美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
ファンファーレの音が高らかに鳴り響き、華やかな花吹雪が舞い上がる。
サーカスの幕がついに上がった――。
観客席には期待と興奮が満ち、歓声がうねる。
その熱気の中、真っ先に舞台へ踊り出たのは、虹のような色彩を身に纏う軽業師たち。
一糸乱れぬ跳躍、空中を駆け抜ける旋回――人間離れした鮮やかなアクロバットに、場内はどよめきと拍手に包まれた。
「おおっ、やるではないか! あのひねり、わしも真似てみるかのう」
権蔵は意外そうに目を細めて見入っている。
どう見ても彼の巨躯で同じ芸当は無理だが、本人は至って真面目らしい。
「すごーい! くるくる回ってるー!」
カイトは子どものように素直な歓声と拍手を送っている。
続いて登場したのは、巨躯の熊にそっくりな魔獣を従えた獣使い。
その魔獣は一見、恐ろしい唸りを上げるが、合図ひとつで玉乗りを披露し、炎の輪の中を軽々とくぐる。
客席からは驚きと、思わずこぼれる笑い声。
「ふん、あの程度の魔獣なら、わしの拳一本で十分だが……まあ、見事な調教ぶりは評価してやろう」
権蔵は腕を組んで偉そうに評するが、どこか満足げだ。
その隣で、動物好きなグレイは普段の冷徹な表情を崩し、舞台上の魔獣に珍しく真剣な眼差しを向けていた。
ショーは息つく間もなく続く。
炎を呑んだ火吹き男が天井まで届きそうな火柱を吹き上げ、ナイフ投げの芸人は回転する的の縁に、紙一重で刃を突き立てる。
水槽の底に沈められた脱出芸人が、全身鎖で縛られたまま、観客の手に汗握る一瞬の駆け引きを制し、水面に飛び出す。
スリルと鮮やかな技が連鎖し、会場はどんどん熱気を増していく。
ジュリアンは――目の前で繰り広げられるきらびやかなスペクタクルに、ふと我を忘れて釘付けになっていた。
格式ばった貴族としての生活しか知らない彼にとって、この時間だけは現実の重力を帳消しにしてくれる、まるで夢のような魔法のひとときだ。
一瞬だけ、全てのしがらみも屈辱も、遠ざかっていくような錯覚に溺れていた。
「ぐへへ、どうだジュリアンくん。サーカスは初体験か? お堅い君でも、こういうのは存外悪くないだろう?」
権蔵がねっとりした声で耳元へ囁きかけてくる。
その声に肩がびくりと跳ね、ジュリアンははっと我に返った。
「な、なにを! べ、別に、私は……楽しんでなどいない!」
あわてて顔を背けて答える。
だが、理性に反して茹でた林檎のような赤い頬が――その本音を裏切っていた。
色とりどりの演技が続き、会場の熱気は否応なく高まっていく。
そして、観客の興奮が頂点に達したその瞬間――
場内のスポットライトが舞台袖に一斉に集まり、盛大なファンファーレが鳴り響く。
ひと際目を引く男が、これでもかという芝居がかった動きで、派手な紫の燕尾服を翻し舞台中央へと現れた。
その顔には白塗りに真っ赤な付け鼻。
サーカス団《インフィニティ》団長、ジャ・ドゥその人である。
そして、その足元にはリードもなく、ピタリと寄り添う艶やかな黒柴――名物マスコット『クロ』が佇んでいた。
「皆様、ごきげんよう! わたくし、サーカス団《インフィニティ》の名物団長、ジャ・ドゥでございまーす!」
ジャ・ドゥが大仰な身振りで優雅に一礼すると、クロも心得たように前足を清楚に揃えて小さくお辞儀。
その愛らしさに、場内のあちこちから歓声が沸き起こった。
「さあ、まずは賢くてチャーミングな、相棒クロちゃんの妙技をお目にかけましょう!」
パチン、とジャ・ドゥが指を鳴らした瞬間、黒柴はすたすたと舞台中央へ。
