美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
――もしこの世に「絶対に着てはいけない服」というものがあるなら、今この瞬間、私が身をもって証明しているだろう。
午後の陽光さえ目に痛いほどの黄金の巻き毛。その流麗な弧は、オルレアヌ貴族の社交界でも五指に数えられる美少年の象徴。
ジュリアン・レステンクール――名門レステンクール公爵家の嫡男にして、生真面目で気高い“従騎士”。
だが、今、王都セルフィアの賑わう商業区、大通りのど真ん中で、彼は“異物”として、否応なく人々の視線を一身に浴びていた。
身に纏うは、“ビキニアーマー”。
常識も倫理も――もはや人間の尊厳すら一撃で吹き飛びそうな凶悪アイテム。
罰ゲームどころか、これはほとんど悪辣な拷問か、狂気じみた公開処刑も同然。
数枚の布切れが、辛うじて急所だけを覆い、背中を守るはずの外套も“あの男”に奪い去られ、隠れる術などどこにもない。
(……こんなこと、有り得ない。絶対に有り得るはずがない。このオルレアヌ王国きっての名門、レステンクール公爵家の第一子が――誇り高き貴族の名を背負ってきた、この私が――なぜ、こんな屈辱を……!)
胸元には、ほとんど意味を成さぬ白と青のボーダー布が一枚、見るも無残に弛んで揺れるだけ。
下半身も同様だ。モラル崩壊ギリギリの布が、幼く細いペニスを隠すか否か、その精一杯の瀬戸際にある。
かろうじて両肩にはショルダーガード、手にはガントレット――だが、こんなもの、鎧と呼ぶのも侮辱だ。
自己嫌悪と羞恥の瓦礫の上に、ただ立ち尽くしている敗者にすぎない。
歩くたび、街行く人々の視線が全身に氷の針のように突き刺さる。
その痛みを堪えて胸を張ろうとすればするほど、見世物という現実が際立ち、情けなさに胸が焼かれる。
「……くそっ、なぜ、私がこんな辱めを……」
かすかな呻きが、ジュリアンの唇の奥から零れる。
本来なら――「ジュリアン様!」と明るく声をかけてくれるはずの市場の商人たちは、みな石像のように目をむき、呆然と動きを止める。
無垢な子どもは興味津々で指を差し、母親は娘を抱き寄せて人混みに紛れ、その場から逃げ去る。
ひそひそ話と冷笑の波が、否応なく耳を打った。
――今の自分は、まるで街を騒がす犯罪者そのものだ。
(……違う。断じて、これは、私の趣味なんかじゃない! 神に誓う――)
記憶の底から湧き上がるのは、ほんの一時間前――すべての屈辱のきっかけ。
“あの男”――勇者・権蔵の、あの悪夢の一言だった。
♦
サーカス見物の帰り道。
空気はまだ夢と興奮の余韻で満ちていた。
「いやー、サーカス最高でしたね!♪ ジュリアンくんも、すっごく楽しかったよね?」
赤毛のメイド少年・カイトが両手を広げて、満面の笑みでぴょんぴょん跳ねる。
「……うん。楽しかった」
気づけば素直な本音がぽろりと洩れる。
しまった――と瞬時に権蔵の方へ目をやるが、彼はグレイと内緒話。
こちらのことには全く無関心の様子で、思わず肩の力が抜ける。
(……なぜだろう。カイトの前だとなぜか、素直になれる気がする)
権蔵の元に来てから、四六時中、張り詰めた空気の中で生きてきた。
けれど、この無邪気な赤毛の少年だけは、自分の心を和らげてくれる。
友達――いや、ひょっとして唯一の“味方”なのかもしれない。
(サーカス……。人生で初めての庶民の楽しみだったな)
レステンクール家の跡継ぎとして、厳正な規律に縛られて育った。
庶民の舞台や祝祭なんて、遠い世界の話――
従騎士になってからも、王の臣として恥じることなく自分を律していた。
だが今日、熱と光に満ちた舞台の記憶を思い返すごとに、自然と頬がゆるむ。
