美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
オルレアヌ王国の東方に聳えるドルテナ要塞。
古代の英雄ドルトゥスの名を冠したこの城塞都市は、険しい山々の間に巨人の剣のごとく堂々と佇んでいた。
濃紺の石材で築かれた城壁は夕陽に照らされると青い炎のように輝くことから「蒼炎の砦」の異名を持つ。
幾重にも重なる分厚い城壁には無数の矢跡が刻まれ、東の国境線における数世紀に及ぶ戦いの歴史を今に伝えていた。
この地は四季の移ろいが美しい。春には山桜が谷間を埋め尽くし、夏には涼風が城壁を吹き抜ける。
秋には紅葉が山々を染め上げ、冬には静謐な雪景色が広がる。
しかし、その美しい自然とは裏腹に、ここは常に戦いの影に脅かされてきた土地でもあった。
急峻な谷と連なる山岳地帯は「龍の背骨」と呼ばれ、まるで巨大な竜が横たわったかのような地形が、スパニア王国との国境線を形成している。
かつてこの地では、両国の騎士たちによる小規模な衝突が繰り返され、時には熾烈な攻防戦も展開された。
百年以上に渡る領土争いは、政略結婚による和平も功を奏さず、緊張関係が続いていた。
しかし、三年前に起きたスパニア王国への魔王軍の侵攻は、この長年の対立構造を一変させる。
黒雲のように押し寄せる魔王軍は、スパニアの誇る騎士団をわずか二年で壊滅させ、国土の三分の二を蹂躙した。
かつての豊かな農地は荒れ果て、繁栄を誇った都市は廃墟と化し、ドルテナ要塞は突如として、魔物たちが跋扈する魔王軍の領土と直接境を接することとなった。
要塞の見張り台からは、夜ごと東の地平線に魔物たちの松明が点々と浮かぶようになっていった。
そして現在―――皮肉なことに、このドルテナ要塞はオルレアヌ王国の手を離れていた。
城壁には今や、王国の象徴たる白百合の旗ではなく、青地に金の星を描いた旗が翻る。
魔王討伐のために他世界から召喚されたはずの勇者が、予期せぬことに要塞を制圧・占領したのだ。
歴史家たちが「英雄による裏切り」と記すことになるこの出来事は、さらなる混乱の始まりに過ぎなかった。
ドルテナを拠点とした勇者は、驚くべきことに子供たちだけで構成された盗賊団を組織。
その集団は王国の各地で略奪行為を繰り返し、社会の秩序を揺るがしていった。
人々は恐れをもって、その者を『山賊勇者』と呼んだ―――
◆
「う~ん、うまいのう、うまいのう。やはり、日本食は米を炊いたものに限るわい」
ドルテナ要塞の最上階にある一室。
かつては要塞司令官の執務室だった広々とした空間だが、今では富裕層の私室のような雰囲気に変わっていた。
ベッドや娯楽品、酒類が置かれ、軍事拠点としての厳かさは影を潜めていた。
ドルテナ要塞の主である勇者権蔵は満足そうに目を細め、湯気の立つ白米を口に運んだ。
その姿は、異世界の要塞に君臨する支配者というよりも、懐かしい味に浸る一人の日本人のようだった。
室内の窓からは遠く東の山々まで見渡すことができた。
昼の光が差し込む静かな空間に、彼の声が心地よく響いていた。
魔晶石で作られたシャンデリアが天井から吊るされ、その光が部屋全体を柔らかく照らしていた。
異世界に転生してから、彼がこうして日本食を口にするのは実に三年ぶりのことだった。
この三年間、彼は異世界の食事に慣れようと努めてきたが、やはり日本食への思いは断ち切れなかった。
この世界では、パンが主流で、米を主食とする文化は存在しなかった。大陸性気候の影響で、小麦の栽培が盛んな土地柄だったのだ。
パンと肉を主食とする食文化が主流となっているオルレアヌ王国では、米は珍しい贅沢品として扱われていた。
一握りの米が、一般市民の一ヶ月分の給金に相当するほどの価値があった。
しかし、運命のいたずらとでも言うべきか、盗賊団『子羊の産声』が大商人のキャラバンを襲撃した際、その積荷の中に米が混じっていたのだ。
三十頭の馬が引く大規模なキャラバンの中に、特別な梱包が施された米俵が積まれていた。
どうやら南方の隣国のロマーニア公国北部では稲作が盛んであり、その米をオルレアヌの米好きな貴族たちに届ける商人が存在していたらしい。
温暖な気候と豊富な水源を活かし、代々稲作の技術を継承してきた農民たちがいたのだ。
