※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第43話 共闘

「子供の誘拐事件……じゃと?」

 

 エリオットのその一言で、それまでの喧騒が嘘のように静まり返る。

 権蔵は腕を組み、怪訝そうに眉を寄せた。

 

「そうだ。この王国で、今もっとも深刻な問題の一つとなっている」

「まぁ、子供を助けるのに協力は惜しまんが……エリオットきゅんと、この国の警備隊は、その間なにもしとらんかったのか?」

 

 権蔵は一度鼻を鳴らし、思案するように視線を天井へと彷徨わせる。

 エリオットは重々しく口を開いた。

 

「動いてはいる。だが、ようとして事件はまったくの進展をみせておらんのだ」

 

「そうか。しかし、子供の命がかかっておるというのに、警備隊とやらは一体なにをしておるのか」

 

「事件そのものは、ただの[[rb:人攫 > ひとさら]]いかもしれぬ。だが……問題は囁かれている噂だ」

 

 エリオットが言い淀んだ、その瞬間。

 それまで静かに佇んでいたグレイが、氷のように冷徹な声で核心を突いた。

 

「――犯人は、『山賊勇者』を名乗っている。そうですね?」

 

「なっ……なんじゃとぉ!?」

 

 部屋の空気を震わせたのは、他でもない権蔵の怒声だった。

 

「濡れ衣じゃ! それほど見事な濡れ衣があるか! このわしが、か弱き子供たちに愛と勇気と夢を振りまいてきた、心清き勇者であるというのに!」

 

「ああ、それはおそらく……単なる流言だろう。そなたがやったとは思わない」

 

 権蔵の凄まじい剣幕に一瞬気圧されながらも、エリオットは静かに首を振る。

 

「だが、この王国におけるそなたの評判は、残念ながら芳しくない。余のもとにも『ドルテナ付近で山賊勇者が領地を荒らし回っている』と、貴族からの報告が再三届いている」

 

「なにぃ!? 勇者たるわしが、貴族の領地を荒らすじゃと……! そんな非道な真似を……まぁ、それは……否定はせんが……」

 

 先ほどまでの勢いはどこへやら、権蔵の声がごにょごにょと小さくなる。

 エリオットは一つ咳払いをして、話を続けた。

 

「……その件は置いておくとして、だ。警備隊も必死に捜査を続けているが、犯人の尻尾すら掴めぬまま、被害は拡大し続けている。民の不安は、日に日に増しているのだ」

 

「しかしじゃな! わしは断じてやっとらん! たとえ貴族どもから盗みを働こうが、子供を攫うような外道に成り下がった覚えはないわい!」

 

 再び権蔵が吠えるが、その言葉を遮るように、カイトが屈託のない笑顔で言った。

 

「王様! ご主人さまはとっても清らかですよー! ご主人さまが誘拐したのって、ジュリアンくんだけですしー♪」

 

「しーっ! カイト、おぬしは余計なことを言うでない!」

 

 権蔵が顔を真っ赤にしてカイトを制するが、当のジュリアンは、氷点下の眼差しで権蔵を睨みつけていた。

 

「……もちろん、そなたの言葉を信じている。だが、貴族の言葉には力がある。一度流れた噂は、民の間で勝手に真実へと姿を変えていくものだ」

 

「くぅっ、わしの評判を地に落として、いじめようって魂胆か。これだから貴族ってやつは悪者が定番なんじゃ」

 

 権蔵がふて腐れたように呟いた、その時だった。

 それまで黙って皆のやり取りを見つめていたグレイが、すっと背筋を伸ばし、一歩前に出た。

 

「権蔵さま、少しよろしいでしょうか。――そして陛下、僭越ながら、この件について私見を述べさせていただく許可を」

 

「うむ。申してみよ」

 

 エリオットが頷くと、グレイは恭しく一礼した。

 

「実はこの件、私の独断で『子羊の産声』の一部人員を動かし、二週間前から水面下で内偵を進めておりました」

 

「子羊の産声……? あぁ、あの……少年たちだけで構成された盗賊団の……」

 

 エリオットが眉をわずかに寄せると、グレイは頷き、要点だけを選んで続ける。

 

「王都とオルレアヌ周辺で相次ぐ子供の失踪を追ったところ、子供を攫う『回収役』と、その子供たちをどこかへ運ぶ『供給役』、どうやら二つのグループが連携して動いていることがわかりました」

