美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「権蔵さま、お部屋はこちらです」
先ほどの喧騒が嘘のような静寂に包まれた長い廊下を歩きながらやがて一行が辿り着いたのは、王城の最上階に位置する一室。
グレイが恭しく重厚な扉を開くと、そこには権蔵の貧弱な想像力など容易く吹き飛ばす、まさに神々の宮殿と見紛うばかりの空間が広がっていた。
壁一面に施された繊細な金箔の装飾がきらめき、床には足が沈み込むほどに柔らかく、複雑怪奇な模様が織り込まれた最高級の絨毯が敷き詰められている。
磨き上げられた大窓から差し込む月光が、深紅のビロードで覆われた豪奢な天蓋付きの寝台や、金糸の刺繍が施された絢爛たる調度品を、銀色に、幻想的に照らし出していた。
「わーーーーっ、すごーーーい!! 金ピカ! ふかふか! まるでお姫さまのお部屋みたいですー!」
権蔵よりも先に、カイトが歓声を上げて部屋に飛び込んだ。
「ほほう……こいつは……たまげたわい! なるほど、これが王城の客をもてなす部屋か。さすがは一国の王の居城よな。わしのドルテナの根城も、それなりに気に入っておるが、この目も眩むようなきらびやかさの前では、さすがに掘っ立て小屋に見えてしまうわい!」
権蔵もまた、目を爛々と輝かせ、まるで初めて玩具を与えられた子供のように、興奮気味に部屋の中を物珍しげに歩き回る。
その間にも、カイトはすでに、巨大な天蓋付き寝台の上でトランポリンよろしくぴょんぴょんと跳ね回り、その弾力を満喫していた。
「こらこら、カイト! 主人であるわしよりも先に王族のベッドで跳ねるとは何事か! ……まあよい。後でわしもやらせてもらうとしよう」
権蔵は叱りながらも、自らもその寝台にどさりと遠慮なく腰を下ろし、高級な木材がギシリと鳴る音に満足げな笑みを零した。
「ふぅ~、やれやれ。今日はさすがに骨が折れたわい。特にあの生意気盛りのジュリアンと、出しゃばりな騎士団長どもめ……寄ってたかってこのわしを悪者のように扱いおって! わしはシャルロットなどという、胸ばかりデカい娘っ子と結婚する気など、毛筋一本ほども無いと何度言えば分かるのじゃ、あの石頭どもは! まったく、人の話を聞かんにもほどがあるわ!」
晩餐会での不愉快極まりない口論を思い出したのか、権蔵は苦虫を噛み潰したような顔で、眉間に深い皺を刻む。
ディミトリ公爵から一方的に押し付けられたシャルロットとの婚姻話を、事情も知らぬ騎士たちに誤解され、よってたかって糾弾されたのは、権蔵にとって理不尽の極みであった。
「でも、ご主人さま、あれはかっこよかったですよ! あんなにたくさんの貴族の人たちに睨まれてるのに、まったく動じないで堂々としてて! ぼく、ちょっと見直しちゃいました!」
カイトが寝台の上から、キラキラした瞳で、若干ピントのずれた賛辞を送る。
「ふん、当然じゃ。あんな三下の連中に何を喚かれようと、この【英雄】権蔵さまの価値が一ミリたりとも揺らぐものか。……それよりもじゃ、カイトよ」
権蔵の表情が、一転してだらしなく緩む。
彼はカイトを傍らに引き寄せると、寝台にごろんと大の字になり、豪奢な天井をうっとりと見上げ、恍惚とした表情を浮かべた。
「このベッドよ……! なんという極上の柔らかさ、なんという天にも昇る心地よさ! しかも、この部屋こそが……ここがまさに、わしと、わしの愛しい愛しいエリオットきゅんが、熱く激しい、それはもう息も絶え絶えになるような一夜を過ごす、愛の巣となるかと思うと……むふぅ……むふふふふ……!」
完全に自分の妄想世界に没入し、頬を紅潮させる権蔵。
時折「はうぅ…」「たまらんぞぉ…」などと奇妙な声が漏れる。
「あーっ!? ご主人さま、またエッチな妄想してるー! 見て見て、よだれ! よだれ垂れてますよぉー♪」
カイトがその様子を面白がり、呆れたように、しかし楽しそうにくすくす笑いながら指摘する。
「なっ!? た、垂れてなどおらんわ、たわけめが! ……むぅ、いかんいかん、わしとしたことが……まだちと気が早かったか……。だが、もうすぐじゃ。もうすぐ、あの天使のごとく可憐にして至高の美少年、エリオットきゅんが、このわしのものに……げぇーっはっはっはっは!」
