※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第7話 権蔵、王国最強の剣聖と対峙する

 夕闇が王都セルフィアを包み込む頃、権蔵たちの馬車は王都の城門をくぐっていた。

 関所を出発してから約三時間、街灯の明かりが輝く王都の大通りを進んでいく。

 

「おお、これが王都の繁華街か! なかなか賑やかじゃのう」

 

 権蔵は馬車を進めながら、活気に満ちた通りを眺めていた。

 石畳の道には魔晶石のランプが並び、その温かな光が夜の街を優しく照らしている。

 

「ご主人さまぁ……ぼくお腹ペコペコですぅ~……。早くご飯食べに行きましょうよぉ……」

 

 カイトが甘えるような声を上げると、グレイも静かに頷いた。

 

「あそこの『黄金の獅子亭』というレストランがお勧めです。王都で一番の料理人が腕を振るう店と評判で」

 

 グレイの提案に従い、三人は馬車を近くの馬屋に預け、食事場所へと足を向けた。

 店内からは賑やかな笑い声と、香ばしい肉の匂いが漂ってくる。

 

「げへへ、いい匂いじゃ。今日はわしのおごりじゃ! 思う存分食らうがよいぞ!」

 

 権蔵が豪快に笑いながら店内に入ると、店員が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「申し訳ありません。当店はただいま満席でして……」

 

 その目には、権蔵の異様な出で立ちへの警戒心が浮かんでいる。

 しかし、グレイが金貨の入った袋を見せると、店主の態度は一変した。

 

「いらっしゃいませ。特別席をご用意させていただきます」

 

 三人は店の奥へと案内され、程なくしてたっぷりの肉料理や新鮮な魚介、色とりどりの野菜料理が次々と運ばれてきた。

 

「ほう、ギルダ金貨を五枚のおまかせ料理とは豪勢じゃな。高級店でも、これくらい払えばなかなかの量を運んでくれるんじゃな」」

 

 権蔵が満足げに頷くと、グレイが静かに説明を加えた。

 

「チップにギルダ金貨一枚を使いましたので、実質ギルダ金貨四枚です。王都は物価が高めですが、このコースなら十分な価値があるかと」

 

「なるほどのう。わしの世界の価値に換算すると四十万円か。日本での四畳半暮らし、カップラーメンをすすっていた頃の約二か月分の手取りじゃ。あの貧乏サラリーマン時代が懐かしいのう」

 

 権蔵は懐かしむように微笑む。

 グレイも興味深そうに話に加わった。

 

「そういえば権蔵さまの世界『日本』では円という通貨を使うのですよね。ギルダ金貨一枚が十万円、銀貨一枚が千円、銅貨一枚が十円と」

 

「うむ。この世界の通貨システムは面白いのう。どの国も同じギルダ通貨を使うし、値段もわかりやすい。安宿一泊が銀貨五枚、一般的な食事が銀貨二枚、パン一斤が銅貨二十枚じゃ。わしの世界で言えば、宿代が五千円、食事が二千円、パンが二百円というところかのう。言葉も文字も共通しておるし、まさにファンタジー世界じゃ」」

 

「不思議なものですね。人類の宿敵たる魔族の国でさえ、俺たちと同じ通貨を使い、同じ言葉を話す。権蔵さまから指摘されるまで深く考えもしませんでしたが、その背景には何か大きな歴史が隠されているのかもしれません」

 

 グレイは物思いに耽りながら、口元に指を当てる。

 その隣では、カイトが夢中で料理を頬張っている。

 

「モグモグ……ぷはっ! おいしいです! ご主人さま、もっと食べてもいいですか?」

 

「げへへ、好きなだけ食え。今日は贅沢じゃ」

 

「わーい! お肉おかわりー!」

 

 無邪気に喜ぶカイトの姿に、グレイの表情も自然とほころぶ。

 

「まったく…主人よりも先に料理に手を付けるとは。カイトも少しは遠慮を覚えたらどうだ」

 

「まあまあ、今日はわしがたんまり稼いだからの。好きな物を食える今のうちに、たらふく食べておくべきじゃぞ」

 

 権蔵はそう言いながら、大皿からステーキを切り分け、二人の前に置いた。

 そしてポシェットから瓶を取り出して、中身の液体を肉の上に注ぐ。

 

「ご主人さま、これは何です?」

 