「ワン!」と一声響かせると、ジャ・ドゥが観客から借りたカード数枚を舞台に並べる。
クロは軽やかにカードの前を歩き、迷いなく一枚の前にちょこんと座った。
その瞬間、ジャ・ドゥがにっこりとカードをめくって見せる――
「お見事デース! クロちゃんが選んだのは、まさに『運命のカード』!」
会場がどっとどよめき、思わず拍手や歓声が湧きあがる。
「クロちゃん、すごい! お利口さん!」
カイトは目をキラキラさせて叫ぶ。
隣のグレイも「……ふむ、実に賢い犬だ」と、ごく珍しく口元を和ませていた。
ところが権蔵は――パフォーマンスそのものより、その黒柴に完全に心を奪われていた。
(……やっぱり、何度見ても日本の黒柴じゃ……! 毛並みに耳、くるりとした尻尾、そしてあの麻呂眉まで……紛れもなく日本犬そのものだ。なぜだ? なんでこんな異世界で……)
懐かしい記憶が胸を突き刺し、権蔵は珍しく無口になって遠い目になる。
異世界に来て初めて感じる、強烈なホームシックの波――。
「さてさて、クロちゃんの素敵な芸で会場も温まったところで! お待たせしまシター!」
ジャ・ドゥが高らかに叫ぶと、スポットライトがひときわ尖った舞台袖に集まる。
「今宵のスペクタクル・ナイト。話題沸騰、夢のような美貌と魔法を操る“彗星の美少年”! ミステリアス・ボーイ・サジースによる、驚天動地の魔法とゴーレム・イリュージョン!!」
その瞬間、クロは「わふん!」と絶妙なタイミングで一声鳴らし、盛り上がった期待をさらに煽る。
「ぐふふ、いよいよ来おったか! 美少年道化師サジくん……!」
ジャ・ドゥの大げさな紹介に、権蔵の目は星よりも輝きだす。
口は緩みっぱなし、期待で顔全体が崩壊寸前。
「どんな、か弱く愛らしい、極上の美少年が出てくるのか……ぐへへへ……」
舞台へ注がれる熱い視線の中、権蔵は胸いっぱい――いや下腹部まで――期待を膨らませ、今か今かと舞台袖を凝視している。
「さあ紳士淑女の皆様、お待たせいたしマシター! 真打ちの登場デース! いざゆかん、サジース! カモーン、デーーース!!」
ジャ・ドゥの甲高い声が響き渡ると同時、場内の照明がふっと落ちる。
一瞬の静寂――期待に満ちた闇が、テント全体を支配する。
やがて、一本の魔晶石スポットライトが、舞台中央だけを幻想的に照らし出した。
そこには、まるで霧の中から音もなく現れたかのように、一人の少年が立っていた。
観客たちの、息を呑む音が重なる。
目も眩むほどの、人間離れした美貌。
癖のある青緑色の髪は、スポットライトの光を吸い込んで淡く輝いている。
そして何より印象的なのは、その半開きの赤い瞳。
磨き抜かれたルビーのようでありながら、そこには何の感情も映っていない。
世界のすべてがどうでもいいとでも言うような、気怠げで、どこか冷めた光を宿す――いわゆる『ジト目』。
カイトと同じ11歳ほどの見た目だが、その儚げな雰囲気とは裏腹に、視線を逸らすことすら許さないような、強烈な存在感を放っていた。
「……ほほう……! こやつが噂のサジくんか……とんでもねぇ、これ以上ない極上の逸材じゃねえか……!」
権蔵の口元から、抑えきれない下卑た笑みがだらしなく溢れ出す。
もはや完全に獲物を狙う目だ。
隣のジュリアンは、そんな権蔵のあからさまな反応に、ドン引きして全身で拒絶を示している。
少年は、ただ静かに胸の前で曇りのない水晶玉を掲げる。
淡く、しかし力強い燐光が放たれると、何もないはずの舞台上に、現実と見紛うばかりの幻想的な光景が次々と生み出されていった。