幸せすぎる想像に、もはや彼の理性のダムは決壊した。
権蔵は腹を抱え、天蓋を揺るがすほどの大声で笑い出す。
その時、部屋の隅に影のように佇んでいた側近のグレイが、音もなく滑るように歩み寄り、一礼した。
「権蔵様、ご無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。北方への長き遠征、さぞかしお疲れでございましたことでしょう」
その声色には、主人への揺るぎない敬愛と、その無事な姿を目の当たりにしたことへの深い安堵が滲んでいる。
単なる儀礼ではない、心の底からの言葉だった。
「おお、グレイ、留守番ご苦労だったな! わしの活躍、おぬしにも生で見せてやりたかったぞ!」
権蔵は寝台からむくりと起き上がり、得意満面に胸を張る。
「かの“獣王”グリムフを、それも御身お一人で討ち取られたとのこと……。我が主ながら、お見事、としか言いようがございません。流石は権蔵様。王国中の民草から貴族に至るまで、誰もが権蔵様の規格外の武勇に度肝を抜かれ、今や貴方様を称える声で満ちております。まさしく、我々の期待を遥かに凌駕する、歴史的な戦果でございます」
グレイは静かに、しかし確かな熱を込めてそう言うと、再び恭しく頭を垂れた。
「ふん、この最強の勇者たるわしにかかれば、あの図体がデカいだけの毛むくじゃらの獣など、赤子の手を捻るより容易いわ! ……ところでグレイよ。貴様が王都で進めていた『例の件』の首尾はどうじゃ? あの頭の固い、化石のような貴族どもは、ようやくこのわしの真の偉大さに気づき始めたかえ?」
「はっ。おおむね計画通りに進捗しております。……ただ一点、レシア要塞奪還の件に関しましては、騎士団が我らより先に要塞を制圧するという想定外の事態が発生いたしました。これにより、宰相ラソリーニとの『交渉』において若干の軌道修正を余儀なくされ……結果、権蔵さまがレシアを直轄統治なさるという当初の構想は、見直しを迫られる形となりました」
「あの狸爺めが! エリオットきゅんとの婚約の条件に『レシア要塞の奪還』なぞと、ふざけた要求を突きつけてきおったからな…。要塞の統治権そのものが手に入らぬは、ちと口惜しいが……」
権蔵は眉根を寄せる。
「ご心配には及びません。実を申せば、現状の我らの戦力ではレシア要塞の維持・統治は困難を極めたでしょう。むしろ、結果的には当初の目算以上に、我らに有利な条件を引き出すことに成功いたしました」
「ほう? そいつは面白い。して、どのように有利になったというのじゃ?」
権蔵は身を乗り出し、興味を隠さない様子で問い返した。
「理は明快です。たとえ騎士団が一時的に要塞を奪還したところで、魔王軍主力が健在である限り、彼らによる要塞の再占領は時間の問題、必定でした。……しかし、権蔵さま、貴方が全てを変えられたのです。魔王軍四凶将軍が一人、かの“地上最強の格闘者”とすら謳われた『獣王グリムフ』を、権蔵さまが―――ただ御身お一人で打ち倒し、あまつさえ捕虜とした。この揺るぎない【事実】が、オルレアヌに現れた新たなる『勇者』の、神話級とも言える圧倒的な力を魔王軍に否応なく知らしめ、強力無比な抑止力となることでしょう。もはや魔王軍とて、権蔵さまという『最強の勇者』の存在を無視して、オルレアヌへ軽々しく再侵攻することは不可能。……この、もはや誰も覆すことのできぬ『大戦功』を交渉の切り札として、王国の老獪な重鎮どもと渡り合った結果が、こちらにございます」
紙の束を取り出し、恭しく権蔵へと差し出した。
「今回の交渉にて、王国側に認めさせた譲歩案…いえ、我々が勝ち取った果実のすべてでございます」
「ふむ……」
権蔵は羊皮紙を受け取るが、すぐに眉をひそめる。
「……例によって、わしはこういう異世界の小難しい字は読めんのじゃ。グレイ、おぬしが分かりやすく説明してくれ」
「承知いたしました」
グレイは心得たとばかりに書類を受け取り直し、その内容を、まるで美しい詩を朗読するかのように、流麗かつ簡潔に読み解き始めた。
