『アオのハコ』
それは熱のせい?
それは誰かのせい?
それはただ気の迷い?
そんなわけは、無いよ?

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線を引く所ではなかった、そんなお話。


微熱とアオい闇夜

 高鳴る胸の鼓動、肌の熱さ。どうして良いか分からない、分かるはずもない。でも、それでも。私の身体は大喜くんを組み敷いたまま、離れようとしない。

 こんなのは、ダメだ。大馬鹿がすることだ。なのに、私は。私は――。

 足を滑らせたのは、果たしてどっちなのか。いや、そもそもこれは本当にアクシデントの産物か。私はどこかで、望んでいるのではないか。

 こうして大喜くんを、思うままにする事を。自分の為だけに、使(・)う(・)事を。ずっとずっと、求めていたのではないか。

 

 ほんの数ヵ月前まで私は、大喜くんの名前さえ知らなかった。いつも朝練で会う後輩、それだけだったから。それが大きく震えるのが変わったのは、三月の半ば。親の都合で栄明から去るはずだった私に、残る理由をくれた。その瞬間から、私はきっと大喜くんを意識し始めたのだ。そして四月から私は大喜くんの家で居候となり、一緒に生活している。それはとても、楽しくて。生きる意味さえ変えてしまう程、楽しくて。

 ――でも。だからこそ、辛い。私がここにいられるのは、長くても二年間。その期間が済めば、もうここにはいられない。いくらこの家の人たちが優しいとはいえ、赤の他人である私を理由無く受け入れる程、お人好しではないだろう。それに大喜くんにとって私は、単なる同居人でしかない。大喜くんには蝶野さんがいて、御互いを想い合っている。他所から来た私なんか、入り込める余地はない。

 猪股家での生活を楽しく思えば思うほど、ふとした拍子にそんな「現実」が私の心に突き刺さってくる。

 私は大喜くんを、好きになるべきではなかったのかもしれない。そう思いながらそれでも嫌いになんかなれないまま、必死で部活に励むフリをして、必死で逃げ続けて来た。

 そうして目を背けてきたから、私は気付けなかったんだ。大切なはずの大喜くんが、追い詰められている事に。

 インターハイを逃してから少しずつ憔悴していく姿を、私は見ていた筈なのに。いつも隣にいたのに、気付くことが出来なかった。こんなにも、弱っているのに。

 私が部屋に入ったことさえ気付けず、囈のように自分を責め続ける大喜くん。後先なんか、考える余裕は無い。強引だと思われても、彼を救わなければならない。

 そう思って私は、大喜くんの看病に取りかかったのだ。

 

 県大会での敗戦から弱りきった大喜くんは、その心のうちを少しずつ吐露してくれた。そしてそれを吐き出しきって落ち着いたようだから、そろそろ寝かせた方が良いだろう。そう思っていた筈なのに、でも何故か私はどうしたものか、……大喜くんを押し倒している。

 一刻も早く離れるべきだ、そう思いながらも身体は逆の動きをしていく。熱に潤んだ瞳には困惑の色が見え、不安げな吐息を感じる。それはとても、……可愛らしい。普段から結構可愛い子ではあるけれど、日頃の快活さが失われたせいか可愛いだけの子になっている。

 不味い。これは、不味過ぎる。これ以上進めば、もう戻れなくなる。

 それが分かっていても、身体が止められない。その頬をゆっくりと撫でながら顔を寄せ、そのまま――。

「……っ」

 私は大喜くんに、口付けていた。

 唇の柔らかさを、汗の味が混ざる唾液を。そして熱い吐息を味わいながら、深く長くキスを交わし続ける。

 抵抗さえ出来ないままの大喜くんをベッドに押さえ込みながら、それでも唇は離さない。

 驚きのせいか緩んだ歯列を舌先で抉じ開けながら、その中で怯えるように隠れている舌を撫で回す。大喜くんの内側を知り(犯し)たい、という思いだけが心を塗り潰していく。もっと、もっと、もっと。深く深く大喜くんを、愛し(犯し)たい。