 カイトが首を傾げると、権蔵は得意げに鼻を鳴らした。

 

「これはな、『レモンステーキソース』じゃ。醤油をベースに、レモン汁と砂糖、さらにすりおろしにんにくを加えたものなんじゃ。以前、日本の港町を訪れたときに、料理人から教わった特別なソースなんじゃよ」

 

「へえ、美味しそう! いただきます!」

 

 カイトは一口食べると、目を輝かせた。

 

「おいしい! このソースで味が変わって、もっと美味しくなりました!」

 

「素晴らしい味わいです。この酸味が肉の脂を和らげ、本来の旨みを引き立てています。さすがは権蔵さま、食通でいらっしゃる」

 

 グレイも満足そうに舌鼓を打つ。

 権蔵は満足げに頷いた。

 

「げへへ、わしにはこの世界で三つの目標があるんじゃ。一つ目は言うまでもなく『美少年ハーレム』を作ること。そして二つ目は『食の探求』じゃ。この世界に来て感じたのは、人々の食に対する意識がまだ低いということ。この世界には美味しい食材が豊富なのに、それを活かす料理法や技術が発展しておらん。それがわしには残念でならんのじゃ」

 

「なるほど……確かにその通りです。俺も権蔵さまの料理を食べるまでは、この世界の料理で満足していました。でも、権蔵さまの料理は別格でした」

 

 グレイは心から納得したように頷く。

 

「うむ。じゃからわしは決意したんじゃ」

 

 権蔵は拳を握りしめ、力強く宣言する。

 

「この異世界でわしの美食を広め、美味しいものを食べる幸せを分かち合いたい。そして最終的には、美少年たちにわしの料理を振る舞い、笑顔あふれる場所を作る。その食を通じた愛こそが『美少年ハーレム』の礎となるんじゃ! これこそがわしに与えられた使命なんじゃ!」

 

「素晴らしいお考えです、権蔵さま。俺も微力ながら、この美食探求の旅にお供させていただきます」

 

 グレイは深々と頭を下げ、心からの敬意を示した。

 

「うむ、期待しておるぞ。そして三つ目の目標もあってな。それが――」

 

「これは実に素晴らしい香りですな」

 

 権蔵が言葉を続けようとした瞬間、いつの間にか恰幅のいい白髭の老人が隣の席に腰を下ろしていた。

 

「なっ...!」

 

 グレイは一瞬で身構えたが、権蔵は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ほう、美食家の目をお持ちじゃな。これはわしの秘伝のソース。この世界では二度と味わえぬ逸品じゃよ」

 

「これほどの香りに誘われては、老いの身も我慢がなりませんな。もしよろしければ、一口だけ味わわせていただけませんか」

 

 老人は愛想よく微笑みながら、ステーキに視線を向ける。

 

「ぐほほっ、遠慮はいらんぞ。さあ、召し上がれ」

 

 権蔵が大皿から一切れを取り分け、レモンステーキソースをかけて差し出す。

 グレイは気配を消して近づいてきた老人を警戒し、その一挙手一投足を見逃すまいと注視していた。

 

「むむ、これは!」

 

 老人は目を見開いた。

 

「このソースの味わい、実に絶妙。さっぱりとして年寄りにはたまらん。まさに至高の一品ですぞ」

 

「げへへ、そう言っていただけると嬉しいのう。ほれ、もっと食べて褒めてくれてもええぞ」

 

「ありがとうございます。それでは遠慮なく……ところで勇者殿」

 

 老人は優雅に肉を口に運びながら切り出した。

 

「街にはいつ入られたのですかな」

 

 権蔵の表情が引き締まる。

 

「ほう、わしらが勇者一行と知っておったか」

 

「失礼、自己紹介が遅れました」

 

 老人は立ち上がり、深々と一礼する。

 

「オルレアヌ王国軍務大臣、マキシム・レステンクールと申します」

 

「マキシム・レステンクール!?」

 

 その名前を聞いた瞬間、グレイは驚きのあまり言葉を失った。

 

「レステン……? どこかで聞いた名前かも……」

 

 カイトが首を傾げる。

 

「ふむ、マキシムか。 香り立つコーヒーみたいないい名前じゃ。となると、そなたはわしを迎えに来た国のお偉いさんというわけじゃな。じゃあわしも礼儀正しく名乗らせてもらおう。わしは権蔵、ただの”遊び人”じゃよ」

