※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第44話 孤児院

 宿での騒動の翌日。

 権蔵一行は、王都南区の石畳を踏んでいた。

 

 目的はただ一つ、孤児院を営む男、ゼウバルモ男爵との面会である。

 先日エリオットと交わした密約――貴族の夜会への踏み込み作戦を、王国警備の総責任者でもあるゼウバルモと詰めるためだ。

 

 王都南区の朝は、生命力に満ちている。

 市場の喧騒が熱気を帯び、パン屋の窯から漏れる香ばしい匂いが空腹を刺激する。

 聖院へと続く石畳は清めの水でしっとりと濡れ、朝日を浴びて淡く、柔らかく輝いていた。

 

「うっひょー! 見てみい、ジュリアンきゅん! あの店の焼きソーセージ、わしの腕くらい太っとるぞ! うまそうじゃのう、じゅるり」

 

「大事な用がある日くらいは、そのみっともない食い意地を抑えろ! そもそも、貴様の腕のように太いソーセージなど、この世に存在してたまるか!」

 

「ご主人さま、見てください! あの男の子たち、裸んぼになって水浴びしてますよ。おちんちんがぷるんぷるん揺れてますよー!♪」

 

「おお、カイトよ、でかした! どれどれ……むっ、あれはけしからん! わしが直々に、あのけしからんおちんぽを揉みしだいて、成敗してくれるわ!」

 

「やかましい! 黙って歩け、この変態が!」

 

 いつものように、下品で騒がしいやり取りを繰り広げながら、一行は目的の場所へと向かう。

 

「こっちだ。ゼウバルモ先生は高潔なお方で、私の剣の師でもある。くれぐれも、失礼がないようにしろよ」

 

 ジュリアンの真剣な声に顔を上げると、白い漆喰壁を瑞々しいブドウの蔦が覆う、大きな建物が目に入った。

 その佇まいは、まるで物語に出てくるお城のようだ。

 

「ここが、ゼウバルモ先生が運営されている孤児院だ。……心してかかれよ、権蔵」

 

 ジュリアンが、改めて釘を刺す。

 その瞳には、師に対する深い敬意と、権蔵に対する一抹の不安が浮かんでいた。

 

「ほほう、こりゃまた見事に磨き上げとるのう」

 

 権蔵は感嘆の声を漏らし、玄関前の花壇に目をやった。

 色鮮やかな赤いカーネーションの間に、小さな風鈴が吊るされている。

 風がそよぐたび、ちり、と涼やかな金属音が響いた。

 

「ふむ、風が鳴らす子守唄か。子らの昼寝を妨げん、細やかな心遣いじゃな」

 

 その隣で、グレイは視線を動かさず、意識の端で玄関脇の掲示板を読み取っていた。

 

『本日の献立――麦粥、根菜のスープ、干し肉の煮込み、林檎の焼き菓子』

 

 その下に貼られた孤児院の出入り者の記録。

 墨の濃淡が不揃いで、複数の筆跡が混在している。

 まるで、何かを急いで書き直し、体裁を整えたかのように。

 紙の繊維が毛羽立った消し跡が、逆光に一瞬だけ浮かび上がった。

 

「……恙(つつが)なし、か」

 

 誰にともなく呟かれた言葉は、朝の空気に溶けて消えた。

 グレイは静かに口元へ笑みをたたえる。

 

 庭では、数人の少年たちが土埃を上げながら駆け回っていた。

 その無邪気な姿に、ジュリアンが柔らかな表情で歩み寄る。

 

「やあ、君たち。ゼウバルモ先生はいらっしゃるかな?」

 

「うん!」「いるよ!」

 

 子どもたちは元気よく頷くと、競うように建物の中へと駆けていった。

 その背中を見送って間もなく、重厚な樫の扉が、まるで吸い付くように滑らかに開いた。

 油の差し加減一つにも、この施設の丁寧な管理が透けて見える。

 

 そこに立っていたのは、岩のような体躯を持つ巨漢だった。

 短く刈り込まれた黒髪、日に焼けた褐色の肌。

 しかし、その威圧的な体格とは裏腹に、浮かべた笑みは春の日差しのように温かい。

 

