美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
権蔵は、目の前に広がる闘技場の風格に、まるで時の流れを遡るかのような懐古の念に駆られた。
「……ほう。これはまるで相撲の土俵じゃな。懐かしいのう、わしも昔はちびっ子相撲大会で優勝したもんじゃ。あの時は、体当たりで相手を場外にぶっ飛ばして、観客がびっくり仰天したものじゃ。まさに『小さな体に大和魂』そのものだったわい!」
その瞬間、権蔵の胸中には、幼き日の栄光とともに、今ここに立つ自分への闘志が激しく交錯した。
かつての歓声や拍手の音が耳元に蘇り、ふとした微笑みが彼の唇をよぎる。
眼前の土俵は、古の相撲の伝統そのものを体現しているかのようで、厳粛な空気が漂っていた。
まるで土俵自体が「さあ、お前の力を見せてみろ」と挑発しているように感じられ、権蔵は自然と背筋を伸ばす。
その時、闘技場に立つグリムフが、低く好奇心を帯びた声で問いかけた。
「『相撲』だと? 聞いたこともない格闘技だな。そいつは、いったいどれほど強いというのだ?」
権蔵はにやりと笑い、声に力を込めて答えた。
「げへへ......相撲を甘く見るでないぞ。千年の昔より、神々の前で戦われてきた神聖なる格闘技よ。それは、荒々しい山の岩が幾年もの間、川の流れに揉まれ、磨かれ、ついに美しき玉石となるが如く──相撲もまた、時を重ね、研ぎ澄まされた技と力、そして魂が宿るんじゃ。その奥深さ、尊さ……並ぶものはない」
グリムフは片眉を上げ、目を細めた。
「ほう、千年の歴史を持つとは……我が『獅子剛流』にも劣らぬ、古き伝統か」
権蔵は闘技場に深々と一礼すると、上着と靴を丁寧に脱ぎ、素足で土俵へと歩を進めた。
先ほどまでの不敵な態度が一転し、厳かな所作を見せる権蔵に、グリムフは腕を組み、声を落として問いかける。
「勇者よ、『ブフル』を知っているか?」
「『ブフル』? 知らんな。ワッフルの親戚かい? 美味そうな名前じゃのう」
グリムフは誇り高き獅子の如く、たてがみを揺らして微笑んだ。
「では語ってやろう。『ブフル』とは、我ら獣人族が年に一度、大地の恵みと共に催す聖なる格闘祭。勝者には『アルスラン』の称号が与えられ、真の王者として君臨する権威を得る」
「ほう、相撲の横綱みたいなもんか。で、お主はどんくらい勝っておるんじゃ?」
「百年」
グリムフの瞳が見開かれ、強烈な輝きを放つ。
「百年間、誰一人として我が背を地につけることはできなかった」
「おおー! 無敗の王者様じゃねえか! 実はわしもな、ガキの頃は『怪童ゴン』って呼ばれてよ、近所の相撲大会じゃ百戦百勝、誰も寄せ付けん勢いじゃった。おぬしとは、なんつうか、気が合いそうだわい」
権蔵は懐かしむように目を細めたが、突如として頬を朱に染めながら続けた。
「ま、ある決勝戦でな。土俵際の大一番、相手を投げ飛ばそうと気合を入れすぎて……うっかり屁をこいでしまってな。翌日から『屁コキのゴン』なんて呼ばれるようになっちまった。今じゃ笑い話よ」
「お前もまた『相撲』という格闘技の王者か......これは思いがけない巡り合わせだ」
グリムフは天を仰ぎ、サバンナの風を感じるかのように目を細める。その口から零れる言葉は、古の誓約のように重く響いた。
「この闘技場はブフルの聖なる形を模している。すなわち、ここでの戦いは我らの神聖なる儀式と同じ重みを持つ。もしサバンナの王たる我が土をつけられたのなら……それは完全なる敗北を意味する。獣人族は人間の領土から永遠に手を引くことを誓おう」
その誓いが空気を震わせた瞬間。
「ま、まさか......本当にそのような約束を!?」
シャルロットの声が、暗闇を切り裂く光明のように震えた。しかし、すぐにジュリアンが口を挟んだ。