 

 権蔵が朗らかに自己紹介すると、マキシムは嬉しそうに目を細める。

 

「ほう、”遊び人”ですか。お噂はかねがね。ドーレ領の領主を討ち倒し、そしてドルテナ要塞をお一人で陥落の大活躍をされたと」

 

「うむ、そんなこともあったかの。まあ、噂になるほどのことはしておらんのじゃがな」

 

 マキシムの言葉に、権蔵は照れくさくなって頭をポリポリとかく。

 

「そんなご謙遜を。あの堅牢なドルテナ要塞を陥落させるなど並大抵の人間に出来ることではありません。さすがは勇者殿と、言いたいところですが……」

 

 マキシムの鋭い視線が権蔵に突き刺さる。

 

「この王都でその”遊び人”という戯言が通用しますかな?」

 

 その言葉に、権蔵はくすりと笑い声を漏らす。

 

「ほう、おぬしは面白いことを言うのう」

 

「私はこの国を守る義務があります。もし勇者殿が悪しき心をお持ちなら、それを止めることも私の役目です」

 

 マキシムが合図を送ると、レストランの入り口から騎士たちが現れ、武器を手に権蔵たちを取り囲んだ。

 

「もしこの王都で、その”遊び人”という戯言が通用するなら……それはこの国が滅びる時です。そんなことは、王や宰相たちが許しても我ら王国騎士団が許しません」

 

 マキシムの口元に笑みが浮かぶ。

 

「はわわ……ご、ご主人さま、どうしましょう!?」

 

 カイトは狼狽え、まるで小鳥が飛び立とうとするかのように身を縮める中、権蔵はその混乱を楽しむかのように不敵な笑みを浮かべた。

 

「げへへ、こりゃあなんとも温かい歓迎で嬉しい限りじゃ。こんなに一気に集まってくれるとは、わしを喜ばせようとしておるのか?」

 

 権蔵は笑いながら、まるで舞台の主役のように大仰に金貨の袋を取り出し、掌で一気に握りつぶす。

 すると、金貨は熱を持ち、まるで魔法のように赤く輝く球体へと変貌し、テーブルの上にごとんと落ちる。

 

 マキシムは冷徹な微笑みを浮かべながら、権蔵を見据える。

 

「ふむ...まずは目の前で犯した貨幣損傷の現行犯。そして、これまでの数々の罪状...」

 

 マキシムは指を折りながら続ける。

 

「器物の破壊に始まり、暴行傷害、窃盗、強盗、誘拐、殺人、強姦……。王城への不法侵入に、関所での衛兵への暴行、市民への恐喝、そして私の大切なものを奪い去った罪...……」

 

 一呼吸置いて、マキシムは権蔵を鋭く睨みつける。

 

「これだけの重罪が積み重なれば、もはや極刑は避けられません。さあ、大人しく縄につきなさい。これ以上の抵抗は、あなたの罪を重くするだけですぞ」

 

 しかし、権蔵はその脅しにもまったく動じず、むしろ興味深げにマキシムを見つめながら、より一層不敵な笑みを深くした。

 

「げへへ、勇者を死刑にしようとはなかなか面白い冗談じゃのう。言っておくが、わしは誰にも従わん。命令もされん。わしはわしの道を行く男じゃ。この権蔵さまを止められるものなど、どこにもおらん!」

 

 マキシムの顔に苦渋が浮かび、重いため息とともに彼は口を開く。

 

「そうですか……では仕方ありませんな」

 

 その言葉と共に、マキシムが右手を振り上げると、レストランの空気が一変する。

 静寂が支配する中、床を踏みしめる足音が響き、三人が堂々と権蔵の前に進み出た。

 

「第二騎士団『銀翼騎士団』団長、アルフレッド・ヴァルハイト!」

 

 アルフレッドの声は、鋭い剣先のように響き渡り、その手には、力強い存在感を放つ巨大な斧が握られている。

 

「第十騎士団『魔装騎士団』団長、ルシアン・アルヴェール!」

 

 彼は魔力で強化された鎖を手に取り、目を細めながら権蔵を見据える。

 

「第十二騎士団『遊撃騎士団』団長、レイン・スカーレット!」

 

 レインは、華麗な動作でメイスを構え、軽やかに前進し、彼女の赤い髪が、まるで炎のように揺れ、戦闘の炎を予感させる。

 