「まず第一に、エリオット陛下との正式なご婚約の承認。第二に、権蔵さまに対する『山賊勇者』という不名誉な呼称の撤回と、『獣王を討ちし救国の英雄』としての名誉回復を王国全土に布告すること。第三に、現在我らが拠点とするドルテナ要塞およびドーレ領全域の正式な統治権の譲渡。第四に、領主となられる権蔵さまへの、オルレアヌ王国における正式な爵位の授与。最後に、王都セルフィアにおける、我らが『子羊の産声』の活動拠点設置の公認……以上でございます」
グレイの説明を聞き終えた権蔵は、目を見開き、やがて口元を歪めて下卑た高笑いを漏らした。
「……げへ、げへへへへ! なるほど、なるほど! あの老狸め、要塞の直接支配権と引き換えに、わしに正規の領地と爵位、さらには王都での足場まで献上してきたというわけか! これは...ふふ、予想以上、いや、望外の獲物じゃ! グレイよ、おぬし、よくぞここまで成し遂げた! 見事な手腕だ、誉めてつかわす!」
権蔵は喜色満面で、大きな手を伸ばし、グレイの絹糸のような銀髪を、遠慮なくわしわしと掻き撫でた。
グレイは、その無遠慮な接触に一瞬肩を震わせたものの、すぐに恍惚とした表情を浮かべ、くすぐったそうな、それでいて至上の幸福感に満ちた複雑な微笑みを湛え、主君の手の動きに恭しく身を委ねている。
「すべては権蔵さまのお力とご威光の賜物。俺はただ、その道筋を整えたに過ぎません……ですが、権蔵さま。光が強ければ影もまた濃くなるもの。貴方の名声と影響力が高まれば高まるほど、それを妬み、快く思わない者たちが増えることも、また事実。特に、旧態依然とした権力構造にしがみつく保守派貴族の中には、権蔵さまの台頭を、自らの地位を脅かすものとして、あらゆる手段で阻止しようと画策する輩もいるでしょう」
「ああ、あの晩餐会でこそこそとわしの悪口を言っておった連中か」
権蔵は、先ほどの貴族たちの顔を思い出し、再びちっと舌打ちする。
「やつらときたら、こう揃いも揃って、物の見えぬこと甚だしい。まあよい、連中は所詮、時代の流れも読めぬ、過去の栄光にすがるだけの木偶の坊よ。このわしこそが真の英雄であり、オルレアヌの未来を切り拓く唯一無二の存在であることを、いずれ骨身に徹底的に思い知らせてくれようぞ」
彼はふと思い出したように、ニヤリと笑う。
「そうそう、そんな取るに足らん連中の話はどうでもよい。聞け、グレイ! あの晩餐会でな、わし、訳も分からぬうちに、いきなり婚儀の話を持ち掛けられたのじゃ! しかもじゃぞ、驚くでない! 相手は……『女』だったのだぞ!」
「……先ほど、耳にいたしました。シャルロット・レステンクール殿。王国第一騎士団長にして、『白銀の戦乙女』と称される御方、とか」
「うむ、ジュリアンの姉ちゃんでな。確かに、なかなか見目麗しい、気骨のある女騎士ではあったが……。問題は、そやつの親父、ディミトリとかいう、変なおっさんからな、『娘と結婚せんか?』と、出し抜けに言われたことじゃ。一体何を考えとるんじゃ、あの変なおっさんは。このわしが、成熟した女なんぞに微塵も興味がなく、ひたすらに可憐な美少年を愛でる、生粋のショタコンであるというのに!」
「ディミトリ・レステンクール公爵……レステンクール家は、オルレアヌ王国三大公爵家の一つであり、王国内でも最大級の派閥を形成しています。公爵自身の真意は測りかねますが……おそらくは、勇者である権蔵さまの武力と名声を取り込み、自身の勢力をより磐石なものにしようという、政治的な計算が働いているのでしょう」
グレイは淡々とした口調で分析する。
しかし、その整った眉には、隠しようのない僅かな嫌悪感が滲んでいた。
「えー、でもあのお姉さん、ちょっと嬉しそうでしたよ? 顔、真っ赤でしたもん」
カイトが宴での光景を思い起こしながら、無邪気に言葉を添えた。
「そうなのか? まあ、貴族の腹の内などどうでもいいわい! わしは自分の嫁くらい、自分で決める! わしの眼鏡に適うのは、この世でただ一人、エリオットきゅんだけじゃ! あの天使を妻に迎え、そしていずれは……ふふふ」
権蔵は再び下卑た笑みを浮かべる。