 どれくらい経っただろうか、私がようやく顔を離した時。大喜くんは、涙を流していた。それはきっと、失望の証。大喜くんは私を、同居人として信頼していた筈だ。それなのに私は大喜くんを押し倒し、そして唇を奪った。もしかしたらまだ、蝶野さんとしていないのかもしれないのに。もしそうなら、大事なファーストキスを力尽くで奪われた事になる。私に失望し、そして自分の無力さにも失望しただろう。

 それと私の感情は、別だけれど。

「ん、……」

 今度は首もとに唇を落とし、肌を滑り降りるように舐め下ろしていく。服を脱がせる毎に強まる、蒸れた汗の匂いさえ心地良い。可愛い乳首を弄び、脇腹をなぞり、臍を愛撫して。更に、その下へと。

「……や……っ、だめ……です……」

 弱々しい抵抗の声は、耳に届いても心までは達さない。もう誰にも、私を止められない。

 グッと力を入れて布をずり下ろして対面するのは、もう一人の大喜くん。汗よりもずっと強く沸き上がるこれは、きっと雄の匂い。生臭く鼻をつく、頭を焼くような香り。それでも不快に思えないのは、これが大喜くんのだからだろう。

 だらりと力無く垂れ下がった、――オトコノコに指先を這わせていく。所在無げに震えるその姿は、大喜くん自身と同じく可愛らしい。肉の袋を摘まみあげたり、蛇のような幹を撫で回していくと、少しずつ少しずつ力強く頭が持ち上がっていくのが分かった。

 これが多分、勃起というやつなんだろう。わずかに開いた口を舌で突き責めながら、ぼんやりとそう思う。

 本当ならば、これは恋人が――蝶野さんがする事。私がしていい事じゃない。理性がそう叫んで尚、身体は止まろうとしない。

 硬く隆起し天井を向いたオトコノコを手で擦りあげつつ、キスの雨を降らせていく私。

 それが何度目なのかも分からなくなった、その瞬間。ビクンと一際激しい拍動を経て、それが始まった。

「ぁ……あぁ……っ」

 絶望するような声にならない呻き声と共に、張り詰めていたオトコノコから白い噴水が上がったのだ。射精、雄の絶頂。大喜くんが私の愛を受け入れた(責めに屈服した)、何よりの証拠。熱くたぎる毒液は私の手を、顔を、染め上げていく。

 こんなにも激しいのか、オトコノコは。白い粘液の塊を口にしてみると、舌の上で融けるように広がって口内が大喜くんの味に染まっていく。身体の芯を暴力的に熱する、魅惑の味。もっと、欲しい。

 中にまだ残っていないかと吸い上げながらも、気がつくと私の手は自分の脚の間へと伸びている。薄く口を開けていたそこを掻き毟るように、精液で汚れた指が激しく動き回るのを、まるで他人事のように感じながら。私は理性を手放し、快感に溺れていく。

 もう良いや、どうでも。気持ちよければ、それで良いや。

 蕩けきった頭のまま、大喜くんにのし掛かる。激しくキスしながらオトコノコを手で持ち上げてそして、そこへと腰を沈めて。ミシミシと骨盤を軋ませ硬い肉の塊が入ってくるその感触を、ただただ楽しむ。お腹の奥が押し上げられ、ゴリゴリと内臓が圧迫されていく事さえ、快楽にしかならない。だって私のここは、その為の器官なんだから。オトコノコを包み込み、締め上げ、力の限り楽しむ為に穿たれた肉の穴。それこそがオンナノコだ。

 みっちりと埋まったオトコノコを締め上げながら、大喜くんの涙を舌先で舐めとっていると、今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくさえ思えてきた。同居人だから何だ、蝶野さんがいるからどうだって言うんだ。そんなの、知ったことか。気持ちいいんだから、それで十分だ。

