休憩所の聖域 2-A専用”女子トイレ" 作:jadenoshon
(いいことってなんだろう?)
ちょっと天然気味で不思議なところのあるゆきねの発言だ。
いつもなら本気で取り合うこともないだろう。
ただ、今この状況ではそれは例外だった。
なぜかって、こんな思索でも巡らせていないと我慢が出来なさそうだからだ。
とはいえ、ゆきねのことだ。考えてみてもよくんかりっこない。
(あんま平気な素振りでもしなければよかった)
そんなことを考える。
私は今、トイレの順番待ちの列に並んでいる。
並んでるといっても、私の後ろには誰もいないんだけど。
要するに最後尾。1番最後。
我慢の限界がだいぶ近づいていたのにも関わらず、全力で平気そうな素振りを見せちゃって、自分からこの貧乏くじを引いてしまったのだ。
「我慢できなさそうな子から先にね‼︎ 」
なんてまりん先生が言うから、お昼にあんなにお茶をがぶ飲みしてたありさとか、思いっきり足ぷるぷるさせて必死そうにしてたありさやななみが最初の方に選ばれた。
そうはいっても、ここはトイレじゃないんだけどね。
頭の中でそんなツッコミを入れる。
初めにまりん先生が、やむなくここをトイレにしようと言い出した時、正直本気で言ってるのかと思った。
だって、普通びっくりするでしょ。
ここ、明らかに物置小屋かなんかだし。
だいぶ古くなっちゃってるけどね。
普段は学園の掃除に力を入れており、いわゆる優等生と思われている自分が、こんな人の小屋を汚すための列に並んでいるなんてね。
と思う。
学園で所属してる美化委員だって、みんなお似合いだって言う。
ななみなんか、
「りんかが美化委員って、めっちゃ似合ってるよ〜」
なんて言うしね。
まぁ、それはある程度は間違ってはない。
鞄の中は常に綺麗に整理してあるし、学校の掃除だってきちんと真面目にやってる。
じゃあ綺麗好きなの?って言われると、ちょっと違う。
自分の周りを綺麗に保っていたいだけだ。
鞄だって教室だって、普段自分が使うものだから、綺麗にしておけば気持ちよく使える。
だから、お店のトイレが汚い のがすごく嫌、
とかそういうわけじゃないんだよね。
まぁ、流石にあの広場のトイレは論外だったけどね。
あくまで自分の周りだけ。
そういや、これを言っても
「そういうのを綺麗好きっていうんだよ。私なんて部屋がすぐ汚くなっちゃって、そうなっても全然片付けられないんだよ...」
ってゆきねはいってたな。
ゆきねは片付けとか苦手そうだ。
まぁ、案外綺麗好きってそんなもんなのかも?
って、私も前押さえていいかな?