 

「回収役と供給役……か」

 

「結論から申します。首魁は不明ですが、末端はオルレアヌで古くから根を張る裏社会と繋がっています。目撃情報、通い袋の刻印、仲介人の動線――すべて一致しました」

 

 グレイは革袋から小さな包みを取り出し、卓上に静かに置いた。

 

「先日、誘拐事件に関わる賊の一人が落としたと思われる品です――」

 

 布を開くと、煤けた漆黒の指輪と楕円形の黒いエンブレムが姿を現した。

 

「えっ、これは……昨夜、私を襲った破落戸が落としたものでは……」

 

 グレイの背後からそれを覗き込んだジュリアンが、驚きの声を上げる。

 

「ええ。年若く美しい少年に、あえて破廉恥な衣装を着せて目立たせることで、子供の誘拐に関わる者をおびき寄せる――この作戦は、見事に成功いたしました。権蔵さまは、ただいたずらにジュリアンにこのような格好をさせたわけではございません。陛下の忠実な臣下は、その身を挺し、騎士の誇りをかけて、見事に任務を遂行してくれたのです」

 

「そ、そうだったのか! ジュリアンのあの恥ずかしい衣装は……余はてっきり、勇者の個人的な趣味かとばかり……!」

 

「ち、違います陛下! あんな破廉恥な服、やつの趣味で間違いありません……! ああ、陛下、どうか、そのような目で私を見ないでください……!」

 

 エリオットから、その極小のビキニアーマーを舐め回すような視線を送られ、ジュリアンは顔を真っ赤に染め上げ、必死に股間を隠した。

 

「――話を続けます。こちらをご覧ください」

 

 グレイは、ジュリアンの羞恥など意にも介さず、冷徹に話を続ける。

 紋章の表面には禍々しい意匠が刻まれ、その裏面には、肉眼ではほとんど見えないほどの、細い継ぎ目が走っていた。

 

「紋章の裏、ここに継ぎ目があります。特定の箇所を押圧することで開く、隠し室の構造です」

 

 カチリ、と小さな金属音が響く。グレイが慣れた手つきで爪先を押し込むと、中から薄片状の薬包が二枚、音もなく滑り出た。

 どちらも黒みがかった灰色で、鼻孔をくすぐる、微かに甘い香りを放っている。

 

「薬……?」

 

 エリオットが問い返すと、グレイは静かに、しかし凛とした重みを帯びた声で口を開いた。

 

「はい。しかし、これは単なる薬物などではありません」

 

 その言葉には、底知れぬ闇の深淵を覗き込んだかのような冷たさと覚悟が宿っていた。

 

「使用者に一時的ながらも強烈な多幸感と万能感を与え、その代償として魂を蝕み、やがては人を廃人へと追いやる凶悪な魔法薬……古い文献に記された『幻魔薬』――先王の御代、国が揺らいだあの時代に流通し、厳しく法律で禁止された禁断の代物と成分は完全に一致しております」

 

「先王の時代の……禁忌の薬か。そんなものが再び……この国に?」

 

 エリオットの視線が鋭く細まり、怒りと驚愕が入り混じる。

 

「子供の清浄な魔力を吸い上げて精製される、非常に悪質な魔法薬です。一時的な若返りや魔力の増強の効果と引き換えに、使用者の精神と肉体を蝕み、最終的には廃人と化します。貴族たちが趣味や気晴らしとして用いているのであれば、国家の基盤すら揺るがしかねぬ大問題です」

 

「なるほど……つまり、子供の誘拐はその原料確保のためか……」

 

 グレイが頷きながら、黒い指輪をつまみ上げ、慎重に光に透かした。

 

「そしてこちらの指輪です。粗悪な呪いの器に過ぎませんが、この刻印された黒い魔術紋章は別物です。これほどまでに精巧な術式が施された指輪は、一般には流通しておりません。オルレアヌにおいて、この魔術刻印の知識は、貴族階級の間でのみ、その秘術が共有されているはずです」

 

「つまり、貴族の誰かがこの指輪を作り、禁断の薬物の流通に関与し、その媒介として、この黒い紋章の入った容れ物を用いている可能性が極めて高い、と――」

 