 三人はそれぞれに名乗りを上げ、武器を構えたその姿は、まるで王国騎士団の精鋭部隊の象徴そのものであった。

 

「げへへ……こういうのっていかにもな”正義の騎士さま”らしい登場パターンじゃのう。まあ、腹ごなし程度にはなればいいがな」

 

 権蔵は、豪快に笑みを浮かべながら、食事用の箸を手に取った。

 マキシムもゆっくりと立ち上がり、権蔵に視線を向ける。

 

「この者たちは王国騎士団の中でも選りすぐりの猛者です。さあ、勇者殿を捕縛しなさい!」

 

 マキシムの指示と共に、三人が一斉に襲い掛かる。

 斧の凶刃、鎖の暗黒、メイスの衝撃が、空気を切り裂きながら権蔵に迫る。

 しかし、権蔵は動じることなく、目にも留まらぬ速さで箸を動かした。

 

「なっ!? そんな細い木の棒で!」

 

 アルフレッドの驚愕の声が、店内に響く。

 

「ふん、軽いのう。そんなもんじゃ前菜にもならんぞ」

 

 権蔵は冷静に、しかし自信満々に箸を振るい、襲い来る武器を一つ一つ掴み取った。

 三人は咄嗟に体勢を整えようとするが、その隙に権蔵の箸が彼らの肩や脚を的確に打ち据える。

 

「ぐあっ!?」

「ぐっ!!」

 

 痛みに悶絶する三人を尻目に、マキシムは額に浮かんだ冷や汗を拭い、困惑の表情を浮かべた。

 

「……騎士団長が三人でかかっても役不足とは……これは、勇者殿の実力を見誤っていましたな……」

 

 その言葉に、権蔵はしかし全く意に介さず、ゆっくりと食事を再開した。

 

「これでおぬしたちもわしとの実力差も分かったじゃろう。さあ、しっし! さっさと店から出てけ」

 

 権蔵は手を払い、まるで犬を追い払うかのようにマキシムたちを払いのける仕草をする。

 だが、マキシムはその侮辱にも毅然とした態度を崩さなかった。

 

「ふぅ...仕方ありませんな。では、私一人でお手合わせいたしましょう。王国の軍を預かる者として、勇者殿に負けるわけにはいきませんからな」

 

 マキシムは剣を抜き放ち、その切っ先を権蔵に向けた。

 その眼光は鋭く、隙がない。

 

「もー、いい加減諦めてくれよぉ。今夜は可愛い妾たちと楽しく食事をしたいだけなのにー」

 

 権蔵はうんざりした様子で、再び食事に戻ろうとするが、その時、グレイが耳元でそっと囁いた。

 

「権蔵さま、あの白髭の老人、マキシム・レステンクール。彼こそがオルレアヌ王国の最強の将軍であり、軍務大臣を務める人物です。『剣聖』の異名を持ち、対魔王軍の前線で長年にわたり指揮を執ってきた実力者です」

 

「ほう、”王国最強”とな...これは聞き捨てならん話じゃ」

 

 権蔵はゆっくりと席を立ち、首をゴキゴキと鳴らす。

 

「実はな、わしには三つの野望があってな。その最後の一つが『世界最強の男』になることじゃ」

 

 権蔵は拳をぼきぼきと鳴らし、身体をほぐす。

 

 

 

 

 

 

「この権蔵さまこそが世界一だと証明できれば、『美少年ハーレム』を築くというわしの野望を阻む者などおらんようになるはずじゃ。まずはこやつを倒して、わしが王国最強だということを証明するとしよう」

 

「ふっ、そう簡単にはいきませんでしょうがな」

 

「ふぉっふぉっふぉ、今夜のメインディッシュは『白ヒゲじいさんの筋肉定食』になりそうじゃ」

 

 権蔵とマキシムの視線が交錯する。

 空気が一瞬で張り詰め、レストラン内の温度が数度下がったかのようだった。

 

「勇者殿、武器はお持ちにならないのですか? 王国から授かった聖剣があるはずですが」

 

「聖剣? あー、あんなもんいらんわ。わしが握ってもピカピカ光るだけでなーんも役に立たんかったしの」

 

「そうですか...では、その選択を後悔させてさしあげましょう」

 

 一瞬の静寂――

 まるで時が止まったかのような緊張が場を支配する。

 そして次の瞬間、マキシムは剣を構えたまま、一気に間合いを詰めた。

 

