吾輩は猫である。
名前はもうないが、毛が白いので、飼い主殿からは「シロ」と呼ばれておる。
飼い主殿は「温泉旅館」と申す館の女将である。
これは、その館で吾輩が会った、奇妙な夫婦の話である。
◆◆◆
その夫婦、女房の方の名は、「ラ・フォリア」と言うらしい。
そして亭主の方の名前は、「あかつき こじょう」と言った。
二人とも毛の色が他の人間とは違ったので、案外すぐに覚えることができた。
ご亭主は色素の薄い……そう、狼の毛のような髪をした、どこか気怠そうな男だった。
女房殿は銀色の髪をした若い女で、なんというか、
人間の娯楽に月の女神というのが出てくるが、あの姿に似合わぬ存在感はそれに似て、普通に育った人間でないと感じさせるものがあった。
もしや、何らかの貴い立場にある人間だったのかもしれん。
吾輩は猫であるからよく分らんが、女将が言うには「見たこともないくらいの美人さん」であったらしい。
乳も尻も中々見ないほど張っておったから、ああいうのが今時の人間には
「お客様、当館は猫がおりますので、時々お部屋の近くでも見かけるかもしれませんが、どうぞご容赦ください」
「構いませんよ。……あら、女将、この猫の尻尾は……」
「? 尻尾がどうかいたしましたか?」
それに、眼力も中々のものであった。
「なんだよ、猫がどうしたんだ?」
「……いえ、良いのです。ふふ。猫に見られながらというのも、スリリングで興味深い体験かも知れませんね♪」
「???」
ご亭主は、そうでも無かったかな。
◆◆◆
まあとにかく、そんな並ではない上流の雰囲気が漂っておったから、この館で風呂にでもつかって、穏やかに休息をとるのだろうと思っておったのだが……ところがな。
その時、二人は人間がいうところの「新婚さん」という奴だったらしく、館に着いたその日、まだ日も高いうちから、部屋へ籠もりっきりで交尾に励んでおった。
「ああ、古城……。あ、あ、あ、あ、入って……ん♡ あああ────っ♡! 古城────っ♡!」
「っ、ば、馬鹿、でかい声で名前呼ぶなって……!」
吾輩も、屋根の上で昼寝しておったところを女房殿の叫び声で叩き起こされたから、まあ迷惑な話であった。
「だって、こんなにも深く繋がってるのですから……♡ 嬉しくって、つい……♡」
「まったく、もう……っ! ほら、旅行の間はなんて呼ぶのか、事前に決めただろ」
「アッ、アッ、もっ、申し訳ありませんっ、だ、旦那様ぁ、……で、でも、もうイキますからぁ……ッ! いく、いっく……っ♡」
……。
あれほど激しい声を立てて交わっていては、誰ぞが聞きつけて覗きに来るのではないかと思ったのだが、そんなこともなかったようだ。
もっとも、二人が寝ている部屋の窓は少しばかり高い処にあって、しかも雨戸まで閉めきっていたものだから、外から覗こうにも無理があったかもしれぬ。
「くっ、俺もいくぞ……ああ、出る! 精液受け止めろ!」
「あ、ああ、あ、出してくださぁい、私の中いっぱいにしてくださいませぇ……♡」
女将が呆れたように笑っておったのは覚えておる。
それにしても驚いたのは、あの二人の体力であった。
日も高いうちから始めたというのに、一晩中ずっとまぐわい続けておったのである。
いくら若いといっても信じられないことだ。
女房殿の方は、日が落ちる頃には「もうお許し下さい」だの「旦那様を挑発して申し訳ありませんでした」だのと叫んでおったが、「あんまり言うこと聞かないなら、縛って動けなくするぞ」などと脅されて、ご亭主が満足するまで延々と責め立てられていたようだ。
「ほら、どうだ!? 俺のちんぽに敬意を払えるか!? 教えた通り言ってみろ!」
「は、はい、あ、あひぃ……ッ!」
「ほら、言えよ!」
「は、はい! 旦那様の、お、おちんぽ様、に、あ、あへぁっ♡! 敬意、を、払いますっ♡! 」
「そうだ! 俺のちんぽに敬意を払う、お前は何だ!?」
「は、はい! わたくしは、だんなさまのおちんぽに、めいれいされる、メスいぬ、ですっ♡! ご、ごめんなさいっ♡! もう、おゆるしくださいぃっ♡! あ、あっ、いく、いっちゃいますぅっ♡!」
初め、女房殿の声は透き通った美声であったが、やがて濁音だらけになり、最後は掠れてしまっていた。
最後には、おウッ、おウッ、と犬の鳴き声のようになっていたよ。
最も、朝になって、さすがに精魂使い果たしているであろうと思っていたら、なんと女房殿が……こういう例えで人間に伝わるかな?
