美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
そして現在――。
屈辱に震える手でくしゃくしゃになった買い物リストを握りしめ、ジュリアンは王都の商業区を、とぼとぼと一人歩いていた。
権蔵から押し付けられた“愛妾の義務”――それは、名誉を剥ぎ取る鎖そのものだった。
(……どうして、あんな男の言いなりにならなければならないんだ……)
胸の奥で煮えたぎる怒りを、必死に噛み殺す。
――けれど同時に、胃の奥からじっとりと熱が這い上がってくるような、妙な感覚があった。
出かける前に、権蔵に差し出された甘ったるい香りの飲み物。
「気つけだ」と笑っていたが――口にした瞬間から、舌に痺れるような甘苦さが残っていた。
(……あの飲み物はなんだったんだ……いや、考えるな。今はあいつへの怒りだけで十分だ……)
汗がにじむ。季節のせいではない。体温が妙に上がり、心臓が鼓動を速めている。
“お使い”とはいえ、買うのはまともな商品ではない。
卑猥なドレス、淫靡な小道具、そして精力剤まで――まさしく夜を彩るための品々ばかり。
(この変態……! 本当にエロいことしか頭にないのか……)
怒りと羞恥で視界が熱を帯びる――その熱に、さっきから身体の奥に巣食う妙な火照りが、静かに混ざり始めていた。
だがそれでも“美少年ハーレムの掟”を破るわけにはいかない。
逆らえば今度こそ、自分を疎んでいるグレイに追い出されるだろう。
そうなれば、今までの忍耐も努力も水泡に帰す。
(……偽りの勇者、権蔵。忌々しいが、あいつの力だけは本物だ。もし暴れれば、この国ごと容易く揉み潰せる。……だから、今は耐えるしかない)
勇者の称号を汚し、己が欲望のままに卑劣な真似ばかりを繰り返す――そんな男を野に放つわけにはいかない。
どれほど自分が踏みにじられようとも、王国の騎士として、エリオット王の忠実な臣下として、この獣の牙が愛する人々に向かわぬよう見張り続ける。
それが自分に課した最低限の使命だった。
……だが、その決意すら邪魔するように、脚の付け根あたりにまで熱が満ちてくる。
下着の中がじわりと湿る感覚に、ジュリアンは歯を噛みしめた。
(……やはり、あの飲み物……! くそっ、今は耐えろ……)
胸の奥に渦巻く怒りと屈辱を押し込み、重い足を前に踏み出す――。
だが、そのなけなしの意地すら、あっさりと侵食する声が降ってきた。
「ねぇ、ママー。あのお兄ちゃん、なんで裸みたいな服着てるの?」
あまりにも無垢な、少女の問い。
たった一言なのに、王都中のどんな嘲笑よりも鋭く、ジュリアンの心を抉る。
「こら、見ちゃいけません!」
母親が慌てて娘の目を覆い、その場を足早に去っていく。
ジュリアンは反射的に胸元と股間を両腕で隠した――
羞恥だけじゃない。そこを隠さねば、ほんのりと熱を帯び始めた中心部が、余計に目立ってしまうのが怖かった。
「……っ……」
守るべき人々から向けられる、好奇とわずかな軽蔑。
誇り高き騎士だったはずの自分が、王都の真ん中で晒し者として笑われている。
誰もが、自分を変質者として品定めしている気がした。
視界が滲む。街並みも、祭りのざわめきも遠く霞む。
今、自分を包むのは誇りではなく、恐怖と屈辱――そして、どうしても消えない内側からの熱だ。
“憧れの公爵家の嫡男”
“第一騎士団長の弟”
“伝説の剣聖の孫”
かつて胸を張った称号たちは、今やどこにも残っていない。
「……うぅ……嫌だ……こんなの……耐えられない……。この街には、私を知る人も大勢いるのに……どうして私が……こんな目に……」
涙がこぼれそうになるのを、唇を噛んで堪える――同時に、下着越しに脈打つ熱を必死に意識から遠ざける。
ここで崩れてしまえば、自分で自分を許せなくなるのが分かっていた。
それでも、ジュリアンは拳をぎゅっと握る。
(この国と街、この人々を護るために……どれだけ泥を啜ろうとも、私はレステンクールの名に恥じぬ信念を通す!)