「では、お見せしよう! 我が剣技を!」

 

 マキシムの剣が閃く。

 その一撃は神速、まさに剣聖の名に相応しい一撃。

 大気を切り裂く鋭い音が響き渡る。 権蔵は不敵な笑みを浮かべ、その一撃を待ち受ける。

 剣の切っ先が彼の喉元まであと一寸というその刹那――

 

 

「バーン!」

 

 

 レストランの扉が激しく開かれ、少年の姿が浮かび上がる。

 

「権蔵ーッ!」

 

 怒号が店内に轟き渡る。

 息を切らしながら駆け込んできたジュリアンの巻き毛が激しく揺れ、その瞳には怒りの炎が燃え盛っていた。

 

「待てと言ったはずだろう! 私を置き去りにするとは何事か!」

 

 ジュリアンは一目散に権蔵の元へ駆け寄り、その胸倉を掴む。

 

「おや、ジュリアンくんではないか。どうしてここがわかったんじゃ?」

 

 権蔵の呑気な問いかけに、ジュリアンの頬が怒りで紅潮する。

 

「貴様の馬車が店の前に停まっていたんだよ! 私を差し置いて王都一のレストランで優雅に食事とは! 本当にひどいやつだ!」

 

「それはすまんのう。エリオットきゅんと会えるのが嬉しすぎて、おぬしの存在をすっかり忘れておったわい」

 

 権蔵は軽く頭を下げるが、その投げやりな態度にジュリアンの怒りは爆発した。

 

 

「いい加減にしろ! 貴様には勇者としての自覚も、慈悲の心もないのか! 私をここまで軽んじて...! これほどまでに貴様のために尽くしているというのに...!」

 

 ジュリアンの声には怒りだけでなく、深い失望と悲しみが滲んでいた。

 その瞳は、裏切られた子犬のように潤んでいる。

 

「尽くすだと? 権蔵さまに付きまとって邪魔をしているだけではないか?」

 

 グレイの冷たい言葉が、凍てつく刃のようにジュリアンの心を切り裂く。

 

「な...!? 貴様までそのような目で...!」

 

 ジュリアンの声が震え、その瞳に涙が浮かぶ。

 華奢な拳を強く握りしめ、唇を噛む。

 

「くっ...どうせ私なんて...勇者一行の中では役立たずなんだ。貴様の言う通り、私は未熟者の...ひよっこ騎士なんだ...!」

 

 その声には深い挫折感と自己嫌悪が滲み、今にも崩れ落ちそうな儚さを感じさせる。

 

「まあまあ、ジュリアンくん。これを食べてみない? おいしくてほっぺが落ちちゃうよぉ♪」

 

 カイトは天使のような笑顔を浮かべながら、レモンステーキソースの香る一皿を差し出す。

 

「カイト...お前だけが...私の気持ちを分かってくれる...」

 

 ジュリアンは涙を堪えながら、震える手でステーキを受け取る。

 

「この酸味と甘みの調和...肉の旨みを引き立てる絶妙なソース...これぞ王都一の味か...」

 

 その時、静かな声が響いた。

 

「ジュリアン...?」

 

 マキシムの声に、ステーキを頬張っていたジュリアンは動きを止める。

 

「も、もぐ...! お、お祖父様!? どうしてここに!」

 

「ジュリアン!」

 

 マキシムは孫を強く抱きしめた。

 その腕には、失われた者を取り戻した安堵と喜びが溢れていた。

 

「坊ちゃん!」

「ジュリアン様!」

「よくぞご無事で!」

 

 騎士団長たちが次々と駆け寄り、ジュリアンを取り囲む。

 先ほどまでの殺気立った空気は嘘のように消え失せ、温かな再会の喜びに包まれていった。

 

「なんじゃ、このお祭り騒ぎは?  わしのときは剣を向けられたというのに、随分と態度が違うのう」

 

 権蔵は不満げに口を尖らせ、腕を組む。

 

「権蔵さま」

 

 グレイが小声で説明を始める。

 

「あの巻き毛は、レステンクール家の跡取りにして、マキシム軍務大臣の孫です。おそらく、孫を連れ去った権蔵さまへの怒りが、この事態を引き起こしたのかと」

 

