美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「……来るがいい、雑魚どもが。一人残らず、畑の肥やしにしてくれるわ……!」
権蔵は、王国最強と謳われる騎士団長たちによる鉄壁の包囲網の中心にいながら、その顔には欠片ほどの動揺も見られない。
そこにあるのはただ、これから始まる一方的な蹂躙を確信したかのような、不遜で、そして心の底から湧き上がる愉悦に満ちた狂気の笑みだけだった。
「ほざけ、逆賊めが!」
シャルロットの号令を待たず、最も血気盛んな男が動いた。
第四騎士団長、ガストン・デュフォールだ。
「うおおおおおっ!」
野太い雄叫びと共に、巨大な戦斧槍(ハルバード)が、床の大理石を粉砕しながら権蔵へと振り下ろされる。
まさに城壁すら打ち砕く、重戦車のごとき一撃。
同時に、鋭い剣閃が権蔵の死角を抉らんと迫る。
第五騎士団長ザック。
傭兵上がりの老獪な剣技が、予測不能な軌道を描く。
さらに、第十二騎士団長レインも動く。小柄な体躯からは想像もつかぬ膂力で巨大な戦棍を振り回し、側面から強襲する。
「遅い。のろい。芸がない」
権蔵は、迫りくる三つの致死的な攻撃を、まるで子供の戯れでも見るかのように、鼻で笑った。
ガストンの重戦車のごとき一撃は、権蔵がこともなげに突き出した人差し指一本によって、ピタリと止められた。
いや、受け止められたというよりは――まるで虚空に縫い止められたかのようだ。
「ぐっ…!? な、なんだと…!?」
驚愕に目を見開くガストンの巨体を、権蔵はまるで玩具でも弾くように指先で軽く突き、壁際まで吹き飛ばす。
「ハッ、見掛け倒しの鈍重さよ」
ザックの剣は、ひらりと差し出された権蔵の指二本に、まるで生き物のように吸い付き――パキン、と乾いた音を立てて、あっけなくへし折られた。
「なっ…!? 俺のミスリル・ブレードが…!?」
「剣筋は悪くない。だが、殺気がダダ漏れじゃ」
レインの戦棍が、回避不能と思われたタイミングで権蔵の側頭部を襲う――
刹那、権蔵が軽く吐き出した息だけで、突風に煽られた木の葉のように軌道が逸れ、明後日の方向へと虚しく空を切る。
「…ふぅ。鬱陶しい」
先陣を切った三人の騎士団長が、文字通り、赤子の手をひねるように一蹴された。
その信じがたい光景に、後続の騎士たちに戦慄が走る。
「接近戦は悪手か! ならば――!」
第八騎士団長ディアナが、神速の早業で矢継ぎ早に浄化の矢を放つ。
狙いは正確無比、権蔵の目、喉、心臓といった急所を的確に射抜かんとする。
「炎よ! 穿てッ! 氷よ! 砕けッ!」
第三騎士団長メリッサも、流麗かつ力強い詠唱と共に、灼熱の火球と極寒の氷槍を同時に生成・射出し、権蔵を牽制、あるいは焼き尽くさんと襲いかかる。
「うるさい蠅どもめ!」
権蔵は、殺到する矢と魔法の弾幕を、まるで煩わしい虫でも払うかのように、闘気を漲らせた左手で薙ぎ払う。
矢はへし折れ、魔法は抵抗むなしく霧散する。
「無駄無駄! 矢だろうが魔法だろう鉄砲を持ってこようが、わしには全く効かんわ!」
「ならば……! 聖閃光球(ホーリー・フラッシュ)!」
第七騎士団長セバスチャンが展開した聖なる光球が炸裂し、強烈な閃光が権蔵の視界を焼く。
「うぉっ! まぶしっ!?」
一瞬、その巨躯の動きが鈍る――
「今ですわ! エミール! ルシアン!」
その一瞬の隙を、シャルロットは見逃さない。
冷静な指示が飛ぶ。
「お任せを!」
「捕えます!」
