美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
王城での謁見式。
その日、オルレアヌの美少年王と勇者・権蔵の正式な婚約が発表された。
だが、式のさなかに見せた権蔵の傍若無人が、エリオットの逆鱗に触れる。
直後、王自らの口で婚約破棄が宣言され、権蔵は城を追われた。
あの日から、エリオットの心には重い影が落ちた。
一週間、彼は悩み抜く。
己の矜持か、弟と国家の安全か。
結論はひとつしかない。
(……行くしかないのだ。たとえ、この身がどうなろうとも)
暗雲が垂れ込め、冷たい雨が降りしきる宵闇。
エリオットは一軒の宿屋の前に立っていた。
目的は権蔵への謝罪――そして和解し、再度の婚約申し込み。
宰相ラソリーニの提案というより、命令に等しい指示でもあった。
寝不足と馬車移動の疲れが重なり、身体は鉛のように重い。
(この体調で交渉は保つだろうか。だが、こちらから許しを請わねば……余の弟への暴力は止まらない)
屈辱でも、行くしかない。
いつかまた、辺境に幽閉された弟に会えるのなら、汚されることすら厭わない――
覚悟は固まっていた。
「さあ、早くお行きなさい。ここにいる意味は、おわかりでございましょう?」
ラソリーニの促しに、エリオットは無言で頷き、宿に入る。
指示通り二階へ上がると、ひときわ豪奢な扉の前に立った。
(ここが――勇者の部屋)
短く息を整える。
(許しを乞い、己の身を差し出す……。王たる身で、ここまで来るとは)
雑念を払うように頭を振り、扉をノックした。
「ほいほーい。いま、行くぞーい」
間延びした野太い声が内側から響く。
扉が開き、現れた中年の大男は目を見開いたまま固まった。
「…………は?」
権蔵はしばし動かない。
エリオットはわずかに身を正し、告げる。
「……驚かせたか、勇者よ。突然の訪問、非礼は承知している。そなたに――伝えたいことがあって参った」
緊張で膝が震えそうだった。
王族としての生涯で、ここまでの屈辱は初めてだ。
「エ、エリオットきゅん……!? ど、どうしてここに……!?」
権蔵が顔を赤らめて上ずった声を出す。
エリオットは小さく唇を噛み、言葉を選んだ。
「……どうしても話さねばならぬことがある。夜分すまないが、入っても構わないか?」
「へ? お、おお……すまんすまん。まぁ、まずは中に入ってくれ。廊下で立ち話もなんだし」
促されるまま室内へ足を踏み入れ――エリオットは息を呑む。
巨大なベッドに、裸の少年たちが横たわっていた。
銀髪を後ろに束ねた褐色の美少年、赤毛の無垢な少年。
そして――見知った金の巻き毛。
喉がひゅ、と鳴る。
「ジュリアン……?」
「へ、陛下!? どうしてここに……」
ジュリアンの声は驚愕に震える。
一方、赤毛の少年カイトが弾む声で叫んだ。
「うわあ! 王様だあ! だんちょーの言った通り本当に来た! うれしいです~♪」
その無邪気さと対照的に、ジュリアンは蒼白になっている。
「おい、カイト! エリオット陛下の御前だぞ! 裸で御前に出るなど不敬の極みだ! それに――どうして陛下がここに……! 陛下、下々の無礼をお許しください!」
ジュリアンはカイトを叱りつけ、慌てて深く頭を垂れた。
エリオットは小さく首を振る。
「い、いや、それは構わん。それより――ジュリアン、そなたこそ……なぜ、そのような肌を過度に露出した装いを?」
エリオットが問うと、極小のビキニアーマーを身につけたジュリアンは、さらに頬を染めて言葉を失う。
その沈黙を切り裂くように、背後から下卑た声が落ちた。
「ああ……城では言わんかったかな。ジュリアンは、わしの“愛妾”じゃ。この通り、身体も顔も上物だが、頭はからっきしで、だが重度のドM。さっきまで、わしが手取り足取り腰取り、アナルセックスの良さをみっちり仕込んでおったところよ!」
ジュリアンは俯き、唇を噛む。
震える肩を見た瞬間、エリオットの内側で何かが焼き切れた。
「き、貴様! またもや余の友に、何たる仕打ちを――!」
「……うっ、その顔はやめてくれ。わし、エリオットきゅんにこれ以上嫌われたらもう生きていけん……許してくれんか……」