「ようこそ、勇者殿。そして皆様。陛下からのご書状、確かに拝受しております」

 

 低く、腹の底から響くような声。

 それは不思議と人の心を安らげる重みを持っていた。

 彼こそが、噂に名高いゼウバルモ男爵――王国警備の総責任者にして、孤児院の院長である。

 

「さあ、どうぞ中へ。移動でお疲れでしょう」

 

 芝居がかったほど自然な仕草で手を広げ、一行を招き入れる。

 

 ロビーは塵一つなく磨き上げられ、高い窓からはめ込まれた色硝子の聖印を通して、荘厳な光が差し込んでいた。

 書架は子どもたちの背丈に合わせ、机や椅子の角はすべて丸く削られている。

 柱の高い位置にまで、ぶつかっても怪我をしないよう柔らかな布が巻かれていた。

 権蔵は感心したように頷くと、床の継ぎ目を指でとんとんと叩いた。

 

「板の鳴りもない。夜中の見回りで子らを起こさぬための工夫か。おぬし、なかなかやるのう。子供たちへの気遣い、わしも学ぶところがあるな」

 

「お褒めにいただき光栄です。ここは私の――いえ、この王都の未来そのものですから」

 

 ゼウバルモが微笑んだ、その時だった。

 

「院長先生!」

 

 弾けるような声と共に、小さな影がいくつも彼の足元に駆け寄ってきた。

 ゼウバルモは屈強な体躯を軽々と折り曲げ、少年たち一人ひとりと視線を合わせる。

 

「おお、どうした。泥んこじゃないか。また転んだのか?」

 

 その頭を大きな掌でわしわしと撫でる光景は、威厳ある警備隊長ではなく、どこにでもいる優しい父親そのものだった。

 

「この孤児院『天使のやすらぎ苑』では、現在四十三名の子どもたちが暮らしています。皆、様々な事情で親を失った、私の大切な家族です」

 

「ほう、どの子も実に愛らしい顔をしておるのう。げへへへ……のう、そこの可愛い坊ちゃん。この後、おじさんと一緒に秘密の遊びをせんか?」

 

「おい、このド変態! 子どもたちに近づくんじゃない!」

 

 ジュリアンが即座に権蔵を引き剥がすが、当の本人はどこ吹く風で、少年たちの頭を撫でくり回し続ける。

 

「院長先生! この人たちだれ? 新しいせんせーなの?」

 

「こらこら、お客様に失礼だろう。……申し訳ありませんな。この子たちには後でよく言い聞かせますので」

 

「かまわん、かまわん。元気があって何よりじゃ」

 

 権蔵は心の底から嬉しそうに頷いた。その横で、グレイが静かに口を開く。

 

「ゼウバルモ様。お見受けしたところ、ここにいる子どもたちは男の子ばかりのようですが」

 

「……ええ、それには少し、事情がありましてね」

 

 ゼウバルモは一瞬だけ表情を曇らせ、苦笑を浮かべた。

 

「まあ、立ち話もなんです。院長室にご案内しますので、詳しい話はそちらで」

 

 グレイは静かに頷くと、その横顔から視線を外す。

 そして、何気ない仕草で廊下の柱に鼻を寄せた。

 木蝋、日に焼けたシーツ、そして磨き油の匂い。

 その生活感に満ちた香りの奥から、微かに、しかし確かに、甘い香りが漂ってくる。

 

「良い匂いじゃのう。菓子でも焼いておるのか?」

 

「ええ、林檎の焼き菓子です。ここの子たちのささやかな楽しみでして。よろしければ後ほど、皆様にもご馳走いたしますよ」

 

 権蔵が涎を垂らさんばかりに指を咥えているのを見て、ゼウバルモは助け舟を出すように笑った。

 

 案内は続く。

 洗濯場は日当たりと水はけが完璧に計算され、寝室は年齢に応じて棟が分けられている。

 医務室には聖院が発行した正式な許可証が掲げられ、薬品棚には厳重な鍵。

 薬の処方記録も、羊皮紙の背を美しく揃えて保管されていた。

 

