※この作品はR-18です。

美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~   作:とけそうだら

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第59話 マヌローの戦い④

 一方、町の中央広場。

 そこは、恐怖と混乱の坩堝と化していた。

 

 

「押さないで! 子供がいるのよ!」

「俺を先に行かせろ!」

 

 

 我先にと西の森を目指す人々が、狭い通路へ雪崩れ込み、将棋倒しになりかけている。

 泣き声と怒号が絡まり合い、足を止めた瞬間に押し潰されそうな圧が、広場全体を支配していた。

 

 カイトは群衆の端でぴょんぴょん跳ねながら、細い喉を振り絞る。だが、声は波に飲まれて消えた。

 

 

「むぅーっ! もう、ダメですー! みんな慌てちゃってて、ぼくの声なんて全然届かないですよぉ!」

 

 

 泣きそうな目であたりを見回した、その時――。

 

 ズズ……ッ。

 

 足元の石畳が、ほんの僅かに“持ち上がった”。

 

「……え?」

 

 次の瞬間、地面が破裂した。

 

 バキィンッ!

 

 石畳の割れ目から、白い骨の指がにゅっと伸び、続いて犬ほどの骨の獣が這い出してくる。

 眼窩に赤黒い火が灯り、顎がカチカチと不快な音を立てた。

 

 

「きゃあああっ!」

「下だ! 地面から――!」

 

 

 一体ではない。

 二体、三体、十体。

 広場のあちこちで石が割れ、骨が湧く。

 まるで町そのものが墓場に変わったみたいに、地中から“死”が這い上がってきた。

 

 骨獣は一直線に人へ飛びかかる。

 爪――ではなく、刃物みたいに尖った骨が、逃げ遅れた男の外套を裂いた。

 

 

「うわっ、やめ――!」

 

 

 悲鳴が途切れ、群衆がさらに押し合う。

 逃げるための人混みが、今度は骨獣の餌場になりかけていた。

 

 

「だ、だめですってぇ! 押したら転んじゃいますってばぁ!」

 

 

 カイトが慌てて両腕を広げ、子供を庇うように前へ出る。

 だが骨獣は躊躇しない。赤黒い火を宿した眼窩が、獲物を見定めた。

 

 赤い目が、カイトの喉元へ一直線に――

 

 

「……そこまで」

 

 

 低い声が、喧噪の底をすっぱり割った。

 

 瓦礫の影。広場の隅で気配を殺していたサジースが、水晶玉を掲げる。

 次の瞬間、玉の内部で紅い光が収束し――細い一条の閃光となって弾けた。

 

 キィンッ!

 

 撃ち抜かれたのは骨獣の眼ではない。胸骨の奥。肋の隙間に灯る、豆粒ほどの赤黒い“核(コア)”。

 

 パキン――!

 

 乾いた破砕音。コアが砕けた途端、骨獣の動きが糸を切られた操り人形みたいに止まる。

 跳びかかった姿勢のまま、全身の骨がばらばらとほどけて、石畳に崩れ落ちた。

 

 

「……え、い、いまの……?」

 

 

 カイトは喉元を押さえたまま、へたり込みそうになる。

 その足元に転がる骨片から、赤い火はもう灯らない。

 

 サジースは水晶玉を下ろし、淡々と一言だけ吐いた。

 

 

「……コアを割れば、止まる」

 

「サ、サジくん……! たすかりまし――」

 

 

 言葉は、途中で喉に引っかかった。

 別の方向で、石畳が“腹を持ち上げる”みたいに、ぐにゃりと盛り上がったからだ。

 

 ミシ。

 嫌な軋み。亀裂が走る。

 次いで――内側から突き上げる力。

 

 

「……うそ。まだ、来るんですか……?」

 

 

 骨獣は一体じゃない。

 地面の下から、次の“死”がせり上がってくる。

 赤黒い火が、割れ目の奥で瞬いた。

 

 

「わわわわ……こんなにたくさん……! む、無理ですぅ……! みんなパニックなのに、誘導しながら、この数なんて……!」

 

 

 カイトの声が震える。

 守るべきものは目の前にいるのに、足は後ろへ下がりたがる。

 怖い。

 けど、退いたら列が崩れる。

 

 その瞬間――

 

 

「――お聴きなサーイ! 迷える子羊たちヨ!」

 

 

 夜空を切り裂くような声が響き渡る。

 広場の中央、噴水の像の上に立っていたのは、ボロボロになった紫の衣装を纏った道化師――ジャ・ドゥだった。

 

 

「今宵のショーは、特別演目『巨人と鬼ごっこ』! 主役はあちらで走り回っているグレイ様! そして観客である皆様の役割は、華麗なる『退場』デース!」

 

 

