※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第33話 エリオットの悔恨

 夜の闇を縫うように、冷たい雨が窓ガラスを叩いている。

 しとしと、という優しい音ではない。

 まるで幼い王の心の臓を責め立てるかのように、執拗なリズムを刻んでいた。

 

 まるで天そのものが嗚咽しているかのような夜景から、少年王エリオットは視線を外せずにいた。

 豪奢な天蓋付きのベッド、金の刺繍が施されたビロードのカーテン。

 王の寝室にふさわしい豪奢な調度品の数々が、今はただ彼の孤独を際立たせる牢獄の調度のように冷たく映る。

 虚ろなアクアマリンの瞳は、部屋のどこにも焦点を結ばない。

 

(ああ……なんだ、この、胸を内側から鷲掴みにされるような痛みは……)

 

 浅い呼吸を繰り返すたび、肺が軋む。

 酸素が足りない。まるで冷たい水の底へ、ゆっくりと沈められていくような息苦しさが、彼の全身を支配していた。

 

 瞼の裏に焼き付いて離れない。

 ほんの数時間前の、悪夢としか呼べようのない謁見の間の光景が、何度も、何度も、繰り返し脳内で再生される。

 

 無二の友が辱められ、気高き騎士であるその姉が衆目の前で無惨に尊厳を剥がされ、敬愛する老将が虫けらのように打ち据えられるのを――自分は、あの黄金の玉座から、ただ見ていることしかできなかったのだ。

 

 そして、あの男。

 傍若無人で、野蛮で、けれど抗いがたい力を持つ『勇者』――権蔵。

 ほんの少し前まで、自分の婚約者となるはずだった男。

 

『――この、人でなしめ!』『婚約は破棄する!』

 

 怒りに震えながら放った自分の声が、今も耳の奥で痛々しく木霊する。

 あの怒りは本物だった。

 彼の非道は、断じて許容できるものではない。

 

 だが――。

 

 あの宣言は、本当に王として正しい判断だったのか?

 あの規格外の『力』を失い、あまつさえ敵に回してしまった。

 この国は、民は、一体どうなってしまう?

 

(王ならば、国を、民をこそ優先すべきだった。それが為政者の務め……。わかっている。頭ではわかっているのに……! 余は、たかが私情ごときで……あんな、取り返しのつかないことを……!)

 

「あ……ああ……っ!」

 

 絹のシーツを握りしめ、エリオットは身を丸める。

 まだ幼さの残る小さな手で、いっそ引きちぎってしまいたいとでもいうように、自身の金の髪を掻きむしった。

 後悔と自己嫌悪が沸騰し、頭がおかしくなりそうだ。

 

 もう遅い。

 あの勇者は怒り狂っている。

 いつ、その報復の牙がこの国に剥かれるか。

 絶望が、冷たい鋼の爪となって心臓を抉る。

 

(余のせいで……国が、オルレアヌが……)

 

 その時だった。

 ほとんど音もなく、部屋の重厚な扉が――まるで闇が口を開けるように、ゆっくりと開いた。

 

「誰だっ!?」

 

 悲鳴に近い声が漏れる。

 振り返ったエリオットは、息を呑んだ。

 

「……っ、貴様は……ラソリーニ……!」

 

 そこに立っていたのは、影そのものが人の形をとったかのような、黒いローブ姿の男。

 オルレアヌ王国宰相、ラソリーニだった。

 

「夜分に失礼いたします、陛下」

 

 ローブの闇の奥から、蛇が這うような、ねっとりとした声が響いた。

 ノックもせず、許可もなく主の私室に踏み入るという不敬。

 その男はしかし、悪びれる様子もなく言葉を続ける。

 

「――少々、お耳に入れたい儀がございますが、よろしいですかな?」

 

 有無を言わせぬ響きだった。

 背筋を駆け上る悪寒を、エリオットはかろうじて気丈な言葉の鎧で押し隠す。

 

「……貴様に構っている暇などない。用があるなら手短に述べよ」

 

「くくく……」

 

 フードの奥で、ラソリーニの唇が歪んだのがわかった。

 

「これはこれは、ご威勢がよろしいようで。しかしながら、あの謁見でのご様子……王にあるまじき激情に身を任せ、千載一遇の好機を水泡に帰せしめたばかりか、国で唯一の切り札を敵に回してしまわれた御方が、そのように強気でいらっしゃるとは。いやはや、このラソリーニ、感服いたしましたぞ。その『蛮勇』には」

 

 粘つくような嘲笑が、エリオットの心をじわじわと蝕んでいく。

 

