美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
「カイト、巻き毛――前線は俺が抑える。抜けた奴は、お前らで潰せ」
「了解です、だんちょー!」
グレイは軽やかに床を蹴り、血と瓦礫の匂いが渦巻く戦場へ滑り込んだ。
武器は短剣一本。骨獣の装甲じみた骨格を正面から断ち割るには、あまりにも心許ない。
それでも彼は迷わない。勝てる形だけを選び、勝てない形を最初から作らない。
斬るのではなく、削ぐ。
砕くのではなく、崩す。
関節の隙間へ刃を差し込み、腱の代わりに組まれた魔力の糸を断つ。
体勢を低くして骨爪を紙一重で流し、足元の瓦礫を蹴り上げ、視界を奪う。
テーブルの脚を踏み台にして跳び、着地の瞬間に椅子を蹴って盾にする――。
速い。
しなやかだ。
そして、無駄がない。
骨獣たちは、褐色の美少年に翻弄される。
追えば空振りし、囲めば誘導され、踏み込めば地形ごと転ばされる。
まるで“この広間そのもの”が、グレイの武器になったかのようだった。
「あいつ……すごい。本当に、一人で押さえているのか……」
ジュリアンが思わず呟き、目を見張る。
「ジュリアンくん、ぼーっとしてたらダメですよ」
背後で、カイトの声が飛ぶ。無邪気な口調なのに、やることは的確だった。
カイトはバリアの内側で膝をつき、震える負傷者の手を握ったまま、回復魔法を流し込んでいる。
「ぼくたちには、ぼくたちの役目があるんですから。はい、深呼吸。だいじょーぶ、まだ生きてます!」
その時だった。
前線から投げ飛ばされた骨獣が、床を転がり――勢いのまま後方へ滑り込んでくる。
そして運悪く、紫の道化服の足元で止まった。
「ヒィィィィ! 来ないでェェェェ! わたくしの美しいお顔が傷ついたらどうするんデスかァァァ!」
ジャ・ドゥが腰を抜かし、尻餅のまま後ずさる。
骨獣はギシリと起き上がり、鋭い骨爪を振り上げた。派手な帽子ごと、頭を裂く角度――。
「危ない!」
ジュリアンが床を滑るように踏み込み、ジャ・ドゥの襟首を掴んで乱暴に引き倒した。
直後、さっきまでジャ・ドゥの顔があった空間を、白い骨の刃が薙ぎ払う。
「わ、わわわ……アナタは……!?」
「喋るな。息をしろ。パニックは殺意より厄介だ」
ジュリアンは吐き捨てるように言い、視線だけで状況を測る。
剣は遠い。だが武器は、この場にいくらでもある。
彼は倒れた長い燭台を掴み取る。
金属の重み。長さ。先端の尖り――槍として十分。
「ここは私たちが守る。お前は後ろへ下がれ。……生き延びろ」
骨獣が再び踏み込む。
ジュリアンは正面から受けない。半歩ずらし、突き出した燭台を関節の隙間へ“差し込む”。
そして――捻る。
テコの原理。
骨が、へし折れる乾いた音がした。
「はぁっ! レステンクール直伝の槍捌き――たっぷり味わうがいい!」
ひるんだ骨獣へ、追撃。
ジュリアンは一気に距離を詰め、燭台の先端を眼窩へ叩き込む。
赤い光が弾け、骨獣の頭部がのけぞって吹き飛んだ。
ジャ・ドゥは呆然と口を開けたまま、ようやく息を吸い込む。
「……た、助かりましタ……!」
「礼は後だ。次が来る」
ジュリアンは燭台を握り直し、肩で息をしながら前を睨む。
前線ではグレイが骨獣の“流れ”を切り裂き、後方ではカイトの光が消えそうで消えない。
その時、グレイの声が戦場を貫いた。
「骨獣の核は胸の黒い石だ! そこを砕け!」
グレイ自身は二体を同時に相手取りながら、胸部の魔石だけを狙いすまして短剣を叩き込んでいた。
パリン、と乾いた音。
一体が崩れ、もう一体が崩れる。
だが床に散った骨片は、闇の魔力に引き寄せられ、また形を作ろうともがき始める。
「むぅっ……やっぱり、普通に壊すだけじゃキリがないですね!」
カイトが悔しそうに唇を尖らせる。バリアの維持で、額には汗が浮いていた。
「ええい、数が多すぎる! このような死した化け物ごときに、レステンクールの名を汚されてたまるか……!」
ジュリアンが突きを放ち、胸部を粉砕する。
――だが、その隙を狙うように背後から別の骨獣が忍び寄る。巨大な骨腕が、ジュリアンの背を薙ぎ払おうと振りかぶられ――
ヒュッ、と空気を裂く音。
弾丸じみた速度で飛来した水晶玉が、骨獣の頭蓋を粉々に砕いた。
そしてそれは、弧を描いて投げ手の掌へ戻っていく。
「……貴様は!」
振り返ったジュリアンの視線の先に、青緑の髪を揺らすサジースがいた。
無表情。
だが目だけが冷たく燃えている。
掌には、妖しく脈打つ水晶玉。
「……協力する。このままじゃ、全員死ぬ」
「助かる。サジース――だったな。ゴーレム使いか。あれも骨ゴーレムの一種だ。魔石を叩いても立ち上がる。手はあるか?」
グレイの問いに、サジースは小さく頷いた。
