美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
よろしくお願いします。
マヌロー。
王都から西へ二十里離れたその町が、夕陽に照らされて黄金に輝いていた。
瓦屋根が眩く染まる頃、グレイは宿の一室で王都派遣の警備隊との最終確認を終える。
部屋に張り詰める重圧。
今夜の任務が、全員の肩に重くのしかかっていた。
「――以上です。館の周辺で息を潜め、こちらの合図があるまで決して動かないように」
一切の感情を削ぎ落としたグレイの声が、静かに部屋に響く。
その温度のない声に、オルレアヌ王国警備隊の分隊長は強張った顔で、しかし力強く頷いた。
歴戦の強者であるはずの部下たちの顔にも、焦りと緊張の色が隠せない。
「……誘拐された子どもたちの未来が、今夜の一挙にかかっている。承知いたしました、グレイ殿。我らも王国の兵士として、命を懸けて任務を遂行します。――どうか、御武運を」
「ええ。あなた方にも、神の御加護を」
短い挨拶を交わし、グレイは警備隊と別れた。
入れ替わるように部屋の扉が開き、グレイとは別行動を取っていたカイトとジュリアンがようやく町に到着して合流する。
「遅い。一分二十秒の遅刻だ」
「ひゃー、ごめんなさーい、だんちょー! いやあ、散らばってた子羊(ウチの団員)たちを捕まえるのに、思ったより手間取っちゃいましてー♪」
悪びれもせずへらりと笑うカイトに、それまで氷の仮面を貼り付けていたグレイの口元が、微かに緩む。
「ふ、冗談だ。ご苦労だったな。今夜の『本番』について話す。場所を変えるぞ」
三人は宿を後にする。
石畳の坂を上るにつれて麓の喧騒は遠のき、代わりにひやりとした静寂が満ちてきた。
やがて辿り着いた人気のない教会。古びた扉を押し開き、埃の匂いがする螺旋階段を無言で上っていく。
狭い窓から差し込む夕陽が、壁に幾筋もの光の帯を描いていた。
長い階段を上りきると、不意に視界が開ける。
屋上から見下ろすマヌローの町は、沈みゆく太陽の最後の輝きを浴びて、燃えるような黄金色のパノラマを広げていた。
「夜会の舞台は、あの丘の上だ」
グレイがこともなげに指差した先。茜色の空を背に、ひときわ高くそびえる豪奢な邸宅があった。
その煉瓦屋根は、まるで町の富を吸って染まったかのように、禍々しいほどに赤い。
「主催はカークライト伯爵夫人。表向きは豊穣を祝う慈善の宴……だがその裏では、禁断の幻魔薬に溺れた亡者どもが集う、腐臭漂う堕落の温床と化している」
「カークライト伯爵夫人、だと……? 嘘だ、何かの間違いではないのか! 私が幼い頃にお会いした夫人は、薔薇のように気高く、聖母のように慈愛に満ちた御方だったぞ!」
ジュリアンの叫びに似た声が、夕暮れの空に響いた。
脳裏に焼き付いているのは、夜会で優雅に微笑む貴婦人の姿。
慈愛に満ちたあの眼差しが、子どもたちを弄ぶ悪魔のものだなどと、信じられるはずがなかった。
「二年前に夫と子を失い、夫人の心は砕けた。その隙間に付け込んだのが闇組織と幻魔薬だ。自ら薬に溺れる傍ら、貴族相手の売人になり果てた。……裏は取れている」
「闇組織に幻魔薬か……心の弱ったご夫人につけこんで……反吐が出る」
ジュリアンが忌々しげに吐き捨てる。
「カークライト伯爵夫人は、この夜会を最後にすべてを『清算』するつもりらしい」
「……どういう意味だ?」
グレイの言葉に、ジュリアンが眉をひそめた。
「今夜、取引相手の組織から多額の報酬を受け取り、そのまま国外へ高飛びする手筈になっている」
「国外へ逃亡だと!? こちらの情報が筒抜けだったというのか!」
「いや、意図は読めん。だが、情報が漏れていれば夜会そのものが中止になるはずだ。それが開かれる以上、まだこちらに勝機はある。……念のため、町の外は『子羊の産声』の連中で包囲させているがな」
「……なるほど、ここで逃がしてしまえば事件解決が難航する。我々にとって今夜は、絶対に失敗できない正念場というわけか」
