美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「うぅ……寒い、寒いのう。なんで勇者であるわしがこんな目にあうんじゃ。誰じゃ、こんな山道を通る計画を立てたやつは、正真正銘のドMか、大馬鹿者じゃないのか?」
寒風が吹き荒れる中、権蔵はガタガタ震えながら白い息を吐き出した。
抜けるような青空が恨めしいほどに晴れ渡っているが、標高の高い山頂付近では、太陽の光など気休めにしかならない。
冷気が肌を刺し、後悔の念が胸を締め付ける。
なぜ、こんな極寒の地をわざわざ選んで移動をしているのだろうか――。
カーンを後にした一行は、雪でまだ覆われているオレレト山脈を早足で越え、レシア要塞を目指していた。
「愚かなのは貴様の方だ。北路を行くと知っていながら、その薄着とは何事か。幾度となく厚着するよう諭したはずだが」
ジュリアンが呆れたように吐き捨てる。
彼は厚手のコートをまとい、寒さ対策も万全。
一方の権蔵は、薄い肌着に腰の酒瓶だけという、凍えるには十分すぎる装いだった。
「だってのう。酒を飲んでたら体が火照って仕方なくなるんじゃよ。厚着なんてしたら、汗でビショビショになっちまうわい」
「それは……一理あるかもしれませんが……」
シャルロットが心配そうに眉をひそめる。
彼女も出立前に厚手のコートを身に着け、寒さから身を守っていた。
「ジュリアン、言葉遣いがなっていませんよ。オルレアヌの勇者様に対して、敬意を払いなさい。権蔵様、私の傍に、少しだけお寄り頂いてもよろしいですか?」
そう言ってシャルロットは手を差し出し、権蔵を招き寄せる。
手を触れ合わせた途端、権蔵は目を細めて頬を緩ませた。
「おおっ、シャルちゃん、こりゃあ身も心もポカポカしてくるわい」
「ふふ。私の『戦乙女の加護』の恩恵ですよ。山道に入ってから皆様にも暖熱効果は及んでいますが、このように近くにいれば、より強く作用するのです」
シャルロットは頬を赤らめて控えめに微笑んだ。
「お姉さま そのような不埒な輩と手を取り合うなど危険です! 権蔵、すぐにその汚い手を放せ! それにお姉さまのことを気安く"シャルちゃん"などと呼ぶな! 図々しい!」
ジュリアンが慌てふためいて叫び、権蔵からシャルロットを引き離す。
「まあ、ジュリアン……。権蔵様、申し訳ございません。弟が無礼を」
「げへへ、気にせんええ。わしはひねくれたショタっ子も嫌いじゃない。それに生意気なジュリアンくんもベッドの上だと生イキしまくって――もごもご」
ニヤニヤと笑いかける権蔵の口を、ジュリアンは素早くふさぐ。
顔が真っ赤に染まったジュリアンは、何も言わせまいと必死だ。
「えへへ、お姉さん、ご心配なく!こんな感じだけど、ぼくたち、とっても仲良しなんですよー。ジュリアンくんは勇者パーティに欠かせない、大切な仲間なんですから♪」
赤毛のメイド姿の少年、カイトがにこにこと笑いながら言った。
「まぁ、そうですの? それは嬉しいわ。ジュリアンは昔から優しい子ではありますけれど、少しばかり融通が利かないところがあって……。でも、権蔵様やカイト様と仲良くしていただけるなら、私も安心ですわ」
シャルロットはほっとしたように胸を撫でおろす。
その姿を横目に、ジュリアンは未だ赤い顔をしたまま、何やら不満げにつぶやいていた。
「それにしても……おかしいですわ」
シャルロットの声が、突如として真剣味を帯びた。
「騎士団の姿が、どこにも見当たりませんね。本来なら、とうに合流しているはずなのに……」
カーンの街を出てから二日。予定では、そろそろ先発していたオルレアヌ王国軍に追いつくはずだった。
しかし、見渡す限り白の山道には彼らの痕跡すら見当たらない。
「大丈夫ですよ、お姉さま。道のない雪山ですから、きっと私たちとは違うルートを進んでいるのでしょう。いずれ合流できるはずです」
ジュリアンは、姉を安心させるように柔らかな笑みを浮かべる。
「そうですわね……きっと、どこかにいるはずですわ」
シャルロットは腰に差した聖剣をぎゅっと握り締める。
権蔵たちは雪の中を慎重に進んでいった。
しばらくすると、彼らはある光景に立ちすくんだ。
「あぁっ……!」
シャルロットの悲鳴が、凍てつく空気を切り裂く。
雪原に広がる光景は、まさに戦場の惨状そのものだった。
オルレアヌの騎士たちが、まるで散りばめられた花びらのように雪原に倒れている。
白銀の雪面は、そこかしこで紅く染まっていた。
