じはしないよ?」
しれっと失礼なことをいうりんか。
「今日のお弁当、大丈夫なの・・・」
なにやら心配そうにゆきねが私をのぞき込んでくる。
「大丈夫 って?」
「このお弁当のお肉、ちょっと辛かったから・・・」
ふと見ると、ゆきねのシートの上においてあるペットボトルの麦茶の量はすでに残り僅かになっていた。これはお弁当と一緒に先ほど全員に配布されたペットボトルの緑茶であり、500mlのこのペットボトルのお茶の中身があとすこしということは、ゆきねは結構な量のお茶をこの短時間で飲んだことになる。
そして、私は例のお肉にまだ手をつけていないことに気が付いた。
おいしそうなので最後にとっておこうと思ってたんだけど、どうやらこれが実はなかなかの強者だったらしい。
「大丈夫だよ!これくらい食べれるって!」
みんなの前で食べ物を残すという行為をしてしまうのは少し恥ずかしく、ついそう口走ってしまった。
(いったからにはひけないよね・・・)
おいしそうというイメージから一点、私にとっての試練となってしまったそれを、おそるおそる箸でつかみ上げ、意を決して口の中に入れてみた。
あれ、意外と大丈夫かも・・・
想像していたよりも全然辛くない。それに結構おいしい。
このまま一気に食べちゃおう!
そう思い、箸でのこりをつまみ上げ、口に入れる。
ゆきねの心配をよそに、案外普通に食べれてしまった。
「おお~ ありさ、意外とやるね」
りんかからの感嘆に少し自慢げになる。
私はなんでも食べれるんです。
こうして、心の中でえっへんと自慢げにふんぞり返るこの時の私は、かなりの大バカものだった。
「あれ・・・」
口内に違和感を感じ取ったのはそれから間もなくのことだった。突如として口の中に一点、刺すような熱い痛みの感触を認識すると、それは瞬く間に口内全体に広がり口の中全体を灼熱地獄へと変貌させた。
「辛い!辛いよこれ!お茶!お茶!」
「ありちゃん全然平気じゃないじゃん!」
急激に辛さを知覚し、思わず声が出てしまう私を、けらけらと他人事のように笑ってみているななみだったが、すぐに私のお茶を手に差し出してくれた。
実はこのお肉、後味が尾を引くタイプの辛さだったのだ。
そんなことはつゆ知らず、一気にほおばってしまったために辛さが一気に強烈な同時攻撃をしかけてきたのだ。
(ごくごく・・・ごくごく・・・)
「はぁ~ 辛かったあ~」
一気にペットボトルを未開の状況から半分近くまでがぶ飲みしてしまった。
「無理するからよ。大丈夫?」
一見つんけんした風にいうりんかだが、最後には大丈夫? と気遣いをしてくれることろにやさしさを感じる。
「少しはましになってきたかな・・・」
こう答えてはみるが、こうして冷たいお茶を喉の奥に流し込んでしまうと、口の中にお茶があった時は緩和されていた辛さが再びぶり返し、燃えるような痛みが再来した。
少しでも感じる辛みを軽減しようと、口を少し横に開いて冷たい自然の空気を取り込もうとする。
しかしそれはあくまでも一時しのぎにしかならず、すぐにまた辛さが口の中一帯を占拠する。
もともとこの料理は特段辛い味付けがなされているというわけではなかったのだが、辛いものがめっきりだめなありさにとっては致命的なレベルの辛さだったのだ。
(ごくごく・・・ごくごく・・・)
少しでもこの口内の粘膜と舌を焼き焦がすんじゃないかとも思える辛さをそうにかしたくて、残りの半分ほどのお茶を一気に飲み干してしまった。これでもう残りのお茶はもうなく、辛さを引かせる手段はなくなってしまった。
「ねえありさ。あっちに蛇口でもあるからお水飲んできたら?」
500mlほどのペットボトルをあっという間に空にし、それでも辛さにあえぎ続ける私を見て、りんかが少し呆れたように言う。
りんかが指をさした方を見ると、確かに小学校の時に運動場に設置されていたような、古めかしい水のみ機が武骨に一つ設置されているのを見つけた。