いや、今思い出しても信じられないが……まったく女房殿、大したものであった。
人間の女というのは、恐ろしい生き物である。
◆◆◆
しかし、翌日がまた凄かった。
食事から戻ってくると、朝っぱらから、二人で仲良く部屋付きの露天風呂に入っておった。
「ふふ。そんな風に見つめられると、なんだか照れてしまいますね」
「だってよー……。こんな綺麗な景色の中で、ラ・フォリアと二人で露天風呂なんてさ。なんかこう、すげえ贅沢って感じするよな」
「そうですね。それに、ここのお湯はとても肌触りがよくて、気持ちがいいです。お背中をお流ししますから、少し待っていてくださいね」
最初は普通に入っていたが、いくらもしない内に「さらに仲良く」しておったよ。
いつのまにやら、ご亭主も回復したようであった。
朝飯に一体何を食ったのやら。……何やら血の匂いがしたようにも思ったが。
「あむっ。すてき……コレ、旦那様のお大事を、早くいただきたく……」
「おおっ……いいぞスケベ女、お前は本当にエロいなあ……」
「はい、旦那様に喜んで頂けるように頑張ります。あちらで猫も見ておりますから……♡」
「いや猫はどうでもいいだろ。ほら後ろ向けよ」
その辺りから、二人の営みには遠慮がなくなった。お互いの突き出たところを、しゃぶる挟む叩きつけると、やりたい放題であったな。
「あー、あー、あー……」と痙攣して喘ぎ続ける妻を見て、「大丈夫か?」と心配する夫など初めて見たぞ。
「あー、な、なか、お腹、いっぱいです……♡」
部屋に戻ってきた後も、まだまだ元気いっぱいの様子で、今度は布団の中でいちゃついておったようだ。
「旦那様♡」
「フォリりん♡」
と、これはこれで実に幸せそうな様子だったが、やがて昼近くになり、ようやく起き出してきた。
昼食は、別室で二人きりで摂ったようだが、いったいどんなことを話していたのだろうか。
何やら夫婦の秘密めいた会話をしているようであったが、残念なことに、吾輩の耳では言葉を聞き取ることができなかった。
……むう。
結局、この日の夕方になってようやく、二人揃って外出して行った。
どこかと言えば、すぐ近くにある滝を見に行くのだという。
「あそこはお月見もできて、良い場所ですよ」と女将が教えておった。
なんでも、有名な「観光スポット」なのだそうだ。
その時、二人は旅館で売っている地酒を買っていた。
これは土産用ではなく、自分たちで飲むためのものであるらしい。
「たまにはこういうものも悪くないでしょう?」
「そっか……じゃあ、飲んだくれてもいいわけだよな?」
「ええ、もちろんです。愛しの旦那様にお酌して差し上げますわ」
「ふーん。それじゃあ、せっかくのハネムーンなんだから、ちょっとハメを外させてもらうか」
「では、今日は特別に。ふふっ、旦那様のお膝の上で、一緒に酔わせていただけます?」
女房殿は、メスの猫がするように、ご亭主に体を擦り付けてご満悦の様子であった。
「おい、……変なトコ触んじゃねえよ」
「あら、どうしてですの? ここは、花嫁の特等席ではありませんの」
亭主殿はしばらく周囲の目を気にしておったようだが、やがて諦めたのか、女房殿の腰に手を回した。
「ったく、しょうがねェなぁ」
「ふふ、いい子ですね。わたくしの旦那様は、本当に可愛い人……」
「はいはい、どっちが年上かわかんねーな」
「わたくしは、いつでも大人ですよ」
「そうかよ。……ところで、あー、フォリりん。お前、その格好寒くないか?」
亭主殿、何やら大きな鞄を下げて、女房殿を纏わりつかせたまま出かけていったよ。
◆◆◆
それで、日が落ちて、月が昇ってからな、猫の集会があるというので、吾輩は近くの河原に出向くことにした。
これでも地域の顔役である。
それに、あそこの河原には温泉が湧いていて、通な猫には人気があるのよ。
で、まあ、帰り道に吾輩が、件の滝近くを通りかかった時だった。
あの二人はどういう人間であろうか、今は夫婦水入らずのようだが普段はどんな生活をしているのだろうかと、そんなことを考えておったか。
ふと滝壺を見ると、何か白いものが見えた。
「ダメですっ、あ、あ、あ♡ 古城、ダメですっ♡!」
なんと、裸の女であった。銀髪で、乳と尻がしっかりと張っていて……うむ、あの女房殿であった。
岩の上でご亭主に馬乗りになって、咥えこんでおったようだ。
長い髪を振り乱して、ぱんぱんぱんぱんと、それはもう暴れ馬のように盛っておった。
「古城、ああっ、古城っ♡!」
「ラ・フォリア! もっとケツ振れ! おら、おらっ!」
「はいぃっ♡! 振ります、もっとっ、もっと激しくぅっ♡!」
確かに吾輩は人の世には疎い。
故に知らぬことも多々ある。
だが、普通、あんな誰が来るかもわからぬ場所で、あんな破廉恥極まりないことをするものではないと思うぞ?
まったく、人間の考えることは理解できぬ。
……なに? 人払いの結界?