 やがて一行が通されたのは、院長室だった。

 その扉には二重の鍵穴、観音開きの取っ手の根元にはこじ開けようとしたような新しい傷跡。

 扉の上部には隠し通風孔まで設えられている。

 孤児院の施設とは思えぬ、城塞じみた厳重さだった。

 

「これだけの施設を維持するのは並大抵のことではないでしょう。衣食住、いずれも裕福な家庭の子息と遜色ない。寄付はどちらから?」

 

 室内に入ってから、グレイは改めて賞賛の言葉を口にした。

 

「ありがたいことに、匿名を望まれる篤志家の方々から支えられております。多くの方が名を秘し、善意だけを置いていかれるのです。おかげで王都だけではなく、各地に多くの孤児院が建てられました。これも、すべては五光神によるお導きでしょう」

 

 ゼウバルモは壁に掲げられた五光神の聖印に目をやり、敬虔に頭を垂れた。

 

「それにしても、この院は随分と防犯に力を入れていらっしゃるのですね」

 

 グレイが静かに核心に触れると、ゼウバルモは重々しく頷いた。

 

「ええ。本来であれば、誰でも気軽に招き入れる場所だったのですが……。この孤児院からも、何人かの子どもが姿を消しているのです。だからこそ、こうして心を鬼にして、扉を閉ざさざるを得なくなりました」

 

 その声に、不意に深い悲しみの色が混じる。

 

「当院の……特に、身を守るすべを持たない非力な少女たちは、危険を避けるために今は外に出さず、奥の部屋で待機させております。ここは子どもたちの最後の砦。何者にも、彼らを傷つけさせるわけにはいきません」

 

 一瞬だけ、その瞳が痛みに揺らぎ、無意識に握りしめられた拳が、ゆっくりと開かれた。

 

 しん、と部屋の空気が冷える。

 窓の外から聞こえていた少年たちの賑やかな声が、まるで嘘のように遠ざかっていた。

 

「……本題に入りましょう」

 

 重い沈黙を破ったのは、グレイだった。

 

「陛下からの書状は既にご覧いただいているかと存じます。二夜後、郊外の町マヌローで貴族の夜会が開かれます。そこで違法薬物の大規模な取引が行われる可能性が極めて高い。陛下と警備隊からもたらされた情報を精査した結果、私の調査とも完全に符合いたしました」

 

 ゼウバルモは、グレイの言葉に黙って頷く。

 

「つきましては、警備の総責任者であるゼウバルモ様にご采配いただき、夜会の現場を警備隊に押さえていただきたい。我々もそれに協力いたします。そして――」

 

 グレイがそこまで言った時、ゼウバルモが静かに、しかしきっぱりとした口調で遮った。

 

「申し訳ない。その任、私が直接指揮を執ることはできない」

 

「えっ? 先生、それはどうしてですか!」

 

 思わずといった様子でジュリアンが声を上げる。

 

「オルレアヌに潜む魔王軍四狂将軍の一人……その所在をついに突き止めたのだ。千載一遇の好機。今を逃せば、二度と尻尾は掴めんだろう」

 

 ゼウバルモの言葉には、鋼のような意志と、揺るぎない確信が宿っていた。

 

「そこで、勇者殿。貴殿にこそお願いがある。今回の討伐、是非ともそのお力をお貸しいただきたい。相手は四狂将軍が一人、『黒薔薇(くろばら)の花嫁』セミヨン。途方もなく強大な魔族だ。こちらも持てる最大の戦力で、これを完全に叩き潰す」

 

「……黒い腹のセミか……。黒いセミと言やあ、クマゼミじゃろ? 面白い。わしが“隈(くま)なく”叩きのめしてやれば、さぞ“クマった”顔をするじゃろうて! げっへっへ!」

 

 権蔵の眉が好戦的に跳ね上がり、その口角に獰猛な笑みが浮かんだ。

 

「おいグレイ、聞いとるか? 強強(つよつよ)な魔族が出たってよ。……言うまでもないが、こっちはわしが行く。アホ貴族の寄り合いなぞ、おぬしらだけで十分じゃろう?」

 