特に、公国北部の渓谷地帯では、段々畑を利用した稲作が行われており、その米は「月光の雫」と呼ばれ、貴族たちの間で珍重されているという。
満月の夜に収穫される米は、特別な光沢があり、味も格別だと言われていた。
偶然にも、彼らはその新鮮な米を手に入れることができた。それ以来、権蔵たちはその貴重な米を大事に炊き、日々の楽しみとしてきた。
権蔵は米の保存方法や炊き方を盗賊団の子供たちに丁寧に教え、日本の食文化の一端を伝えていった。
今日はその米で作ったおにぎりが昼食に並んでいた。
三角形の形をした白いおにぎりは、まるで宝石のように食卓を彩っていた。
中には異世界で手に入る多種多様な具が入れられ、そのバリュエーションは豊富だった。
権蔵は日本での記憶を頼りに、一つ一つ丁寧に握っていた。
その手つきには、故郷への深い思いと、新たな世界で生きる決意が込められているようだった。
「ご主人さまの握った『おむすび』は、最高ですね。 この、シャッケが具に入ったやつが美味しくて手が止まりません♪」
赤毛のメイド少年カイトが、頬を緩めながら嬉しそうに声を弾ませる。
シャッケという鮭に似た味のモンスターの肉が混ぜ込まれたおむすびを、まるでリスのように頬張る姿に、権蔵は思わず微笑んだ。
「ふふっ、カイトは本当に嬉しそうに食べるのう。シャケおむすびは子供が好きなおむすびの定番だから当然なんじゃがな」
権蔵が穏やかな笑みを浮かべ、カイトの頭を優しく撫でると、今度は銀髪の美少年グレイが上品に口を動かしながら感想を述べた。
「俺はこの『梅おむすび』が好みです。権蔵さまが漬けた梅干しの酸味とご飯の甘みが合わさって絶妙で……」
黒い目隠しの奥に知性と落ち着きを宿した瞳を持つグレイの前には、山盛りのおにぎりが置かれている。
その口元に浮かぶ微笑みには、どこか愛らしさと不思議な色気が同居していた。
「うむ、梅干しはわしの故郷の味じゃからの。それにしてもグレイちゃんは体は小さいのによく食うのう」
権蔵の言葉に、「う、申し訳ありません。はしたない姿をお見せして」と親に叱られる子供のようにシュンとするグレイ。
「よいよい、おぬしたちは育ち盛りなんじゃからの。遠慮せずにもっと食うんじゃぞ」
グレイの頭をぽんぽんと撫でてやると、グレイは頬を赤らめて無言で頷いた。
真っ白な歯でおむすびを頬張る二人の従者の姿は、まるで我が子のようで愛らしい。
時折こぼれる満足げな表情に、権蔵の胸は温かさで満たされていく。
(食卓に米が並ぶと異世界でも和食を食ってる気分になるわい。しかもこれはジャポニカ米みたいな品質じゃ。まさにこれは紛うことなき日本の『おむすび』じゃな)
権蔵は当初、異世界で”うまい米”に出会えるとは思っていなかった。
固くてパサパサした米か、せいぜいスープに入れる程度のものを想像していたのだが、手に入れた米は日本のそれと変わらぬ粘り気と甘みを持ち、炊き立ては極上の味わい。
つやつやと輝く白い粒は宝石のように美しく、その香りだけで故郷を想わせた。
長年の一人暮らしで培った料理の腕は、異世界でも存分に活かされている。
魔物の肉や見たこともない野菜も、権蔵の技法で調理すれば立派な一品となった。
新しい食材での料理開発も楽しみの一つとなっていたが、やはり日本食の味わいには特別な安らぎがあった。
「やっぱり、和食は落ち着くのぅ……」
権蔵はそうつぶやきながら、ふかふかとしたベッドに身を横たえた。
窓の外では見慣れない異世界の鳥が静かに羽ばたいている。
「ふう……今日もよく食べたし、そろそろ寝るか、それともエッチでもやるかのう……」
そんなことを考えていると、隣でグレイがなにか言いたそうに、期待に満ちた瞳でこちらを見つめているのに気がついた。
「ん? どうした、グレイ。なにか言いたいことでもあるのか?」
「はい、権蔵さま」
グレイは少し躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「……つい先日の、王都セルフィアへお出かけになられた折のことを、お聞かせいただけませんでしょうか」
「あぁ、王様と会った話か」
権蔵は懐かしむような笑みを浮かべ、遠くを見るような目つきになった。
「あれはめったにお目にかかれない上玉だったな。わしが今まで会ってきた少年の中でも、一番の美少年かもしれんな」