(やはり、この男は……人の皮を被った悪魔だ)

 

 その声も、その仕草も、人間という生き物の形を借りた、何か別の、おぞましい存在のものに思えた。

 人間らしい温かさなど微塵もない。

 底知れない悪意だけが、その影のような輪郭から滲み出ている。

 

「実に残念なことになりましたな、陛下。我が国は魔王軍に対抗しうる唯一の力を失いました。防壁たる隣国スパニアが、今まさに魔王軍の蹄に蹂躙されております。次がどこかなど、赤子でもわかりましょう。その時、陛下には、一体どのような聖断がおできになるので?」

 

「くっ、それは……」

 

 言葉に詰まる。

 

(父上ならば……。あの偉大だった父上ならば、この窮地ですら覆してみせただろうに……。だが、父上はもう……)

 

 その事実を認めることは、自らの無力さを認めることと同義だった。

 唇を噛みしめるエリオットの脳裏で、思考だけが空回りする。

 

「ふむ。お答えに窮しておられる。それは、何の策もお持ちでないということ。……やはり、陛下には王の器はあまりに重すぎたようですな。全くもって、お労しい」

 

 憐れむような口調に、隠しきれない侮蔑が滲む。

 

「以前も申し上げたはずです。陛下の御代では、この国は立ち行かぬ、と。だからこそ、このラソリーニがお支えし、導いて差し上げると。……ただ、黙って私の言う通りにしていればよかったものを。実に、実に愚かなご選択をなさいましたな」

 

 一瞬、ラソリーニの纏う空気が凍った。

 次の瞬間――剥き出しの憎悪を乗せた右手が、乾いた音を立ててエリオットの白い頬を穿った。

 

「――ッぐ…!」

 

 パァン!という破裂音。

 じんと広がる熱と痛み。口の中に広がる鉄の味。

 何が起きたのか理解するよりも早く、燃えるような屈辱が全身を焼いた。

 あまりの衝撃と恐怖に、声も出ない。

 

「まあ、よろしい。陛下の資質については、今さら論ずるまでもない。では、この私が、国を救うための唯一の道をお示しいたしましょう」

 

 ラソリーニは、まるで虫でも払うかのように手を振ると、冷酷に言い放った。

 

「――まず、陛下ご自身が勇者の元へ赴き、その御前にて平伏し、寛恕(かんじょ)を乞われよ。そして……かの獣が執心してやまぬ、その穢れなきお身体を、その白磁の肌を、彼の欲望のままに好きにさせて差し上げなさい。陛下の美しき御身をもってすれば、あるいは、かの勇者の怒りも和らぐやもしれませぬぞ?」

 

(悪魔……。この男は、本物の悪魔だ……)

 

 全身がわななく。こんな男の言いなりになるくらいなら、死んだほうがましだ。

 

「ふざけるなッ! そのようなこと、断じて……!」

 

「おや?」

 

 再び、ラソリーニの手が閃いた。

 今度は逆の頬を、さらに強く打たれる。

 

「これは、国を危うくされた愚かなる王への、宰相からの忠告であり、絶対の命令にございますぞ? 勇者の機嫌一つ取れぬ者に、どうしてこの王国が守れますか。それすらお出来にならぬのであれば……陛下に玉座に座る資格など、もはやありませぬな」

 

 権力の歪んだ味を知る男の目は、昏く、深く澱んでいた。

 その淀みの奥で、小さな王が絶望に染まっていく様を、悦楽と共に眺めている。

 

「だ、だが、余はもう……婚約を、破棄したのだぞ……」

 

 恐怖が喉を締め上げ、か細い声しか出てこない。

 

「ほう……まだこの私に逆らう、と。よろしい。ならば見せて差し上げましょう。陛下が否応なく、私の足元に跪くこととなる……ささやかな『魔法』を」

 

「な……!? まさか、魔法で人の心を操ると……! そんな非道が、許されるとでも……!」

 

 否定したい。

 けれど、この男ならば。この悪魔ならば、いかなる外道の魔法であろうと、嗤いながら行使するだろう。

 その確信が、声なき絶叫となって喉を焼き、エリオットの身体から自由を奪った。

 

「ええ。常識では考えられぬことでしょうな。ですが陛下、この世に不可能などという言葉は、本当の意味では存在しない。……手段を選ばなければですが」

 

 蛇が獲物を前に舌なめずりするかのように、ラソリーニは不気味な笑みをこぼす。

 その手が懐を探り、滑るようにして、一つの水晶玉を取り出した。

 