 まるで子どものように目を輝かせ、最強の獲物を前に逸る心を隠そうともしない。

 グレイは、そんな主人にやれやれと肩をすくめるふりをしながら、しかしその口元には嘲るような笑みを刷いて、静かに頷いた。

 

「ご英断です。討伐に参じてください。勇者の名は魔族との対峙でこそ示されます。餅は餅屋に。――そして勇者は、より強大な悪に」

 

 グレイの最後の一言が、権蔵の自尊心を完璧に満たした。

 

「ぐふふふ、良いことを言う。さすがは世界一の名参謀よ。――あぁ、腕が鳴るわい! 勇者たるもの、悪者をぶっ倒して正義を証明してこそじゃからのう!」

 

 彼は満足げに鼻を鳴らし、その太い腕をぶんぶんと回してみせる。

 

「話が早くて助かります。勇者殿には、我々の突破口となっていただきたい」

 

 ゼウバルモは安堵したように手を打ち、そして恭しく、扉の方へと視線を向けた。

 

「ご紹介しましょう。私の古き戦友たち、そしてオルレアヌ最高の刃――『白き獅子』を」

 

 その名が告げられた瞬間、院長室の空気が変わった。

 扉が開く音は、まるで伝説の幕が上がる合図のようだった。

 

 現れたのは、四人の男女。

 全員が純白の外套を身に纏い、その胸には金糸で獅子の紋章が誇らしげに刺繍されている。

 一糸乱れぬ歩みで入室する様は、彼らが一つの生命体であるかのようにさえ見えた。

 

 痩躯の魔法使いは、その杖の先に嵌められた宝珠に魔力を通わせ、白壁火矢の護符を微かに揺らす。

 中衛に立つ聖印を持つ治療師は、指先で二層聖環の小さな輪を戯れるように回し、その瞳は既に戦場を見据えている。

 旅芸人は携えた竪琴の弦をそっと弾き、その残響の長さを耳で測っていた。

 そして、武闘家は一歩踏み出すごとに、床板の沈み具合を確かめるように、静かに、しかし確実に自らの重心を定めている。

 

「し、白き獅子……! 本物の、あの伝説の……!」

 

 ジュリアンの瞳が、憧れと興奮で星のように輝いた。

 吟遊詩人が歌い、誰もが夢見る英雄譚の登場人物が、今、目の前にいる。

 

「『白き獅子の行進』、本が擦り切れるほど読みました! あの、有名な"沿壁射"というのは、一体どういう術なのですか!」

 

 幼子に戻ったかのような矢継ぎ早の質問に、旅芸人は悪戯っぽく微笑み、魔法使いが「いずれ実地で、な」と片目を瞑って見せた。

 

 ゼウバルモの朗らかな声が、その場の空気を引き締める。

 

「勇者殿、我らの戦い方は正攻法。正面から敵を受け止め、盤石の陣形で線を形成し、ただ一点を穿つ。貴殿の常識外れの『個』の力を、我らの『組織』の力で最大限に活かしてみせましょう」

 

 その言葉には、幾多の死線を越えてきた者だけが持つ、絶対的な確信が満ちていた。

 ゼウバルモは微笑むと、腰に差した優美な刺突剣――かつて『白牙』と呼ばれ、魔族に恐れられた伝説の魔剣を、祈るようにそっと鞘から抜いた。

 抜き身の刃が、部屋の光を吸い込んで妖しく輝く。

 

「今一度、この剣に魔族の血を吸わせてやりましょう」

 

「よかろう。だが勘違いするな。貴様らはせいぜいわしの邪魔にならんよう、後ろで震えておればよい」

 

 権蔵は不敵に白い歯を見せ、ゴキリ、と拳を鳴らした。

 

「ふん……黒いみんみんゼミか。夏にはまだ早いが、存分に虫取りとやらを楽しんでやるわい!」

 




書き溜めたストックが無くなったので次の更新はちょっと間が空くかもしれません。
申し訳ありませんが少しお待ちください。
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