「なるほどのう。孫を誘拐されておじいちゃんは心配しておったわけか。道理で殺気立っておったわけじゃ」

 

 マキシムはジュリアンの肩に手を置き、静かに問いかけた。

 

「ジュリアン、無事だったか? あの『山賊勇者』に攫われた者で、生還した例はない。お前だけは無事であってほしいと、毎晩祈っていたのだ」

 

「はい、お祖父さま...。私は...いえ、誘拐されたわけではありません。実は私は……...『山賊勇者』を更生させるため、自らドルテナに潜入したのです」

 

 その言葉に、場が凍りつく。

 権蔵は特に驚いた様子で、目を見開いていた。

 

「……は? ジュリアンくん? どういうことじゃ? あれ? わしはジュリアンくんを誘拐せんかったのか?」

 

 権蔵は混乱した様子で頭を掻く。

 確かに王城であの夜、ジュリアンを誘拐したはずなのに、なぜか話が噛み合わない。

 

「ジュリアン、その真意を説明してくれないか」

 

 マキシムの静かな問いかけに、ジュリアンは深く息を吸い、慎重に言葉を紡ぎ始めた。

 

「『山賊勇者』が国に危害を加える存在であることは否定しません。しかし...」

 

 一瞬の間を置き、ジュリアンは決意に満ちた瞳で続ける。

 

「勇者とは本来、世界を救うために選ばれた存在です。そんな人物が、純粋な悪であるはずがない...。私は、その真実を確かめたかったのです」

 

 ジュリアンの声は静かながらも力強く、その言葉一つ一つに深い確信が込められていた。

 

「彼と過ごした日々で、私は確信しました。あの男には、まだ光があると。彼には更生の可能性があるのです」

 

 ジュリアンは真摯な眼差しでマキシムを見つめる。

 その瞳には、若さゆえの純粋さと、騎士としての揺るぎない信念が宿っていた。

 

「ですから、騎士として...いいえ、一人の男として懇願します。どうか、彼にもう一度チャンスを」

 

 その言葉に、騎士団の面々が動揺を隠せない。

 

「坊ちゃん、さすがにそれは...。相手は危険な無法者です」

 

 アルフレッドの声が震える。

 

「ジュリアン様、どうかお考え直しを。あの『山賊勇者』は、数え切れぬほどの罪を重ねてきた男です」

 

 レインが必死に説得を試みる。

 だが、ジュリアンは毅然とした態度を崩さなかった。

 

「承知している。私の判断が甘いのかもしれない。それでも...この目で見た彼の姿を、この心が感じた可能性を、私は信じたい!」

 

 マキシムは孫の決意に満ちた瞳をじっと見つめ、深いため息をつく。

 

「ジュリアンよ。お前は勇者殿の心に光を見出し、その更生を願っているのだな」

 

「はい、お祖父さま」

 

 マキシムはジュリアンの揺るぎない決意を見て、静かに頷く。

 

「わかった。お前がそこまで言うのなら、私も一人の男として信じてみよう。...だが」

 

 マキシムは権蔵に鋭い視線を向け、冷徹な微笑みを浮かべる。

 

「もし勇者殿が我が孫の信頼を裏切るようなことがあれば……」

 

 マキシムが一瞬で剣を抜くと、権蔵が作った黄金の球に幾筋もの剣閃が走る。

 

「このオルレアヌ王国騎士団が……直々に裁きを下す」

 

 その言葉とともに黄金の球が砕け散り、元のギルダ金貨へと戻った。

 そして騎士団の面々が一斉に権蔵へ鋭い視線を向ける。

 常人であれば、その威圧的な眼差しに震え上がるところだが、権蔵はにやりと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ほう、面白いことを言う。更生? 笑わせるな。わしを縛れる者などおらん。今すぐ王国騎士団の面々、全員でかかってこい。もしわしが勝ったら、そうじゃな。おぬしと大勢の観衆の目の前で、メス堕ちしたジュリアンのお披露目セッ……もごもご」

 

「黙れ、この大馬鹿勇者!」

 

 ジュリアンは慌てて権蔵の口を塞ぐ。

 マキシムはその様子を見て、愉快そうに笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、ジュリアンとすっかり打ち解けているようですな。いいでしょう、では陛下との謁見の折にまたお会いしよう。それまでは、どうか大人しくしていただきたい」

 

 マキシムは騎士団を率いて立ち去ろうとする。

 その背に向かって、ジュリアンが力強く宣言した。

 