その言葉には、単なる容姿への賛美を超えた、何か深い感慨が滲んでいた。
権蔵の瞳には、王との出会いの光景が今も鮮明に焼き付いているようだ。
「それにしても、あの王様、わしが突然現れたってのに警戒することもなく、普通に話してきたんだ。さすが王様だけあって肝が座ってると言うべきか……驚いたよ」
「それは興味深いお話ですね……」
「おう、でもな」
権蔵は声音を落として続けた。
「どうにも気になることがあってな。なんだか幸せそうな顔をしていなかったんだよな。どこか憂いを帯びた目をしていてな……その表情が、妙に保護欲をくすぐるというかなあ」
話を聞いていたカイトは、少し驚いた様子で、深緑の瞳を輝かせながら問いかける。
「へー……それで、ご主人さまはなぜ王様を無理やり連れてこようとは考えなかったのですか?」
権蔵はカイトの言葉に目を細めて、軽くため息をつきながら返答する。
「あのなぁ……わしが強引に少年を誘拐したことあるか? わしにもポリシーってもんがあるのよ。確かにエリオットの憂い顔は、わしの美少年センサーにド直球だったが、そういうのは違うんじゃよ。見ただけで胸がキュンとする美しさだったのは認めるが、わしだって最低限のモラルは持ち合わせておる」
権蔵は一息つくと、さらに真摯な口調で続けた。
「あいつにはあいつなりの事情があるだろうし、わしのやり方はもっとこう……双方納得の上でっていうのが大事なんじゃ。それに今のエリオットには、あの眼差しを向ける理由があったはずじゃ。そこを無視して強引に連れ去るなんて、わしのやり方とは真逆なんじゃよ」
権蔵は腕を組み、目を閉じながらそう語った。
そのときグレイはしばし考え込むように黙り込んだ。
「ん? どうしたんじゃグレイ。お前らしくもない顔しちゃって。まさかわしの言葉に感動したとでも?」
権蔵が軽口を叩くように言うと、グレイは静かに口を開く。
その声はいつもより低く、切迫感を帯びていた。
「いえ、誘拐という言葉を聞いて、気になることを思い出したんです。最近、ちょっと厄介な情報が入ってきまして。単なる噂話として流せないような内容でした」
「……ほう、聞かせてみろ」
「はい。最近、オルレアヌ王国で子供たちが次々と姿を消しているんです」
その言葉を聞いた瞬間、権蔵の表情が一瞬強張る。
普段の軽薄な態度は完全に消え去り、代わりに鋭い眼光が宿っていた。
「子供たちが……? 一体どういうことなんじゃ?」
「情報はまだ断片的なんですが、貴族の子供まで被害に遭っているそうです。でも不思議なことに身代金要求はなく、ただ消えるだけ。それと、もう一つ気になる特徴が」
グレイは一瞬言葉を切り、権蔵の反応を窺うように視線を向けた。
「被害者のほとんどが、際立って美しい容姿の持ち主だったということです」
その言葉を聞くと、権蔵の顔が一層険しくなった。
眉間にしわを寄せ、腕を組みながら何かを考え込む。
「なるほど、美少年美少女ばかりが狙われてるってことか。これは……」
権蔵は言葉を途中で切り、深いため息をつく。
「俺たちの情報網を使って、調べてみましょうか。『子羊の産声』のネットワークを総動員すれば、何か掴めるはずです」
その申し出に、権蔵は少し考えた後、小さく頷いた。
その表情には、普段の軽薄さは微塵も感じられない。
「ああ、頼む。だが、無理はするなよ」
「承知しました。必ず手がかりを見つけてみせます」
グレイが決意を示すように頷いたその時、
「へぇ~、誘拐事件ですか。これって、もしかして山賊勇者の仕業って噂になってたりして? だって、ご主人さまって美少年好きで有名じゃないですか~」
カイトが意地悪な笑みを浮かべながら、からかうように言う。
その言葉に、権蔵の顔が見る見る赤くなった。
「こら、人を勝手に犯罪者扱いするんじゃない。わしはそんなチンケな男じゃねぇわ! そもそもわしは今勇者業はほぼ休業中だし。それに人助けはするが子供は絶対に誘拐しない主義なんでね! わしにだってちゃんとした少年愛の美学というものがあるんだからな」
「えぇー、そうなんですか? この前、金髪巻き毛の騎士くんを連れ帰ってきた時なんて、まるで宝物でも見つけたみたいに目を輝かせてましたよね。あの時の笑顔といったら、まるで変質者の顔そのものみたいでしたけど」
