美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「勇者……? まさか……あいつがあの、悪名高き『山賊勇者』だと……?」
バフォメッドの声が、砕けた硝子のように震える。
「鉄壁と謳われし要塞ドルテナを……たった一人で、一晩で陥落させたあの勇者権蔵? 四凶将軍セミヨン様の大軍すら、酒瓶片手に蹴散らしたという化け物が……我らの目の前に?」
オーグの知性に満ちた瞳が、信じがたい現実を受け入れられないかのように震えていた。
「んあー。あいつ、本当に勇者だべか? だって、勇者っつったら、ピッカピカの鎧着て、ドラゴンバッサバッサして、お姫様にチューするんじゃねーの? なのによぉ……このおっさん、屁こきながらケツ出して酒飲んでんだど!? 全然カッコよくねーど!」
ヒポスは半開きの口から言葉を零す。
彼の単純な頭では、物語の「勇者」と目の前の酔っ払い中年男のギャップに混乱していた。
「そんなに褒めるでないわい! わしゃ照れ屋でのう! ほれ、お礼と言っちゃなんじゃが、この酒を飲んでみんか? ま、つまらん安酒じゃが」
その笑顔の下に潜む威圧感に、三獣士の背筋が凍り付く。
それは怒りや焦燥などではない。
純粋な戦慄と──絶対的な《強者》への畏怖。
瓦礫に落ちた影が、まるで魔王の影のように不気味に歪んでいく。
「本物の、勇者様……」
シャルロットの囁きが、風に揺れる蝋燭の炎のように揺らめいた。
それは決して誰かへの追従でも、盲目的な信仰でもない。
彼女の記憶の中で、幾つもの点が繋がっていく。
鉄壁と謳われたドルテナ要塞の陥落。
獣人の口から語られた四凶将軍セミヨンの大軍を、いとも簡単に撃退したという逸話。
そして今、目の前で繰り広げられる『山賊勇者』の真実。
(権蔵様がドルテナを占拠されたのは……オルレアヌを、この国の民を守るため……真の英雄は、いつだって世間の誤解と戦いながら、それでも正しい道を進むのね)
シャルロットの胸の内で、小さな炎が大きく燃え上がる。
「ご主人さまー! 頑張ってくださいっ! えいえいおー!」
カイトが宙を舞うように跳ね回り、まるで祭りの踊り子のように声援を送る。
その無邪気な歓声が、死闘前の重苦しい空気に、春風のような温かさを運んでいく。
「おうよ! さーて、おぬしら覚悟はできたかのう」
権蔵は右手の酒瓶を軽くトントンと叩き、ゆっくりと肩を回した。
一歩、また一歩──権蔵が瓦礫を踏みしめるたびに、重々しい足音が地を震わせる。
三獣士の表情が一瞬にして凍り付く。
彼らの獣の本能が警鐘を鳴らしていた。
目の前の《酔漢》は、人の姿をした災害そのものだと―――。
「チッ……そうか、やっと分かったぜ。あの化け物じみた強さの正体が……。グリムフの旦那とすら互角に渡り合えるって噂、嘘じゃなかったってことかよ。くそっ、こんなところで……!」
バフォメッドの咆哮は、すでに震えた子犬の遠吠えのようにしか聞こえない。
「仕方ねぇ、お前ら! アレを使うぞ……!」
「アレ...? まさか『魂の奥義(ソウル・アルティメット)』を?」
オーグの顔から血の気が引く。
「そうだ。我ら三獣士の究極奥義よ。もはややつを倒すにはこれしかねー!」
「いやだべぇぇぇ!」
ヒポスが悲鳴のような声を上げる。
「あれ使ったら、おら三日も寝込むんだど!? ご飯も食えねぇし、トイレにも行けねぇし、お風呂にも……」
「うっせぇ! てめぇそれでもサバンナの戦士か!? このままじゃ俺たちが『山賊勇者』の餌食になっちまうんだぞ!」
バフォメッドが獣のように牙を剥く。
「ひぃっ!? お、おら食われるのは御免だべ! おら食うほうがええだ!」
ヒポスは尻尾を震わせながら、涙目で叫んだ。
オーグは無言で頷き、三人は互いに意味深な視線を交わす。
そして、まるで長年の訓練で染み付いた動きのように、権蔵を中心に三角形を描くように配置についた。
その目は獣性を帯び、血に飢えた野獣のように赤く輝いている。
「権蔵様! 気を付けてくださいまし!」
シャルロットの悲痛な叫び声が響く。
「あの技は……三獣士による三位一体の連携攻撃……! 逃げ場なき死の渦が生み出す、究極の破壊奥義です!」
彼女の声が震えている。脳裏に過去の光景が蘇る。
三方向から襲い来る巨大な獣人の姿。
体の芯まで凍りつくような恐怖と、そして絶望的な戦慄が、背筋を這い上がる。
「ふぅーん? そいつは大変なことじゃのう」
権蔵は千鳥足でフラフラしながら、首を傾げた。
その目はまだ酔いに朦朧としているようで、焦点が定まらない。
「今だ!!! 『三獣旋風陣(スリー・ビースト・トルネード)』!」
刹那、三獣士の姿が一斉に権蔵を中心に疾駆し始めた。
その動きは瞬く間に加速し、獣の咆哮と共に空気を切り裂き、まるで大地に巨大な爪痕を刻むように、円を描きながら猛烈な速度で回転する。
ゴォォォォッ!!