権蔵は申し訳なさそうに身を低くする。
その仕草に、エリオットの怒気はさらに熱を帯びた。
「下郎が! 友に汚らわしい真似をしておいて、よくも許しを乞えるな! その所業、余が容赦するとでも思うか!」
「う、うう……ジュリアンくんだって、まんざらでも――」
「こんな恥ずかしい服を着せられて、誰が“まんざらでも”だって!? この変態が!」
ジュリアンの一喝が、権蔵の言葉を叩き落とした。
空気が震え、視線が交錯する。
そのとき――さきほどまでベッドに横たわっていた銀髪の少年が、音もなく一歩前に出る。
いつの間にか皺ひとつない正装のスーツに身を包み、端正な姿勢でエリオットの前に膝をつく。
「エリオット陛下。私はグレイ。勇者・権蔵さまの従者にございます」
穏やかな声音とは裏腹に、その瞳は澄んだ刃のように強く、エリオットの視線をまっすぐ受け止める。
場の温度がわずかに下がり、主導権が移ろう気配が走った。
「うむ、グレイか。城では勇者の傍らに控えていたな。覚えている」
「恐悦至極にございます」
グレイは恭しく礼をとった。
「その節は大義であった。そなたは勇者を影から支え、旅でも助言を尽くしたと聞く。今さらだが、城へ同行した働き、感謝する」
「……もったいないお言葉にございます」
静かに一礼する所作は、年若さに似合わぬ落ち着きを帯びている。
(この少年は礼をわきまえ、話も通じる……ジュリアンを解き放つ糸口になり得る)
謝罪より先に、友を救う――エリオットはそう定め、正面からグレイに向き直る。
「グレイよ。そなたの働きと忠心は、確かに見ている。だが――この男のジュリアンへの非道は見過ごせない」
「陛下……? なにを……」
ジュリアンが不安げに視線を送る。
エリオットは小さく息を整え、告げた。
「たとえ勇者であろうとも、余の大切な友を辱める行いは許せぬ」
「え、エリオットきゅん!? それは……!?」
権蔵が狼狽する。
「陛下、もうそれ以上は……! 私は……この下郎に辱められてなど……!」
「ジュリアン、よい。余は見抜いているぞ。そなたはこの男の口車に乗せられ、その身を無理やり汚されたのだ」
エリオットは淡々と告げ、グレイを見据える。
「そなたも……この男に思うところがあるのではないか。ジュリアンのように――無理やり手籠めにされたのでは?」
……返答はなかった。
室内に、重苦しい沈黙が落ちる。
(やはり……ならば――)
覚悟を決め、エリオットは一歩踏み出す。
「グレイよ。そなたは聡明な男だ。かかる卑劣に従わされるのは、さぞ苦しかったろう。余は……そなたを、そしてジュリアンを救いたい」
「……救う?」
グレイが顔を上げる。
不思議そうに、静かにエリオットを見つめた。
「そうだ。もし余の側に来るのなら、ジュリアンと共に仕えてくれてもよい。相応の地位も待遇も約束する」
「陛下のお心遣いには、痛み入ります。――ですが、それは誤解にございます」
「……誤解?」
「私は勇者権蔵さまの従者。どのような命であろうと――その御心に従う。それが、私のすべてにございます」
淡々とした声色。
黒革の目隠しの奥、その瞳に宿るのは絶対服従の光――生殺与奪すら喜んで委ねる、狂信の輝き。
「……本心か? 洗脳されているのではないか?」
エリオットの問いは鋭く、冷たい。
グレイは沈黙ののち、静かに首を振った。
「いいえ。私はただ従うのです。権蔵さまのお言葉のままに――この身も魂も」
「なぜだ!? どうしてそこまでこの男を信じられる!? 洗脳されていないと言い切れるのか!?」
「――"愛"でございます」
エリオットの怒声に、グレイは一転、静謐に答えた。
「あ、い?」
「私は、この身も命も委ねるに足る方――勇者権蔵さまに巡り合いました。従者として、その大恩に報いるために働く。それが私のすべて」
その口調は淡々としているのに、言葉にはひと欠片の迷いもない。
(――狂気だ)
友を弄び、儀礼を踏みにじった粗暴な男に、ここまで絶対の忠節を誓うなど。
到底、理解も容認もできぬ。
だがグレイの眼差しには、一点の虚偽も見受けられなかった。
「ところで――エリオット陛下」
不意に、彼は矛先を変える。
冷徹な声音が、室内を支配する。