「お祖父さま! 私は必ずや勇者権蔵を更生させてみせます!」

 

「うむ、期待しているぞ」

 

 マキシムは温かな笑みを残し、静かに去っていった。

 

「おい、なんでわしの口をふさぐんじゃ。せっかくおぬしを調教してやってる自慢をじいさんにしてやろうと思ったのに」

 

「黙れ! お祖父さまの前でそのような破廉恥な話をするな!」

 

 ジュリアンは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 権蔵はやれやれと肩をすくめた。

 

「まあええわ。それにしても、おぬしがわしのことをそこまで気にかけてくれていたとはのう。もしや、わしに惚れておるのか?」

 

「な……!」

 

 権蔵の言葉に、ジュリアンの顔が一気に赤くなる。

 

「は、はぁ!? そんなわけあるか!!」

 

 その反応に、権蔵はニヤリと笑う。

 

「ほう……ならば、どうしてわざわざ誘拐された件を隠してくれたのかのう? わしのことが心配だったんじゃろ?」

 

 その言葉に、ジュリアンは口をつぐむ。

 そして絞り出すような声でつぶやいた。

 

「……私は騎士だ。使命を果たすことを最優先に考えている」

 

「それで? 何が言いたいのかな? もっとはっきり言ってくれないと分からんのう」

 

 権蔵の挑発的な物言いに、ジュリアンの顔が怒りの色に染まる。

 

「っ……! でははっきり言わせてもらう! 貴様は救いようのない無法者だ! しかし私は騎士として、王国のために尽くす義務がある。貴様を更生させることが王国の利益になると判断しただけに過ぎない。これはあくまで私の使命、エリオット陛下のため。決して貴様のような不届き者への情けなどではない!」

 

「なんじゃ、わしに惚れてかばってくれたわけではないのか。つまらんのう」

 

 権蔵はがっかりした様子で、両手を頭の後ろに組みながらため息を吐く。

 

「まあええわ。エリオットきゃんの顔を立てて、今だけは大人しくしておいてやろう」

 

「今だけじゃない! これからもしっかりと慎みを持て! それと陛下の前では絶対に無礼があってはならんぞ!」

 

 ジュリアンはぶつぶつと文句を言いながら席に着き、料理を口に運び始める。

 そこへグレイがそっと近寄り、権蔵に耳打ちする。

 

「(権蔵さま、巻き毛にはエリオット王との婚約の件をまだお伝えにならないのでしょうか?)」

 

 グレイの言葉に、権蔵は意外そうな表情を浮かべる。

 

「(当然じゃ。エリオットきゅんを崇拝するジュリアンにこんな話をすれば、血相を変えて暴れ出すに決まっておる。そうなれば王都までの旅路も台無しじゃ)」

 

「(なるほど。しかし、後々の混乱を避けるためにも、今の機会に知らせておいた方が...…)」

 

「(おぬしも分かっておらんな。それこそが面白いところじゃよ。謁見の日、婚約の話を聞いたジュリアンの反応を想像してみい。あの堅物が真っ青になって卒倒する様が目に浮かぶじゃろう?)」

 

「(ふふっ...巻き毛の驚愕した表情が目に浮かびます。もしかしたらショックで死ぬかもしれませんね……)」

 

 グレイが嘲笑うように口元を緩めると、権蔵も満足そうにうなずいた。

 

「(うむ、大げさな反応は期待しておるが、命に関わるようなことになっては困るがな。ジュリアンめ、わしを更生させるなどと生意気なことを抜かしおって。これも愛ある戒めじゃ)」

 

「(さすがは権蔵様、お戯れも一級品ですね)」

 

「(うははは!そう褒めるでない。わしゃただの遊び人じゃ)」

 

 二人が意味深な笑みを交わす中、ジュリアンは不安げな表情でその様子を窺っていた。

 

「な、なんだよ。私の顔に何かついているのか?」

 

「いやいや、お主の顔に付いておるのは正義の心だけじゃ。さあ、早く飯を食わんと冷めるぞ」

 

「むぅ...何か企んでいるな、絶対に...」

 ジュリアンは不審そうにしながらも、食事を再開した。

 

「もぐもぐ...ご主人様とだんちょー、なんだか楽しそう♪」

 

 カイトの無邪気な一言に、権蔵とグレイは思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

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