「お姉さま、相手は獣人という以前に魔族ですよ! 幾つもの人間の国を血に染めてきた虐殺者です。そんな連中の言葉など、毒を塗られた蜜のようなもの。決して信じてはなりません」
グリムフは静かに首を振り、低く厳かな声で否定する。「小僧、王の重みを知らぬ者に、誓いの意味など語れまい。約束を守れぬ王など、獣ですらない。この獣王の魂に誓って──必ず守る」
だが、その厳かな誓いとは裏腹に、グリムフの瞳の奥には月下の狩場で獲物を追い詰めた猛獣の狂気が渦巻いていた。
「しかし──小僧が言うように魔族たる我らの本性もまた真実。もし我が勝利の暁が訪れるなら、オルレアヌの民の命運は、獣人族の手に委ねられることになる。サバンナの掟に従い、弱き人間どもの牙を根こそぎ抜き、皮を剥ぎ、その肉を一片たりとも無駄にせず、貪り食ってやろう」
その言葉にシャルロットとジュリアンの全身から血の気が引いた。
「そんな……待ってください! そのような国家の命運を賭けた約束を、私たちだけの判断で──」
「よかろう。わしが受けて立とう」
権蔵の声が、まるで巨岩が轟くように重く響く。
「お待ちください! 権蔵様、そのような勝負をされては、この国が滅びの道を──!」
「正気か!? 貴様、オルレアヌの運命を賭けた戦いだぞ!? そのような重大事を、酒場の戯れ事のように──!」
シャルロットとジュリアンの声が、必死の形相で交錯する。
「黙っとれ。わしはオルレアヌの勇者なんじゃ。この国の未来を託されるのは、当然のことよ」
シャルロットへ向き直った権蔵は、まるで酒を酌み交わすような打ち解けた口調で語りかけた。
「それとも、シャルちゃんや。わしに勝ち目がないと言うんかい?」
「そ、そんな! 決してそのようなことは! 貴方こそ、オルレアヌの──いいえ、世界の希望! 私は信じていますわ!」
シャルロットの瞳が、真摯な光を放つ。
「ほうじゃろう! わしは世界最強の勇者じゃ。どんな敵が来ようとも、この腕で捻りつぶしてくれるわい!」
権蔵は巨木のような右腕に力を込め、得意げに力こぶをつくる。
「お前が……世界最強だと?」
低く唸るような声が響く。
「この獣王グリムフを差し置いて? 笑わせるな」
グリムフの瞳が、血に飢えた獣のように赤く輝きを増した。
「愚かな人間よ。この獣王グリムフこそが、真の最強の男よ──されば教えてやろう、サバンナ格闘術『獅子剛流』の真髄とやらを」
獣王の全身から放たれる殺気は、まるで実体を持つかのように蠢いていた。
それはまさに百獣の頂点に立つ獅子王の威厳そのもの。大地さえもその圧迫に震えているようだ。
「ぐふふふふ、お互い気合十分といったところじゃの。さあて......始めの合図はどうする?」
グリムフは不意に、ジュリアンを鋭く指差した。
「小僧、お前が裁定者となれ。開始の号令を上げるのだ」
まるで運命に見放されたかのような表情で、ジュリアンは目を見開いた。
「は、はあ!? なぜ私が魔族の言うことを聞かなければならないのだ! こんな無法な勝負など、断じて認められない! 私は──」
明らかな困惑と不満が混じった声を上げるジュリアン。
しかし、その抗議は獣王の前に無力だった。
「ふんっ!!」
グリムフは軽く鼻を鳴らすと、鋭い爪を立てた腕を一閃。
次の瞬間、ジュリアンの足元で爆発の柱が吹き上がる。
轟音と共に地面が砕け、土煙が舞い上がった。
「うわぁっ!?」
情けない声を上げ、ジュリアンは衝撃で吹き飛ばされる。
彼の体が地面に叩きつけられ、冷や汗が額を伝い落ちた。
薄目を開けながら、彼は必死に自分の足元を見下ろす。
「な、なんだこれは……!?」
そこには、底が見えない大穴が口を開けていた。
円形の闘技場の際に接する地面が、まるで何者かに切り取られたかのように円形に陥没し、深淵が広がっている。