第十騎士団の団長エミール、副団長ルシアンの、陽気な声と冷静な声が応え、謁見の間の天井近くに隠されていた巨大な魔道具から、眩い光を纏った複数の鎖が射出される。
「喰らいなさい! これぞ我が第十騎士団が誇る、対大型魔獣用拘束魔導具! 神造金属(オリハルコン)と特級魔晶石を編み込んだ『縛神の鎖(グレイプニル)』です!」
鎖は蛇のように権蔵の巨体に絡みつき、その表面に魔力を封じるための紋様を赫々(かくかく)と浮かび上がらせる。
「ふんっ!」
権蔵が力を込めるが、鎖は軋む音すら立てない。
「無駄です! その鎖は物理的な力では決して切れません! 貴方の強力な腕力も、今は封じられているはず!」
ルシアンが勝利を確信したように叫ぶ。
「好機です! シャルロット様!」
第九騎士団長、戦術家のローランが、状況を見極めて叫ぶ。
「ええ! 我が身に宿れ、戦乙女(ヴァルキリー)の戦旗(ヴェイグ)! 騎士たちに勝利の祝福(ブレス)を!!」
シャルロットの体から、白銀の神々しいオーラが奔流のように立ち昇り、謁見の間を満たす。
光を浴びた騎士団長たちの瞳に力が宿り、身体能力と魔力が飛躍的に増大していくのが、目に見えて分かった。
「おおおっ! 力が、漲る!」
「今度こそ!」
「今だ! 総員、一斉攻撃! 連携を崩すな!」
強化された騎士団長たちが、勝利への期待を胸に再び権蔵へ殺到しようとした、その瞬間だった。
「――ほう。見掛け倒しではなかったようじゃな。この『縛神の鎖』、たしかに頑丈だ。……まあ、ほんの僅かだが、感心してやらんでもない」
権蔵は、自らの肉体に食い込む神造金属(オリハルコン)の鎖を嘲るように見下ろし、心底つまらなそうに口の端を歪めた。
次の瞬間、その巨躯が凄まじい勢いで独楽(こま)のように回転を始める!
「なっ――!?」
「うわあああっ!?」
鎖の操作を担当していた第十騎士団のエミールとルシアンは、悲鳴を上げる暇もなく、権蔵の回転が生み出す暴力的な遠心力に引きずられる。
人体ハンマーと化した二人は、なす術なく宙を舞い、味方であるはずの騎士団長たちを次々と巻き込みながら、鈍い衝突音と短い悲鳴を撒き散らした。
「ぐぶっ!」
「がはっ!?」
まるでボーリングのピンのように弾き飛ばされ、床に叩きつけられる騎士団長たち。
謁見の間は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
「くっ……! 総員、退避! 距離を取って! このままでは同士討ちで全滅しますわ!」
シャルロットの悲痛な叫びが、混乱の中に響き渡った。
ようやく回転が止まり、エミールとルシアンが糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ちる。
息も絶え絶えだ。
「……残っているのは……ガストン、ディアナ、セバスチャン、ザック、レイン、アルフレッド、ローラン……! まだです! まだ鎖は繋がっている! 全員で、今度こそ彼を……!」
自らを奮い立たせるようにシャルロットが檄を飛ばす。
そうだ、まだ終わっていない。神造金属の鎖は健在なのだ――
騎士たちの心に、か細い希望の灯が再びともりかけた、まさにその刹那だった。
「…………やれやれ。だから、何度も言わせるでない。茶番はもう終わりじゃと……」
それは、凍てつくような、それでいてひどく呆れたような声。
権蔵は、全身に蛇のように食い込む『縛神の鎖』を、億劫そうに指でなぞり――
次の瞬間、何の気負いもなく、ただ無造作に、掴んだ。
――ゴ ギ ィ ィ ィ ン ッ !!!
