美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
エリオットによる衝撃的な婚約破棄宣言から、あれよという間に数日が過ぎていた――。
王都セルフィアの目抜き通りに構える、格式ある豪奢な宿。
その一室で、権蔵一行は思いきり贅沢で堕落した滞在生活を満喫していた。
権蔵本人はと言えば、グレイとカイト――二人の美少年たちの「献身的な慰め」に存分に癒された結果、あの失恋のショックはどこ吹く風。
王都のしっとりとした空気のなか、昼間からソファでくだを巻き、まるで勇者の名を持つこと自体が冗談であるかのように、いつも通りの自由奔放ぶりを見せていた。
そんなある日――
唐突に、元気いっぱいの声が扉の向こうから響いた。
「ご主人さまーっ! 大変ですよー!」
昼食を済ませてすっかりくつろいでいた権蔵は、ソファに悠々と寝そべり、高級果物を贅沢に頬張っている最中だった。
そこへ、買い物に行かせていたカイトが、目を輝かせてチラシを握ったまま駆け込んできた。
「なんじゃ、カイト。騒がしいやつだのう。今、わしはこの異世界の果物を使った究極スイーツのレシピについて、思索を巡らせておるのだぞ」
権蔵はもぐもぐと口を動かしつつ、チラシを押し返してみせる。
が、カイトはますます興奮した様子で、紙をふわふわと振り回す。
「それどころじゃないですよ! 見てください! 王都の中央広場で、今日からサーカスが始まるんです! なんと、有名な団体みたいですよ!」
「サーカス、だと? ふん――あれはガキどもの見世物だろうに。わしがそんなものに興味あるとでも?」
鼻で笑う権蔵。
しかし、カイトは諦めない。無邪気な笑顔で首を横に振る。
「ええーっ、でも本っ当にすごいらしいですよ! 火吹きの剣士、ナイフ投げ、玉乗り、空中ブランコ、そして綱渡りまで――しかも、サーカスのマスコットの『クロちゃん』が可愛いって、街でも評判になってるんです!」
「……カイトは子供っぽさが抜けんのう。いいか、サーカスなんて所詮は子供騙しだ――玉乗りだ? 空中ブランコだ? そんな大袈裟な芸で、わしの心を動かせると思っているなら大間違いじゃ」
権蔵はやれやれと肩をすくめつつ、果物の皮をぽいと投げる。
しかしカイトはめげずに、さらにチラシをぐいぐいと押し付けてくる。
「いいじゃないですか〜! ご主人さまも一緒に行きましょうよ! ぼく、ぜーったいサーカス見たいですよ!」
あまりの熱意に、ついにグレイが立ち上がる。
「カイト、権蔵さまに御迷惑だ。もうやめておきなさい――」
ところが、グレイはカイトからチラシを手渡され、ちらっと目を落とした瞬間、言葉を失った。
鋭い銀色の目が、チラシに貼られた何かに吸い寄せられ、表情がぴたりと固まる。
「ん? どうした、グレイ?」
権蔵が首を傾げると、グレイはチラシをじっと見つめたまま、静かに顔を上げて答えた。
「……権蔵さま。ここに、見慣れぬ演目が一つ。“美少年道化師サジースによるゴーレムショー”……と記されています」
その言葉に、権蔵の耳が獲物の気配を察した猟犬のごとくピクリ、と反応した。
「美少年……だと?」
ソファから弾けるように飛び起きた権蔵は、グレイの手からチラシを鷲掴みにする。
文字も読めぬくせに、妙に食い入るように紙面を凝視して――
「む、むむ! これは確かに。“美少年”……この世界でわしが最初に覚えた単語じゃ! 間違いなくここに光り輝いておる! 美少年! ビ・ショ・ウ・ネ・ン!」
権蔵の目が、果物よりも甘い誘惑にキラリと輝き、口元はすでに破顔一笑。
「ほらほら、ご主人さま、やっぱり気になってるでしょ? 行きましょう、サーカス!」
カイトがいつもの無邪気な笑顔でニコニコとすり寄ってくる。
