※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第56話 マヌローの戦い①

「カイト、巻き毛――前線は俺が抑える。抜けた奴は、お前らで潰せ」

 

「了解です、だんちょー!」

 

 グレイは軽やかに床を蹴り、血と瓦礫の匂いが渦巻く戦場へ滑り込んだ。

 武器は短剣一本。骨獣の装甲じみた骨格を正面から断ち割るには、あまりにも心許ない。

 それでも彼は迷わない。勝てる形だけを選び、勝てない形を最初から作らない。

 

 斬るのではなく、削ぐ。

 砕くのではなく、崩す。

 

 関節の隙間へ刃を差し込み、腱の代わりに組まれた魔力の糸を断つ。

 体勢を低くして骨爪を紙一重で流し、足元の瓦礫を蹴り上げ、視界を奪う。

 テーブルの脚を踏み台にして跳び、着地の瞬間に椅子を蹴って盾にする――。

 

 速い。

 しなやかだ。

 そして、無駄がない。

 

 骨獣たちは、褐色の美少年に翻弄される。

 追えば空振りし、囲めば誘導され、踏み込めば地形ごと転ばされる。

 まるで“この広間そのもの”が、グレイの武器になったかのようだった。

 

「あいつ……すごい。本当に、一人で押さえているのか……」

 

 ジュリアンが思わず呟き、目を見張る。

 

「ジュリアンくん、ぼーっとしてたらダメですよ」

 

 背後で、カイトの声が飛ぶ。無邪気な口調なのに、やることは的確だった。

 カイトはバリアの内側で膝をつき、震える負傷者の手を握ったまま、回復魔法を流し込んでいる。

 

「ぼくたちには、ぼくたちの役目があるんですから。はい、深呼吸。だいじょーぶ、まだ生きてます!」

 

 その時だった。

 

 前線から投げ飛ばされた骨獣が、床を転がり――勢いのまま後方へ滑り込んでくる。

 そして運悪く、紫の道化服の足元で止まった。

 

「ヒィィィィ! 来ないでェェェェ! わたくしの美しいお顔が傷ついたらどうするんデスかァァァ!」

 

 ジャ・ドゥが腰を抜かし、尻餅のまま後ずさる。

 骨獣はギシリと起き上がり、鋭い骨爪を振り上げた。派手な帽子ごと、頭を裂く角度――。

 

「危ない!」

 

 ジュリアンが床を滑るように踏み込み、ジャ・ドゥの襟首を掴んで乱暴に引き倒した。

 直後、さっきまでジャ・ドゥの顔があった空間を、白い骨の刃が薙ぎ払う。

 

「わ、わわわ……アナタは……!?」

 

「喋るな。息をしろ。パニックは殺意より厄介だ」

 

 ジュリアンは吐き捨てるように言い、視線だけで状況を測る。

 剣は遠い。だが武器は、この場にいくらでもある。

 

 彼は倒れた長い燭台を掴み取る。

 金属の重み。長さ。先端の尖り――槍として十分。

 

「ここは私たちが守る。お前は後ろへ下がれ。……生き延びろ」

 

 骨獣が再び踏み込む。

 ジュリアンは正面から受けない。半歩ずらし、突き出した燭台を関節の隙間へ“差し込む”。

 そして――捻る。

 

 テコの原理。

 骨が、へし折れる乾いた音がした。

 

「はぁっ! レステンクール直伝の槍捌き――たっぷり味わうがいい!」

 

 ひるんだ骨獣へ、追撃。

 ジュリアンは一気に距離を詰め、燭台の先端を眼窩へ叩き込む。

 赤い光が弾け、骨獣の頭部がのけぞって吹き飛んだ。

 

 ジャ・ドゥは呆然と口を開けたまま、ようやく息を吸い込む。

 

「……た、助かりましタ……!」

 

「礼は後だ。次が来る」

 

 ジュリアンは燭台を握り直し、肩で息をしながら前を睨む。

 前線ではグレイが骨獣の“流れ”を切り裂き、後方ではカイトの光が消えそうで消えない。

 

 その時、グレイの声が戦場を貫いた。

 

「骨獣の核は胸の黒い石だ! そこを砕け!」

 

 グレイ自身は二体を同時に相手取りながら、胸部の魔石だけを狙いすまして短剣を叩き込んでいた。

 パリン、と乾いた音。

 一体が崩れ、もう一体が崩れる。

 だが床に散った骨片は、闇の魔力に引き寄せられ、また形を作ろうともがき始める。

 

「むぅっ……やっぱり、普通に壊すだけじゃキリがないですね!」

 

 カイトが悔しそうに唇を尖らせる。バリアの維持で、額には汗が浮いていた。

 

「ええい、数が多すぎる! このような死した化け物ごときに、レステンクールの名を汚されてたまるか……!」

 

 ジュリアンが突きを放ち、胸部を粉砕する。

 ――だが、その隙を狙うように背後から別の骨獣が忍び寄る。巨大な骨腕が、ジュリアンの背を薙ぎ払おうと振りかぶられ――

 

 ヒュッ、と空気を裂く音。

 

 弾丸じみた速度で飛来した水晶玉が、骨獣の頭蓋を粉々に砕いた。

 そしてそれは、弧を描いて投げ手の掌へ戻っていく。

 

「……貴様は!」

 

 振り返ったジュリアンの視線の先に、青緑の髪を揺らすサジースがいた。

 無表情。

 だが目だけが冷たく燃えている。

 掌には、妖しく脈打つ水晶玉。

 

「……協力する。このままじゃ、全員死ぬ」

 