空気を震わす、金属の断末魔。
絶対に切断不可能とされた神造りの鎖が、赤子の腕でも捻るかのように、呆気なく引き千切られた。
魔法でもなければ、特殊な技でもない。
ただ、そこにあるだけの、純粋な『力』によって。
「な…………!? あ……ありえな……い……!? 神造金属(オリハルコン)と特級魔晶石で編まれた、あの鎖が……ただの、腕力、だけで……!?」
シャルロットの顔から急速に血の気が引いていく。
声は意味をなさず、ただ絶望に震える。
それは他の騎士団長たちも同じだった。
今度こそ理解させられた。
目の前の存在は、自分たちの常識や物差しが一切通用しない、異次元の『何か』なのだと。
抗いようのない、絶対的な力の奔流を前に、戦意という名の蝋燭が、為す術もなく吹き消されていく。
「――さて、と」
権蔵は、足元に転がる金属の残骸を無感動に蹴散らし、ゴキリ、ゴキリと首の骨を鳴らす。
それはまるで、これから始まる饗宴を前に、体をほぐすかのようだった。
その顔からは、先ほどまでの苛立ちや怒りの欠片すら消え失せている。
代わりに浮かぶのは、深淵を覗き込むような静かな狂気と、絶対的な強者だけが纏える、凍てつくような愉悦の色だった。
「ふむ。前菜にしては、まあまあ歯応えがあったわい。ここからは本番――貴様らが待ち望んだ『お仕置きの時間』じゃ」
言葉が終わると同時、権蔵の姿がブレる。
いや、違う。まるで空間そのものに溶け込むように、その存在が掻き消えた。
「――っ!?」
「消えた!? どこへ行った!」
目で追うことすら不可能。
それはもはや『移動』というより『転移』に近い現象だったのかもしれない。
騎士たちの思考が追いつくより早く――権蔵は、王国騎士団で最も屈強なはずの男、ガストンのがら空きの懐に、いつの間にか潜り込んでいた。
「ごっ――ぶぉっ!!!」
肉と鎧がまとめて陥没するような、鈍く、重い炸裂音。
権蔵の、まるで攻城槌のような拳が、分厚いプレートアーマーを紙屑のように貫き、ガストンの鳩尾に深々とめり込んでいた。
巨漢の騎士団長は、言葉を発する間もなく白目を剥き、まるで巨木が倒れるかのように、轟音と共に床に沈んだ。
「ふん。骨までは折ってやらんかったぞ。感謝するがいい」
吐き捨てるような権蔵の声が、静まり返った謁見の間に響いた。
「ガストン!」
「くっ……援護する! 散れっ!」
神速の弓士ディアナが、即座に矢をつがえようとする――だが、遅い。
権蔵は振り向きもせず、背後の彼女に向かって何かを弾き飛ばした。
それは、先ほど権蔵が砕いたザックのミスリル剣の鋭利な破片。
ヒュンッ! と空気を切り裂く音と共に飛来したそれは、寸分違わずディアナが構えた愛用の大弓を直撃、木っ端微塵に粉砕した!
「ひっ……!? わ、私の『月光』が……!?」
「お、ラッキー! うまく当たったわい。動いたら、次はその綺麗な顔に当てるぞ、姉ちゃん」
背中越しに投げかけられた冷たい声に、ディアナの喉がひきつる。
「おお、聖なる光よ! 彼の者に癒しを!」
セバスチャンが杖を掲げ、ガストンに治癒魔法を施そうとする。
だが――
パァン! と、乾いた破裂音。
権蔵が無造作に翳した掌から放たれた黄色いの風が、セバスチャンの神聖な光をいとも容易く打ち消し、霧散させた。
「神も仏も、このわしのにぎりっ屁の前では等しく無力よ!」
その隙に影の中から奇襲を仕掛けようとした第十一騎士団長ヴィクターは、まるで待ち構えていたかのように気配を読まれ、いとも容易く首根っこを掴まれると、ゴミでも捨てるように壁に叩きつけられた。
「隠密ごっこは、もう終わりじゃ」
返す刀で、ザックの老獪な剣閃は空を切り、レインの渾身のメイスは受け止められ、アルフレッドの防御魔法は紙のように破られ、ローランの戦術的な後退すら先読みされ――王国が誇る精鋭中の精鋭、騎士団長たちが、文字通り赤子の手をひねるように、次々と、一方的に、ただただ無慈悲に拳で蹂躙されていく。
抵抗すら許されない。
「そ……そんな……嘘、でしょう……?」
シャルロットの唇から、絞り出すような、掠れた声が漏れた。信じられない、信じたくないという絶望が、その声色に滲む。
「これ、が……これが、権蔵さまの……『勇者』の、本当の……力……?」
