美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「勇者の力――とくと見せてもらおうか」
グリムフの声が雪原に響き渡った瞬間、まるで時が止まったかのように空気が凍りついた。
獣王の存在感は、まさに『絶対者』そのもの。
人間などという小さな存在を見下ろす巨峰が、突如として意志を持って動き出したかのような威圧感だった。
風になびく黄金のたてがみは、まるで燃え盛る炎のように荒々しく揺らめき、白銀の雪原で妖しく輝く牙は、どれほどの強者の命を刈り取ってきたのだろう。
その瞳には、太古より続く獣の王としての誇りと、人を畏怖させる凄みが宿っていた。
「ふーん、獣王ねぇ。ライオンの姿だから百獣の王って訳か。三獣士のやつらといい、ネーミングがちょっと安直すぎないかのう?」
グリムフの威圧感など物の数ではない、権蔵はしたり顔で軽口をたたいて見せたが、その脳裏では別の思考が猛スピードで展開されていた。
(うむ、これはええ展開じゃ。かつてヘラクレスが獅子を討てば英雄となったと聞く。こやつを打ち倒せば、わしの名声はさらにうなぎ登り……さすればオルレアヌでショタっ子たちから黄色い悲鳴が飛び交うこと間違いなし! ぐへへ、そうなればもうモテモテどころじゃないぞ! ぐちょんぐちょんの快楽の日々、そして美少年ハーレムへの道が、ぐわっはっは、約束されたも同然じゃ!)
ショタっ子たちとの輝かしい未来図と、山賊勇者という汚名返上のチャンスに、権蔵の理性は完全に吹っ飛んでいた。
頬を紅潮させ、今にも鼻血を噴きそうな勢いで、彼はシャルロットへと熱い視線を投げかける。
「げへへへへ。そういやシャルちゃんよ。あやつの強さってどんなもんなんじゃ? ちょっとは楽しめそうかの?」
その締まりのない顔で間抜けな笑い声を浮かべる勇者に、一瞬戸惑いを見せたシャルロットも、すぐに真剣な眼差しを返す。
「彼は四凶将軍の一人です。魔王軍でも五指に入る実力者と言われています。純粋な腕力では魔王国において比肩する者なしと……。そして――レシア要塞を、たった一人の拳で陥落させたとも」
「ほう、力自慢か。要塞を一人で陥としたとな?わしと似たようなもんじゃな。気が合うかもしれんのー」
権蔵は満足げに頷いた。
腰の酒瓶を手に取り、一口飲み干す。アルコールが五臓六腑に染み渡る至福を感じながら、空になった瓶を放物線を描くように放り投げた。
そして、ニヤリと笑い、右手をグリムフに向けて差し出す。
「……なんのつもりだ」
グリムフの声が低く響く。
その目には、警戒と興味が入り混じった光が宿っていた。
「なに、警戒せんでもええ。わしはお主と戦う前にあいさつをと思っただけじゃ。これは、魔族と勇者の友好の証じゃよ」
その言葉を聞いたジュリアンが血相を変えて色めき立つ。
「き、貴様! 魔族と友誼を結ぶだと! 一体何を考えて……まさか私たちを裏切って魔王国に寝返るつもりか!?」
ジュリアンの言葉を聞いた権蔵は含みのある笑みを浮かべた。
権蔵の言葉に、グリムフは一瞬眉をひそめたが、すぐに嘲笑を浮かべる。
「……ふっ、人間風情が我と友好の証だと? 笑わせる。まあよい、くだらぬ茶番だが一度だけ付き合ってやろう」
グリムフの山のような手が、権蔵の手に触れる。
身の丈三メートルほどの巨躯の獣人と、一メートル八十センチほどの中年男。
その体格差は歴然だったが、権蔵は涼しい顔で、しっかりとグリムフの手を握りしめた。
そして――その瞬間、二人は石のように固まった。
「……あれれ? ご主人さま、フリーズしちゃいました?」
カイトが不思議そうに顔を傾げる。
そこに、苛立ちを滾らせたジュリアンが割って入る。
「おい、権蔵。何をグズグズしている。戦うなら、さっさと戦えばいいだろ!」
巻き毛の少年は剣をぎゅっと握りしめ、今か今かと戦いが始まることを待ち焦がれていた。
「……いいえ、違います。ジュリアン」
シャルロットが静かに、しかし確かな声で告げる。
「戦いは、もう始まっています。権蔵様とグリムフは、今まさに互いの力を探り合っている。これは言葉ではなく、体で紡ぐ戦士たちの対話なのです」
その言葉が終わるか終わらないうちに、雪原が微かに震え始めた。
