※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第29話 謁見②

「勇者よ———余は、今は、そなたと結婚することは、断じて、できぬ」

 

 エリオットの、水晶の如き透明感を持ちながらも、鋼の如き硬質な響きを帯びた拒絶。

 その一言は、謁見の間に張り詰めていた最後の希望の糸を、まるで熟練の剣士が一閃で断ち切るかのように、無慈悲に切り裂いた。

 

 水を打ったような静寂が、玉座の間を支配する。

 そして、ついに。権蔵の顔から、あの常に浮かべていた下卑た、それでいて自信に満ち溢れた笑みが、完全に消え失せた。

 彼の瞳が、驚愕にカッと見開かれる。やがて、そこには裏切られたような、あるいは、目の前で起こっていることが到底信じられないかのような、複雑な色がぐらぐらと揺らめき始める。

 

「……うそ……じゃろ……?」

 

 まるで錆びついた鉄が軋むような、ひび割れた声が、権蔵の乾ききった唇からかろうじて漏れ出した。

 エリオットは、そんな権蔵の内心に吹き荒れる嵐など露知らぬ、あるいは気づかぬふりを徹底しているのか、畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「だが、勘違いするな、勇者よ。余はそなたの力を、そして北方を救ったその偉大な功績を、決して軽んじているわけではない。むしろ、その比類なき力に、このオルレアヌの未来を託したいとすら、本気で考えているのだ。……ただ、そのためには、そなたが真にこの国の伴侶たるにふさわしいかを示す、『最後の試練』を乗り越えてもらわねばならぬ」

 

 

 その声には、先ほどの拒絶の冷たさとは裏腹に、どこか必死な響きと、そして、この絶望的な状況を打開しようとする冷静な計算が混じり始めていた。

 それは、彼が密かに、そして周到に準備してきたであろう、『交渉』という名の最後のカードを切る瞬間だった。

 

 エリオットは、言葉巧みに、拒絶を『保留』に、そして婚姻を『条件付き』のものへとすり替えようと試みる。

 その少年王らしからぬ聡明さが、必死の外交的駆け引きとなって現れていた。

 

「最後の……試練……だと……?」

 

 権蔵の太い眉が、訝しげに、そして明らかに不機嫌そうにグッと寄せられる。

 彼の単純な思考回路は、エリオットの言葉の裏に含まれた複雑な意図を掴みきれず、ただただ混乱の色を深めていく。

 

「そうだ」

 

 エリオットは、今度こそ真っ直ぐに権蔵の濁った瞳を見据え、力強く頷く。その自身の双眸には、もはや傀儡ではない、一人の王としての強い意志と覚悟が燃え始めていた。

 

「まずは余の話を聞いてほしい。近頃、王国各地で――」

 

 エリオットがその『試練』の詳細を語ろうとした、まさにその刹那―――!

 

「――陛下っ!!」

 

 鋭く、そして明らかに狼狽した声が、玉座のすぐ横から飛んだ。

 声の主は、宰相ラソリーニだ。彼は、それまでの老獪な仮面をかなぐり捨てたかのように、血相を変えてエリオットの言葉を遮った。その顔には、隠しようもない焦りの色が浮かんでいる。

 

「何を仰せられますか、陛下! 左様な『試練』など、勇者様との当初のお約束には、断じて含まれておりませなんだぞ!」

 

 宰相は、エリオットの独断を、強い口調で、満座の臣下の前で公然と諌めたのだ。

 

「だが、宰相! 余には……!」

 

 エリオットが必死に反論しようとするが、宰相はそれを手で制するように、さらに強い口調で畳み掛けた。

 

「勇者様は、我らとの約束を違えず、既にあの恐るべき獣王グリムフを討ち取り、北方を開放するという、常人には到底成し得ぬ偉業を成し遂げられたのです! 約束は、既に果たされておりまする! それを今更、陛下のお心一つで新たな条件を付け加えるなど……! 御独断にもほどがございますぞ! 断じて許されることではございませぬ!」

 

 その言葉は、王への忠誠というよりは、むしろ、計算高く進めてきた権蔵との『取引』が破談になることへの、露骨なまでの焦りそのものだった。

 エリオットは、宰相からの予想外の、そしてあまりにも無遠慮な叱責に、ぐっと唇を噛みしめる。

 その白い頬が、悔しさと屈辱にみるみる赤く染まっていく。王でありながら、家臣である宰相に、謁見の場で公然と否定され、その意向を捻じ伏せられる。

 それが、彼の今の非力さを、そして傀儡の王という現実を、何よりも雄弁に物語っていた。

 