脳裏に焼き付いているのは、北方の戦場で見た光景。
魔族の軍勢を相手に、圧倒的な力で道を切り開いた、あの頼もしき背中。
あの時は、絶望の中に差し込んだ一筋の光明、まさしく『正義』の顕現だと信じて疑わなかった。
だが、今。
その桁外れの力が、悪意という色を纏い、自分たちへと牙を剥いている。
神と虫けら、いや、それ以上に隔絶した存在。
自分たちが必死に積み上げた連携も、誇りある騎士の技も、この男の前では積み木細工のように脆く、あまりにも無力だった。
シャルロットの、紫紺のように輝いていたはずの瞳から光が消え、今はただ、深い、深い絶望の淵の色だけが映り込んでいた。
もはや希望という名の灯火は、暴風に吹き消されてしまったのだ。
オルレアヌ王国が誇る騎士団長たち。その精鋭の中で、今や立っているのは、わずかに二名。
シャルロット・レステンクールと、玉座を守る最後の盾、近衛騎士団長エドモンドだけであった。
「くっ……! まだ……まだですわ! 陛下は、この私が必ずお守りいたします!」
シャルロットは、折れそうな心を叱咤し、震える両手で愛剣の柄を握りしめる。砕け散った希望の欠片を掻き集めるように、決死の覚悟をその双眸に灯した。
「そ、そうだ……! まだ我ら騎士団の誇りは、地に落ちてなどいないぞ……!」
エドモンドもまた、恐怖に竦む足を叱咤し、満身創痍ながらも主君を守らんと、権蔵を睨み据える。
だが、権蔵は、そんな二人の悲壮な覚悟すら、虫けらを見るかのように鼻で笑い飛ばした。
その嘲笑は、謁見の間に響く絶望の音色を、さらに深くする。
「くくっ、無駄無駄。おぬしら二人、いや百人束になったところで、このわしの鼻毛一本、揺らすことすら叶わんわ。見せてやるよ、格の違いってやつをな」
権蔵は、床に転がり無様に呻く騎士団長たち――先ほどまで自分に刃を向けていた者たち――を、ゴミでも見るかのように冷ややかに一瞥すると、ゆっくりと、しかし地を踏みしめるような確かな足取りで、玉座へと歩を進めた。
その一歩一歩が、王国の終焉を告げる鐘の音のように重く響く。
玉座では、若き国王エリオットが、恐怖にその小さな体を震わせながらも、王としての最後の矜持を保とうと、必死に権蔵を睨み返していた。
だが、その瞳の奥に宿る怯えの色は、隠しようもなかった。
――その時だった。
張り詰めた空気を切り裂いて、謁見の間に集められていた貴族たちの列から、大地を踏みしめるような、揺るぎない足取りで一人の老人が歩み出てきた。
倒した騎士たちを侮蔑する言葉を吐き捨てていた権蔵の背に、「勇者殿、しばし待たれよ!」と、老いてなお張りのある、戦場を駆けた者の声がかけられた。
権蔵が、邪魔が入ったことにやや億劫そうに、しかし興味を引かれたように振り向くと、そこには見上げるほどの偉丈夫が、まるで古の英雄譚から抜け出してきたかのように立っていた。
その老人こそ、他ならぬジュリアン・レステンクールの祖父、マキシム・レステンクール。
オルレアヌ王国の軍務大臣にして、生ける伝説――『剣聖』の称号を持つ、王国最強の男であった。
マキシムは、普段の好々爺然とした柔和な笑顔を完全に消し去り、研ぎ澄まされた鋼のような、真剣そのものの表情を浮かべている。
深く刻まれた皺の一つ一つが、彼が越えてきたであろう数多の死線を物語っていた。
その顔つきは、まさしく獲物を前にした猛虎。静かなる闘気が、謁見の間の空気をビリビリと震わせる。
その右手には、まるで竜の牙から削り出したかのような、巨大で重厚な紅蓮の大槍。
左手には、柄に紅玉が埋め込まれた深紅の長剣が握られている。
二つの武具は、いずれも伝説級(レジェンダリー)と呼ぶにふさわしい威容を放ち、穂先から石突、剣身に至るまで、荒々しい龍の意匠が施されていた。
一目見ただけで、尋常ならざる魔力が渦巻いているのが分かる代物だ。
その姿は、まさに百戦錬磨の古強者。
幾多の戦場を駆け、数えきれぬ敵を屠ってきた者だけが纏うことのできる、鋼のような気配が全身から溢れ出ている。
「おっ? これはこれはジュリアンのじーさんじゃねえか。レストランでステーキ食って以来か? まだピンピンしとるようで何よりだわい」
権蔵は、予想外すぎる大物の登場に内心やや面食らいつつも、ハゲ頭を掻きながら、いつも通りの人を食ったような軽い口調で尋ねた。