「……しかしながら、権蔵さま。現時点では、貴方とエリオット王とのご婚約は、極めて限られた者のみが知る秘事です。謁見の儀で正式に公になれば、保守派貴族からの激しい反発は避けられないでしょう。殊にディミトリ公爵は、篤い王家への忠誠心を持つ愛国者としても知られています。彼がこの前例なき婚約を素直に受け入れるとは考えがたい。先ほどの縁談の申し出も、我らへの牽制、あるいは何らかの探りを入れる目的があったのかもしれません」
「ふん……やはりあのおっさん、喰えない親父だったか。だが、構わん! アホ貴族どもが、わしとエリオットきゅんの純愛の道を阻むというなら、容赦はせん! この鉄拳で、反対する奴ら全員、まとめて黙らせてやるわい! この拳がどれほど恐ろしく、そして理不尽か、わしに屠られた連中が、今頃地獄で後悔しておるじゃろうて!」
瞬間、権蔵の全身から、部屋の豪奢な調度品すら震わせるほどの、凄まじい覇気が放たれる。
並の者なら、そのプレッシャーだけで失神していただろう。
しかし、グレイはそよ風に柳が揺れるかの如く、平然とその覇気を受け流していた。
「お言葉ですが、権蔵さま。もはや直接的な武力行使は、少なくとも現段階では無用かと存じます。貴方がお一人で獣王グリムフを討ち取り、北方を魔王軍の脅威から救った『英雄』という事実こそが、最強の盾であり、最鋭の矛となるのです。そのような圧倒的な『力』を持つ貴方に抗う貴族など、このオルレアヌには存在しません。反対派も、その威光の前に気勢を殺がれ、せいぜい陰で不平を漏らすのが関の山。あとは謁見の日、王と共に民衆の前で、堂々とご婚約を宣言なさればよいのです。そうすれば、全ては権蔵さまのご意のままに進むでしょう」
グレイの筋の通った、そして何より権蔵の自尊心を巧みに擽る説明に、彼の怒りは急速に収まり、再び喜悦と高揚の色が顔に戻ってきた。
「げへへへへ、そうよなそうよな! やはり、この世は力こそが全てじゃ! そうよ、わしは強い! わしこそが最強! エリオットきゅんめ、きっと今頃、わしとの結婚が決まって嬉し涙に暮れ、指折り数えてその日を待ちわびておるに違いないわい! 夜な夜な枕を抱きしめて『ああ…権蔵様……は、早く……早く私を抱きに来てください…』などと、か細い声で嘆いておるのじゃろうなあ!」
「はい、権蔵さま。貴方に抱かれることはすべての少年……いえ、エリオット陛下にとっても、この上ない至福でしょう」
権蔵を心酔しきっているグレイは、主の妄想に完全に同調し、まるで自らがその場面にいるかのように、うっとりとした表情で、熱のこもった声で返事をした。
その忠誠心は、もはや崇拝の域に達しているのかもしれない。
「よし! そうと決まれば善は急げ、じゃ! わしとエリオットきゅんの、愛と感動に満ちた世紀の結婚式の準備を、早速始めるぞ! グレイ、カイト、聞け!」
権蔵はパンッ!と手を打ち鳴らし、その巨体を興奮でわなわなと震わせる。
「式場はどこにする!? やはり王宮の大聖堂か!? いや、いっそわしのドルテナ要塞で、わがハーレムに連なる美少年どもにやんややんやと祝福させるのも一興か! 指輪は!? 純金ではありきたりすぎる! やはりオリハルコンか!? 神話級の金属でなければ、わしの愛の証には相応しくない! ドレスは!? もちろん純白じゃ! あの天使に、純潔の証たる白を纏わせるのじゃ! うおおお、考えることが! 考えることが山ほどあるわいっ!」
あまりの興奮状態にアドレナリンが沸騰したのか、権蔵は巨大な熊のように部屋の中をぐるぐると落ち着きなく歩き回り始めた。
その瞳は、純粋な子供のようにキラキラと輝いている。
「わーい! 結婚式! けっこんしきー! ぼくもお手伝いします! たくさんのお花で、きれーに飾りましょうよ♪ ね、ご主人さま!」
カイトも祭りのような騒ぎに目を輝かせ、権蔵の後を追いかけるようにして、無邪気にぴょんぴょんと跳ね始めた。
権蔵とカイト。
傍若無人な中年と、無垢な少年は、完全に二人だけの幸福な世界に浸り、夢のような結婚式のプランに胸をときめかせている。