遠目から見てもお世辞にも綺麗といえるようなものではなかったが、私にとってそのおんぼろの水飲み機は、砂漠を乾いたまま歩き続けた旅人が見るオアシスのように感じられた。
私は、短く折った制服の赤色のスカートを山の風にはためかせながら、クラスのみんながお弁当を食べているところを抜けて、ぱたぱたとバスを止めた箇所の離れにあるその場に駆け寄ると蛇口を勢いよくひねった。
「うわあっ!」
ひねった刹那、想像を上回る勢いで高らかに噴出した水を見て、驚きの声がつい出てしまう。
慌てて少し蛇口をひねる力を弱めると、手ごろな高さにまでちょうどよく噴出する間欠泉のようなその水に口を近づけて、がむしゃらに口に含んだ。
この時の水は、普段のむジュースや炭酸飲料など比較にならないほど別格においしいと感じられた。
(救いの水だ・・・)
口の中でどんどんと辛さが引いていくのを感じる。
どれくらい飲み続けていただろうか。ようやく口内に広がる刺激が許容できるまでのレベルに戻ると、一気に安心感が襲ってきた。
「強がってバカなことするんじゃなかったな・・・ちょっと恥ずかしい・・・」
先ほどまでの必死な自分の様子が思い浮かんできて、恥ずかしさを感じてしまう。
(みんなのところにもどらないと・・・)
歩き出した私は、すぐに自分の体の重さに気が付いた。
(あれ、なんかおなかがタプタプいってる・・・ 飲みすぎちゃったかな・・・
出発前におトイレ行っておこうっと。)
先ほどまでと違い、辛さが引いたことで余裕を取り戻したからか、ななみたちの元へ戻ろうとすると、ずいぶんと多くの綺麗な景色が目に入る。
涼しげな秋の始まりの風に吹かれ、緑豊かな小道を歩いて帰っていると、なにやら楽しい気分になってきた。ななみたちのもとへと帰る足取りも自然と軽くなる。
「おかえり~」
「辛いの治った・・・?」
「無理するからだよ。気をつけなね~?」
三者三様のお出迎えを受け、私は自分のシートのところへと戻った。」
みんなほとんど食べ終わっており、ななみとりんかはすでに食べ終わっていた。
ゆきねも残りはあとちょっとで、もう間もなく食べ終わりそうに見えた。
私も、3人を待たせてしまわないようにと、残り少ないごはんを急いで食べると、りんかから声がかかった。
「食べ終わった容器はここに重ねて」
「さっすが美化委員、そういうことしっかりしてる~」
「ほら、ななみも早くしてね。」
頭をあげて楽し気ないつもの会話が聞こえる方を見ると、りんかはみんなに配布された弁当が入っていたプラスチックの空の容器を開け広げ、そこに重ねるようにななみとゆきねの弁当の残りの蓋をまとめて、かたづけているところだった。
「ねえねえ!まだちょっと時間あるし、奥の方で景色でも見ていかない?」
ななみがわくわくした様子で声をかけてきた。このままただ時間まで待っていたところで、特別することもないし、せっかくなのでついていくことにした。
「うおー! さぶっ!」
ななみと共に先ほどお弁当を食べていた場所から離れて、山道を少し歩いていると、突如冷たい風が吹きつけて、とっさにななみが両手をクロスさせるように組んでぶるっと震えていた。
いつも学校や町で感じるものとは違う、冷たくて清涼感のある風が、私たちが結構高いところまでバスでやってきたということを実感させる。
ななみはといえば、おしゃれで普段からスカートを短く折っているだけに、余計に寒く感じたのだろう。それに、ななみは夏服で広場に出ていたことも、寒そうなのに拍車を掛けていた。
赤いチェックの、結構きわどい長さのスカートの足から覗く綺麗な白い足が少し震えているのがすぐに見て取れた。
ここからさらに2分ほど歩き、山道に出現した坂のようなところを上ると、途端に目の前に大きな柵で囲われた広めのスペースに出た。
「うわ~ 超いい景色~ 自然 って感じだね~!