「あなた様は、何を目的にここへ? 怒りをまき散らすためでしょうか? いいえ――本来の使命は違うはず。この国を担う王として、勇者に〝謝罪〟をするために、ではありませんか?」
射抜くような眼差しに晒されて、エリオットの胸を熱が冷やしてゆく。
本来の目的が、否応なく思い出される。
「……そうだ。そなたの言う通りだ。余は勇者に、謝罪するためにここへ来た」
「謝罪? このわしにか?」
権蔵が間の抜けた声を上げる。
エリオットは深く頷き、声を低めて告げた。
「そうだ。そなたの名誉を傷つけ、勇者の品格をも貶めたこと――深く詫びる」
その言葉と共に、王は静かに頭を垂れた。
室内に落ちるのは、雨の滴る音と、誰も漏らせぬ呼吸の気配。
やがて――ジュリアンがかすれた声を張る。
「陛下……! おやめください! 陛下はなにも悪くございません! 悪いのはすべてこの男です! 勇者の風上にも置けぬようなやつに、謝るだなんて……!」
「違う。己の私情に流され、国家の一大事にも関わらず権蔵の言葉に耳を貸さなかった。王であるまじき振る舞いだった。……余は詫びねばならぬ」
エリオットの言葉に、権蔵は呆けたように瞬きを繰り返す。
「……じゃ、じゃあ……エリオットきゅんは……わしと、仲直り、してくれるのか……?」
その問いに、エリオットは無言で、しかし深く頷いてみせた。
「そ、そんな……! 陛下が謝罪なさる必要など、どこにも……!」
なおも食い下がるジュリアンの悲鳴。
権蔵は権蔵で、おろおろと両手を彷徨わせる。
「あ、いや、別にエリオットきゅんは謝らなくても……。つーか、そもそもあれはわしが悪かったっつーか……」
その時だった。
それまで静観していたグレイが、音もなく立ち上がり、エリオットへと歩み寄る。
その一挙手一投足が、場の空気を支配していく。
「陛下。ただ頭を下げて許しを得ようとは……それはあまりにも、虫の良いお話ではございませんか」
「な、なんだと……!? 貴様、陛下になんという無礼を……!」
ジュリアンが憤然と声を荒らげるが、グレイは彼に一瞥もくれぬまま、冷たい視線をエリオットに注ぎ続ける。
その絶対的な威圧感の前に、ジュリアンは言葉を呑んで萎縮した。
「王たる者、国を預かる以上、その軽率な行動が国を揺るがしたのであれば、謝罪するのは当然のこと」
「だから、こうして頭を下げて……」
「いえ。それだけでは、到底足りません」
グレイはエリオットの言葉を、静かに、しかしきっぱりと遮った。
「一国の軍事力に匹敵する勇者に対し、公の場で無礼を働き、敵対した。王としてあるまじき失態を犯し、この国を存亡の危機に陥れた大罪。――その命をもって償うのが、理(ことわり)というものでしょう」
「……命……」
エリオットの唇から、乾いた声が漏れた。理、か。確かに、そうかもしれない。
「へ、陛下! そのような世迷言をお聞きになる必要はございません!」
ジュリアンが必死に叫ぶ。だが、エリオットは力なく首を振った。
「いや、ジュリアン。グレイの言う通りだ。余の身はどうなっても構わん。ただ……罪なき民にだけは、どうか寛大な処置を」
「そんな……陛下!」
なおもすがりつこうとするジュリアンの肩に、グレイはそっと、しかし有無を言わせぬ力で手を置いた。
「ご安心を。その尊いお覚悟、確かに拝見いたしました。ですが、陛下に命を差し出していただく必要はございません」
「……え?」
「この度の件、権蔵さまの怒りが国に向かうことはございません。すべては勇者権蔵さまの広大なるご威光と、陛下のご慈悲によって、丸く収まりましょう」
その言葉に、エリオットはようやく顔を上げた。
そこには――静かに、底の読めない微笑を浮かべたグレイがいた。
「……で、では、すぐにでも再度の婚約の儀を……」
安堵から口走りかけたエリオットの言葉を、グレイは再び遮る。
「いえ。まだ、ございます」
「……え?」
「まだ、何も終わってはおりません。陛下には、この後も果たしていただくべき〝お役目〟がございます」
グレイは美しい微笑を崩さぬまま、続ける。
「勇者権蔵さまは、陛下のことを大変気に入っておられます。きっと、この好機を逃さず――陛下ご自身を〝ご自分のもの〟にしたいと、強く望んでおられるはず」