「な、何をするつもりだ……!」

 

 闇の中ですら、妖しい光を内包しているかのように輝く宝玉。

 それはただの水晶ではない。

 尋常ならざる魔力の気配が、肌を粟立たせた。

 

「この『写し身の宝玉』をご存知ですかな? いえ、ご存知あるまい。これは対象の姿形のみならず、その者の持つ記憶すらも映し出すという、禁忌の魔道具。……さあ、今回はこれに収められた、ある映像を、陛下にプレゼントいたしましょう」

 

「……いったい、余に、何を見せるというのだ……」

 

 か細い声が、虚しく震えた。

 

「陛下は、実に純粋で、無垢でいらっしゃる……だからこそ、教えがいがあるというもの。では、特別にご覧にいれましょう。きっと……ええ、きっとお気に召すはずでございますぞ?」

 

 その言葉は、悪魔が囁く呪詛そのものだった。

 刹那、ラソリーニが宝玉に魔力を込めると、それは血を吸ったかのように禍々しい光を放ち始める。

 部屋の空気が歪み、淡い光の粒子がスクリーンを形作る――。

 

 そこに映し出されたのは、古びたベッドだけが置かれた、石造りの冷たい部屋。

 そして、甲高い悲鳴だった。

 

『『ああっ! やだぁ! い、痛い!! やめろ! そのような…! お願いだから、やめてください! おねがいしますぅううっ!!』』

 

 魂を絞り出すような絶叫が、静寂に沈む王の寝室に突き刺さる。

 それはあまりにも甘美で、破滅的な旋律。

 悲鳴の主は、金糸の髪を振り乱す可憐な美少年。

 踊り子が纏うような薄く扇情的な衣装は無残に引き裂かれ、涙と屈辱に濡れた顔を苦痛に歪ませている。

 透ける布地は、白磁の肌を、華奢な身体の曲線を、いっそ淫靡に際立たせていた。

 

 その姿は――エリオットが何よりも慈しみ、愛する弟の面影と、あまりにも、あまりにも酷似していた。

 

「……リュカ……?」

 

 声が、出ない。

 世界から音が消え、ただ目の前の地獄絵図だけが、彼の網膜に焼き付いていく。

 少年の細い手足は、屈強な男たちの獣のような手に押さえつけられ、まるで蝶の翅をむしるかのように、無慈悲に玩ばれている。

 泣き腫らした瞳が虚空を彷徨い、助けを求めるようにか細い腕が伸ばされるが、その抵抗すらも、男たちの嗜虐心を煽るだけのようだ。

 

『ほれ、しっかり腰を動かせ! でねえと締め殺すぞ!』

 

 映像の中で、下卑た笑い声をあげる男が、少年に組み付く。

 獣の欲望が、剥き出しの暴力となって振り下ろされる。

 少年の涙に濡れた顔が絶望に歪み、か細い声で助けを求める叫びが、鼓膜を直接引き裂くように響いた。

 

 そしてエリオットは、見てしまった。

 理解してしまった。

 

 男の下半身から突き出す、醜く脈打つ肉の杭。

 それが、少年の小さな臀部に、無慈悲に、何度も、何度も、突き立てられていく様を。

 華奢な身体が、その暴力的な貫通に、魚のように跳ねる様を。

 

(あれは……なんだ……? なんなのだ、あの、おぞましいものは……?)

 

 思考が停止する。

 エリオットの世界が、音を立てて砕け散った。

 幼い頃に見た、陽光の下で屈託なく笑う弟の記憶が、目の前の陵辱の光景に上書きされ、汚されていく。

 胃の底から、熱いものがせり上がってくる。

 

「き、貴様らは……いったい……何を……!」

 

 声は、もはや意味のある音にはならなかった。

 ただ、恐怖と混乱が漏れ出した、獣の呻き。

 なぜ。どうして。こんなことが。

 愛する弟が、汚され、壊されていく。

 その事実が、意識を繋ぎ止めていた最後の糸を、ぷつりと断ち切った。

 

 映像の中の悲鳴が、エリオット自身の胸を内側から抉る刃となり、彼の心を、希望を、未来を、完膚なきまでに引き裂いて、深い深い闇の底へと引きずり込んでいった。

 

「ふふ、陛下は、まだ幼く、汚れ知らぬお心と御身をお持ちですから、ご存知ありませんでしょう。ご説明いたしましょう。これは『性交』と申す、人が子を得るために交わる行い。別名、性行為。そして今ご覧頂いているこの映像こそ、弟宮リュカ様の初めての『強姦』――つまり、無理やり、意思に逆らって行われる交わりの現場でございます。ご理解いただけましたかな?」