魔王軍の影が迫る今、偽りであろうと権蔵の力なくして王国は守れない。
だから、どれだけの屈辱と、この得体の知れぬ熱を受けても、あの男の傍に立ち、見張り、導くしかない。
――いつか必ず、彼を「本物の勇者」に変えてみせると信じて。
「ふ、ふふ……ははははは!! 見ていろ、“偽勇者”権蔵! この私が、必ずやお前に“真の勇者”の在り方を叩き込んでやる!」
たぎる決意は、熱に浮かされたように口を衝いて飛び出した。
だが、それが王都の大通りに響き渡った瞬間――ざわついていた市場のざわめきがすっと消え、空気が凍り付く。
通りの人々の視線が、一斉にジュリアンへと注がれた。
「「「…………」」」
全身を貫く、息苦しいほどの沈黙。
次の瞬間――張り詰めていた心の糸が、ぷつりと音を立てて切れる。
ぴょこん――。
薄い下着など物ともせず、股間の小枝のような幼茎が、不意に上を向く。
包皮に守られた、あまりにも無垢な形のそれが、誰の目にも分かるほどに弾けるような昂ぶりを見せ、完全な勃起を晒していた。
「ぁ……え……?」
呆然と立ち尽くすジュリアン。
人々の視線は顔から順に滑り落ち、やがて下腹部へ――息を呑む音が、あちこちから漏れる。
「……や、あ……!」
慌てて股間を両手で覆う。
だが、その輪郭も、先端にきらめく透明な雫も、もう隠し切れない。
「う……これは……違うっ……ちがうんです……!!」
羞恥と混乱が脳を真っ白に染めていく。
同時に、胸の奥で燻っていた熱に油が注がれた。
(まさか……あの飲み物……!)
出かける前、権蔵から手渡された甘ったるい液体。
――あれはただのジュースなどではなく、“催淫剤”だったのだ。
そう気づいた瞬間、顔から耳の先までが一気に熱くなる。
股間を必死に隠しても、膝は勝手に崩れ、下着の奥でぬるりと艶めいた水音が響いた。
(うぁ……! ま、また……)
「あ……あぁ……♡」
込み上げる甘い眩暈。視界がにじみ、息が荒くなる。
胸の奥から湧き上がる切なさが、全身を支配していった。
――もう、限界だ。
「う……うぅ……!」
ジュリアンは唇を噛み締め、震える脚に力を込める。
ぎこちない内股のまま歩き出すが、その足取りは先ほどよりも明らかに遅い。
(……誰にも……見られたくない……!)
張り詰めた中心が歩くたびに布地越しに擦れ、余計に甘く痺れる。
周囲の人々は露骨に距離を取り、ひそひそ声が飛び交う。
「今の、見た?」
「あれ……レステンクール公のご子息、ジュリアン様じゃない?」
「『白銀の戦乙女』シャルロット様の弟よね? でも、どうしてあんな姿……」
「顔は綺麗なのに……やっぱり噂通り、壊れかけてるのかも」
囁きは鋭い棘となって鼓膜を刺す。
(美しいが、裸同然で奇声を上げ、さらに人前で興奮して勃起する変態貴族)――
そんな最悪の烙印が王都中に広がる未来が、脳裏をよぎった。
(……消えたい……穴があれば、そのまま地の底まで……)
羞恥が全身を焼き、顔は朱に染まる。
それでもジュリアンは――唇を噛み、必死に足を前へ運ぶ。
(……私は……もう、終わりかもしれない……。いや、今はどうでもいい。これ以上余計な注目を浴びず、一刻も早く買い物を終えて、この地獄から抜け出すんだ……)
息を荒げながら、市場通りを股間を庇うように押さえて早足で進むジュリアン。
その耳に、不意に空気を裂く絶叫と轟音が飛び込んだ。
「――きゃあっ!」
「魔物だ! 魔物が出たぞっ!」
ざわめきが悲鳴に変わり、賑やかだった市場の空気は一瞬で張り詰める。
通りの先――黒煙を押し割って、五体の魔物が姿を現した。
牙を剥き、鞭のような尾を唸らせながら、商店を力任せに破壊し、群衆へと躍りかかる。
瞬く間に混乱と恐怖が広がった。
「こんな時に……魔物だと……!」
ジュリアンは反射的に腰へと手を伸ばす――だが、そこにはあるべき重みがない。
そうだ。今朝、慌てて宿を出たせいで、剣を置きっぱなしにしてきたのだ。
「どうする……武器がない……それに……」
視線が、無意識に下へ落ちる。
催淫剤のせいで張り詰めた中心が、下着越しに主張をやめない。
この状態で戦えば――恐怖よりも、別種の悪夢が脳裏をかすめた。
(……笑い者になる……いや、それでも……)
耳に飛び込む、子どもの泣き声。押し寄せてくる人波。
胸奥でくすぶっていた羞恥が、騎士としての矜持に押し流されていく。
「……そんなこと、どうでもいい! 民を守ること、それだけを考えろ!」
己を叱咤し、ジュリアンは拳を固める。
素手でも構わない――一歩でも魔物の前に立ち、盾となる。
それが今、この瞬間に、自分が果たすべき使命だ。
「来るなら来い! オルレアヌ王国第一騎士団の一人、ジュリアン・レステンクールが相手だ!!」
決意の重みを足裏に乗せ、踏み出そうとした――その刹那。
轟音を切り裂くように、ひとつの巨大な影が通りへ躍り出た。
太陽を背負った鍛え上げられた巨躯。褐色の肌が黄金に輝く。
男は無言のまま、大剣を抜き放つと、野獣も人も見つめる中で迷いなく振り抜いた。
疾風の如き剣さばき――
一閃、二閃、三閃!