「大喜くん、大喜くん、大喜くん……っ」

 何度も何度も名前を呼び、そしてキスをして。その繰り返しが何十回目かに達し、頭の芯が焼ききれそうになってきた頃合い。ついに、それがやって来た。瞼の裏側に稲妻が瞬き、意識を根刮ぎ刈り取る程激しい波が。

 私の口から溢れる獣のような声に応えるように、私の中で大喜くんが弾け飛ぶ。射精しているのが、見えなくても分かった。込み上げる愛しさに狂いそうになる頭と、それとは無関係に精液を吸い付くそうとする子宮。二つの私が共に快感で壊れていく。

 長く尾を引く快感の余韻に浸りながら、ただ目を閉じる。看病の事もなにもかも、忘れてしまえ。今は、こうしていよう。なんの生産性も無い自堕落な想いだけを残し、私の意識は熔けていった。

 

 身体が熱い、油断すると目の前さえ見えなくなる。あれから一晩が過ぎて、私は――。

「うぅ、……頭痛い…………」

 見事に粘膜感染してきた風邪の菌にやられ、ベッドに横たわっている。大喜くんの体調不良はメンタル由来じゃなくて、本物の風邪だったみたいだ。まあ、幸いインターハイまでは間がある。ちょうど良い休養だと思おう。

 由紀子さんに迷惑をかけるのは心苦しいけど、今は甘えてしまおうかな。

 それにしても、勢いで突っ走ってしまったものだ。一体どんな顔して蝶野さんに会えば良いんだろう、まったくやってしまった。あの二人を引き裂きたいわけではないのに。

 忘れるべきなんだろう、な。一夜の過ちとして、これで終わりにするべきだ。それは分かっているのに、思い出すだけで身体が疼き出す。節々の痛みを感じながらも、私の手はモゾモゾとショーツの中をはい回って止まらない。ここで昨日、大喜くんを受け入れたんだ。あの感触を思い返しながら指を挿入していくと、背筋がザワめいて堪らない。また、したい。大喜くんが欲しい、もっともっと欲しい。

 布団の中にショーツを蹴り脱ぎ、身体が本格的にオナニーを始めてしまうのを、何処か遠い出来事のように感じながらも。ただ、その動きに身を任せていく。いつもは外側を弄るだけで終わるけれど、昨日のセックスを思い出すとついつい指が中へと潜り込んでしまう。もっと、奥へ。もっと、激しく。中指だけでは足りず、人差し指も動員してグチュグチュと掻き回しても、まだ足りない。いっそこっちも、と薬指まで使おうとしたその時。

 コンコン、と響いたノックの音に、思わず変な声を上げてしまった。

「あ、……の、大丈夫です、か……」

 ドアの向こうから聞こえてくるのは、申し訳なさそうな大喜くんの声。私と入れ替わるように風邪が治って、今日は学校へ行った筈だ。……よくよくスマホを見てみれば、すでに日没の刻限をとっくに過ぎている。カーテン締め切って灯りつけっぱなしだから、時間なんか分からなかったけど。 

 わたわたととりあえず布団に潜り、入って良いよと呼び掛けて。躊躇うような沈黙を経て、ドアが開かれた。

「ごめん、なさい……。その、俺……」

 泣きそうな顔で謝る大喜くんに、微笑みを返す。大喜くんは、悪くなんかない。

「あー……そんな顔しなくていいよ、大喜くん」

 風邪を移したことも、セックスしたことも。どっちも、私のせいだから。そう明言しない辺り、性格悪いな私はさ。

 にしても、だ。こうやって生の大喜くんを見ていると、また熱が上がってきそうだ。私はやっぱり、堪え性がないから。口実さえあれば、また大喜くんを抱きたいと思ってしまう。蝶野さんがどうこうというのは、すぐに頭から掻き消えていく。それに大喜くんだって、さっきから前を押さえてモジモジしている。期待しているんだ、また私に押し倒されるのを。正直今の体調だと、流石にこっちから行くのは辛いけれど。

 大喜くんが好きなのは蝶野さんで、今こうやって私の方に気があるように見えるのは、単に身体の関係を持ったからだ。情が移る、とかそういうやつだろう。その辺を勘違いさせ続けるのは忍びない、でも私としても大喜くんを繋ぎ止めておきたい。