夜空に咲き乱れる光の薔薇。舞台を縦横無尽に駆け巡る幻の獣たち。
瞬く間に組み上がり、そして儚く崩れ去る古代遺跡の摩天楼――それは、高度な幻惑魔法によって紡ぎ出される、壮麗にして儚いイリュージョンの奔流。
少年は、その間、ただの一言も発しない。
冷めたジト目もそのままに、しかしその白く長い指は、まるで熟練の音楽家が楽器を奏でるかのように、信じられないほど優雅に、そして正確に水晶玉を操る。
観客は言葉を失い、魅惑的な夢幻の世界へと誘われていく。
神秘的な美貌、圧倒的な魔法技術、そして気怠げな雰囲気と高度な芸術性という、奇跡的なアンバランスさ。
会場全体が、魔法にかかったように息をのみ、水を打ったように静まり返っていた。
権蔵もまた、不埒な欲望など忘れて、童心に帰ったかのようにその光景に完全に心を奪われていた。
ジュリアンは興奮のあまり我を忘れ、隣にいることさえ忌々しいはずの権蔵の腕に、無意識にぎゅっとしがみついている。
グレイは、目隠しで表情こそ読めないが、その身じろぎ一つしない姿からは、舞台上の少年の放つ尋常ならざる魔力と、その技術体系に対する強い関心が窺えた。
カイトは、難しいことはさておき、ただただ「わー、キラキラできれい……」と、目の前の幻想的な光景に純粋に見惚れていた。
サジースによる幻惑のイリュージョンは、いよいよクライマックスへと差し掛かる。
夢のように乱れ咲いた光の奔流が、舞台中央の水晶玉へと収束していく。
少年が静かに一礼すると、魔法から解かれた観客たちは、熱狂的な拍手と歓声を送った。
やがて歓声が鳴り止み、再び訪れた静寂。少年がその水晶玉を天高く掲げた、まさにその瞬間――
パツン!
乾いた破裂音が響き、全ての魔法灯が同時に消え失せた。
舞台も客席も、一切の光を奪われ、漆黒の闇に突き落とされる。
一瞬の沈黙、そして――パニックの叫び。
「な、なんだ!?」
「どうしたんだ!?」
大人の怒号、子供の泣き声。不安と混乱が、暗闇の中で瞬く間に伝染していく。
その混沌のさなか――ゴトン、ゴトン……と、重く巨大な何かが蠢くような、不吉な地響きが伝わってくる。
それはただの騒ぎではない。
もっと原始的で、強大な力の波動。
「な、なんじゃこの緊張感は……!? いったい何が始まるというんじゃ!」
権蔵の本能が、警戒レベルを最大まで引き上げた、まさにその時だった。
―――ゴォオオオオオン!!!
地の底から響き渡るような轟音が、テント全体をビリビリと震わせた。
岩盤が擦れ、大地そのものが鳴動するかのような重々しい咆哮――暗闇の帳を突き破るように、場内は一瞬で恐怖の静寂に支配される。
次の瞬間、まるで計算され尽くした演出のように、眩い光が再び舞台を照らし出した。
そこに立っていたのは、先ほどの青緑色の髪の美少年――そして、その少年の華奢な体を巨大な岩塊のような腕で、まるで宝物のように、あるいは捕らえた獲物のように、軽々と抱え上げている異形の存在。
その正体は、身の丈十メートルは優に超えるであろう、超弩級のゴーレムだった。
全身が暗色のゴツゴツとした岩石で構成され、特にその前腕と拳は不釣り合いなほどに巨大で、圧倒的な質量を感じさせる。
その胸の中心と、空虚なはずの両目からは、冷たい蒼い魔力の光が脈打つように爛々と放たれていた。
「わーっ! ゴーレムだー! 大きいー!」
暗転と咆哮に一瞬驚いたカイトだったが、目の前のスペクタクルにすぐに心を奪われ、無邪気な歓声を上げるのだった。
「……これは……この質感、まさか古代産の……。本物のゴーレムが、この時代に残っていたなんて……」