いやいや、流石にみっともないでしょ。
本当は私もめちゃくちゃトイレを我慢してたんだけど、
私我慢出来ないから最初にお願い!なんて図々しいから、私はまだまだ全然平気だけど、私以外のみんなが我慢できなくてどうしてもここをトイレにしたいっていうなら、仕方ないし一緒に並ぶよ
っていう体にして、つらそうな前の子に、前の子にと、どんどん先を譲ってあげていたら1番順番が後ろになってしまった。
もちろんこんな体で並んだので、並んでいる途中で思いっきり前を押さえたり、もじもじしたりするような真似をしたら強がりがバレてしまう。
変な意地張ってしまったなぁと思う。
男子がいなくなったら、すぐに隠す気もなく足をモジモジさせ始めたななみが少し羨ましい。
ああいう自分に素直なところがななみのいいところだ。
そんなこんなで、後残り数人を前にして我慢がだいぶ限界を迎えてきた。
抑えて抑えて、そのうえ変な意地まで張ってしまったので、これまでの人生の中でも3本の指に入るくらい、おしっこを我慢していると思う。
私の無意味な強がりにより訪れてしまった苦境を耐え忍ぶことさらに5分ほど。
2つ前の子が、その前の子が出てくるなりわき目も降らずにティッシュの束を握りしめて小屋の中に駆け込んでいった。
「はい、まつりちゃん、ティッシュ。」
「ありがとうございます」
こうして順番がひとつ進み、先頭になったまつりちゃんに、まりん先生がティッシュを渡している。
「あっ!」
突然まりん先生が慌てたような可愛い声を出すと、突然自分に謝ってきた。
「ごめんりんちゃん!ティッシュがもうこれでなくなっちゃった! どうしよう...」
困ったように頬に手を乗せるまりん先生の仕草がいちいち愛らしい。
「大丈夫?少ないけど、私の半分あげるよ!」
あおいちゃんが、渡されたティッシュの束から1枚を取り出し、私にくれようとする。
「大丈夫ですよ。ちゃんとティッシュ持ってきたので。」
私はスカートのポケットからポケットティッシュを得意げに取り出す。
「さっすがりんちゃん!こういう時にもしっかりしてるのね!」
「すごい!」
まりん先生とまつりちゃんが口々に褒めてくれる。
特にまりん先生はなんかやけに嬉しそうだ。
本当は、こういう休憩所にあるような類のトイレは大抵の場合綺麗じゃないと思うし、もし紙がなかったら嫌だという理由で念のために持ってきたのだが、そもそもこの休憩所にはトイレすらなく、今こうして奇妙な状況で私を助けてくれているというわけだ。
そなえあればうれいなし ってやつだね。
と1人合点していると、小屋から”トイレ”の利用者が出てきて、まつりちゃんがその中に入っていった。
「りんちゃん、結構我慢限界でしょ?」
まつりちゃんがトイレに入り、この”トイレ”の
前にできていた長蛇の列もやがて自分だけになり、横にいる見張り役兼ティッシュを配る係?のまりん先生と2人きりになっていた。
そんな状況でいきなり、「限界でしょ?」と話しかけてくる先生に戸惑う。
まりん先生は生徒との距離がとても近く、おまけにとても可愛らしい顔立ちをしており、クラスメイトの女の子たちからも友達のように慕われている。
にしても、結構フランクだな。なんてことを思う。
「いや、まだ大丈夫ですよ。」
「うそ〜 足めっちゃ震えてるじゃん〜」
強がってみたものの、先生にあっさりと見破られてしまった。
それにしても、いつのまに自分が足を震えさせていたなんてびっくりする。
(ななみ足めっちゃ震えてるじゃん)
なんて思って可笑しく思っていた私も、どうやら結構ヤバかったらしく、おんなじように体に出ちゃっていたらしい。
そう思うと結構恥ずかしくない?
「もう、りんちゃん、みんなに順番譲ってあげるのは偉いけど、強がらなくても大丈夫よ?」
ありゃ、全部ばれちゃってるよ。
先生に悪戯っぽく微笑まれてしまい、恥ずかしさが一気に込み上げて顔が赤くなり、手に持っていたポケットティッシュを握る手が強くなってしまい、くしゃっと音を立てる。
「そういう先生は、大丈夫なんですか?」
なんか自分だけ我慢してる様子がバレちゃってるのは気に入らない。ちょっとやり返してやろうと思って、そんなことを聞いてみる。
「実はね... 私もめちゃくちゃヤバくて... ねぇ、りんちゃんが終わったら、私にティッシュ貸して...」
先生は恥ずかしそうに笑うと、耳元に口を近づけて、小声でいった。
なんだ、先生も我慢してるのか。
まぁ、そりゃあそうだよね。先生だって昼の広場でトイレに行っていた記憶がないし、平気そうにしてるけど我慢結構キツイよな...
そんなことを考える。
というか、さっき私がポケットティッシュを見せた時やけに嬉しそうにしてたのって、自分も後でしたかったからか...