(……たまには、こんな休息も悪くないかもしれない)
権蔵と過ごす日々は驚きの連続だった。
貴族として――騎士として生きてきた自分が、手探りで庶民の人生に触れてゆく。
それはほんの少しだけ、心の中に新しい風が吹き始めている証だった。
「ジュリアンくん、これからも一緒にたっっくさんサーカス見ましょうね!♪」
無邪気に手を繋ぎながらはしゃぐカイト。
その言葉に、ジュリアンもつい笑みを返す。
だが――
ふと権蔵の方を向いた瞬間、あの男がギラついた笑みを浮かべてこちらを凝視していた。
「……なんだその顔。やめろ気味が悪い、こっち見るな!」
思わず毒っ気のある声で返す。
しかし権蔵は、まるで獲物を見る捕食者のように口元を吊り上げて言う。
「くくく……ジュリアンくん、その“ビキニアーマー”、実にそそる。まさしく“くっころ騎士”の完成形じゃ!」
「意味不明なこと言うな! 私は誇り高き騎士だぞ! そんな格好で辱しめて……なぜ平然と笑っていられるんだ!」
「むしろ、誇り高き騎士こそ、あの服を着るに値する逸材よ!」
「そんなことで褒めても全然嬉しくない! 宿に戻ったら、すぐ着替えてやる!」
「ふむ、だが惜しいのう。確かに似合ってはいるが、まだ“くっころ騎士”の真髄には達していない」
こいつは一体何を考えているんだ。
もう呆れて、無視するしかない。
ジュリアンは苛立ち混じりに早足で宿へ向かう――
その瞬間、肩を強ばらせるように強く掴まれた。
振り返ると、権蔵の側近・グレイ――その顔色は冷たく、言い逃れのできない威圧感が背筋を凍らせる。
「待て。話は最後まで聞け」
低く、静かな声でグレイが告げる。
冷たい指先が、抗うこともできないほどの力強さでジュリアンを拘束していた。
「それでな、わし、ちょいと考えたんじゃよ……。ジュリアンくんを本当に“くっころ騎士”に相応しい姿へ導くには、どうすればよいか――」
ねっとりとした視線が、全身を舐め回すように注がれる。
その愉悦に歪んだ唇が、凄まじい宣告を吐き出す。
「この格好のまま、王都の街を歩き、“お使い”をしてくるんじゃ」
――騎士としての誇りに、泥を塗る悪夢の命令だった。
「ふ、ふざけるなッ! なぜ騎士が、こんな破廉恥極まりない格好で街に出なきゃならないんだ!」
羞恥と怒りで身体を震わせながらも、必死に抵抗の言葉を吐き出す。
「そう、それじゃ……誇り高き者が、恥ずかしい衣装で公衆の面前に立つ屈辱、それこそが真の“くっころ騎士”をつくるスパイスよ。いやー、最高だな! エロゲの世界が現実に再現されるなんて、わしって天才じゃなかろうか?」
満面の自負で胸を張る権蔵、そしてグレイとカイトがなぜか賞賛の拍手まで送る。
「ぜ、絶対にやらない! 私は断固として拒否するからな!」
だが、そこへ――
さらに追撃する冷たい声がジュリアンの心に突き刺さった。
「口答えとは余裕だな、巻き毛。お前、城で権蔵さまに働いた数々の無礼を忘れたのか?」
グレイの無機質な声。
その冷たさと威圧感に、ジュリアンは言葉も喉で途切れてしまう。
「だ、だが、あれは権蔵が悪くて……エリオット陛下も、お姉様も、お祖父様も、騎士団まで辱めたからだ……!」
「ほう、権蔵さまの言葉を受け入れぬとは。主の寵愛を裏切るか?」
「……う……」
声が詰まり、反論も出せない。
グレイはぞっとするほど静かに言い放つ。
「この程度の罰で許してもらえるのは、権蔵さまの慈悲によるものだ。それがわからない者に、崇高なる“美少年ハーレム”に留まる資格などない――出て行け、目障りだ」
圧倒的な威圧感。
ジュリアンは奥歯をきつく噛み締め、喉まで昇った罵声を、血とともに飲み込むしかなかった――。