「助かる。サジース――だったな。ゴーレム使いか。あれも骨ゴーレムの一種だ。魔石を叩いても立ち上がる。手はあるか?」

 

 グレイの問いに、サジースは小さく頷いた。

 

「……ある。弱点、わかった」

 

 紅い瞳が骨獣の群れをなぞる。

 

「……魔力の供給源は夫人じゃない。地下。地下から吸い上げてる」

 

「地下?」

 

「……うん。だから動きが規則的。三拍子で循環してる。……止まる瞬間がある」

 

 サジースが指先で示した、その瞬間。

 骨獣たちの動きが、一呼吸ぶんだけ鈍った。魔力の切り替え。コンマ数秒の“空白”。

 

「なるほど……そういうことか」

 

 グレイの口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。冷たいまま、熱い笑みだ。

 

「聞いたな。二人とも。“止まる瞬間”に合わせろ。サジ、お前は合図を出せ」

 

「……了解」

 

 即席の四人が、自然と背中を合わせる。

 数の暴力に、技術と連携で穴を穿つ構え。

 

「……3、2、1――今」

 

 サジースの淡々としたカウントに合わせ、グレイの短剣、ジュリアンの燭台槍、カイトの投げナイフが同時に閃く。

 パリン、パリン、パリン。破砕音が連鎖し、前列の骨獣が操り糸を断たれた人形のように崩れ落ちた。

 

「いける……! これなら、押し返せる!」

 

 わずかながら確かな希望が見えた――その矢先。

 

「おほほほ! 小賢しい鼠たち。ですが、わたくしの可愛いペットの“真価”は、そんなものではありませんことよ!」

 

 夫人が楽しげに喉を鳴らし、懐から漆黒の指輪を取り出す。

 三つの頭を持つ蛇の紋章が、血のように鈍く光った。

 

「さあ――真の夜会の幕を上げましょう!」

 

 指輪から溢れた闇の魔力が、会場に散らばる貴族たちの死体を次々と包み込んでいく。

 肉体がドロドロと溶け落ち、露わになった白骨が、床下から湧き出す骨獣の残骸と絡み合い、融合し始めた。

 ぐちゃり、べちゃり、と耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、骨と骨が積み上がり、組み上がり、ひとつの“形”へと収束していく。

 

 それは、もはや一体の魔物という次元ではなかった。

 屋敷の床を突き破り、壁を内側から押し拡げ、建物の土台すら取り込んでいく。館そのものが、巨大な骨の躯体へと変貌していくようだった。

 

「まずい、屋敷が崩れるぞ!」

 

 グレイの叫びとほぼ同時に、床が大きく傾ぎ、壁に走った亀裂が一気に広がる。

 天井からはシャンデリアが火花を散らしながら落下し、大理石の柱が悲鳴じみた軋みを上げて砕け散った。

 

「ヒィィィ! 助けてェェェェ!」

「出口はどこだ! 早く外へ!」

 

 わずかに生き残っていた貴族たちが我先にと出口へ殺到する。

 ジャ・ドゥも、化粧の崩れた顔で半泣きになりながら、その群れにもみくちゃにされていた。

 

「だんちょー! どうしますか!」

 

「撤退だ! 一度外へ出て立て直す!」

 

 グレイはカイトとジュリアンの腕を掴み、崩れ落ちる瓦礫の合間を縫うように、辛うじて形を保っている出入り口へと駆け抜けた。

 サジースも無言のまま、その背を追う。

 

 外へ飛び出した瞬間、背後で大地が揺れ、屋敷が大きな咆哮を上げるかのように完全に崩れ落ちた。

 爆風が背中を叩き、四人は石畳の上を転がる。

 砂埃が視界を覆い、耳鳴りが世界の輪郭を奪う。

 

 ――だが、静寂は訪れなかった。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 地鳴りは止まらない。

 いや、さきほどよりもなお重く、深く、まるで大地そのものが呻いているような音へと変わっていく。

 夜空を覆っていた雲が裂け、月光がゆっくりと崩壊した屋敷跡を照らし出した。

 

 そして――彼らは“それ”を見た。

 

 かつて子爵邸があった場所で、巨大な影が、ゆっくりと立ち上がろうとしているのを。

 

「な、なんだ……あれは……!」

 

 ジュリアンが、騎士としての矜持も忘れ、素の声を漏らす。

 

 屋敷の残骸、庭の木々、折れた柵、無数の骨。そのすべてが一本の巨大な柱のように積み上がり、やがて人の形を象り始める。

 高さは100メートルを優に越え、マヌローの夜空を背景にそびえ立つ白骨の巨影。

 全身は無数の頭蓋骨で鱗のごとく覆われ、その巨大な顎がギギギ、と軋みながら開かれると、地の底から湧き上がるような死者たちの怨嗟が漏れ聞こえた。

 

 そして、その胸部。肋骨に守られるように、赤黒く脈動する“心臓”の中に、ひときわ鮮やかなドレス姿があった。

 

 カークライト子爵夫人だ。

 彼女は自らを包む骨の檻の中で、恍惚とした笑みを浮かべ、夜空に向かって両腕を広げていた。

 

「おほほほほ! 見なさい、これが三冥神の御業! 我が肉体と化した、究極の骨獣ですわ! さあ、マヌローの町もろとも、貴方たちを粉砕してさしあげますわ!」

 

 夫人の狂った宣告が、冷たい月光の下で鈍く響き渡る。

 次の瞬間、巨人のような骨の拳が、地を抉る絶望の鉄槌となって――グレイたちへと振り下ろされた。

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