 そして宰相は、すぐさま権蔵へと向き直る。今度は一転して、これ以上ないほどへりくだった、しかしその瞳の奥には依然として計算の色を宿した、どこか芝居がかった態度で深々と頭を下げた。

 

「ゆ、勇者様、まことに、まことに申し訳ございません! 我らが陛下は、まだお若く、時に感情に流され、このように場をわきまえぬ、勝手なことを仰せられる場合がございましてな……どうか、この老いぼれの顔に免じて、先ほどの陛下の御言葉は、お忘れくだされ。貴殿と陛下とのご婚約は、既に王国として正式に決定された事項。何人たりとも、これを覆すことなどできませぬゆえ、どうか、どうかご安心めされよ」

 

 彼は、エリオットの発言を「若気の至り」「場の空気を読めぬ」とまで貶めて完全に打ち消し、権蔵を宥めすかし、当初の約束通り婚約は履行されるのだと、必死に請け合った。

 その必死さは、目の前の、いつ爆発するか分からない『勇者』の機嫌を損ねることへの、底知れぬ恐怖を物語っているようだった。

 

 だが、その見え透いた安易な取り繕いが、逆に権蔵の心の奥底に燻っていた疑念の火に油を注ぐ結果となる。

 

「……宰相閣下」

 

 権蔵の後ろに影のように控えていたグレイが、静かに、しかし部屋の空気をさらに数度下げるかのような、氷のような鋭さを秘めた声で口を開いた。

 その声は、明らかに宰相ラソリーニに向けられている。

 

「随分と強引な物言いでございますね。まるで、陛下の御心を完全に無視し、全てを貴方の都合の良いように運ぼうとしているかのようにも聞こえますが? 我が主、権蔵さまは先ほどおっしゃいました。『エリオット陛下の本当の気持ちが知りたい』と。その主の意向を無視し、あまつさえ王の言葉すらも捻じ曲げてしまわれるとは……失礼ながら、今の貴方の言葉に、一体何の価値が存在するとお思いで?」

 

 グレイの言葉は、どこまでも冷静でありながら、その内容は宰相の行動への明確な不信感と、この国の歪んだ政治に対する深い疑念を突きつけていた。

 彼は、主である権蔵がこの国の権力闘争にいいように利用されることを、決して許さないという強い意志を、その冷徹な声に滲ませていた。

 

「なっ……! グ、グレイ殿、それは些か言葉が過ぎるのでは…!? わ、私はただ、陛下のお言葉を補足し、勇者殿の誤解を解こうとしたまで……!」

 

 宰相は、グレイからの予想外の、そして的確すぎる指摘に、今度こそ内心の動揺を隠しきれない様子で狼狽える。その老獪な仮面にも、明らかな亀裂が入っていた。

 

「……うるさい……」

 

 権蔵が、地を這うような低い声で呟いた。

 その濁った瞳の奥に、沸々と黒い怒りの炎が再燃し始めているのが見えた。

 

「やっぱ……そうだよなぁ……。わしみたいなデブでハゲでブサイクオッサンなんか、こんな綺麗な美少年の王様が、本気で惚れてくれるわけ……ないよなぁ……。ぐははっ、異世界に転生したってコレかよ……。所詮わしは、モブのおっさん……。異世界転生なろうの主人公みたいに、何もかも都合よくいくわけなんて、ねぇんだよなぁ……クソが……」

 

 自嘲的な言葉が、彼の口から次々とこぼれ落ちる。

 それは、長年抱えてきたコンプレックスの吐露であり、同時に、裏切られたと感じた純粋な期待が、どす黒い感情へと変質していく音でもあった。

 エリオットは何か言おうとして、しかし言葉にならず唇を震わせ、宰相は滝のような冷や汗を流し、グレイは射殺さんばかりの鋭い視線で宰相を射抜いている。

 そして、権蔵の内では、不信と怒りと苛立ちが、ついに臨界点に達しようとしていた。

 

「……もう、いい」

 

 権蔵は、吐き捨てるように言った。その声は、先ほどまでの自嘲とは打って変わって、乾いた憎悪に満ちていた。

 

「エリオットと結婚するとか、どうでもよくなったわ……マジで……。結局、お前ら全員、わしを便利な道具としてしか見ておらんのじゃろうが……! そうなんじゃろ!?」

 

「勇者……!? ま、待つのだ、誤解だ! 余の話を聞いてくれ―――」

 

 エリオットが、必死に弁解しようと手を伸ばす。

 だが、もはや遅い。権蔵の怒りの導火線には、とっくに火がついていた。

 

「うるせぇんだよ、黙ってろやッ!!!!」

 