カイトの言葉を聞いた瞬間、権蔵の顔が見る見る青ざめていく。
まるで現行犯で捕まった泥棒のような、言い逃れの余地のない表情だ。
「あ、ああ……そういえばその巻き毛くん、どうしたんじゃろ?」
慌てて話題を逸らすように尋ねる権蔵に、グレイが冷静な声で応える。
「巻き毛なら無事ですよ。一応、念のためドルテナの地下牢に保護してあります。子供とはいえ王国の関係者ですから」
「そうか、そうか……なんだか悪いことをしてしまったのう。本来ならば和姦主義が信条のわしが、ついムラムラして強引に……いや、あの時は王様に振られてヤケ酒を飲んでいたところに、たまたまかわいい騎士くんが通りかかったもんじゃから……」
権蔵は頭を掻きむしりながら、言い訳めいた言葉を並べ立てる。
「まあよい。とにかく巻き毛くんは解放して王都に返すように手配してくれ。頼むぞ」
「承知いたしました。お任せください」
グレイは丁重に頭を下げる。
「よしよし、それじゃあわしは王様をメロメロにさせてわしのものにする計画を練るとするかの」
権蔵は天井を見上げながら、まるで甘い夢想に浸るかのように目を輝かせた。
「ええっ!? またですか。もう一度振られたんですよ? いい加減諦めたほうが……」
呆れたようにため息をつくカイトを横目に、権蔵は再びベッドに身を投げ出し、仰向けになった。
「ふっふっふ、まだまだ若いのぅ、カイトよ。振られたからって諦めるような男に、真の愛は掴めんのじゃ。わしにはわかるんじゃ、あれは完全な拒絶ではなかったことが」
権蔵は意味ありげな笑みを浮かべながら、得意げに続けた。
その表情には、どこか子供のような無邪気さと、根拠のない自信が混ざり合っている。
「あれは単に嫌悪感で振ったわけじゃない。キモ男を見る目ってのはもっと冷たくて鋭いんじゃ。だが、あの王の目には違うものがあった。むしろ、興味を持っていた目じゃ」
権蔵は身振り手振りを交えながら熱心に説明する。
「まだわしの魅力に気づいていないだけで、いずれ必ずや心を開いてくれる。確信しておるんじゃ! あやつには理想の伴侶としての素質が満ち溢れておる! 必ずやわしのもとへ……ぐふふふ」
権蔵の突飛な発言と、まるで少年のような無邪気な笑みを見て、カイトは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。
「さすがご主人さまですね! ただでは諦めないところがほんとにすごいです♪」
からかうような口調で返すカイトに、権蔵は得意げに胸を反らす。
「ふっふっふ、まだまだ若いのう、カイトよ」
権蔵は教育者のような口調で諭し始めた。
「よいか、大人のわしが特別に教えてやろう。恋愛も戦も、一瞬の勝負では決まらんのじゃ。焦って突っ込むやつほど、自らの破滅を招くもの。ゆっくりと、確実に相手の心を掴んでいく――それこそが恋の極意というものよ」
数々の恋愛ゲームで培った知識を披露し、権蔵は誇らしげに胸を張る。
その姿は、まるで戦場の老将が若き兵士に極意を伝授するかのような、妙な説得力を持っていた。
権蔵の言葉を聞いたグレイは、一瞬だけ視線を落とし、何かを思案するように黒い目隠しの奥で瞳を細める。
その表情には、いつもの冷静さの中に、どこか深刻な影が差していた。
「確かに、その通りかもしれません。焦って動けば、かえって状況を悪化させかねない。慎重に進むことこそが……」
グレイは一度言葉を切り、様子を窺うように権蔵を見上げた。
「それで、権蔵様はどのようにお進めになるおつもりですか? また王城へ赴かれるおつもりですか?」
その問いに対して、権蔵は勢いよく胸を張り、満面の笑みを浮かべながら即答する。
「うむ、もちろんじゃ! 次は正式にデートにでも誘ってみようかのう。わしはあの王、エリオットが気に入ってしもうた。必ずや口説き落として、わしのものにしてみせるわい!」
その軽薄とも取れる決意表明に、グレイは冷静さを保ちながらも、真剣な面持ちで言葉を返す。
「ですが、権蔵様。おそらく、こちらから動く必要もないかもしれません。むしろ、王国の方から接触があるかと」
「ん? どういうことじゃ、グレイ?」
権蔵は一瞬驚き、首をかしげた。それまでの軽はずみな態度が一変し、真剣な眼差しに変わる。