気がつけば、五体の魔物はすべて地に伏し、動きの影も残っていなかった。
市場に漂うのは、呆然と立ち尽くす人々と、戦いの余韻を切り裂く静寂のみ。
「皆さん、ご安心を。魔物は全て討ち果たしました。怪我をした方はおられませんか?」
堂々たる声が響く。
恐怖と驚愕が入り混じった市場のざわめきが、次第に歓声と安堵へと変わる。
誰もが、その男の背中を“救いの騎士”と認めていた。
(まさか……この人は――)
陽光を遮るほどの巨躯。褐色の肌。鋭さと温もりを併せ持つ眼差し。
市場のざわめきを一瞬で塗り替える、圧倒的な存在感。
ジュリアンの記憶が追いつき、名を思い出す。
――間違いない。この人は――
「ゼウバルモ先生……!」
男がゆっくりと振り返る。
その笑みに、懐かしさと威厳が滲む。
「おっと、ジュリアンじゃないか? 久々に見たが、お前の甘えん坊顔はすぐ分かるな!」
――ゼウバルモ・フォン・アルマゲスト男爵。
騎士道を体現する英雄であり、ジュリアンが幼少期に剣を学んだ師のひとりだ。
「先生……! 本当にお久しぶりです!」
思わず声が震えた。
凛然たるその姿に、先ほどまでの不安が一瞬で消え去ってゆく。
「元気そうだな、ジュリアン。変わった様子もないようで安心したぞ」
「はい、先生こそお元気そうで何よりです」
五年ぶりの再会――幼かった頃、ゼウバルモの背を追い、無邪気に甘えた記憶が鮮やかに蘇る。
今は騎士としての誇りが、抱きつきたい衝動をなんとか抑えている。
市場の喧騒の中、涙なんて見せられない。大人の騎士として、師の威厳に恥じぬようにと心を律する。
そんな生真面目さを、ゼウバルモはどこまでも余裕のある笑顔で受け止めてくれる。
「はっはっは! 何だその手は。“俺に飛びつきたい”って顔してるが、さすがに市場の真ん中じゃ止めておけよ?」
「うっ……!」
師の冗談に、ジュリアンは思わず固まってしまう。
「はは、まったく。お前は小さい頃から筋金入りの甘えん坊だったからな!」
「だ、誰が甘えん坊ですか!」
反射的に言い返しながらも、胸には懐かしい温もりが広がっていく。
憧れの師と、揺るぎない騎士の背中。
今も変わらず自分を見守ってくれる、この絆こそが、ジュリアンの心を支えている。
「違うと言い張るならその涙目を何とかしろ。だがまあ、昔の“ひよっこの公爵家の坊っちゃん”に比べりゃ、ずいぶん立派になったじゃないか。噂じゃ、王国第一騎士団が次世代のエースと目されているそうだな。ただ――顔つきはまだ幼子のままだな」
「う、うう……」
“ひよっこの公爵家のお坊ちゃん”。
幾度となく聞かされた師の口癖が、今は心の奥をくすぐる。
憎らしいようで、温かい響き。
(先生……やっぱり、何も変わってないんだ――)
姉シャルロットと一緒によく汗だくになって剣を振った日々。
褒められたり、叱られたり、時には声を揃えて笑い合った記憶が、鮮やかに胸に蘇る。
レステンクール領で別れて以来、長く会うことは叶わなかった。
会いたいと姉のシャルロットに告げても――
『ゼウバルモ先生に会いたい? それは叶いませんわ。先生は王国の治安部隊で大忙し。あまりわがままを言っては駄目よ』
いつもそう釘を刺されてきた。
――それがまさか、こんな場所で、こんな時に巡り会えるとは。
夢にも思わなかった。
「先生は……あれから、お変わりありませんか?」
「おう、俺は相変わらずだ――……だが、お前、その格好は一体どういうことだ?」
「っ……!」
しまった。
師との再会の嬉しさに心が浮かれていたせいで、今の自分の“ビキニアーマー姿”をすっかり失念していた。
懐かしさが一瞬で羞恥にとって代わり、ジュリアンの顔がみるみる真っ赤になる。
「ずいぶん派手な衣装だな。まさか第一騎士団も、最近はこういう奇抜な訓練でも流行らせているのか?」
ゼウバルモ男爵の口調には、朗らかな笑みと、本気で心配する父親のような響きが混ざっていた。