轟音が天を突き抜ける。
凄まじい風圧が巨岩を粉砕し、瓦礫を巻き上げていく。
砂塵が渦を巻き、青空が灰色の帳に覆われ、その光景は、まるで天変地異のように壮絶だった。
「な、なんて威力……!? これは……私が受けた技とは、まるで次元が違う! まさか、あの時は力を抑えていたの!?」
シャルロットは思わず後ずさる。
目の前で展開される光景は、かつて目にした三獣士の技をはるかに凌駕しており、その規模も、威力も、まさに天地を揺るがすほどの破壊力だ。
「なんじゃ、急にぐるぐる回りだして。これは遊園地の出し物なんかのぉ?」
「はっ! テメェの余裕の笑み、今すぐ消してやるぜぇぇぇ!!」
バフォメッドの怒号と共に、竜巻は一気に収束。
権蔵の体が宙へと巻き上げられる。
「ぬぉっ!? わしの体が浮いとるぞ。これはなかなか愉快な出し物じゃのう! 遊園地の回転木馬より面白いわい! 」
権蔵の巨体が空中でくるくると舞い、赤いマントが嵐の中で狂おしく舞う。
「これで動けまい! とどめだ!」
バフォメッドが獣のように唸りながら前方に躍り出る。
後方にはヒポスとオーグが続き、三獣士の体が一直線に重なっていく。
まるで古代の戦士たちが振るう聖なる槍のような陣形が形作られていった。
「フッ……覚悟を決めましょう。バフォメッドさん、ヒポスさん!」
オーグの声が低く響く。
その両脚の筋肉が見る見るうちに膨張し、岩をも砕くような力強さを帯びていく。
「んあぁっ! おらの渾身の力、受けてみろだぁっ!」
ヒポスが雄叫びを上げながら、バフォメッドの腰に腕を回す。
カバの怪力で獣人の巨体を脇に抱え込むと、まるで軽い荷物を持つかのように、二人分の体重など気にもせず大きく宙へと飛び上がった。
「がははっ! 見せてやるぜ、おっさん! 我ら三獣士の『魂の奥義(ソウル・アルティメット)』!!!」
バフォメッドの雄叫びと共に、オーグが大地を蹴り砕いた。
その瞬間、轟音と共に地面が大きく陥没し、瓦礫が四方八方に飛び散って、まるで小隕石の雨のように降り注ぐ。
オーグは稲妻のような速さでヒポスの足を掴み、三体の獣人が一つとなって権蔵めがけて空中を疾走する。
その姿は、まさに伝説の魔槍そのものだった。
「こ、これは……まさか!」
シャルロットの悲鳴が響く。
三つの竜巻が融合し、破壊の奔流となって押し寄せていく。
衝撃波だけで周囲の瓦礫は粉塵となって消え去り、渦中の権蔵の巨体すら、まるで落ち葉のように小さく見えた。
「喰らえぇぇっ! 『三獣士・極限魔槍(デッドリー・ビースト・ランス)』!」
轟音と共に、三獣士の合体した一撃が権蔵の腹めがけて突き刺さる。
バフォメッドの角が権蔵の肉体を貫き、その衝撃で権蔵の巨体が大きくのけ反った。
「がはははは、手ごたえあった! てめーが勇者だろーがこれで終いよ!」
「権蔵様ーーーッ!」
シャルロットの悲鳴が響き渡る。
彼女の瞳に涙が浮かび、震える手で口元を押さえた。
まさか、あの伝説の勇者がこんな形で──。
しかし。
「……お姉様。まだ、終わっていません」
ジュリアンの表情が苦々しく歪む。
「え……?」
「あの男の腹は……忌々しいことに、伝説の聖盾をも凌駕する最強の防壁なのです。私の聖槍リグルパルツゥアーでさえ、まるでゼリーを突くように跳ね返されました……」
その言葉を証明するかのようにバフォメッドの角は、権蔵の腹の贅肉にまるごと飲み込まれていた。
「は、はあああああああああっ!? おい、俺の角が! 刺さったまま出てこねぇーーッ!」
バフォメッドが必死に角を引き抜こうとするが、まるで沼地に足を取られた冒険者のように完全に動きを封じられている。
「これは...信じられません! まるで、意思を持った生命体のような動きです!」
オーグが顔を引き攣らせる。
「ひぎゃああああっ!? お、おらの腕がずぶずぶ入ってくだよぉ! このままじゃ、おらまで消化されちまうんじゃねーのぉ!?」
ヒポスが涙目で暴れる。
三獣士の必殺技は、権蔵の腹肉という最強の"生きた盾"の前に、完全に無力化されていた。
「げへへへ。おぬしら、わしの四十年かけて愛情込めて育ててきた腹肉ちゃんを甘く見すぎたのう」