「なっ……!?」
その言葉の意味を察し、エリオットは絶句した。
隣で権蔵が、ぼっと顔を赤らめる。
グレイは完璧な笑みを湛えたまま、最後の宣告を突きつけた。
「一度の謝罪で済ませるのではなく、この身をもって、勇者権蔵さまがお満ち足りになるまで許しを乞い続ける。それが、この国を危機に晒した王としての、貴方様の責任の果たし方であり――当然の〝お務め〟ではございませんか?」
「し、しかし……これ以上、余に……何をしろと……」
エリオットは声を震わせ、絞り出すように問いかける。
だが、答えは――分かりきっていた。
それがまさに、“覚悟”として彼を縛る鎖となる。
(……この男は、余と交わることを望んでいる――)
先ほど、ベッドで裸身を晒していた少年たちの淫らな狂態。
その意味を、いまなら理解できる。
交わることで、全てを帳消しにするつもりなのだ。
(一度だけで済むのなら……この屈辱にさえ耐えれば――すべて、不問としてくれるのか? ならば……)
エリオットは静かに息を吐き、意を決した。
権蔵のほうへ向き直り、その目をまっすぐに見据える。
「……余は、そなたに詫びねばならぬ。この国を預かる王として、愚かな振る舞いをした。その責任――身をもって、果たそう」
そう言い放ち、ゆっくりと自らの衣服に指をかける。
指先が震える。
それでも、エリオットは一枚、また一枚と丁寧に衣を脱ぎ始めた。
「うぉおおおおお!! エ、エリオットきゅん!? なんでいきなりストリップなんだい!?」
権蔵が顔を真っ赤にし、目を剥いて叫ぶ。
「へ、陛下! おやめください! このド変態勇者豚の前で、そのような餌を与えるような行為は……!」
ジュリアンの必死の制止を、エリオットは受け止めず、静かに衣の紐へ指をかけた。
一枚、また一枚――布が床に落ちていく。
やがて、身に残ったのは下着一枚だけ。
「ぬぅわぁあああ!!! あらわにぃいい!! エリオットきゅんの、極上美少年のすべすべ柔肌がぁ! 二次性徴前の桃色乳首ぷっくりがぁあああ! う、う、麗しすぎて鼻血が止まらんぞ!」
権蔵の歓喜とも悲鳴ともつかぬ声が弾け、鼻から盛大に血が噴き上がる。
白地に金糸を刺した下着だけを残し、ほぼ生まれたままの姿で立つエリオット。
その姿は清らかで、同時に背徳の艶を帯びていた。
勇者の血走った視線が刺さり、エリオットは思わず片手で下腹部を覆う。
耳の先まで熱い。
「うひょおおお!! エリオットきゅんのパンいち姿だぁああ!! 透けるような雪のように真っ白なお肌が眩しいよぉおお! あのおぱんつの下にはつるっつるのぴっかぴかのおちんちんが――ふぉおお?! 見える、わしには見えるぞぉお!! これが伝説の皮余り真性包茎くんなのかい?! 少年の証なのかい?! 神々しい! そして可愛い!!」
「わー、王様の裸すごく綺麗!! まるで天使さまみたい!!」
「カ、カイト! 見るんじゃないっ! 陛下、そ、そのような必要はございません! どうか……どうかお召し物をお纏いください!」
カイトの目を両手で覆いながら、ジュリアンは顔を真っ赤にして叫ぶ。
それでも視線は、止められないままエリオットに吸い寄せられていた。
胸の鼓動が痛いほど強くなる。
羞恥で耳が焼けるように熱い――それでもエリオットは視線を逸らさず、王としての誇りと覚悟だけを纏い、真正面から勇者を見据える。
「勇者よ……これが……余が示す……せめてもの誠意だ……。これでそなたが満足するかはわからぬが……どうか受け取ってくれ……」
権蔵は、ぼたぼたと鼻血を垂らしながら、わなわなと震える両手で顔を覆った。
「ああ、嘘じゃろ……こんな幸せがあっていいのか……? 世界一の美少年が、わしなんかのために……初めてを……うっ……神は、神はわしを見捨てていなかったんじゃ……! ありがとう異世界の神様! わしはもう、何の悔いもないぞ……! ああ、もうだめ、尊すぎて死んじゃいそう……」
次の瞬間、権蔵の鼻から血が滝のように吹き上がり、その巨体は糸が切れたように仰向けに崩れ落ちた。
「ご、権蔵さま!? しっかりしてください、権蔵さまっ!!」
グレイが慌ててその身体を抱き起こし、必死に呼びかける。