そんなことを思うと、先生がなお可愛らしく見えてくる。
「わかりました」
「ありがとう〜!先生もここでしたのは、秘密だからね」
小さくガッツポーズをする先生。
そんな会話をしていると、唐突に第三者の声が混ざってくる。
「りんかちゃん、ごめん、お待たせ!」
まつりちゃんだ。
そういうや否や、ぱたぱたとみんなが待っている方向へと走っていった。
ついに私の番だ。
ついにおしっこできる!
ポケットティッシュを握り、そわそわと震えながら小屋の扉を開ける。
じっくりと小屋の中を眺めている時間はない。
限界が近い...!
扉を閉めると、ついに周りの目がなくなり、遠慮なくスカートを押さえて足をばたばたさせる。
みんなの前では絶対にやらない、みっともなくてはしたない行為。
(もう、ここでいいや...!!!!)
りんかが、その下腹部を圧迫し痛めつける違和感を解き放つ場所は、小屋の隅の機材置き場に決まったようだ。
急いで小屋の隅まですっ飛んでいくと、スカートの中の両脇に手を入れて、パンツを一気に下ろすと、スカートを急いでたくし上げて、おしっこがかからないように早業で捲る。
パンツを膝まで下ろし、しゃがみこんだその瞬間、
チーーーーーーーーーーーーーーーーーーージュイーーーーーチーーーーシュイーーーーーシュイシュイーーージジチーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!
ようやく訪れた、我慢地獄からの解放。
綺麗好きなりんからしく、しっかりとムダ毛の処理されたつるつるの秘所から噴き出す黄色い液体が、機材たちを汚く染め上げる。
「はぁ〜〜〜〜!てんごく〜〜〜!!」
この小屋に誰もいないのをいいことに、普段みんなの前では絶対に出さないようなとろんとした声を出す。
本当に気分は天国だ。このおしっこが機材に叩きつけられて奏でる変化に富んだ音が、天国での祝福のbgmのように彼女には聞こえていた。
一際勢いが良く長くまっすぐに飛ぶおしっこは、目の前にあるがらくたの山へと降り注ぐ。
みるみるうちに錆びついたガラクタが濡れて色濃く変色を遂げてゆく。
もう尿意の限界が近かった彼女は、どこで放尿するかを決めている余裕はなかった。
しかし、無意識のうちに、この場所ならしてもいいと認識していたのだ。
自分の部屋や教室を綺麗にしているりんかは、大切なものはしっかりと整理しておいておく。そんなりんかが、床の隅に乱雑に置かれている機材を、こんな隅っこに雑に置かれているんなら、ゴミに違いない。
綺麗な場所にわざわざするより、ゴミにかけちゃうのが1番衛生面ではマシ と無意識的に認識してしまったのも無理はないだろう。
最も、この順番にもなるとほとんどの場所ではすでに放尿が行われ、どこがマシというのも最早無くなっていたのだが。
もともと綺麗なトイレならしっかり綺麗に使う気になるが、汚いトイレはそういう気持ちを喚起しないのと同じだ。
まぁ、元々は綺麗だったのだが。
パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ...!!
さらに勢いが強まった彼女のおしっこは、先ほどよりもより長い軌道を描いて、何やら自転車のホイールのようなものの縁に直線上に命中する勢いの凄まじいりんかのおしっこがぶつかり、軽快な音を奏でている。
実はこの機材たちに混じって、清掃作業に使われるそこそこ高価な水濡れ厳禁な機械が入っていたのだが、誰が彼女を責めることができるだろうか。
別に機械に詳しいわけでもないりんかにとってはそれもごみに見えてしまっていたのだ。
それに、もし仮におしっこのせいで壊れたとしても、貴重な機械を機材たちと共に乱雑に床に置いておく方が悪いというものだ。ちゃんと机の上とかに置いておけば、そうなることはなかったに違いない。
いや、そうしてちゃんと机の上に置いたらいたでななみあたりにいたずらでおしっこを引っかけられて、どのみち無事では済まないのだが。
シュイッ、シュイッ、シュイ...