「な、なぜ……こんな……!」
ジュリアンが駆け寄ろうとした瞬間──。
「待て。何かおる……」
権蔵の低い声が、吹きすさぶ風の中に重く響いた。
その言葉が終わるか終わらないうちに、地面が不気味に震え、雪煙が渦を巻いて立ち上る。
視界を遮る白い幕の向こうから、鈍い地響きが近づいてくる。そして──現れた。
「な、なんだあれは……!?」
ジュリアンが声を上げる。
その眼前に屹立するのは、体長二十メートルを優に超える巨大な白銀の龍。
鱗は氷の鏡のように光を反射し、吹雪の中でもその威容はくっきりと浮かび上がっていた。
『アイスドラゴン』──北方の極寒地帯を支配する伝説の魔獣。
その存在は、まさに自然そのものの化身とも言えるほどの圧倒的な威圧感を放っている。
「な……ありえませんわ……! アイスドラゴンがなぜここに? この時期は北の極地に移動しているはずでは……!」
シャルロットの声が震える。
彼女の蒼色の瞳には、驚愕と困惑が交錯していた。
この時期にアイスドラゴンが南下するなど、常識では考えられない。
ましてや、この山道に現れる理由など──。
「どうやら、わしらは歓迎されておらんようじゃのう」
権蔵は、腰にぶら下げた酒瓶をキュッと締め直した。
普段の酔っ払いのような雰囲気はどこへやら、彼は確かな戦闘態勢に入っている。
「権蔵様、どうしますか?」
シャルロットが聖剣を抜き放つ。
刃が鞘を離れる瞬間、鈍い金属音が風に乗って響き渡った。
「竜退治なんて初めてじゃが、なかなか面白そうではないか!」
権蔵が豪快に笑い、足を踏み出す。
その瞬間、二人はまるで呼吸を合わせたかのように、一斉にアイスドラゴンへと突進を開始した。
雪を蹴散らし、風を切り裂くその速度は、常人ならば目で追うことすら難しい。
しかし──その時だった。
「待てぃ!」
轟音のような声が、吹雪を切り裂いて響き渡る。
次の瞬間、一つの影が空中を舞うように駆け抜け、アイスドラゴンの背に着地した。
その動きはあまりにも速く、まるで風そのものが形を成したかのようだ。
「何者だ……!?」
ジュリアンが目を見張る。巨竜は激しく暴れ、その巨体を揺すぶって不気味な咆哮を上げる。
しかし、影はまるでそれを予測していたかのように、巧みな身のこなしで龍の首元へと回り込んだ。
そして──。
「──『獅子剛流・眠りの抱擁』」
その技は、一瞬のうちに繰り出された。
影の腕がドラゴンの首に絡みつき、まるで巨大な獣をなだめるかのように力を加える。
その動きは流れるような美しさを持ちながらも、尋常ならざる破壊力を秘めていた。
ドラゴンの巨体が一瞬硬直し、次の瞬間──崩れるように雪原に倒れ込んだ。
「ドラゴンを素手で圧倒するだと……!?」
ジュリアンの声が震える。
彼の目には、驚愕と畏敬が混ざり合っていた。
アイスドラゴンは力なく、深い雪の中へと沈みこんでいく。
その巨体が雪煙を上げながら静止する様は、まるで時間が止まったかのようだ。
そして、謎の人物が静かに彼らの前へと歩み出る。
その姿は、吹雪の中でもくっきりと浮かび上がっていた。
緑がかった外套をまとい、黄金のたてがみをたなびかせた巨体。
その鋭い瞳と牙がわずかに覗くたび、肉食獣のような圧倒的な威圧感が辺りに広がる。
彼の存在そのものが、まるで「頂点」を象徴するかのようだった。
「まさか……! どうしてここに……!」
シャルロットが息を飲む。震え混じりの声がかすかに漏れた。
彼女の目には驚きと警戒が浮かび上がっている。
その男が何者なのか――彼女は既に知っていた。
そして知っているからこそ、全身に走る冷たい緊張を抑えることができない。
「獣王、グリムフ……!」
その名がかすかな風に乗り、雪原に響き渡る。
目の前に立つその男こそが、レシア要塞を支配する《獣王》。
王国騎士団が討伐を命じられた、魔王軍最強の一角だった。
「よく来たな、オルレアヌの勇者よ。待っていたぞ」
グリムフの口元に浮かぶのは、氷のような冷笑。
その低く抑えた声は、重々しくも耳に響く。まるで地の底から響き渡る地鳴りのようだった。
「勇者の力――とくと見せてもらおうか」
その言葉が放たれた瞬間、世界が凍りついた。
否、そう感じるほどの圧倒的な威圧感が彼らを包み込む。
山嶺を駆け抜ける寒風さえも、その場で押しつぶされて動きを止めたかのように感じられた。
ジュリアンとシャルロットは、どちらともなく剣を構える。
一瞬の静寂。
だが、次の瞬間――。
戦いの幕は、今まさに上がろうとしていた。