グレイも、普段は見せない熱のこもった声でその構造とコアを分析的に見つめていた。
「ゴォオオオオン!」
ゴーレムがもう一度地を揺るがす咆哮を轟かせる。
その巨腕を闘牛士のように高く掲げる仕草は、まるで自らの圧倒的な力を誇示するようだった。
その威容と迫力に、観客たちは一瞬で不安を忘れ、歓声と熱狂の渦に巻き込まれていく。
「な、なんじゃありゃ! 理想の巨大ロボじゃろ! ゴツゴツしたボディに輝く青いコア……わしの中の何かが爆発しそうじゃ!」
「うわあ、ゴーレムさんすごい! かっこいいですぅ!♪」
権蔵とカイトは興奮を抑えきれず、まるで子どものようにはしゃぎ、その場でぴょんぴょん飛び上がっている。
一方、ジュリアンは顔色を失い、呆然と立ち尽くして言葉すら見つからない様子だ。
「見たかジュリアン坊や! あれこそロボットじゃ! まさかこの世界にガチで“動く鉄の怪物”がおるとは……勇者も騎士も関係なく、夢みたいな光景じゃろが!」
権蔵は嬉しそうに目を血走らせ、呆然とするジュリアンの肩をバンバン叩く。
本物の怪物兵器を前に、ただただ少年のように興奮している。
巨大なゴーレムが少年を静かに抱き上げ、堂々と舞台袖へと退場すると、惜しみない拍手と歓声が会場を満たす。
魔法灯が戻り、場内は一気に日常の明るさと賑わいを取り戻した。
感動と余韻に満ちた観客たちは、名残惜しそうに席を立ちながら、いつまでも心の中に“夢の光景”を抱えていた――。
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「いやー、面白かったのう! 特に最後のサジくんとゴーレムの共演にはゾクゾクしたわ!」
権蔵も満足げに笑う。
「うん! 夢みたいでした! ゴーレム、また見たいなあ〜!♪」
カイトは両手で頬を押さえ、うっとりした様子だ。
一行は会場を後にしつつ、グレイが人混みを巧みにかき分けて進路を切り拓く。
ジュリアンも、不本意な衣装のことすら忘れるほど、サーカスの余韻に浸って満足げな表情を浮かべていた。
テントの出口付近へ至ったその時――賑わいの影が、ふいに彼らの前に立ちはだかる。
「おやおや〜? これはこれは可愛らしいお子さんたちデース! 本日のショー、お楽しみいただけましたカ〜?」
軽妙で華やかな声が響いた。
振り返れば、紫の燕尾服と真っ赤な付け鼻――例の団長ジャ・ドゥが、黒柴“クロ”を連れてにこやかに立っている。
唇を鮮やかに吊り上げ、にっこり目を細めたその表情は、芸人の仮面とも、底の読めない親しみやすさともつかない独特の雰囲気を湛えていた。
「お、さっきのピエロか。しかも黒柴も一緒じゃな」
権蔵が声をかける。
視線はクロへと自然と向き、(やはり…何度見ても日本の犬だよなあ…)と、胸の奥にくすぐったい懐かしさを覚える。
「おや、覚えていてくださって光栄デース! そちらの皆様にもウチのクロちゃん、お気に召しましたカ?」
ジャ・ドゥは、すでにクロに駆け寄り夢中で撫でるカイトに、愛想よく微笑みかけた。
「クロちゃーん! さっきの芸、ほんとうに格好よかったよ! すごく賢かった!」
カイトは黒柴の背に頬ずりし、幸せそうに笑っている。
クロも静かに、カイトをじっと見上げて尻尾をひとふり。
ジュリアンも、その姿につい惹き寄せられるようにそばへ寄り、おずおずとその温かな背を撫でてみる。
自分がビキニアーマーというとんでもない格好をしていることも、今はすっかり忘れ、無防備にマントをめくり惜しげもなく小さい布面積を露出させ、その毛並みの柔らかさと温かさに心を委ねた。
グレイも、無表情のままそのやり取りを静かに眺めているが、どこか羨ましげな空気がにじんでいる。