二人の手が触れ合う一点から、目に見えない衝撃波が広がり、周囲の雪が舞い上がる。
「……ふん、オルレアヌの勇者よ。なかなかやるではないか」
権蔵は、グリムフの声に初めて混じった本気の色を感じ取った。
これまでの余裕は消え、真剣な眼差しが自分に向けられている。
「げへへへ、お主も大したもんじゃ! これでわしは80%の力ってとこかの」
豪快に笑ってみせたものの、額には大粒の汗が滲んでいた。
全身の筋肉が悲鳴を上げるほど緊張し、血管がまるでミミズのように浮き出るのを感じる。
「ふ、では我は70%の力でいくぞ!」
グリムフの重圧が、権蔵の手にのしかかる。
獣人の域を超える、まるで化け物が宿ったかのような力。
全身の力で抵抗する権蔵のかかとが、ゆっくりと、しかし確実に地面を離れていく。
「70%じゃと!? くそが! じゃあわしは80%でいくぞい!」
呼吸を整え、体内に封じ込めた馬鹿力を一気に解放する。
「ぬうっ、やりおるな!? 我の手が悲鳴を上げているわ!」
グリムフが唸り声を上げ、よろめき後退する。
彼の巨体が大きくぐらつき、必死に踏ん張るさまは、まるで暴風に耐える巨木のようだ。
だが互いの力は拮抗していた。
「なるほど……確かに、貴様は只者ではないな。では、我もそろそろ本気を出すとするか」
グリムフは感心したような声を漏らしながら、再び体勢を整えた。
口元には、挑戦的な笑みが浮かんでいる。
(コイツまだ余裕があるのか!? ……これはまずい。本当はわし、もう100%の力出してんのに!)
異世界に召喚されて以来、力比べで負けたことのない権蔵。
それは彼の密かな誇りだった。
だが、このグリムフという男は違う。
初めて出会った、真に対等な──いや、もしかすると自分以上の怪力の持ち主。
このまま力で勝負するか──。
しかし、ここが勝負の分かれ目であることは明らかだった。
(ここは、わしの十八番じゃ!)
突然、権蔵の目が、くわっと開く。
「おやぁ!? あそこにメスライオンのかわいこちゃんがおるぞ!」
「なにっ!?」
獣のオスとしての本能が働いたのか、グリムフの首が反射的に動く。
その隙を逃さず──。
「どっせぇえええええい!!」
普段の酔っ払いと侮るなかれ。
権蔵は、雪煙を巻き上げながらも、華麗に宙を舞い上がる。
まるで、凍りついた冬空に咲く一輪の花のような身のこなしで、彼は全身の力を込めた渾身のドロップキックを放った。
「ぬぉおおおっ!?」
グリムフの顔面に直撃した一撃は、まるで大砲の弾丸のような威力だった。
獣王の巨体が雪煙を巻き上げながら吹き飛び、雪山の壁に激突。
轟音と共に白銀の中へと消えていく。
衝撃で周囲の雪が舞い上がり、まるで時間が止まったかのように、世界が白く染まった。
「げへへへ、これで勝負あったな!」
権蔵は飄々とした笑みを浮かべ、尻から着地する。
彼の目には、確かな勝利の自信が宿っていた。
「ご主人様、すごいです! 一発で決まっちゃいましたね!」
無邪気に歓声を上げるカイトに対し、ジュリアンは眉をひそめる。
「卑怯者だ。これが勇者の戦い方か。姑息な手を……」
「げへへ、勝てばいいんじゃよ、勝てば」
しかし、その笑顔の裏には、どこか陰りも宿っていた。
シャルロットの鋭い声が、次の行動を告げる。
「カイト様。傷ついた兵士たちの治療を、お願いできますか?」
赤毛のメイド少年、カイトは一瞬驚いた顔を見せると、すぐに元気よく答えた。
「あ、はい! わっ!? こんなにたくさんの兵士さんが……でも、大丈夫です! 皆さん、すぐに治してあげますからね♪」
カイトはまるで雪の妖精のように、軽やかに傷ついた騎士たちの間を駆け回る。その小さな手先からは、温かく煌めく癒しの光があふれ出し、凍てつく雪原に柔らかな春の日差しをもたらすかのごとく、兵士たちの傷を一瞬で癒していった。
「おーおー、カイトよ。こんなところで道草を食ってどうするんじゃ。さっさとレシア要塞に向かうぞ」
その声が響く中、権蔵の冷ややかな声と共に、憤りを秘めたジュリアンの鋭い抗議が飛び出す。
「貴様、本気で言っているのか!? この怪我人の山が見えぬのか! 彼らを見捨てるなど、人間として決して許されざる行為だぞ!」
ジュリアンの怒声に、権蔵は鼻で笑うように返す。