「い、いえ、あの……」
ジュリアンは慌てて言葉を探す。
師に余計な心配はかけさせたくない一心で、とっさに理屈を並べる。
「えっと……これ、”くっころ騎士”という伝説の騎士の防具らしいんです。いま“勇者”殿の計らいで、訓練の一環として着せられてて――装備すると基礎能力が底上げされるとかで……見た目がちょっと派手なのは、その……仕様なんです……ははっ」
必死に笑顔を作ってみせるジュリアン。
その姿を、ゼウバルモはしばし黙して見つめていた。
すべてを察しているような穏やかな眼差し――叱るでも、責めるでもなく、ただ温かく包み込む瞳。
「――そうか。話には聞いていたが、坊やはいま“山賊勇者”のところにいるんだな。」
“山賊勇者”―――。
それは勇者・権蔵についた、今や街でも蔑み混じりささやかれる渾名だ。
王国治安部隊の責任者ともなれば、勇者の悪評だけではなく、その数々の犯罪行為の事実を当然知っている。
「はい……はい、あの――山賊勇者のところです。」
「そうか……お前があの……下劣な男の下にいるのには、それなりの深い理由があるんだろう。だがな、何か困ったことがあれば、遠慮なく俺を頼るんだ。師として頼りないかもしれんが――お前のことは、今も昔も変わらず大事な弟子だと思っている。いつでも力になる」
「先生……」
胸の奥まで染みわたる、素朴で力強い言葉。
温かい、大きな安心感が全身を包む。
それでも、その優しさに甘えてしまえば、少し前進しようとしていた自分の意志が壊れてしまいそうで――ジュリアンは強く自分を鼓舞する。
「……ありがとうございます、先生。でも……私は大丈夫ですから。」
やっとのことで、それだけを口にした。
(――そうだ。私は一人じゃない。私のことを案じてくれる人が、ここにもいるんだ)
心が、ほんの少しだけ強くなる。
「せっかく久しぶりに先生に会ったのに、こんな格好で申し訳ありません。もしよければ先生、どこかの店にでも入ってゆっくりと話でも……」
勇気を振り絞って誘うジュリアン。
その瞬間、ゼウバルモが淡く笑って首を振る。
「すまない、坊や。今は少し急ぎの用があってな。大っぴらには言えんが、最近この王都の近くに、とんでもない魔物――魔王軍の手の者が現れたって話があるんだ。」
「え……?」
「魔王軍“四狂将軍”の一体だ。まさか、奴らが実際にこの国に現れるとはな……」
「……四狂将軍っ……!」
ジュリアンが思わず声を上げると、ゼウバルモは顔をしかめる。
「声を落とせ。――だからな…俺は伝説の仲間たち、『白き獅子』をまた呼び集めて討伐隊を結成するつもりだ。」
「『白き獅子』……! 本当に、あの伝説の……」
師が若き日を捧げた冒険者パーティー――英雄譚の象徴に、ジュリアンの心は思わず熱くなる。
「……お前の姉、シャルロットにもよろしく伝えてくれ。あの子も、お前のことをきっと気にかけてる。だが、忘れるな。困ったときは、俺の屋敷でも孤児院でもいい。必ず――必ず、俺を頼れ。お前は一人きりじゃない」
ゼウバルモは大きな手でそっとジュリアンの肩を叩き、豪快な笑顔を浮かべて人混みへと歩み去る。
その背中は、昔見た、あの頃のままでどこまでも頼もしかった。
ジュリアンは、その背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。
師を心配させまいと嘘をついたことに、小さな痛みを覚える。
けれど、胸には確かな温もりと勇気が灯っていた。
(すみません、先生。本当のことは言えなかったけれど……でも私は今、勇者が暴走しないよう、傍にいて見張らなくてはならないのです)
拳をぎゅっと握り直し、ジュリアンはもう一度、目的の店へ歩き出した。
さっきより、ほんの少しだけ背筋を伸ばして。
そして、再び頬を赤らめて股間を押さえながら―――。