「さてさて、動物好きな皆様、今宵のサーカスはいかがでしたカナー? お坊ちゃんガタ。それぞれの感想を、ぜひこの団長にお聞かせくだサーイ!」
ジャ・ドゥが大仰な仕草で手を差し伸べ、権蔵の仲間たち一人一人へと視線を送る。
「はーい! とってもとっても面白かったでーす! 最後のゴーレムが一番カッコよかったでーす!♪」
カイトは無邪気に挙手して即答する。
「……ふむ」
グレイは静かに口を開く。
「演者たちの能力は総じて高水準。終盤の幻惑魔法、そしてあのゴーレム制御――特に興味を惹かれました」
分析的なコメントに、ジャ・ドゥも「ほほぅ」と目を細めて唸る。
「……で、金髪巻き毛のお坊ちゃまはドウデシタ?」
ジャ・ドゥの視線がじっとジュリアンへ向けられる。
ジュリアンは撫でかけていた手を慌てて引き、マントをぎゅっとたぐり寄せて顔を真っ赤にし、ぷいっと横を向いてしまう。
「……べ、別に。たいしたこと……なかったし」
ちらりと権蔵に一瞬だけ視線を投げて、拗ねたように呟くジュリアン。
「オー、これはなかなか手厳しいデース! しかし、素直なご感想はなによりありがたいですヨ!」
ジャ・ドゥは逆に嬉しそうに目を細めると、楽しそうに笑い飛ばした。
「ほっほっほ、ワタクシ《インフィニティ》サーカス団長、ジャ・ドゥ。皆様のような感性豊かなご観客と語らうこと――それ自体が、我々一座の栄誉デース!」
芝居っ気たっぷりに胸に手を当て、優雅な身振りで一礼する。
そこへ、権蔵がずいと前に出て口を挟んだ。
「ふむ、不満があるぞ、ピエロのおっさん。何故だ、美少年サジくんの出番があんなに少ないとは!最初から最後までサジくんだけを眺めていられたら、そりゃもう極楽じゃったの。わしのような美少年愛好家向けのプログラムも考えんと、今後の劇団は厳しいぞ、まったく!」
まるでクレーム窓口のような強烈アピール。
「おお、旦那様はサジース推しデシタカ! きっと本人も大喜びデース!」
ジャ・ドゥはむしろ楽しそうに権蔵に満面の笑みを向ける。
「つきましては、ほんのささやかながら――本日のご観覧の記念に、どうぞお受け取りくださいませ!」
そう言いつつ、懐からどこか魔術じみた手さばきで、サーカスの黒柴マスコット“クロちゃん”そっくりの可愛らしい木彫り人形をカイトに手渡す。
「わあ! クロちゃん人形! すっごくかわいいでーす!♪」
カイトは大喜びで両手を広げ、目の前の黒柴も満足げに「わん」と小さく鳴いた。
「それでは、今宵はこの辺で。皆様のまたのご来場を、サーカス団一同、心よりお待ちしておりマース!」
ジャ・ドゥは芝居がかった優雅な一礼を贈り、クロを伴い人混みの中へ静かに消えていく。
そのピエロ姿と忠実な黒柴の背中は、どこか異世界的な幻想と親しみを、静かに余韻として残していった。
「なんとも変わったピエロと、不思議な黒柴だったのう」
権蔵は首を捻りつつも、どこか名残り惜しげに呟く。
「ご主人さま! コレ見てください! かわいいお土産もらえましたよ!♪」
カイトは嬉しそうにクロちゃん人形を差し出した。
「……」
グレイは、ジャ・ドゥとクロが消えた通路の奥を、目隠しの下でじっと見つめていた。
「ん? どうしたグレイ、なにか気になることでもあるのか?」
権蔵が問いかけると、グレイは何事も無かったように一礼する。
「……いえ、失礼いたしました。では、我々もそろそろ宿へ戻りましょう」
グレイはいつも通りの落ち着いた声で、皆を促す。
人々が去り、サーカスの熱狂が終わると、会場はどこか寂しげな静けさに満たされていた。