 絶叫と同時。

 権蔵の全身から、先ほど謁見の間に入ってきた時とは比較にならないほどの、禍々しく、そして圧倒的な破壊の闘気が迸った。

 それはもはや覇気などという生易しいものではない。

 謁見の間の分厚い大理石の床がビリビリと震え、空間そのものが歪むような、純粋な破壊衝動の奔流。

 

「わしは……! わしはなぁ! おぬしが欲しい、おぬしに好かれたい……ただそれだけのために、あのクソ面倒な獣王だって倒してやったんだぞ! 晩餐会でも、あの虫唾が走る貴族どもの相手だって、我慢してやってやったんだ! なのに……なのに、なんだそれは!? 結婚できぬ、だぁ!? 挙句の果てには試練だと!? わしの気持ちがどうかなんぞ、結局どうでもいいんじゃろうが! わしに好きとか嫌いとか、そんな単純な答えすら言えんのか! ふざけるのも、大概にしやがれぇええええええおっ!!!」

 

 権蔵の絶叫が、荘厳な謁見の間の壁という壁を激しく揺さぶる。

 その瞳には、もはや理性の欠片もなく、ただただ、拒絶されたことへの底なしの怒りと、絶望と、そして全てを破壊し尽くさんとする、投げやりな狂気だけがどす黒く渦巻いていた。

 

「……こうなったら、もう知るか! この国なんぞ、滅茶苦茶にして、更地にしてやるわ!! そして、エリオットぉ! おぬしは、わしが無理やりにでも攫って、力ずくでわしのモンにしてやる!! この国の玉座も! 財宝も! そしておぬし自身もなぁ!全ぇええんぶ、このわしが奪い取ってやる! このわしが、この国の新たな王になってやるわぁああああああああ!!!!」

 

権蔵は、完全に理性の箍が外れ、狂乱の雄叫びを上げながら、その肥大した巨躯に恐るべき破壊の力を収束させ始めた。謁見の間の空気がビリビリと震え、彼の足元の大理石には既に細かい亀裂が走り始めている。

 

「なっ……貴様、本気か!?」

「陛下から離れろ、逆賊め!!」

「総員、防御陣形! 魔法障壁、最大展開!!」

 

 権蔵の暴走宣言に、謁見の間は三度、いや、今度こそ破滅的な混乱に陥った。

 しかし、先ほどとは違い、そこにいたのは恐怖だけではない。

 王国を守る騎士たちの、決死の覚悟があった。

 

「……お嬢がが信じた男だから、少しはまともかと思ったあたしが馬鹿だったよ! あんたはやっぱり、根っからの、救いようのないクズだったんだねッ!」

 

 ディアナが、腰の弓に素早く矢を番える。

 

「……残念です、勇者殿。獣王を倒した貴方になら、真の道を歩めると、僅かながら信じておりましたが……」

 

 セバスチャンが、悲しげに眉を顰め、その手に聖なる光を宿らせる。

 

「……対象の危険度、最大レベルへ移行。排除を開始する」

 

 ヴィクターが、音もなく腰の短剣を抜き放つ。

 

「うおおおおお! 陛下に指一本触れさせるかぁああ!!」

 

 ガストンが、巨大な戦斧槍を構え、咆哮する。

 

「権蔵様……信じたく、ありません……! ですが……!」

 

 シャルロットが、一瞬だけ見せた涙を荒々しく腕で拭い去り、第一騎士団長としての威厳を取り戻して鋭く叫ぶ。

 

「全員、聞きなさい! 玉座の守りを固めます! これより、大逆賊・権蔵の討伐を開始! 王国の騎士たる者、命に代えても陛下をお守りするのです!!」

 

 アルフレッド、メリッサ、ザック、ローラン、ルシアン、エミール、エドモンド、レイン……。

 その場に居合わせた王国騎士団の団長たちが、次々と武器を構え、あるいは魔力を高め、玉座を守るように権蔵を取り囲んでいく。

 彼らの瞳には、恐怖を超えた、王国と主君を守るという決死の覚悟が宿っていた。

 謁見の間は、一瞬にして戦場へと変貌した。

 王都が誇る最強の騎士団長たちと、この国すら滅ぼしかねない力を持つ暴走した『勇者』。

 

 オルレアヌ王国の命運を左右する、壮絶な戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。

 

「……来るがいい、雑魚どもが」

 

 対する権蔵は、騎士団長たちに完全に包囲されながらも、一切の怯みも見せず、ただただ不敵に、そして愉悦に満ちた狂気の笑みを浮かべていた。

 

「一人残らず、畑の肥やしにしてくれるわ……!」

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