美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
夜の雨が嘘のように晴れ渡った朝。
宿の一室に差し込む柔らかな光が、床に散らばった昨夜の衣類を優しく照らし出していた。
エリオットが微睡みからゆっくりと目を覚ますと、視界の先には、信じがたい光景が広がっていた。
一人の男――権蔵が、宿の床板が抜けんばかりの勢いで、頭を地面に擦りつけている。
「いやああああっ、本当に、まことに、すまんかったああああぁぁっ!!」
魂の叫びともいえるその声に、ベッドから起きたエリオットは寝ぼけ眼をこすった。
「……な、なんだその……奇妙な構えは……」
「土下座です」
どこからか、涼やかで、しかしどこか楽しげな声がする。
見れば、部屋の隅でグレイが静かに微笑んでいた。
「ど、どげ……ざ?」
「左様! これぞ我が故郷、日本に古来より伝わる究極の謝罪法……その名も、真・ジャパニーズ土下座ァッ!!」
カッと目を見開き、何故か誇らしげに言い放つ権蔵に、エリオットはただ呆然とするほかない。
「謝罪……? だが、余はそなたに謝罪されるようなことは、何も……」
「ある! 断じてあるッ!」
権蔵は、顔を伏せたまま畳みかけるように叫んだ。
「このわしは! 麗しのエリオットきゅんが、あのような……あのような破廉恥な御姿まで晒して、その覚悟を示してくださったというのに! あろうことか、感激のあまり気絶するなどという、生涯五指に入る大失態を演じてしまった! この無礼、万死に値する! ゆえに! わしはこの真摯なる姿勢を以て、改めてお詫びを申し上げたいのじゃ!」
「そ、そうか……。その気持ちは十分に伝わったから、まずは顔を上げてくれ」
おろおろと視線を彷徨わせたエリオットが助けを求めるようにグレイに目を向けると、彼は「いつものことです」とでも言いたげに、小さく頭を下げるだけだった。
「それより……身体の具合は、もう良いのか?」
「おお! 心配ご無用! 昨夜の出来事を反芻するだけで、力がみなぎってくるわい! まさか、エリオットきゅんの、あのお姿をこの目に焼き付けられるとはのう……! あの透き通るような白い肌……桃色にぷっくりと色づいた愛らしい……ぶふぉっ!?」
「ご主人さま、いけません。また鼻血が垂れてますよー♪」
再び鮮血を吹き出した権蔵の鼻に、カイトが慣れた手つきでハンカチを押し当てる。
当の本人はそれすらも快感とばかりに、テーブルの上の酒瓶を掴むと、なみなみとグラスに注ぎ始めた。
「ご主人さま、朝から飲みすぎもいけませんよー♪」
そのあまりにも混沌とした光景に、エリオットは(本当に大丈夫なのだろうか、この男は……)と、深い溜め息を禁じ得なかった。
気を取り直し、エリオットは権蔵に向き直る。
「……勇者よ。改めて、そなたに頼みたいことがある」
「ほう? 改まってなんじゃい」
ぐびぐびと果実酒を飲み干しながら、鼻の両穴にハンカチを詰めた権蔵がきょとんと首を傾げた。
「その……あれだ……」
エリオットは一度唇をきつく結び、意を決して言葉を紡ぐ。
その頬が、朝の柔らかな光を受けてもなおわかるほどに、朱に染まっていく。
「先日の……謁見での、件だ。あのときの……そなたの申し出……その、改めて、余に……受けさせては、もらえないだろうか」
「…………へ?」
権蔵の手から、持っていたグラスが滑り落ちそうになる。
彼の琥珀色の瞳が、驚きに見開かれていた。
「……え……ええの? ほんまに?」
「う、うむ……。そなたの真剣な申し出を、私情で無下にしてしまったこと……そのことを、ずっと悔いていた。王としての立場を忘れ、己の感情に流されてしまった……余が……すべて、悪かったのだ」
己の矜持など、今はどうでもいい。
この謝罪は、王としての務めであり、愛する弟を救うための、唯一の道なのだから。
絞り出すように告げると、内心で頭を抱えるエリオットの前で、権蔵は再び、床が抜けるほどの勢いでジャンピング土下座をした。
「えっ……!?」