「知らんがな。わしの目的は要塞攻略だ。そして、エリオットきゅんへのおみやげを手に入れるためじゃ。こんなところで油売っても、一文の得にもならん」
ジュリアンの怒りが最高潮に達し、ついには声を荒げる。
「……もういい! 私は本当に、貴様に失望した! 私一人でも彼らを守る――」
その瞬間、凄まじい爆風が辺りを襲い、戦場の空気が一変した。
「……生意気な!」
異様な咆哮が雪原に轟き渡ると、まるで嵐そのものを纏ったかのような威圧感とともに、獣王グリムフが雪煙の中から現れる。
彼の出現は、冷たい風とともに大地を震わせ、まるで天地をも揺るがすかのような迫力を放っていた。
「ちっ、やはり一撃では仕留めきれんかったか……」
グリムフの耐久力は、想像を絶するほど凄まじかった。
権蔵が全身の力を込めたドロップキックですら、その獣人の肉体に致命的なダメージを与えるには至らず、これまで戦ってきた魔族とは、まさに次元が違う強さを誇っていた。
「権蔵様、お力添えいたします!」
シャルロットは聖剣を構え、グリムフに向かって躍り出ようとする。
「シャルちゃん、下がっとれ」
「でも……!」
「大丈夫じゃ」
権蔵は静かに告げる。
「わしの勇者の力……加減を間違えれば、おぬしも巻き込むことになる。下手をするとこの雪山ごと消え去るやもしれん」
権蔵の声に、かすかな高揚が混じっていた。体の奥底で眠る純粋な戦意が、少しずつ目覚めていく。
最強の男を目指す者として、強者との邂逅は心躍る瞬間だった。
シャルロットが躊躇いがちに後退するのを確認すると、権蔵は獣王へと向き直った。
「山を消し飛ばす? ふははは! 随分と大それたことを言うな! 自信があるのは結構だが、冗談はほどほどにするがいい!」
グリムフの嘲笑が谷間に響き渡る。
「お前はなかなか面白いやつだ。よかろう、ではその真偽を確かめさせてもらうとしよう」
次の瞬間、権蔵は新たな気配を察知した。
獣王の背後から巨大な影が現れる。先のアイスドラゴンとは比べものにならない巨体を持つ、もう一匹の竜だった。
「おいおい、獣王さんとドラゴン、二匹を相手じゃと? ここはまるでバーガーチェーン店のハッピーセット並みに、サービス充実ってわけか!」
権蔵が両手を大きく広げ、挑戦的な笑みを浮かべたその瞬間、シャルロットの鋭い警告が、冷たい雪原に響き渡る。
「権蔵様、どうかお気をつけてくださいまし! アイスドラゴンの真の脅威は、その氷の息吹…全てを凍りつかせ、粉々に砕く魔のブレスですわ!」
しかし、シャルロットの叫びが届く前に、竜の巨口がギュッと開かれ、まるで深淵から湧き上がるかのような青白い光が奔流となって解き放たれた。
「うひゃあ! こいつはまじで冷てぇぞい!」
権蔵の豪快な叫びも虚しく、その身は瞬く間に氷の牢獄へと閉じ込められていく。
「権蔵様!」
シャルロットの悲鳴が雪原に切なく響き渡る。
氷像のごとく固まった権蔵を、アイスドラゴンはその巨大な鱗に覆われた掌で掴み、無情にもその巨口へと運ぼうとする。
「権蔵、待ってろ! 今、助けに行くからな!」
ジュリアンが剣を抜き、勢いよく突進の構えを取ろうとするが、その刹那、獣王グリムフが冷酷な威圧感を漂わせながら仁王立ちで前に立ちはだかった。
「待て、小僧。これは勇者の力試しだ。お前の手出しは、絶対に許さん!」
「くそっ……!」
ジュリアンはグリムフの圧倒的な存在感に足がすくみ、立ちすくむ。
一方、アイスドラゴンの口の中では、権蔵が氷の塊に固まっていた。
だが、その顔には妙な余裕が漂い、まるで自分が今ピンチに陥っているという事実さえ、どこ吹く風のごとく感じさせなかった。
「……氷の中って、意外とポカポカするんじゃな。雪国のかまくらがあったかいって話、あながち嘘じゃないってことか」
権蔵は、氷の牢獄の中であくびを一つ。
まるで温泉にでも浸かっているかのような表情で、今の状況を全く気にしていない様子だった。
「あいつ、全身が凍ってるのに平気なのか?」
その呑気すぎる声に、ジュリアンは目を疑った。
しかし、ほんの一瞬の隙をつくかのように、権蔵の体がぬるりと動き出すのが見えた。
「さて、そろそろ潮時じゃな」
権蔵は静かに呟くと、内なる力を全身に呼び覚ます。