 矛盾した気持ちはでも、身体の欲求に呑まれていく。今目の前にいる相手と、セックスがしたい。そんな獣じみた感情だけが、私を突き動かす。

 気が付けば私は掛け布団を下ろし、さっき下を脱ぎ捨てた無防備な下半身を晒していた。

 遮っていた布が無くなったことで放たれたのは、当人さえ戸惑うほどの――メス臭さ。発情の匂い。

 私は求めている。大喜くんの、カ(・)ラ(・)ダ(・)を。心は蝶野さんのモノであってもいいから、セックスさえさせてくれれば良い。これが風邪で頭をやられたせいなのか、そうじゃないのか。もう私には、分からない。

 分かりたくも、無い。

 

 指を中に食い込ませ、両手で私を拡げていく。息がかかるほどの距離で真正面から見ている大喜くんには、私の内側が全て露になっているはずだ。さっき弄くり倒してそのままだから、酷くいやらしい形になっているだろう。死ぬほどの羞恥と共にやって来るのは、得体の知れない異常な快感。もっと見て欲しい、知って欲しい。それが許されることではないと、分かっているから。だからこそ、したい。ワルイコトは、何物にも代えがたい快感だから。

「わかる、かな……。昨日ここが、大喜くんを呑み込んだんだよ……」

 返事の代わりにやって来るのは、荒い息遣い。大喜くんはもう、何も考えられないんだろう。私と同じ衝動に、突き動かされている。きっともう蝶野さんの事さえ忘れてしまっている、だから昨日みたいに泣いたりはしないんだ。小さな槍のように屹立するオトコノコが、何よりの証明になる。

 そして、それが私へと向けられた。昨日とは立場が逆転しているけれど、構うものか。

 ゆっくり、ゆっくり。焦らすように、オトコノコが入ってくる。自分が動いていないまま、内側が押し開かれていくのがなんだか不思議だ。大喜くんにのし掛かって犯すのもいいけど、これもなかなかどうして悪くない。

 二回目で身体が馴れたのか、粘膜が絡み合う感覚が隅々まで伝わってくる。私の中でどんな風に大喜くんが当たって、どういう形で私が包み込んでいるのかが全て頭に流れ込んできて。それが例え錯覚だと分かっていても尚、頭が割れそうなほどに心地良い。

 ぱちゅんぱちゅんと上がる水音と喘ぎ声、混ざり合う匂いが部屋を充たしていく。借り物の部屋だけど、良いか。今はどうでも。それより今この瞬間、繋がっている事実だけを信じていたい。

 顔を真っ赤にして腰を振る大喜くんを抱き締めるように、手を回して。まるで恋人同士のように、お互いが高まっていく。そして二人の身体が激しく震え、一気に感情が解放される。硬く目を閉じ呻くような声を一つ上げあい、ベッドに倒れ込む私たち。

 私の中ではドクドクと精液が迸り、心なしかお腹が膨らんでいくような気さえする。気が早いというか、なんと言うか。膣内射精が幸福感を呼ぶものだなんて、聞いたこともないけど。でも、今はこの幸福を味わっていたい。すぐに消えてなくなるこの幸せな時間を、可能な限り。

 

「もうこんな事、起こすわけにはいかないから」

 あれからほんの数日後。そう言って私は大喜くんと離れ、猪股家を出ることにした。あのまま浸りきってもいられない、私にも大喜くんにも良くない。

 でももし大喜くんが、蝶野さんと結ばれなかったなら。一時の過ちではなく、本当に私へと気持ちを向けてくれたなら。その時は改めて、隣に座ってみたい。大喜くんを好きなのは、確かなんだから。

 だから、もっともっと強くなろう。大喜くんが私の方を好きになってくれるくらいに、輝いてみよう。

 私はいつだって、負けはしない。何があろうと、だ。




実際あの回は驚きましたよ、まさか押し倒すとは。

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