「ええ……オルレアヌの若き王とのご婚姻。それこそが、権蔵様の輝かしい未来への扉をこじ開け、そして……貴方様の胸奥深くに秘められたる、大いなる野望を成就させるための、何よりも重要な第一歩となることでしょう。まずはこのオルレアヌ一国を、その御力で完全に掌握なされ、さらにその先……大陸全土へ、いえ、この世界そのものへと、その覇道を……」
グレイの、囁くような、しかし確かな力を宿した静かな声に、権蔵の浮かれた動きが硬直する。
まるで仮面を取り替えたかのように、彼の瞳から子供のような無邪気さが消え去り、代わりに底知れぬ野心と、全てを焼き尽くさんばかりのギラギラとした炎が、再び激しく燃え上がった。
「……野望、か。そうじゃな」
権蔵は静かに呟いた。
「しがない、誰にも顧みられることのなかった、ただのモブおじさんだった『前世』のわしには……逆立ちしたって、たとえ一億円積んだとしても、夢にも見ることすら叶わなかった世界じゃ。だが、この『異世界』では違う。このわしの圧倒的な『力』が、このわしの飽くなき『欲望』が、不可能を可能にする。ならば―――やらねば、なるまい!」
権蔵はゆっくりと窓辺へ歩み寄り、眼下に広がる王都セルフィアの壮麗な夜景を見下ろした。
無数の家々から漏れる灯りが、まるで天から投げ落とされた宝石の数々のように、美しく煌めいている。
その、常人よりも一回りも二回りも大きな背中からは、もはや単なる力自慢の荒くれ者ではなく、一国を、いや、この世界そのものすら手中に収めんとする、歪ながらも圧倒的な覇王の威厳が、否応なく滲み出ていた。
「エリオットきゅんを我が妻に迎え入れ、オルレアヌの全て……軍事力も、財力も、そしてそこに生きる民草も、この掌中に完全に収める。そして、わしが新たに築き上げる王国の揺るぎなき礎とするのじゃ。さすれば、自ずと道は開けよう。このわしが、世界の唯一無二の『モブおじ王』となる道がな! そして、それこそが、わしの魂を賭した悲願、まさしくエロゲーの世界そのままに実現する……『美少年ハーレム計画』完遂への、眩く輝かしき栄光の王道(ロードマップ)なのじゃ!! ぐへへ……ぐへへへへへへへへ!」
声は低く、しかし確かな、そして狂気すら帯びた熱を宿し、豪華絢爛な客室を満たしていく。
グレイは、その絶対的な主の背後で、音もなく、しかし深く、揺るぎない忠誠の意を示すように、静かに膝をついた。
「はい、世界征服。それこそが、権蔵様の至高にして究極の御志でございます」
カイトが、瞳をキラキラと輝かせながら無邪気に歓声を上げた。
「世界征服! かっこいいー! そしたら、ボク、もっともーっとたくさん、おいしいお菓子、食べられますか?」
権蔵は振り返り、少年の頭を慈しむように優しく撫でた。
「……うむ、カイト。おぬしには、世界中のどんな菓子よりも甘々な、極上の珍菓を毎日惜しみなく与えてやろう。そのためにも——」
権蔵は再び窓外へ視線を戻し、屈強な拳を力強く握り締め、眼下に広がる瞬く夜景に向かって、まるで全世界への宣戦布告であるかのように、高々と突き上げた。
「おお、今こそ始まるのじゃ! このわしが! この田川権蔵が! この異世界を根こそぎ征服し! 古今東西、ありとあらゆる極上の美少年を、一人残らず手中に収める! 輝かしき、栄光の未来がッ!!」
「ご主人さま、ばんざーい!」
カイトの純真な歓呼が、権蔵の歪んだ豪笑に溶け込んでいく。
彼の、野望に満ちた、そしてどこまでも狂おしい笑い声は、王城の分厚い壁すらも貫き、夜のセルフィアの空へと、遍く響き渡っていくかのようだった。
晩餐会での不気味な出来事も、貴族たちの小賢しい反発も、彼の燃え盛る、留まるところを知らぬ欲望の前では、もはや取るに足らぬ塵芥にすぎないのかもしれない。
———世界を統べる絶対的な覇王となり、そして古今無双の美少年ハーレムを築き上げ、『モブおじ王』として永遠に君臨する。
その、果てしなく、そして底知れぬ歪んだ野望が、今宵、大きな波濤を伴って、本格的に動き始めようとしていた。
夜宴の混乱と共に、静かに、しかし確実に回り出した危険な運命の歯車を、もはや誰にも止めることはできないのかもしれない。