 言葉と一緒に、紙吹雪が舞う。

 その瞬間だけ、人々の目が“上”を向いた。

 骨獣の恐怖で視野が地面に貼り付いていた群衆が、ほんの一拍だけ、呼吸を取り戻す。

 

 

「見て、前を見て! 転んだら終わりデース! 走る者は転ぶ! 押す者は嫌われる! ここは一流の退場を――」

 

 

 ジャ・ドゥは喉を震わせながらも、道化の仮面を貼り付けて叫び続ける。

 恐怖の中に、薄い“型”を流し込む。

 パニックの群れに、指揮棒一本を突き立てる。

 

 

「……サジース!」

 

 

 合図は短い。だが、意味は重い。

 サジースが水晶玉を掲げた。

 

 

「……誘導灯、展開」

 

 

 玉から無数の光の球が放たれ、西の森へと続く道を明るく染め上げた。

 夜の闇に引かれる、一本の光の回廊。

 人は光に縋る。

 逃げ道が“見える”だけで、足は前へ出る。

 

 

「さあ皆様! 光の道を通り、森へお急ぎくだサーイ!」

 

 

 だが、骨獣はその光を気にしない。

 むしろ獲物が整列し始めたことで、狙いが定まったように、骨の群れが“道”へ殺到する。

 

 

「う、うそ……こっち来る!」

「誰か、止めて――!」

 

 

 サジースの紅い瞳が、骨獣の数と進路を一瞬で測る。

 そして、吐息を一つ。

 

 

「……ゴーレム。召喚」

 

 

 水晶玉が低く唸る。

 広場の石畳に刻まれた古い溝へ、淡い光が走った。まるで地面そのものに血管が浮かぶように、魔力が巡る。

 

 ゴゴゴゴ……。

 

 噴水の縁石、割れた石畳、崩れた壁の石材――それらが勝手に集まり、積み上がり、組み替わっていく。

 次の瞬間、石の巨人が“立ち上がった”。

 

 肩幅だけで馬車ほど。腕は丸太の束。指は杭。

 無表情の石面が、湧き出る骨獣を見下ろす。

 

 

「……迎撃」

 

 

 サジースの一言で、ゴーレムが踏み出した。

 ズン、と地面が鳴っただけで、近くの骨獣が体勢を崩す。

 そして巨大な掌が、蝿を潰すように叩きつけられた。

 

 バギャァンッ!

 

 骨が砕け、赤黒い火が散る。

 一撃で三体が“ただの骨片”に戻った。

 

 骨獣が飛びかかり、ゴーレムの脚に噛みつく。

 だが牙は石に立たず、逆に顎の骨が欠けた。

 ゴーレムは気にも留めず、足を引きずるようにして骨獣を地面へ擦り潰していく。

 

 

「す、すごい……! サジくん、かっこいいですっ!」

 

 

 カイトは目を輝かせ――すぐに頬を叩いて引き締めた。

 いま必要なのは感動じゃない。救助だ。

 

 

「小さい子、こっちです! 光の道の内側に入って! 転んだ人、手を貸しますー!」

 

 

 カイトが転んだ老人の腕を抱え、列へ押し戻す。

 その背後でジャ・ドゥが、必死に“明るい声”を張り上げる。

 

 

「いいですカー! 前の人の肩、掴む! 泣いてる子は抱っこ! 立ち止まったら骨にかじられマース! さあ、優雅に! しかし迅速に! 退場こそ芸術デース!」

 

 

 骨獣がなおも湧く。地面が割れるたび、悲鳴が上がる。

 だが、ゴーレムがそのたび前へ出て、骨の群れを“壁”で押し返す。

 サジースは水晶玉を握りしめ、淡々と魔力の糸を繋ぎ続けた。顔色だけが、薄紙のように白くなっていく。

 

 

「……あと、三波。耐えれば……流れ、作れる」

 

 

 その呟きに応えるように、誘導灯の光が強まった。

 人の列が、一本の川になる。押し合いではなく、流れとして森へ向かう。

 

 そしてゴーレムが最後の一撃で、骨獣の群れを広場の外へ叩き出す。

 

 ドォン――!

 

 砕け散った骨片が、石畳に雨のように降った。

 赤黒い火が、いくつか、すうっと消える。

 

 その光景を背に、ジャ・ドゥは噴水の上で大きく腕を広げた。

 

 

「さあさあ! ショーは続行! 観客の皆様は、最後まで“退場”を楽しんでくだサーイ!」

 

 

 カイトは息を吸い、もう一度叫ぶ。

 

 

「みなさーん! 大丈夫です! 光の道に沿って行けば安全ですよー! ほら、遠足みたいに並んでくださーい!」

 

 

 広場はまだ地獄の匂いがする。

 それでも――秩序は戻った。避難誘導は、劇的にスムーズになった。

 

 

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