「ば、ばかな! わしは美少年だとかただの道化師だとか、そういうくだらん見世物には何も……いや、まあわしのメイドであるお前がこれほど推すなら、たまには気晴らしも悪くない。……暇つぶし、いや美少年など、別に……ぐふふ……行ってみるのも、まあ、うん、悪くは……」
今にもよだれが垂れそうなその顔は、どう見ても“美少年目当てで仕方なく”の期待MAXだった。
実にわかりやすい。
グレイが静かに声を掛ける。
「それでは、権蔵さま。出かける支度を整えましょう……それと、ジュリアンはどうします?」
部屋の隅で膝を抱え、ひっそりと縮こまるジュリアン。
再教育という名の過酷なスパルタから、すっかり弱気になっている。
「…………っ!」
グレイの氷のような視線が刺さると、ジュリアンは怯えて首をすくめる。
「フフフ……決まっとるじゃろ。ジュリアンも一緒に行くぞ。まだ肝心な“お仕置き”はこれからじゃ。何をビクついとる? 取って食う訳じゃない――今のところはだが。覚悟しておけよ、ぐへへへ……!」
権蔵の怪しい笑みに、ジュリアンはさらに小さく丸まる。
そんなこんなで――
誰よりも浮ついた期待、誰よりもうんざりした不安、そして誰よりも淡々とした仕事人の冷静――
それぞれの思惑と欲望を胸に、権蔵一行は王都中央広場へとサーカス見物の旅路に向かうのだった。
♦
王都セルフィアの中央広場は、いつもの荘厳な落ち着きを忘れたかのように、華やかな喧騒に包まれていた。
風に舞う色とりどりの旗、陽気な楽団の音色がそこかしこで高らかに響き渡り、広場の中央には赤白の縞模様で飾られた巨大なテントが威風堂々と聳えている。
まるで異世界に現れた移動式の魔法城塞のような存在感だ。
出入口で呼び込みをする道化師たちが、巧みな口上で人々を誘い寄せる。
屋台の並ぶ通路からは焼きたてパイやジンジャーブレッドの甘い香り、獣たちの体臭や香辛料の刺激が混ざり合い、街全体が特別な祝祭の空間へと塗り替えられていた。
「わあっ! すごい人です、ご主人さまっ! この匂い、すっごく美味しそう……! まるで本物のお祭りですよ!」
カイトは目を輝かせて、楽しげに辺りを見回す。
しっかりと権蔵の服の裾を握りしめて、子犬のように跳ねている。
「ふむ。騒がしいばかりに見えて、活気は悪くない。なにより、空腹を刺激するに十分な香りの数々じゃ……」
権蔵もつい鼻を鳴らしながら、すでに屋台の品定めを始めている。
一方、ジュリアンは眉間に深い皺を寄せ、人波から距離を取るように一行から離れていた。
広いマントをたっぷりと身体に巻きつけているその姿は、まるで傷ついた小動物である。
「おい、ジュリアン。端っこで拗ねている場合か。こっちに来い。一緒に祭りを楽しめ。お? 見ろ、あの蜂蜜がけの焼き菓子は見るからに美味そうだ。食べてみたくはないか?」
権蔵はどこか子どもをあやすような声音で、しかし揶揄の混じった悪戯な笑みを浮かべ、ジュリアンに声を掛ける。
「……結構だ! 貴様からの施しなんぞ、受ける気はない!」
ジュリアンは顔を真っ赤に染め、鋭く拒絶する。
「ぐふふっ、つれないやつだのう。今日はわしと楽しくデートをするつもりではなかったのか? そんな仏頂面では、わしまでつまらぬぞ?」
「デート、だと……っ!? ふざけるな……!! 私は、私は……人目につく場所になど、来たくはなかったのだ……! それなのに、こんなっ……!」
ジュリアンはか細い声で唇を噛みしめ、肩を震わせて俯いた。
その痛々しいまでの屈辱ぶりこそが、権蔵の歪んだ嗜虐心をくすぐる。
ねっとりとした愉悦の笑みを浮かべると、権蔵は唐突にジュリアンのマントの端を指でつまみ――容赦なく一気に捲り上げた。
「ひっ……――っ!?」
裏返る悲鳴。
広場にいた何人かが、息を呑んだ気配が伝わる。
衆目に晒されたのは、権蔵が無理やり着せた『ビキニアーマー』だった。
鎧と呼ぶにはあまりに露出過多で、金属部位はほんの肩当てや手甲が名残り程度。