彼の特級腹肉は、まるで勝利を祝うかのように、ぷるぷると愉快そうに踊っていた。
「さてさて、おぬしらをどないしたもんかのう……」
権蔵は顎に手を当てて考え込むふりをすると、突然パッと目を輝かせた。
「そうじゃ! せっかく空を飛んでおるし、回転もしておる。ちょっとプロレス技でもやってみるかのう!」
「な、なにを言って──」
権蔵は腹の力をフッと緩める。
するとまるで熟れすぎたスイカから種が飛び出すように、三獣士が解放された──が、次の瞬間、その巨体とは思えない俊敏さで三人の足首を器用に掴み取っていた。
「お、おい待て! 俺たちは回転系の技は苦手なんだ!」
「た、助けてくれだよぉ! おらぐるぐる地面転がっただけでも酔うんだよぉ!」
「こ、この遠心力は私の計算では──うぐっ」
三獣士の必死の抗議も虚しく、権蔵は彼らを巨大な風車のように振り回し始めた。
「うわあぁぁぁああああ! もう街で悪さしませんからぁぁぁ!」
竜巻の勢いを借りて、三獣士は人間コマのように空中でぐるぐると回転する。
彼らの叫び声が、まるでメリーゴーランドの BGM のように響き渡る。
「わぁ、すごい! ご主人さまと動物さんたちの楽しいサーカスショーですねー♪ もっと回してあげてくださーい!」
カイトが両手を叩きながら目を輝かせる。
三獣士は空中で振り回されながら、その回転速度を徐々に速めていく。
そしてついには彼らの体が、まるで竜巻の一部となったかのように一体化した瞬間。
「うおりゃぁあああああ! これが必殺の『権蔵式・ジャイアントスイング』じゃぁっ!」
権蔵の雄叫びが轟く中、三獣士の体が大気圏突入さながらの勢いで空へと放たれる。
「こ、こんなバカげた技があるかよォォォ!」
「お、おらもう二度と酔っ払いを舐めないだよぉぉぉ!」
「速度的にこれは完全に困りますぅうううう!」
三獣士の絶叫が遠ざかり、彼らの姿は晴れ渡った群青の空にキラリと星となって消えていった。
竜巻が収まると、権蔵はまるで使い終わった布団のように、どさりと地面に背中から落下した。
「ご、権蔵さまっ! 大丈夫ですか!?」
「うひひひ……わしの腹の中で獣さんたちが踊っとるようじゃ……」
シャルロットが駆け寄ると、権蔵は目をくるくると回しながら、千鳥足で歩く酔っ払いのような不安定な笑みを浮かべていた。
「まさか、あなたが……本当の勇者だったなんて」
シャルロットは呆れたような、でも心から安堵したような表情を浮かべながら、権蔵の頭を膝に載せる。
酒臭い息と汗の混ざった独特な匂いが漂ってくるが、今はそれすら愛おしく感じられた。
「げへへ……だから言うたじゃろう? わしはマジのマジでホンモノの勇者さまなんじゃ。ただし──」
「ただし?」
「酒がガソリン代わりでのう! 『酔拳勇者』というヤツじゃ! 昼は酒場で寝て、夜は酒場で運動会! それがわしのスタイルじゃ!」
シャルロットは思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
「はい……あなたは本当に、私の知る中で一番変わった、でも一番強い勇者様です」
「げへへへへ! よーやくわかったか! お嬢ちゃん、これでまた一つ賢くなったのう! 次は酒の飲み方を教えてやろうか?」
「そ、それは遠慮させていただきますわ」
確かに彼は、絵本に出てくるような清廉潔白な勇者ではない。
だが、カーンの街を救い、そして彼女の命を救ってくれた事実は揺るぎない。
時には下品で、いつも酔っ払っていて、例えズボンが破けて尻が丸出しになったとしても戦う。
それでも、彼こそが紛れもない『勇者』なのだ。
「……権蔵様」
シャルロットは優しさと感謝を込めて、権蔵のつるりとした頭をそっと撫でた。
その仕草には、もう以前のような躊躇いはない。
「これまでの私の無礼をお許しくださいませ。そして──」
彼女の頬は、春風に揺れる桜の花びらのように、ほんのりと淡い桃色に染まっていく。
「これからも、私たちの勇者様でいてくださいましね」
次話はジュリアンくんとのHシーンです。