「おぬしはなにも悪くない! わしが、ぜーんぶ悪いんじゃ! お偉方が集まったあの城で暴れて、エリオットきゅんに恥をかかせてしもうた! 婚約破棄は当然じゃ! もし、わしに気を遣わせとるのなら、そんなこと気にするでない! だから謝らせてくれ! おぬしを傷つけたこと、おぬしが大切にしとるもんを、めちゃくちゃにしたことを!」
土下座の姿勢から、権蔵が真剣な眼差しを向けてくる。
その瞳には、いつものような下卑た光はなく、ただ純粋な後悔の色が浮かんでいた。
そのあまりの真摯さに、エリオットは不覚にも胸が熱くなるのを感じた。
「陛下、騙されてはなりません! この男はただ、陛下の御姿に欲情しただけの、紛れもない性欲獣です!」
ジュリアンが、憤然と声を上げた。
「ぐっ……ジュリアンくん! なにを言うか! わしは今、血の涙を流さんばかりに反省し、清い心でエリオットきゅんに謝罪しておるのじゃぞ!」
「どの口が『清い』などと! この性欲の権化め! 普段の己の行いを振り返ってみろ! 貴様のような変態豚と陛下の婚約など、私の目が黒いうちは絶対に認めんからな! 絶対にだ!」
言うが早いか、ジュリアンが権蔵の襟首に掴みかかり、ガクガクと揺さぶり始める。
「ジュリアン、もうよい。――離せ、勇者から手を離すのだ」
(……どういうことだ? ジュリアンが、あの勇者に一歩も引かずに掴みかかっている。手籠めにされ、無理強いされているとばかり思っていたが……その瞳には怯えも、憎しみも見えぬ。むしろ……)
権蔵はジュリアンの攻撃を甘んじて受け、傷つけまいと必死に耐えているようにすら見える。
これが、支配する者とされる者の関係だというのか。
やがて、グレイがやれやれと首を振った。
「落ち着け、巻き毛。お前が大好きな陛下の御前だぞ」
「あっ……! へ、陛下、お見苦しいところを……も、申し訳……ありません……」
「ご主人さまも、落ち着いてくださいっ! また鼻血が出てますよぉ!」
グレイの静かな一言にジュリアンは気まずそうに手を離し、カイトが慌てて二人の間に割って入る。
その一連のやり取りを眺めているうちに、張り詰めていたエリオットの心が、ふっと緩んでいくのを感じた。
(無理強いされている者の態度ではない……。むしろ、じゃれ合っているようにすら見える。この者たちは……皆、どこか楽しそうだ)
粗野で、奔放で、ただ己の欲望に忠実なだけの男。
そう思っていた。
だが、己の過ちを認め、仲間たちとこんなにも賑やかに笑い合える。
その姿は、王という仮面を被り、孤独に耐える自分には持ち得ない、眩しいほどの『強さ』に見えた。
「エリオットきゅんよ」
不意に、権蔵が真面目な声で呼びかけた。
「さっきも言うたが、わしは、おぬしに本当に悪いことをしたと思っとる。罪滅ぼしと言っちゃあなんだが……おぬしのためにできることがあれば、なんでもさせて欲しいんじゃ」
「なんでも……?」
「おうよ! これは、わしなりの『けじめ』じゃ。婚約の話は……そのけじめをきっちりつけてから、改めて二人で話そうではないか! な?」
その、あまりに真っ直ぐな言葉に、エリオットの心臓がどきりと跳ねる。
思わず視線を逸らすと、頬が熱を帯びるのがわかった。
(余は……償いなど、求めてはいない。むしろ、余の方から謝罪せねばと思っていたのに……。この男は、先に、私に謝ろうとしているのか。なんと……誠実な男なのだろう……)
嫌悪していたはずの男から向けられた、頼もしい言葉。
エリオットの中で、権蔵という男の像が、音を立てて塗り替えられていく。
(余は、勘違いをしていたのかもしれない。そうだ、この男は……本当に、何にも縛られぬ、自由な男なのだ)
初めて権蔵に出会った日。
あの息の詰まる王城から、この破天荒な男に連れ去ってほしいと、一瞬でも願ってしまった、あの衝動が蘇る。
この男のことを、もっと知りたい――。
しかし、とエリオットは思考を切り替える。
今は感傷に浸っている場合ではない。王として、為すべきことがあるのだ。
「……では、一つ。頼みがある」
「うむ。なんでも聞くぞい」
権蔵が力強く頷く。
その頼もしい姿に、胸の奥が甘く疼くのを感じながらも、エリオットは意を決して告げた。
「……近頃、この王国で頻発している、子供の連続誘拐事件……その解決に、力を貸してほしい」