次の瞬間、彼を包み込んでいた氷塊が一斉に粉砕され、アイスドラゴンの口内で激しい爆発が巻き起こる。
「グオオオオオオオンッ!」
爆音と共に、アイスドラゴンが悲鳴を上げる。
巨体が激しく震え、必死に権蔵を吐き出そうとするが、権蔵はその凍結した空間の中でしっかりと踏ん張り、微動だにしなかった。
「ふむ、獣王……あやつはドラゴンを締め落としておったな。ならば、わしは──」
不敵な笑みを浮かべると、権蔵は拳を高々と掲げ、アイスドラゴンの頭部を狙い定める。
「拳の一撃で粉砕してくれるわ! 必殺! 『権蔵式・昇竜アッパー』!!」
その一撃は、まるで山々をも揺るがすほどの衝撃を放ち、アイスドラゴンの頭部を天高く吹っ飛ばした。
巨大な竜の体が崩れ落ち、雪原にでっかい穴を穿つと、まさに冬の大地が激しく叫んでいるかのようだった。
その刹那、権蔵はまるで軽業師の如く、竜の口内から軽やかに飛び出し、悠然と雪原へと着地する。
「げへへ、ドラゴンごときに、勇者であるわしが手こずるわけがあるか! 所詮はデカいトカゲ同然。わしの拳一発で、十分じゃ!」
鼻をほじりながらも権蔵は余裕綽々の表情を浮かべ、まるで朝の散歩でもしているかのように、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「ま、まさか……あのアイスドラゴンを一撃で葬り去るなんて……!」
シャルロットの瞳は驚愕の炎を宿し、その美しい顔が一瞬で硬直する。
彼女の心の中には、権蔵の実力に対する新たな畏敬の念が芽生えていた。
「えっへん! ご主人さまはこう見えて最強なんですよ♪ 知らなかったんですか、お姉さん♪」
カイトが背伸びをし、誇らしげに話す。
その声には、権蔵に対する絶対的な信頼と誇りが込められており、まるで自分が勝利したかのような満足感に満ちている。
「なるほど、ただのハッタリではないということか。豪快でありながら傲慢なる一撃。もしかすると、山岳そのものすら一撃で粉砕してしまう威力を秘めておるのかもしれぬ」
黄金のたてがみが風に揺れ、鋭い瞳が権蔵を見据える。
「カーンの街での三獣士との熾烈な戦い……魔導水晶越しにて見届けたが、やはり、その実力は疑いようもない。サバンナの覇王である我に、堂々と肩を並べる資格、十二分に備えておると見てよい」
その言葉と同時に、グリムフは突如としてオレレト山の頂へと視線を向けた。
彼の横顔に、野獣のような凛々しい笑みが浮かび上がる。
次の瞬間、獣王の姿はまるで幻のように消え去り、雪煙を巻き上げながら、彼は猛然と山頂へと駆け上がった。
「はぁっ!」
雷鳴のごとき轟音が、静寂な空気を切り裂く。
グリムフの一撃は、天をも裂くかの如く、山の頂を容赦なく二分した。
「な、何だと!? やつは、山そのものを……素手で裂いたとでも言うのか!?」
ジュリアンの震える声が、凍てついた空気に消え入る。
切り離された山頂の一部が、異界からの使者の如く彼らの前に飛来して姿を現す。
轟音とともに大地は激しく震え、白銀の煙が舞い上がる光景は、まるで神々の力技を目の当たりにしているかのようだった。
雪煙が次第に晴れたその先に広がっていたのは──円形の壮麗な闘技場と化した山頂。
その中央に、黄金のたてがみを風に翻し、威風堂々と立つ獣王グリムフがあった。まるで天空に鎮座する神々の戦台、その圧倒的な存在感で、全てを見下ろしているかのようだ。
「勇者よ」
グリムフの声が、凍てつく雪原に轟轟と響き渡る。
「舞台は整った。貴様が山を穿つ拳を持つならば、貴様が山を穿つ拳を持つならば、我の拳は天をも砕く! さあ、その拳で我に挑んでみよ!」
その一言には、純粋な戦士としての昂揚と、熱い闘志が滾っていた。
「……ほう。これは、まるで相撲の土俵のごとき風情じゃな。懐かしいのぉ、わしもかつてちびっ子相撲大会で横綱に輝いたもんじゃ」
闘技場に一歩を踏み出すや否や、権蔵から放たれる凄絶な闘気が辺りを支配し、その威圧感で空気すら震え出す。
「げへへ……よかろう。力と力、技と技、魂と魂の真っ向勝負。どちらがこの世界で一番の力士なのか、今こそ決着をつけてやろうではないか!」
二人の間に、見えぬ火花が激しく散る。
天空に築かれたこの壮絶な闘技場で、前代未聞の決戦の幕が、今、華々しく上がろうとしていた。