 エリオットが言いかけると、グレイは静かに、頷いた。

 

「関係者は大きく三つに分類されます。ただ薬を買い楽しむだけの『客』、流通に手を貸し利益を得る『共犯者』、そして裏から資金を提供し組織を護る『黒幕』、おそらくは有力な貴族です。現在、流通経路は一部把握できましたが、犯罪組織の頂点にいる者の特定はできておりません」

 

 グレイの視線が、静かにエリオットへと移る。

 

「ですが、ここからが時間との勝負です。二夜後、王都から外れた郊外の町マヌローで、貴族の夜会が開かれます。そこで、薬の取引と受け渡しが大規模に行われるとの情報を掴みました。その現場を押さえ、陛下の王命をもって、警備隊に関係者を一斉に拘束させることができれば……誘拐された子供たちと、彼らが囚われている場所の情報も、得られるかと存じます」

 

 エリオットは、黒い薬包に忌々しげな視線を落とし、短く、しかし決然と息を吐いた。

 

「……余は、[[rb:傀儡 > かいらい]]として担がれているだけの、名ばかりの王かもしれぬ。実権など、ほとんどないのも事実だ。だが、闇組織と貴族の癒着……これだけは、断じて許すわけにはいかぬ。この国王エリオット・フォン・リーフェンシュタールの名において、必ずや、この腐敗の根を断ち切ると、ここに誓おう」

 

 深く一礼し、グレイは王の言葉に応えた。

 

「御意。陛下のその御心、権蔵さまの御心でもあります。ならば我ら『子羊の産声』は、陛下の剣となり、盾となりましょう。――子羊は静かに鳴き、獅子の牙を導きます」

 

 グレイの静かな宣言に、エリオットは頷き、改めて卓上の紋章へ視線を落とした。

 

「だが、違法薬物の製造と流通、そして子供の誘拐……まさかオルレアヌの貴族が闇組織と結びついているとは信じられん……いや、余の代のオルレアヌ王国は……そうであろうな。余が頼りなかったばかりに……情けないことだ……」

 

 静かな声で、権蔵が口を開いた。

 

「エリオットきゅんが、そこまで思いつめることはない。王様というものは、もっとこう、ふんぞり返っておればよいのじゃ」

 

 その、あまりに場違いで、しかし不思議と優しい響きを持つ言葉に、エリオットはわずかに伏せていた目を上げた。

 脳裏に浮かぶのは、幼い頃、いつも自分の傍らにいてくれた侍女とその娘の顔。

 

「……幼い頃、余には世話をしてくれた侍女がいた。その侍女の娘が……先日、攫われたのだ。彼女は、涙ながらに余に娘を助けてほしいと……。攫われた娘のコレットも、余によく懐いてくれていた。だから……これは、王としての責務ではない。余個人の、エリオットとしての、誓いだ。必ず、あの子を助け出すと……」

 

 王という仮面を脱ぎ捨てた、一人の少年としての悲痛な叫び。

 その魂の告白に、権蔵は力強く、そしてどこか誇らしげに、己の胸を叩いた。

 

「そうか。……ならば、任せろ! その誓い、この勇者・権蔵さまが、必ずや果たさせてやるわい!」

 

 その単純明快な力強さが、今は何よりも心強く感じられた。その時だった。

 

「陛下、最後にもう一つ。お尋ねしたいことが」

 

 それまでの空気を断ち切るように、グレイが冷徹な声で口を開いた。

 

「先日、隣国のスパニアが滅びました。ご存知でしたか?」

 

「……なに?」

 

 エリオットは、己の耳を疑った。

 スパニアはオルレアヌ南東部に位置する大国。

 魔王軍と熾烈な攻防を繰り広げているとは聞いていたが……

 滅亡? そんな報告は、自分には一切届いていない。

 

「ドルテナ付近に、魔族の大軍勢が集結しつつあるとの情報も。もしドルテナ要塞が陥落すれば、魔族は堰を切ったように、王国領土の奥深くまで侵攻してくるでしょう」

 

「南東からの魔族……! 北方戦線を、ようやく押し返したばかりだというのに……」

 

 事態は、エリオットの想像を遥かに超えて、深刻かつ急速に進行していた。

 子供たちの誘拐事件という国内の病巣の裏で、国家存亡の危機という嵐が、すぐそこまで迫っていたのだ。

 