「……ある。弱点、わかった」
紅い瞳が骨獣の群れをなぞる。
「……魔力の供給源は夫人じゃない。地下。地下から吸い上げてる」
「地下?」
「……うん。だから動きが規則的。三拍子で循環してる。……止まる瞬間がある」
サジースが指先で示した、その瞬間。
骨獣たちの動きが、一呼吸ぶんだけ鈍った。魔力の切り替え。コンマ数秒の“空白”。
「なるほど……そういうことか」
グレイの口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。冷たいまま、熱い笑みだ。
「聞いたな。二人とも。“止まる瞬間”に合わせろ。サジ、お前は合図を出せ」
「……了解」
即席の四人が、自然と背中を合わせる。
数の暴力に、技術と連携で穴を穿つ構え。
「……3、2、1――今」
サジースの淡々としたカウントに合わせ、グレイの短剣、ジュリアンの燭台槍、カイトの投げナイフが同時に閃く。
パリン、パリン、パリン。破砕音が連鎖し、前列の骨獣が操り糸を断たれた人形のように崩れ落ちた。
「いける……! これなら、押し返せる!」
わずかながら確かな希望が見えた――その矢先。
「おほほほ! 小賢しい鼠たち。ですが、わたくしの可愛いペットの“真価”は、そんなものではありませんことよ!」
夫人が楽しげに喉を鳴らし、懐から漆黒の指輪を取り出す。
三つの頭を持つ蛇の紋章が、血のように鈍く光った。
「さあ――真の夜会の幕を上げましょう!」
指輪から溢れた闇の魔力が、会場に散らばる貴族たちの死体を次々と包み込んでいく。
肉体がドロドロと溶け落ち、露わになった白骨が、床下から湧き出す骨獣の残骸と絡み合い、融合し始めた。
ぐちゃり、べちゃり、と耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、骨と骨が積み上がり、組み上がり、ひとつの“形”へと収束していく。
それは、もはや一体の魔物という次元ではなかった。
屋敷の床を突き破り、壁を内側から押し拡げ、建物の土台すら取り込んでいく。館そのものが、巨大な骨の躯体へと変貌していくようだった。
「まずい、屋敷が崩れるぞ!」
グレイの叫びとほぼ同時に、床が大きく傾ぎ、壁に走った亀裂が一気に広がる。
天井からはシャンデリアが火花を散らしながら落下し、大理石の柱が悲鳴じみた軋みを上げて砕け散った。
「ヒィィィ! 助けてェェェェ!」
「出口はどこだ! 早く外へ!」
わずかに生き残っていた貴族たちが我先にと出口へ殺到する。
ジャ・ドゥも、化粧の崩れた顔で半泣きになりながら、その群れにもみくちゃにされていた。
「だんちょー! どうしますか!」
「撤退だ! 一度外へ出て立て直す!」
グレイはカイトとジュリアンの腕を掴み、崩れ落ちる瓦礫の合間を縫うように、辛うじて形を保っている出入り口へと駆け抜けた。
サジースも無言のまま、その背を追う。
外へ飛び出した瞬間、背後で大地が揺れ、屋敷が大きな咆哮を上げるかのように完全に崩れ落ちた。
爆風が背中を叩き、四人は石畳の上を転がる。
砂埃が視界を覆い、耳鳴りが世界の輪郭を奪う。
――だが、静寂は訪れなかった。
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りは止まらない。
いや、さきほどよりもなお重く、深く、まるで大地そのものが呻いているような音へと変わっていく。
夜空を覆っていた雲が裂け、月光がゆっくりと崩壊した屋敷跡を照らし出した。
そして――彼らは“それ”を見た。
かつて子爵邸があった場所で、巨大な影が、ゆっくりと立ち上がろうとしているのを。
「な、なんだ……あれは……!」
ジュリアンが、騎士としての矜持も忘れ、素の声を漏らす。
屋敷の残骸、庭の木々、折れた柵、無数の骨。そのすべてが一本の巨大な柱のように積み上がり、やがて人の形を象り始める。
高さは100メートルを優に越え、マヌローの夜空を背景にそびえ立つ白骨の巨影。
全身は無数の頭蓋骨で鱗のごとく覆われ、その巨大な顎がギギギ、と軋みながら開かれると、地の底から湧き上がるような死者たちの怨嗟が漏れ聞こえた。
そして、その胸部。肋骨に守られるように、赤黒く脈動する“心臓”の中に、ひときわ鮮やかなドレス姿があった。
カークライト子爵夫人だ。
彼女は自らを包む骨の檻の中で、恍惚とした笑みを浮かべ、夜空に向かって両腕を広げていた。
「おほほほほ! 見なさい、これが三冥神の御業! 我が肉体と化した、究極の骨獣ですわ! さあ、マヌローの町もろとも、貴方たちを粉砕してさしあげますわ!」
夫人の狂った宣告が、冷たい月光の下で鈍く響き渡る。
次の瞬間、巨人のような骨の拳が、地を抉る絶望の鉄槌となって――グレイたちへと振り下ろされた。