深紅の布地は胸元と腰回り、そして股間のみを申し訳程度に隠しているに過ぎない。
しなやかで白い肌のほとんどが、無防備に外気と視線に晒されていた。
その姿は、普段頑なに隠しているはずの柔肌も含め、紅い紐が逆に肢体を扇情的に縁取っていて――羞恥と美しさが入り混じった眩い瞬間だった。
「おま、な、なにを……!? こんな格好、晒し者にするつもりかっ……! やめろ、離せ……っ!」
必死にマントを取り戻そうともがくジュリアン。
顔は林檎のように真っ赤で、涙目になりながら抵抗を続ける。
しかし、権蔵はその姿をおもしろがり、むしろ楽しげに唇を歪ませて、ジュリアンの細腰をぐいと引き寄せる。
「ふぉっふぉっ! ジュリアンよ、恥じ入ることは何もないぞ? これはビキニアーマーというのだ。わしの故郷では、誇り高き“くっころ騎士”のみが身にまとう、栄誉ある戦装束だったのじゃ。ほれ! この純白の肌に黒い紐が食い込む様、実に美しく、そして扇情的であろうが!」
権蔵が陽気に胸を張るたび、ジュリアンは羞恥で顔を真っ赤に染め、震える声を上げる。
「な、何を馬鹿なことを……! こんな衣装、騎士の誇りを汚すだけだ……っ!」
ジュリアンは抗議するも、権蔵は返ってその反応を心底愉しむかのように、指先をじわりと腰へ這わせる。
「ぐへへ……ほう、なかなか良い手触りじゃの。肌もよく締まっとる。これぞ男心を直撃する逸品。ほれ、もっと自信を持て! その肢体、皆に見せつけてやれ!」
「ひんっ……!」
権蔵が両手でジュリアンの尻を鷲掴みにして、軽く上下に揺さぶる。
その拍子にビキニが股間へ食い込み、布地が敏感な部位をスレる刺激が、ジュリアンの口から思わず悲鳴を漏れさせる。
――広場のざわめきは、次第に好奇と興奮、そして同情の視線が混ざる渦へと変わっていく。
「おい、なんだあれは……」
「可哀想に……」
「こんな服、男の子が着ちゃだめだろ……」
「でも……ちょっと、アリじゃないか……?」
男も女も子供も、ジュリアンを遠慮なく視線で値踏みし、あれこれと囁き合う。
それらのすべてがジュリアンの羞恥心と怒りを煽り、彼は必死に権蔵の胸を押し返そうと抵抗を試みる。
だが、力の差は歴然、彼の小さな反発は権蔵の掌の中で弄ばれるだけだ。
「ぐへへへ! 恥ずかしくなければ“お仕置き”の意味がなかろうが。さあ、もっと皆に見せつけてやれ!」
わざとジュリアンの身体を衆人環視の中央へと向き変えて、恥辱と勝利の笑みを浮かべる権蔵。
ジュリアンは唇を噛み、涙混じりの瞳で首を横に振るしかできない――。
一方グレイは、そんな主従劇にも微動だにせず、ぎりっと辺りを見回して警戒を怠らない。
主の安全を守る職務を果たしつつも、どこか冷静な顔に影が宿る。
カイトはやっとのことでお気に入りの菓子を屋台でゲットし、はしゃぎながら一行を導いて巨大テントの中へ。
外の喧騒を抜けた先の、薄暗い会場には、魔法灯の明かりに浮かぶ円形舞台。
何層にも並んだ客席はすでに観客でみっちり埋まり、開演前のざわめきと期待が場内の空気を震わせている。
干し草と獣の息遣い、人間たちの熱気が独特の匂いとして肌にまとわりついた。
グレイが段取りよく手配していた、特等席へと一行は案内される。
貴族用ではないが舞台が間近に見える申し分ない席だ。
「やったー! 一番前! グレイ団長、ありがとうー!」
カイトは小さな体を弾ませて喜びを爆発させる。
ジュリアンは、もう抗うこともできず、無言のまま権蔵の隣に座る。
表情は硬く、うつろな瞳に「早くこの悪夢、終われ」と切望がこぼれていた。
権蔵はその様子を面白がりつつ、カイトが買ってきたリンゴのフリッターに齧りつく。
やがて場内の魔法灯が一斉に絞られ、ファンファーレが高らかに鳴り響く。
舞台衣装も観客の息も――王都セルフィアのサーカス、開演の幕がいよいよ上がるのだった。