「ぐへへへ……こ、これは……本当に死んでまうかもしれん……。わしがこの世界に転生してから……一番、幸せな瞬間やったわぁ……ガクッ」
権蔵は白目をむくと、そのまま完全に意識を手放した。
「えええええ!? ごしゅじんさまぁ!! ここで死んだふりはダメですよぉ! 起きてくださいってばぁ!」
カイトが、気絶した主人の頭をがくがくと激しく揺さぶる。
「っ!? 陛下、お怪我はございませんか!?」
その混乱の隙に、ジュリアンが駆け寄り、自分のマントでそっとエリオットの裸体を隠してくれた。
「……いったい、どういうことなのだ? 何が起きた」
「そ、それは……僭越ながら申し上げます。私見ですが……陛下のあまりにも……神々しき……その……御姿に感極まり……やつは気を失ってしまったのではないかと……」
ジュリアンは顔を真っ赤に染め、しどろもどろに答える。
そして自らの股間を隠すように、前かがみになる。
「うむ……それは……困ったな」
権蔵が失神するとは、まったくの予想外だった。
せっかく覚悟を決め、抱かれる決意をしたというのに。
(…………仕方がない。とりあえず、服を着るか……)
まったく、拍子抜けもいいところだ。
権蔵は二人の少年にベッドへと運ばれ、甲斐甲斐しく看護されていた。
グレイの膝に頭を乗せ、安らかな寝息を立てている。
その禿げ上がった頭頂部を優しく撫でられ、口元には満足げな笑みすら浮かんでいた。
(これが……さきほどまで、余が恐怖していた男……なのか?)
子供のように安心しきったその寝顔は、あの悪名高い山賊勇者のものとは思えぬほど、無垢で、どこか可愛げさえあった。
傍らで看病していた赤毛の少年カイトが、ふとエリオットと目が合うと、にっこりと屈託なく笑い、親指をぐっと立ててみせた。
(……馴れ馴れしいやつだ。だが……)
王に対する何の遠慮もないその態度に、強張っていたエリオットの頬が、思わずわずかに緩む。
誰かにこんなふうに自然に笑いかけられたのは、一体いつ以来だろうか。
(山賊勇者か……)
いつだったか、余の寝室に突如現れ、「惚れた。わしの嫁になれ!」と宣ったときは、なんという破天荒で頭のおかしい男だと思ったものだ。
だが、こうして見ていると……ただ、子供のように素直なだけなのかもしれない。
思い出して、ふ、と自然な笑みがこぼれた。
己の欲望に忠実に、自由に生きるこの男。
王という仮面を被り、国賊どもの傀儡として自由を縛られる自分。
立場は正反対だというのに、彼は本気で余を娶りたいと言った。
(それが、不思議でならなかった。余のような、中身の空っぽな人形を傍に置いたところで、退屈なだけだろうに……)
勇者の傍らで、心配そうに、しかしどこか幸せそうに彼を見守る少年たちに視線を移す。彼らの顔には、この男と共にいることへの、純粋な喜びが満ちていた。
それを見ていると、なぜか胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
(……そうだ。あの男と初めて会った日、たしか、こう思った)
――余も、自由に生きてみたい、と。
この息の詰まる
それはきっと、どれほど眩しく、楽しい日々なのだろうか、と。
エリオットは静かに窓の外に視線を向けた。
冷たい雨が、街の灯りを滲ませている。
その音に、そっと耳を澄ませた。
「この雨は……いつ、止むのだろうな……」
無意識に漏れた独り言に、傍らから優しい声が応えた。
振り返ると、少年カイトが屈託のない笑顔でこちらを見上げている。
「止まない雨は、ありませんよ。明日にはきっと、すっごく良いお天気になりますって、王様♪」
「……そうか。……そう、だな」
そうだ。止まない雨など、ない。
この心の重荷も、いつかはこの雨のように、晴れ渡る日が来るのだろうか。
いや、きっと来る。
エリオットは、自分でも気づかぬうちに、その少年に向かって小さく微笑み返していた。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
先ほどまであれほど冷たく感じられた雨音が、今は不思議と、心を洗い流してくれる子守唄のように優しく響いていた。