 

 ラソリーニの声は蜜のように甘く、しかし毒を宿してエリオットの耳をじっとりと這った。

 

「性交……強姦……」

 

 初めて耳にした冷酷な言葉が、エリオットの脳裏で渦を巻く。それらの意味が一つ、また一つと理解されるたび、胸の奥底まで冷たい絶望が染み込み、呼吸すら忘れさせる。

 

 弟が穢され、辱められている……その現実が、全身を締め付け、心臓の鼓動をひとつひとつ奪っていく。

 

「おやおや、ずいぶん見入っておられるようで、私も安心いたしました。ご覧の通り、リュカ様はこの通り、下賤の者どもの慰み者。いかがでございます?  陛下ご自身の立場、ようやく真にご納得いただけたではございませんかな?」

 

 映像に映るのは間違いなく、大切な弟。

 その残酷な真実を突きつけるラソリーニの言葉が、エリオットの魂を容赦なく切り裂く。

 悲痛な叫びは鋭い刃となって胸を抉り、怒りの炎が腹の底で灼熱に燃え盛った。

 

「くっ……! これほどの蛮行、決して見逃すものか! 貴様だけは……絶対、許さん!」

 

 エリオットは震える声で叫ぶ。最愛の弟が辱められ、その痛みを目の当たりにした屈辱が、血潮となって体中を駆けていく。

 

「はっはっはっ、見事なご気性ですな! だが陛下、ここで私を不愉快にさせれば、リュカ様がさらにどんな扱いを受けるか……王ともあろう者、理解できぬとは申されますまい?」

 

 ラソリーニは嘲りとともにエリオットの顎を乱暴に掴み、強引にその視線を絡め取る。

 瞳の奥には、底なしの悪意と、どす黒い狂気が渦巻いていた。

 男の卑劣な欲望に、エリオットの血は凍り付く。

 逆らえば、どれほどの地獄が弟の身に訪れるのか。考えるだけで、体がこわばる。

 

「……分かった。だから、これ以上……弟には……手を出すな」

 

 震える声で、屈辱に奥歯を噛み締めて、エリオットはそれだけを絞り出した。

 ラソリーニは満足げに唇の端を吊り上げる。

 

「ふふふ……ようやく、ご自身の無力さをご理解いただけましたかな。よろしい。それでこそ、この国の王です。では、後日。必ず勇者殿のもとへ赴き、先ほどの不敬を詫びて、己が御身を捧げる覚悟をお伝えなさい」

 

「そ、それは……つまり?」

 

「そうです。勇者殿を籠絡するため、陛下には彼と『性交』していただくのです」

 

 ラソリーニは残酷な笑みのまま、ひと言ひと言を棘のように投げた。

 

「な、なぜだ……なぜ私が、そんな……!」

 

 エリオットの問いに返る言葉は、氷の刃のように冷たかった。

 

「なぜ? まだ分かりませんか。これは“命令”です。拒む選択肢は、もう、陛下には残されておりませんぞ?」

 

 ラソリーニの微笑は消え、その視線は冷く、無慈悲にエリオットの心を圧し潰す。

 その眼差しだけで、王子の意思は凍り付き、拒む権利など最初から存在していなかったことを思い知らされる。

 

 胸に突き刺さったその現実の冷たさが、少年王エリオットを絶望の淵へと追いやっていった。

 

「私は……私は、一体何を信じればいいんだ……」

 

 エリオットの声は震え、目元にはこらえきれない涙が滲む。

 頼れる言葉も、支えになる希望も、今の彼には見つからない。

 

「信じるものなど、何もございますまい」

 

 ラソリーニの声は、氷のように冷たく突き刺さる。

 

「陛下はただ、従えばよいのです。リュカ様の命を救うことだけが、陛下の存在理由。余計な思考も感情も不要――道具は、道具らしく命令に従っていればよいのですよ」

 

 もはや、エリオットには選択肢など残されていなかった。

 抗う力も、希望を抱く勇気も、すべて剥ぎ取られてしまった。

 弟を救うためには、自分自身がどれほどの蔑みを受けようと、どんな辱めに沈もうと、耐えるしかない。

 

 けれど――。

 この惨めな現実を招いたのは、どこまでも弱い自分自身なのだ。

 

「弟のためだ」と必死に言い聞かせてはみるものの、胸の奥底で、ラソリーニの非道な要求に従うしかない、無力な自分を――エリオットは深く、深く呪うしかなかった。

 

 

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