美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
カーンの街を目前に、獣人たちの指揮官たちが不気味な笑みを浮かべながら、その異様な光景を眺めていた。
彼らの背後には、巨大な黒い穴が口を開けており、そこから無数の獣人たちがぞろぞろと這い出してくる。
その光景は、まるで地獄の門が開かれたかのようだった。
「……こんな薄暗い穴を通るだけで、まさかこんなに早くカーンの目の前に到着するとはなぁ。驚きだぜ」
バッファローの魔族・バフォメッドが不敵な笑みを浮かべる。その声は重く低く、まるで大地そのものが唸るかのような響きを持っていた。黄金の鎧に身を包んだ巨体は、それだけで一個軍団の戦力に値する。肩に担いだ斧は、一振りで城壁さえ砕く破壊力を秘めているという。
「うひゃー、おっかねぇおっかねぇ。あんな暗ぇとこ通るの、おらぁ初めてだったべ」
カバの魔族・ヒポスが、分厚い皮膚を震わせながら漏らした。
一見間の抜けた物言いだが、その巨躯は鋼鉄をも跳ね返す硬度を誇る。
魔族の中でも指折りの防御力の持ち主だ。
「これもひとえに、アビスガルド国との友好関係を築いたグリムフ様のお陰。アビスラインの使用許可など、並大抵の交渉では得られぬものです」
イボイノシシの魔族・オーグが冷静に述べる。
三獣士の参謀役とも言える存在で、その鋭い眼光は戦場の一切を見通すという。
「ふん、アビスガルドねぇ。いけすかねぇ連中だぜ。この抜け穴を自由に使えれば、すぐにでも大軍団を持って人間の国を滅ぼせるのによぉ」
バフォメッドが斧を振り回すと、空気が裂けるような音が響いた。
その不満げな態度に、オーグは薄く笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、おかげで人間どもは、虚を突かれて呆然としておるではないですか」
オーグは冷静にそう返し、カーンの街を指差した。
街の守備隊は、突然現れた敵の大軍に動揺し、混乱しているのが見て取れる。
バフォメッドはその光景を見て、満足げに笑みを浮かべた。
「ふん、確かにそうだな。人間どもは、まさかこんな裏技があるとは思ってなかったろう。これで一気に街を蹂躙してやるぜ!」
轟くような笑い声に呼応して、無数の魔族たちが雄叫びを上げる。その声は地響きとなって街全体に鳴り渡った。
ヒポスはその様子を見ながら、大きな鼻をふくらませて言った。
「おらぁ、早く街に入って、美味いもん食いたいだよ。人間どもの食料庫には、きっとうまいものがいっぱいあるだろ?」
彼の目は、食欲に輝いていた。
カバの巨体は、その食欲に比例しており、一度に大量の食料を平らげることができる。
オーグは冷静にそれを見つめながら、警告を発した。
「油断は大敵です。特に『白銀の戦乙女』シャルロット・レステンクールには要注意。彼女の剣は、これまで幾多の魔族の首級を刈り取ってきたのですから」
オーグの警告に、バフォメッドは鼻で笑う。
「へっ、あんな小娘が何だってんだ? この魔斧グリムクラッシャーの前じゃ、ただの紙切れよ!」
バフォメッドが不敵な笑みを浮かべながら、肩の斧を軽く弄ぶ。
漆黒の刃が不吉な輝きを放つ。その様は、まるで持ち主の血に飢えた本能を表現しているかのようだった。
「んだんだ! おらぁが踏みつぶしてやるべ! 人間なんざ、カバの踏み潰し攻撃の前じゃペシャンコだべ!」
ヒポスも同調するように声を上げる。
その言葉とは裏腹に、彼の目は既に街の食料庫を探っていた。
オーグの眉間に、深い皺が刻まれる。
三獣士の参謀と呼ばれる彼の直感が、何かの違和感を訴えていた。
まるで見えない糸が、彼らの首に巻き付いているような――そんな不吉な予感が、背筋を走る。
「はぁ、血の気の多い方々だ……」
彼は溜め息まじりに呟いた。
その声には、普段の冷静さの中に、微かな焦りが混じっている。
「しかし解せませんな。いくら経っても白銀の戦乙女が姿を見せない。あの女が、こんな大軍を前にして逃げ出すはずがない。もしかして我らは……人間どもの罠に、誘い込まれたのでは?」
オーグの疑問は、決して的外れなものではなかった。
カーンの守備隊があまりにも手薄すぎる。
本来なら、街を守るための大軍が集結していてもおかしくはない。
しかし現実は――まるで街全体が、魔族たちを誘い込むような不気味な静けさに包まれていた。
そんな彼の疑念を一蹴するように、バフォメッドの豪快な笑い声が響き渡る。
「がはははは! 何を言ってやがる! そんな小細工なんざ、この俺様が一刀両断! 奴らは我らの力を知って、尻尾巻いて逃げ出しただけよ!」
「本当に……そうでしょうか?」
オーグは自身の牙を爪でなぞりながら、慎重に言葉を紡ぐ。
「私にはどうも、嫌な予感がするのです。まるで……私たちが蜘蛛の巣に向かって突進している蝶のようだ」
しかし、バフォメッドはそんな警告も、どこ吹く風といった態度で一蹴する。
「ふん、相変わらずの心配性だな、オーグよ。そんなに心配なら、さっさと突入してその罠ごと奴らを潰してしまえばよいではないか!」
「んだべ、んだべ! おらぁも腹ぺこで待ちくたびれただよ。早く終わらせて、人間どもの食料庫荒らすべ!」
ヒポスは自らの巨大な腹を叩きながら言う。
その音は、まるで太鼓のように響いた。
周囲の獣人たちも、その言葉に同調するように雄叫びを上げる。
戦意高揚した部下たちを見て、オーグは小さくため息をついた。
(やれやれ、この脳筋どもめ……まったく話が通じん。しかし……)
彼は一瞬、目を細める。
(確かにバフォメッドの言う通りだ。ここで思考を巡らせていても始まらない。まずは行動あるのみ――進むも地獄、退くも地獄というところか)
オーグはそう結論付けると、三獣士の威厳を保ちながら、進軍の号令を上げた。
獣人たちの軍団が、黒い津波となって、カーンの街へと押し寄せていく。
その光景を見つめながら、オーグは小さく、しかし鋭い笑みを浮かべて呟いた。
「さて、グリムフ様に歯向かう愚か者どもよ……その身をもって思い知るがいい。我らが如何なる存在か――」
その瞳の奥には、獣人特有の残虐性が、静かに、しかし確実に灯っている。
街に迫る魔族の大軍団を目の当たりにした住民たちは、まるで地獄絵図を見るかのように恐怖に震えていた。
しかし、誰も気づいていない。
街の片隅で、一筋の銀色の光が、魔族たちの不吉な笑みを静かに見つめていることには――。