(やっと終わった...)
長きに渡る放尿を終え、ようやく周りを確認する余裕を取り戻すと、ポケットティッシュからティッシュを数枚取り出し、それを丁寧に折り畳むと、濡れそぼった秘所にあてがいしっかりと後始末をする。
後始末を終えて立ち上がるとパンツをあげて、スカートを整えて手で身だしなみをととのえる。
手に持っていたティッシュのことを思い出すと、自分が先ほどまで放尿していた、積み上げられた機材の中に投げ捨てる。
ここって誰かが使ってるかもしれないけど、私にとってはもう2度と来ない場所だし、別にいいや!
他人の私有地をトイレ代わりにするだけでなく、機材に散々引っ掛けたのちに後始末に使用したティッシュのポイ捨て。
自分の身だしなみはしっかりとしつつも、自分に関係のない場所は汚したまんま。
美化委員であるりんかにあるまじき極悪な行為だが、これが優等生たる彼女の本音だった。
(これをみても、まだみんなは私のことしっかりものっていうのかな)
そんなことを考えてみる。
先ほどまでは我慢をしていて見ている余裕がなかったが、小屋の中はそれはもうひどい有り様だった。
床はもうどこもかしこも湿っており、足の踏み場がないほどに散乱し、一部はもう床にはりついてしまっているティッシュ。
机の上も、なぜだかびしょびしょに濡れており、その上の紙や本も、この床に散らばるティッシュと大差ない。
さらには、机の下のカーペットも水分を吸って変色している。
誰かがわざとかけたんだろうか。 悪い子だ。
床には、ティッシュだけにとどまらず、なぜかティッシュを詰め込まれた植木鉢まで置いてあり、その周辺には土とおしっこが混ざったような液体が流れ出し、鼻をむっとさせるような匂いを漂わせていた。
そういや、まりん先生はティッシュが無くなっちゃったって言ってた気がする。
確か、バスから持ってきた時はまだ新品だったと思うし、ティッシュの箱丸々ひとつ分のティッシュが2-Aのみんなに消費され、いまこの場に黄色みを帯びて散乱しているらしい。
それにしても、みんな随分と自分勝手だ。
人の土地でじゃーじゃーやって、自分だけ気持ち良くなったあげく、人様の土地を汚しておいてゴミまで持ち帰らないらしい。
まぁ、人のことは言えないか。
1人くらいはちゃんと持ち帰った人もいるのかな。
ありさやゆきね、ななみはどうだろうか。
ありさはちゃんと持って帰ってそうだな。
ゆきねは、どうだろう。
持って帰ってるような気もするし、持って帰ってないような気もする。
ななみは... 絶対その辺にポイってやってる気がする。
というか、まりん先生はどうするんだろう。
下世話なことだが、ちょっと気になってしまう。
そもそも先生は自分の言葉ひとつでトイレにしたこの場所が、こんなひどい有様になっていることを知っているのだろうか。
ひょっとしたら、ちゃんとかたづけなさい!って後で怒るかもしれない。
いや、どうなんだろう。ゆるい先生のことだし、怒らない気もする。
とにかく、学校のトイレでこんな使い方をされたら先生も、もちろん美化委員の私だって怒る。
でも、この”トイレ”は、今後2度と一切私たち2-Aにとって関わりのない場所となる。
だから、別に汚くてもいいんじゃないかな。
ここに持ち主がいたとしても、自分たちが困らないなら、別にそれでいいよね。
優等生りんかの、どこまでも自分勝手な思考。
あまりにもこの場所が汚く使われすぎているために今更どこでしようが誰も自分のせいだとわからない という美化委員失格の考えを浮かべたりんかは、いつもの優等生モードへと戻ると、扉を後にした。
最早完全にトイレ化してしまったその穢れた”トイレ”から、むわっ と鼻をつくアンモニア臭が漂った...