「ああ。取引現場を押さえ、悪党どもを一網打尽にする。……いいか、巻き毛。先に言っておくが、相手が悲劇の未亡人だろうと、情けはかけるな」
温度のないグレイの言葉に、ジュリアンは奥歯をきつく噛み締めた。
「わかっている! どんな理由があれ、子どもたちを犠牲にする免罪符にはならない!」
「そうだ。夫人の眼に、子どもたちは幻魔薬の『材料』としか映っていない。もはや人ではない。悪魔に魂を売り渡した、ただの外道だ」
グレイの冷徹な断罪が、ジュリアンの騎士としての矜持に突き刺さる。
怒りと、そしてやり場のない悲しみが、その表情を歪ませた。
「……ああ、わかっているさ。今夜だけは、お前のその非情さを、私は否定しない。騎士の誓いに懸けて、守るべき者のため、なすべきことをなすだけだ」
「ふん、見習い騎士様の威勢のいい誓いか。口だけ達者なのは相変わらずだな」
カッと血が上り、ジュリアンが何か言い返そうとした、その時。
グレイはふいに背を向け、町の景色に視線を据えたまま口を開いた。
「カイト。来たばかりで悪いが、そこの巻き毛を連れて、少し『お使い』を頼めるか?」
「買い出し? こんな時にか?」
ジュリアンが訝しげに眉をひそめる。
「そうだ。今夜の『お芝居』に必要な小道具が、少し足りなくてな」
グレイは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、カイトへ手渡した。
そこに記されていたのは、およそこの状況には似つかわしくないリストだった。
――――――――――――
【買い物リスト】
・メイド服(黒白):三人分。エプロン、ヘッドドレス付き。
・化粧道具一式:白粉、頬紅、口紅など。
・詰め物用の綿:胸に入れるもの。大きめに。
・ 婦人用下着:……これも、三人分。
・予備のストッキング:伝線しやすいので多めに。
・ホタル粉:微光性。
・白と赤のリネン布:それぞれ三尺ほど。
――――――――――――
「なっ……! こ、これは、一体……!?」
リストを覗き込んだジュリアンが、顔を真っ赤にして絶句する。
対照的に、リストを一瞥したカイトは、悪戯っぽく目を輝かせた。
「ふむふむ、なるほど。承知いたしましたー♪ 今夜はとっても、面白くなりそうですね!」
その意図を、彼だけは正確に理解しているようだった。
「巻き毛、お前もカイトを手伝え。俺は邸宅周辺に不審な動きがないか、最終確認をしてくる」
「ま、待てグレイ! これはどういうことだ! 説明しろ!」
「……相変わらず察しの悪いやつだ。見ればわかるだろう。――我々は今宵、淑やかなるメイドに化けるんだよ」
不満と羞恥で爆発寸前のジュリアンに、グレイは静かに告げる。
「くれぐれも、目立つな。――今夜は、壁の石ころですら、敵の眼だと思え」
言い放つだけ言い放つと、グレイはひらりと背を向けた。
その影が夕闇に落ちる螺旋階段へと吸い込まれ、やがて靴音も聞こえなくなる。
屋上に取り残された二人は、しばし顔を見合わせた。
「さて、と。じゃあ早速、麗しのメイド様に変身するための準備といきましょうか、ジュリアンくん♪」
「絶対に嫌だ! 騎士である私が、女装などという破廉恥な真似ができるか……!」
「えー、今さら何を言ってるんですか。ジュリアンくんなんて、今だってほとんど裸みたいなエッチな鎧着てるじゃないですかー♪」
「う、うるさい! 男である私が女装するのは、また質の違う恥ずかしさなんだ!」
「ふぅん? でも、メイド服も奥が深いんですよぉ? あ、そうだ! 今度ぼくが、ご主人様を骨抜きにする必殺メイドテクニック、ジュリアンくんにだけこっそり伝授してあげますねー♪」
「誰が習うか! それに、なぜ私が権蔵を骨抜きにする前提なんだ!」
カイトの軽快な声と、ジュリアンの絶望に満ちたツッコミが、茜色の空に響き渡る。
対照的な二人の少年は、これから始まる嵐のことなど露知らず――あるいは、すべてを承知の上で。
束の間の平穏が残るマヌローの町へと、その足を踏み出した。