「ご安心を。ドルテナの守りについては、権蔵さまが万全の策を講じておられます。ただ、陛下にお願いしたい儀が一つ」

 

 グレイは深く頭を下げた。

 

「戦火が拡大する前に、ドルテナの民――特に、女子供や老人たちを、王都近郊へと避難させたいのです。そのための受け入れ先の確保と、移動の許可を、陛下の御名において、ご指示いただきたく」

 

「わかった。すぐに手配を進めよう」

 

 エリオットは即断した。

 一刻の猶予もない。

 

「だが、勇者よ。そなたは防衛のためにドルテナ要塞へ戻るのか? できれば王都に残り、誘拐事件の調査を続けてほしいところだが……この状況では、そうもいかぬか」

 

 苦渋の滲むエリオットの問いに、権蔵は不敵な笑みを浮かべた。

 

「おう、心配は無用じゃ。わしは王都に残る。ドルテナの守りには、とっておきの『味方』がおるからのう」

 

「味方……だと?」

 

 エリオットが疑念に満ちた声で問い返そうとした、その刹那――。

 

 ガッシャアアァァンッ!!

 

 宿の一室が、轟音と共に激しく震えた。

 窓ガラスが木っ端微塵に砕け散り、鋭い破片が室内に降り注ぐ。

 

 その破壊の中心から、部屋へと躍り込んできたのは――朝日を背負いし、巨大な人影。

 たくましい四肢は獣の毛皮に覆われ、その顔には、獰猛なまでの笑みが浮かんでいた。

 

「そ、そんな……獣王……グリムフッ!?」

 

 ジュリアンが、驚愕に目を見開いて叫ぶ。

 それは、先日北方の戦線で捕縛され、王都の地下牢に繋がれていたはずの、魔王軍四凶将軍が一角だった。

 

「おお、グリちゃん! よく来てくれたのう!」

 

 緊迫した空気などまるで意に介さず、権蔵は旧知の友を迎えるように、グリムフの屈強な肩を叩き、その体毛をもふもふと撫で回す。

 

「気安く触れるな。我は、貴様の配下になった覚えなどない。その首を叩き落とすことこそ、我が悲願である」

 

 獣王は、地を這うような低い声で唸り、その瞳に揺るぎない殺意を宿した。

 

「げっはっは! 相変わらず憎まれ口を叩く、可愛い奴じゃのう。それでこそ、勇者さまのペットちゃんというものじゃ!」

 

 呆然と立ち尽くすエリオットとジュリアンを尻目に、グレイが淡々と説明を始めた。

 

「王城の地下牢から、密かに移送させていただきました。獣王グリムフには、ドルテナ要塞の守備についていただきます。侵攻する魔族の軍勢を防ぐ、我々が用意した“策”でございます」

 

「な……無茶苦茶だ! この魔族に対する正式な沙汰は、まだ下っておらんのだぞ!? それを、独断で……!」

 

 ジュリアンの悲痛な叫びが、部屋に響く。

 だが、グレイは表情一つ変えず、静かに、しかし絶対的な確信を込めて、王であるエリオットに言い放った。

 

「これこそが、勇者・権蔵さまのやり方。目的を果たすためならば、清濁併せ呑み、手段を選ばない。昨日までの敵であろうと、その力を認め、仲間とする――その常識外れの器の広さこそが、この世界を広く救う、真の勇者の証なのでございます」

 

「な、なんと……魔族までも、そなたは仲間にしておるとは……」

 

 エリオットは、もはや言葉を失っていた。

 この男が持つ器の大きさは、自分が戴く王冠の重さなど、比較にすらならぬほどに巨大で、そして同時に、底知れぬ恐怖を感じさせる。

 

「よしよし、ではおのおの、己が役目を果たすのじゃ! これよりは、ちいとばかし忙しくなるぞぉ!」

 

 権蔵は、獣王のたくましい肩を何度も力強く叩きながら、戦の始まりを告げるかのように、高らかに宣言した。

 

その、あまりにも逞しく、そして破天荒な背中を見つめながら、エリオットは、知らず知らずのうちに、乾いた笑みを漏らしていた。

 

(この世界には……余の想像を遥かに超えた、底知れぬ男がおるのだな……)

 

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