値踏みするような視線が、マキシムの全身を舐める。
「ほっほっ。私のことなぞ、覚えていてくださったとは。いやはや、この国を救った勇者殿に記憶していただけるとは、老骨にとって、これ以上の誉れはございませんな」
マキシムは、その言葉とは裏腹に、一切の隙を見せない。
「いやいや、そんな畏まらんでええって。ジュリアンのじーさんてことは、まあ、わしにとっちゃ親戚みたいなもんじゃろ? もっと楽に話さんかい」
権蔵がひらひらと手を振る。
その言葉に、マキシムの表情がほんの一瞬だけ、わずかに和らいだ。
まるで分厚い氷が、一瞬だけ陽光に照らされたかのように。
「はは、では、そのお言葉に甘えさせていただこう。貴殿が、我が孫たち――シャルロットとジュリアンの面倒を見てくださったこと、それは紛れもない事実。その恩義、レステンクール家当主として、心より感謝申し上げる」
だが、その穏やかな空気は、次の瞬間には霧散した。
マキシムは再び双眸に鋭い光を宿し、その視線は槍の穂先のように真っ直ぐに権蔵を射貫く。
「だが、それでも――! 勇者殿が、その比類なき力をもって、このオルレアヌを蹂躙するというのなら、この老骨、見過ごすわけにはいきませんな! 貴殿の行いは、もはや我が祖国を蝕む災厄そのもの! これ以上の蛮行、断じて許しはしませぬ! この場にて、『剣聖』マキシム・レステンクールが、全力をもって貴殿を討たせていただく!」
それは、揺るぎない覚悟に裏打ちされた宣戦布告。
紅蓮の大槍と深紅の長剣の切っ先が、寸分の狂いもなく権蔵へと向けられる。
二つの切っ先から放たれる闘気は、もはや隠しようもなく謁見の間の空気を歪ませ、まるで空間そのものが悲鳴を上げているかのようだ。
「ぶひひひひっ、このわしに挑む、と。しかも槍と剣の二刀流たぁ、面白い……。よかろう、じーさん、その心意気や良し! 受けて立ってやるわい! ただし、後悔だけはするんじゃねえぞ? わしと本気でやり合えば、おぬしとてタダでは済まん。いや、確実に死ぬな。ぐふふ、それでも良いってんなら、掛かってくるがいいわ!」
権蔵は、腹を抱えんばかりに愉しげに笑い、まるで「さあ、かかってこい」とでも言うように、挑発的に両手を広げてみせた。
その瞳の奥には、久方ぶりの強敵との戦いへの期待が、ギラギラと燃え上がっている。
「うむ、覚悟の上! 我が長年培ってきた武の粋、レステンクール千年の誇り、この老いたる全身全霊をもって、貴殿に挑ませていただく! そして、エリオット陛下のため、このオルレアヌの民草のため、必ずや、この槍と剣で勝利を掴んでみせる!!」
マキシムは、自らを鼓舞するように、あるいは古の儀式を執り行うかのように、紅蓮の大槍を一度、天高く掲げ、そして力強く振り下ろした。
ゴォッ!!
その動作に呼応するかのように、マキシムの足元から、まるで地獄の釜が開いたかのように、爆ぜるように炎が巻き起こる。
灼熱の業火が瞬く間に謁見の間全体に広がり、磨き上げられた大理石の床すらも溶かさんばかりの熱波が、空間を満たしていく。
王城の石畳が悲鳴を上げるほどの、尋常ならざる光景。さすがの権蔵も、その額にじわりと汗が滲むのを感じた。
(ほう……この爺さん、マジかよ。こんな業火を王城でぶっ放すとか、正気か? 城ごと燃やす気か? なるほどな、あの熱しやすくてキレやすいジュリアンの祖父というだけはある。良くも悪くも、ぶっ飛んでやがる……!)
猛る炎をその身に鎧のように纏いながらも、マキシムは微動だにしない。
その堂々とした立ち姿は、まさに炎の化身。
(まあよい! どうやら、この国の最強って看板は伊達じゃなさそうだ。ふん、ならば、この爺さんをぶっ倒せば、名実ともに、わしこそがこのオルレアヌで文句なしに一番強い『勇者』ってことになるわけだ! ぐふふ、いいぞ、いいぞ! ちぃっとは楽しめそうな戦いが始まりそうだわい!)
予期せぬ本物の強敵の出現に、権蔵の口元には、血に飢えた獣のような獰猛な笑みが浮かぶ。
久しぶりに心から楽しめるであろう『殺し合い』の予感に、彼は大きく両腕を広げ、全身全霊でマキシムを迎え撃つ臨戦態勢をとった。
灼熱の空気の中、二人の絶対的な強者の視線が、火花を散らして激突した。