その光景は、まるで崖が突然現れたかのようで、ジュリアンの顔から一気に血の気が引いていく。
「ルールは明快。闘技場で肘、膝、頭、背中、尻──この五点が地に着けば即座に敗北となる。場外で足を着くも同様。そして──」
グリムフは牙を覗かせ、血に飢えた獣のような笑みを浮かべる。
「命を落とすことだ。それもまた、敗北を意味する」
その凶刃のような言葉を受け、権蔵は酒に酔うように朗らかな笑みを浮かべている。
「ほぅ......相撲とさして変わらぬルールじゃが、命を賭けるとはまた粋な趣向よ。よし、ええぞ。日本と異世界の格闘技、どちらが優れているのか、この手で確かめてやろうではないか」
「うむ、では試合開始としよう」
グリムフが静かに告げる。その声には、先ほどの昂揚に加え、確かな覚悟が宿っていた。
二人は対面すると、ゆっくりと腰を落とし、互いを見据える。
天空の闘技場に、張り詰めた空気が漂い、一触即発の緊張感が高まっていく。
「ううっ、始めっ……」
すっかり腰が抜けたジュリアンのか細い声が、かすかに響き渡る。
その声は、まるで風に揺れる蜘蛛の糸のように弱々しく、しかしそれを合図に、二人の巨体が動き出す。
「うおおおおおおっ!」
天を突くような雄叫びを上げながら、グリムフの巨体が、まるで戦車のように雪煙を巻き上げながら突進してくる。
「どりゃあああああ!」
権蔵もまた、四十年の自堕落生活で蓄えた脂肪の力を解き放つ。メタボ中年勇者の雄叫びが、天をも揺るがす。
ごぉおおおおおん!
二つの頭部が正面からぶつかり合う。
まるで巨大な岩が激突したかのような衝撃音が、天空の闘技場に轟き渡り、周囲の雪が一瞬にして吹き飛ぶ。
「くぅっ……! わしの『ぶちかまし』で砕けんとは……おぬしの頭はダイアモンド製なんかよ!」
「ふぅうううう。我の突進を、正面から受け止めるとはな……。見かけは人間の脂肪の塊と思いきや、中身は巨木のごとき屈強さだ!」
これまで数え切れぬ強者を一撃で葬り去ってきた獣王と、ここまで互角に渡り合える相手は初めてであった。
「げへへ……おぬしもなかなかやるのう! だが、このわしがリミッターを外したら──どうなるかわからんぞ?」
そして、二人は激しく頭をぶつけ合いながら、押し引きの攻防を繰り広げ始めた。
剛者同士の一進一退は、闘技場すら震わせるほどの激戦となる。
権蔵は普段の飄々とした笑みを崩さぬよう努めたが、その額には、確かな汗が滴り落ち、今まさに命運を賭けた戦いの緊迫感を物語っていた。
(ぐぉおおおおお! やっぱこいつのクソ力やばすぎるぞい……これが野生の力ってやつかよ……)
内心では驚きを隠せない。
百年無敗の獣王の力は、想像を遥かに超えていた。歯を食いしばりながら全身の力を振り絞るが──。
「まだまだぁっ!」
グリムフの咆哮と共に、さらなる怪力が押し寄せる。
権蔵の足が、少しずつ、だが確実に後退していく。
ついには闘技場の端まで追いやられ、背後には敗北という底なしの闇が口を開けて待ち構えている。
「権蔵様! お気をつけて! あと一歩で場外負けですわ!」
シャルロットの悲鳴のような声が響く。
土俵際で踏ん張る権蔵。
その足は、まるで大地に根を生やしたかのように踏みとどまろうとする。
「ふはははは! どうした勇者よ! お前の相撲とやらは、この程度か!? もう一押しで、我が勝利を刻むぞ!」
グリムフが圧倒的な力で権蔵を闘技場の外に押し出そうとしたその瞬間、権蔵の頭の中にかつての相撲の記憶が蘇る。
幼少の頃に習得した技術が、今まさに試される時だった。
「ここが正念場じゃな……!」
権蔵は瞬く間に決断を下し、鋭い眼光をグリムフに向けた。
彼は一気に前へ踏み出し、勢いよくパンと柏手を打った――これは彼の得意技「猫だまし」だ。