なるほど、昔聞いたことはあるが。
今思い出せば火を焚いて、敷物も敷いてあったし、十分に準備した上でのことだったのだな。
「おっしゃあ! 行くぞぉ! 出したら妊娠しろよ! お前のデカケツから世継ぎ産ませるからな!」
「 あ──っ♡! 産みます! 産みますから! イカせて! いっく! いっくう♡!」
女房殿は身体を弓なりにして、大きく震えていた。
どうやら果ててしまったらしい。
ご亭主は荒い息を吐いて、満足げに笑っていた。
しばらくすると、今度はご亭主が上になって、また動き始めた。
女房殿はヒルか何かのようにご亭主に吸い付いて、離れない。
「んむ……♡ こんな場所で世継ぎ作るだなんて……♡ へむ……♡ 頭がおかしくなってしまいますわ……♡」
「いいじゃねえか。気持ちいいだろ?」
「はい……♡ 古城……♡」
「ほら、ラ・フォリア。ここに擦り付けるの好きだろ?」
「あ、あ、あ、あ……ん……っ♡ はい……好き……っ……♡ きもちい……っ……んっ……んっ……♡」
「いっぱいやろうぜ。何回でもやってやるよ。ほら、繋がってるところ、ちゃんと見てくれ」
「あ、ありがとうございます、あなた……っ……はぁ……おちんぽ逞しいですっ……きもちい……っ、し、幸せ、しあわ、せぇ……♡!」
ご亭主は、しばらくはそのまま、じっくりと責め立てておったが、やがて我慢できなくなったようで、繋がったまま女房殿をひょいと抱き上げてしまった。
「しっかり捕まってろよ。そうすりゃ、3回目もお前の一番奥に射精してやるからな……っ」
「はい……はい、お願いいたします、わたくしの旦那様……」
ご亭主の突き上げに合わせて、女房殿はたちまち限界に達した。
「あ あ あ あ あ あ あ あ♡! いっくっ! いくいくいくいくぅう──────っ!!!!!」
びくん、と背筋を仰け反らせて女房殿が絶頂する。
ご亭主は、それを気にせず、そのまま腰を振り続ける。
女房殿は、もう声にならない声を上げ続けて、何度も痙攣しているようだった。
ご亭主が、ようやく満足したのか、動きを止めて、ずるりと引き抜いた。
どろっとした白い液体が、ぽっかり開いた穴から溢れてくる。
敷物に降ろされた女房殿は、しばらく放心していたが、やがてゆっくりと身を起こした。
そのまま、ご亭主の逸物にしゃぶりつく。
「ああ……ぺちゃ、んむ♡ んむぐ……♡」
終わったのが分からないのか、何も入っていない尻をへこ、へこと振りながら、べっとりとした自分の体液を舐めとっていた。
ご亭主は、それを見ながら、まだ余韻に浸っている様子の女房殿の頭を撫でていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ、ふぅ、ふぅ……っ♡!」
「よく頑張ったなラ・フォリア。ほら、一回暖まろうぜ」
その内、ご亭主が女房殿を水から上げて、火にあたらせた。
そして、布を湯に浸して、女房殿の身体を拭き始めた。
「んっ……」
「痛いか?」
「いえ、大丈夫です。古城の手つきは優しくて気持ちいいですから」
「そっか、ならよかった」
「はい。……すごく、暖かいです……」
その内、二人は一枚の毛布に包まって、鍋にかけてあった瓶から湯呑に注いで飲み始めた。
ぷんと匂いがしたから、出しなに買った地酒だったのだろう。
「はい、旦那様。熱いでしょうから、気をつけて下さいませ」
「おう。んぐっ……はぁー………………」
「ふふ、美味しいですか? 旦那様」
「ああ。酒がいいのか、このシチュエーションがいいのか分からないけど、すげえうまいよ」
「それは良かった。では、わたくしも……んっ……」
女房殿は酒をあおると、そのままご亭主に口移しを始めた。
「んっ……ごくっ……はぁー……っ、んぐっ、んぐっ……っ、ふうー……」
「んちゅ、れろ、れろれろ……っ、んっ、……っ♡!」
◆◆◆
それで二人は口移しで酒を干した後、いよいよ見境が無くなって……。
なに? 聞き疲れた?
まだまだ話のタネはあるが……。
ご夫婦、何しろひと月も宿におったからな。
「はい、聞いていたのでした。宿を出たその足で、産婦人科に行きました、と」
なんだ、やはり知り合いだったのか。
いや、むしろ血縁だったのかな、その髪の色は。
「はい、お兄さんと、えーと、お姉さんのような二人でした」
なる程、では濡れ場の話など聞きたくは──―
「いえ!できればお話をもっと……参考にしたいので」
……うむ、まあ、それなら良いのだが。
では、女将から茶菓子をもらってこようか。
「……あの、シロさん。変なことをお聞きしてよろしいでしょうか」
ん?
「ご親戚に「ネコマたん」っていらっしゃいませんか?」
なに? ネコマたん?
いや、そういった者は知らんな。
吾輩は猫である、と言ったら猫であるから。