グレイは周囲を警戒するように視線を巡らせ、声を落として静かに、しかし重みのある声で説明を始めた。
「現在、オルレアヌ王国は魔王軍の侵攻によって存亡の危機に瀕しております」
グレイは冷静な声で状況を説明していく。
「国土の北方では戦火が広がり、民は塗炭の苦しみを味わっているとか。この国の命運を賭けた戦いで、現状を打開するには、どうしても勇者の力が必要なのです。特に、権蔵様のような圧倒的な実力をお持ちの方なら、魔王軍を押し返し、さらには魔王討伐すら夢ではありません」
グレイの声は次第に力強さを増していく。
「ですから、権蔵様の真の目的、すなわちエリオット王を娶るという願望を察知した王国は、これを千載一遇の好機と捉えるはずです。美少年好きな権蔵様の下に王を餌として差し出し、正式な協力要請を持ちかけてくる――そう考えるのが自然かと」
「なるほど……それで、わしに接触してくるというわけか」
部屋の空気が一瞬で変わり、先ほどまでの和やかな雰囲気は消え失せていた。
窓から差し込む陽光さえも、より鋭い輝きを放っているように見える。
「はい。おそらく、王国は正式な使者を派遣し、権蔵様を王都へとお招きするでしょう。そこでエリオット王との謁見が設けられ――それこそが、勇者としての真価を示す絶好の機会となります」
グレイの声は、さらに確信に満ちた響きを帯びていく。
「権蔵様がその圧倒的な力をお見せになれば、王国はもはやあなたを無視することはできません。その状況を利用して、権蔵様の望む条件を引き出すことも可能かと。たとえば……」
グレイは意味深な微笑みを浮かべ、一呼吸置いてから続けた。
「結婚の話も、決して夢ではありませんよ」
グレイの言葉を聞いた権蔵の瞳が輝きを増す。
その表情には、まるで宝物を見つけた冒険者のような喜びが満ちていた。
「うむ、さすがはグレイじゃ! やはりわしの右腕として相応しい才覚の持ち主よ!」
権蔵は満足げに頷き、にやりと意味ありげな笑みを浮かべながら、さらに言葉を重ねる。
「げへへへ……ついに! ついにあの美少年王とわしのラブラブな新婚生活が始まるんじゃ! 毎日が夢のようになるわい!」
突如として、権蔵は抑えきれない喜びに身を任せ、踊り出した。
無邪気な笑顔を浮かべながら、まるで祝宴の主役のように部屋の中を跳ね回り、手を振り回しながら歓喜の輪を描く。
異世界での野望を実現する確信を得た権蔵は、すでにその妄想の世界に浸りきっていた。
目を閉じ、エリオット王との甘美な未来を思い描くたびに、その表情はより一層艶めかしさを増していく。
まるで初恋に落ちた乙女のように、頬を紅潮させながら恍惚の表情を浮かべている。
そんな権蔵の異様な様子を目の当たりにしたカイトは、思わず後ずさりながら、困惑の色を隠せずにグレイへと助けを求めるような視線を送る。
「だんちょー、ご主人さま、どんどん妄想の世界に入り込んでっちゃってるけど……本当に大丈夫なのかな?」
カイトが心配そうに声を潜めて囁く。
「カイト、知っているだろ?」
グレイは静かな、しかし確信に満ちた声で答えた。
「権蔵さまはどんな困難な状況であってもいつだって勝利されてきた。そして今回も必ず野望を達成されるだろう」
グレイの声には、長年の付き合いから培われた揺るぎない信頼が滲んでいる。
その瞳の奥には、数々の困難を乗り越えてきた記憶が宿っているようだった。
そして、頬を僅かに染め、権蔵を見上げるグレイの姿は、まるで主君に忠誠を誓う騎士のようでもあり、同時に憧れを抱く少年のようでもあった。
「あー、そっか。グレイはだんちょー第一主義だから、ご主人さまのことになると甘々なんだよね」
カイトは軽くため息をつきながら、少し呆れたように腕を組む。
「まあでも、ぼくとしては毎日がドタバタで予想外の展開ばかりで、正直楽しくてしょうがないんですよね♪ ご主人さまの暴走、次は何が起きるのかワクワクしちゃいます」
カイトの表情には、権蔵が次にどんな型破りな行動を起こすのか、心躍る期待が溢れていた。
その目は好奇心に満ちた輝きを放っている。
窓の外では、真昼の太陽が古都ドルテナの街並みを優しく照らし、遠くからは市場の賑わいや、通りを行き交う人々の声が風に乗って届いてくる。
歴史ある建物の中に響く三人の声は、まるで心地よい調べのように空間を満たしていった。