ひょっとして、雲より高いかも!?」
その柵から見える雄大な景色、山々を一目で捉えることのできる空間に、思わず息をのむ。
ななみも、この景色を前にしてテンションマックスになっている。
「みんな~ ここで写真でも撮ってあげようか~」
そんな声と共に、まりん先生と、ゆきねとりんかがやってきた。
「お願い~ かわいくとってね~♪」
「はい、じゃあ並んで~」
「ちょっと恥ずかしいよ・・・」
「いいじゃんいいじゃん!せっかくなんだし!」
「思い出として、一枚とっておくのも悪くないんじゃない?」
恥ずかしがるゆきねをななみとりんかが誘い、私とななみ、ゆきね、りんかの四人で、雄大な大自然をバックに、思い思いのポーズを取る。
ゆきねの透き通るような白く綺麗な顔がほんのりと赤く染まり、妖精みたいだ。
「はい、チーズ!」
パシャッ!
「ねえねえ先生、かわいくとれた~?」
「みんなばっちりかわいくとれてるよ~! みんなすっごくかわいいから、最高の一枚よ~」
写真を見ようとするななみと、ちょっと頬を赤らめているものの、まんざらでもなさそうなゆきねが可愛らしい。
私も先生に写真を見せてもらう。
満面の笑顔でピースをするななみ、ちょっと恥ずかしそうに小さく片手でピースをするゆきね、麗しい山の景色に似合っており、凛としたたたずまいのりんか。
みんなそれぞれ違うけど、みんなかなりの美少女だ。
少しうらやましいな なんて思ってしまう。
「ありさちゃん、かわいい・・・」
ゆきねがそんなことを口に出す。
さすがに3人には劣ると思うけど、褒められて心なしか、少し気分が良くなる。
「にしてもここ、寒いね~ あたしちょっとトイレに行きたくなっちゃった。」
ななみがそんなことを言うと、尿意は瞬く間にみんなに伝播し、口々に、あたしも、私も なんていう。
「じゃあ、出発前にみんなでトイレにいきましょうか!」
まりん先生と共に、元来た道を戻る。
途中すれ違う生徒たちに、そろそろ戻りますよ~なんて先生が声をかけている。
さっきまでお弁当を食べていた場所に戻ると、少しはなれた公衆トイレの方に向かう。
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「うわっ きったね~」
「いくらなんでも汚すぎるだろ」
トイレの前に行くと、なにやら男子たちが騒いでいた。
私もお茶をたくさん飲んじゃったし、ここで済ませておきたいな。
などと思っている矢先にこれである。
男子たちには早くどっかに行ってもらいたい。
ここにあるのは小さな個室だけで、見たところ男女共用のトイレである。
「はい、そろそろ出発だから、バスに戻っててね~」
デリカシーがないなあ・・・なんて男子たちに思っていると、まりん先生がそういって男子たちをバスに戻してくれる。ナイス。
「じゃあ、お先にね。」
みんなにそういうと、扉を開けて、トイレに足を踏み入れ・・・
(うっ・・・!? なにこれ・・・!?)
ものすごく、汚い。何やら虫が飛び交っているし、においも尋常じゃない。壁も変色していて、紙すらない。
すさまじい生理的嫌悪感がぞわっと湧き上がり、さっきまで感じていた尿意など一瞬でどこかへひっこんでしまった。
こんな場所でおしっこなんてできない。
(最悪だ・・・)
すっかり用を足すのをあきらめて、私は個室を後にした。
こんなところでするくらいなら、次の休憩所まで我慢しよう・・・
それはみんな同じだったのだろう。
ななみもりんかも個室に入るとすぐにかわいい顔を不快そうに歪ませてでてきた。
「ムリムリ。次の休憩まで我慢するわ」
「ちょっとこれは、やめておくね。」
次に入ったゆきねは、しばらく個室から出てこなかった。
「うん... 私ちょっと近いから...」
この汚い個室から出てきたゆきねは、そんなことを言っていた。
その後もクラスメイト達がぞろぞろとここにやってきたけど、みんな入るなり即飛び出してきた。
結局、ここの汚いトイレを使用したのは、ゆきねだけみたい。
「次まで我慢する~」
「私も~ たしか次の休憩所までは1時間もないって先生言ってたよ!」
「ちょっときついけど、それなら我慢できそう!」
みんながトイレの使用をあきらめる中、私はする と言い出すのもなかなか恥ずかしいものだろう。
結局私も、下腹部に違和感を抱えたままバスに乗り込むことになった。
まぁ、きっとこれくらいならまだまだ我慢できるだろう...