その掌の拍手音が耳に響くと同時に、グリムフの表情に一瞬の隙が走った。
「むっ!?」
驚愕の声とともに、グリムフは一瞬動揺する。
その瞬間を逃さず、権蔵は素早く背後へ回り込み、グリムフの、まわしのような厚手のパンツに指を絡める。
「取った! 獣王さんよぉ。相撲において、相手にまわしを取られるということがどんなに恐ろしいことか――今から思い知らせてやろう! どりゃあっ!」
権蔵は低く構えながら、腕に力を込め、腰を据えてグリムフの巨体を吊り上げる。
その所作は、まるで千年の歴史を持つ相撲の神髄そのもの。見る者の息を呑ませるほどの完璧な技の冴えだった。
「何っ!?」
グリムフの瞳は驚愕で大きく見開かれ、反射的な怒声が空気を裂いた。
だが、権蔵は得意げな笑みを浮かべ、まるで勝利が目前に迫ったかのように、さらに体勢を整えながら前進し、押し出す力を加えた。
「げへへへへ、思ったよりあっけなかったのう。これで終わりじゃ」
「これが相撲の技……素晴らしいですわ!」
シャルロットの声援が響き渡る中、権蔵の体からは、今までにない気迫が溢れ出ていた。
「ぬおおっ!?」
だが、グリムフもサバンナの王者の名は伊達ではない。
巨体を上下に激しく揺すり、必死に態勢を立て直そうとする。
ついには両のつまさきを土俵の縁に着地させ、踏ん張り、底力を振り絞った。
「うおぉおおおおっ、舐めるなよ、人間……! 『獅子剛流・血醒脈』!」
突如、グリムフの黄金のたてがみが逆立つ。
全身から獣王の威光が漲り、押し出そうとする権蔵を逆に押し返さんとする怪力が迸る。
両者の力が拮抗し、土俵際で膠着状態に。
獣王の放つ圧倒的な威圧感に、権蔵は思わず息を呑む。
「こやつ……あと一歩というところで……! とんでもねえ力じゃ。外に押し出せん!」
権蔵の呟きに、グリムフは獲物を追い詰めた猛獣のような笑みを浮かべる。
次の瞬間、怒涛の反撃が始まった。
まるで稲妻が走ったかのように、グリムフは両腕を振り上げ、権蔵の手を払い上げる。
そして、その巨体とは思えない軽やかさで、空中へと舞い上がった。
「『獅子剛流・雷鳴脚』!」
「なぁっ!?」
権蔵の驚愕の声が響く中、グリムフの放った回転蹴りが風を切り裂く。
それは、まさに獅子の咆哮のような威力を帯びていた。
とっさに両腕でガードする権蔵だが、その蹴りの衝撃は想像を超えるものだった。
まるで雷に打たれたかのような衝撃と共に、彼の体は闘技場の中央まで吹き飛ばされる。
「勇者よ。また仕切り直しだな」
「ぐぬぬぬぬ……」
グリムフは圧倒的な力を見せつけながら、悠然と土俵中央へと歩を進める。その姿は、まさに百獣の王の威厳そのもの。
巨体が、まるで動く山のように権蔵の前に立ちはだかった。
ジュリアンは愕然とした表情で呟く。
「信じられない……あの権蔵が、あの馬鹿力だけが取り柄のバカ勇者が、ここまで追い詰められるなんて……もし、あいつが負けたら……オルレアヌは、もう……」
シャルロットは真剣な眼差しで闘技場を見つめながら、静かに、しかし力強く語り始めた。
「ジュリアン、信じましょう。権蔵様の勝利を。あのお方はこの国が選んだ勇者。そして、私たちの希望なのです。きっと──必ずや、この窮地を救ってくださるはず」」
その言葉に、ジュリアンはハッと我に返る。
そして、覚悟を決めたように大きく頷いた。
「はい、その通りです。今はあの破天荒な男を、信じるしかありません」
二人は固い決意と共に、土俵上の攻防を見守ることを選んだ。
グリムフの巨体が、まるで動く城壁のように立ち塞がる中、権蔵は再び構えを取り直す。
「ふぅ……格闘のプロが相手じゃ横綱相撲とはいかんか。さあて、どうしたもんかのう……」
ハゲ頭を伝う冷や汗が光るも、その目には依然として燃え滾る闘志の炎が宿っていた。