美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
一方、町の中央広場。
そこは、恐怖と混乱の坩堝と化していた。
「押さないで! 子供がいるのよ!」
「俺を先に行かせろ!」
我先にと西の森を目指す人々が、狭い通路へ雪崩れ込み、将棋倒しになりかけている。
泣き声と怒号が絡まり合い、足を止めた瞬間に押し潰されそうな圧が、広場全体を支配していた。
カイトは群衆の端でぴょんぴょん跳ねながら、細い喉を振り絞る。だが、声は波に飲まれて消えた。
「むぅーっ! もう、ダメですー! みんな慌てちゃってて、ぼくの声なんて全然届かないですよぉ!」
泣きそうな目であたりを見回した、その時――。
ズズ……ッ。
足元の石畳が、ほんの僅かに“持ち上がった”。
「……え?」
次の瞬間、地面が破裂した。
バキィンッ!
石畳の割れ目から、白い骨の指がにゅっと伸び、続いて犬ほどの骨の獣が這い出してくる。
眼窩に赤黒い火が灯り、顎がカチカチと不快な音を立てた。
「きゃあああっ!」
「下だ! 地面から――!」
一体ではない。
二体、三体、十体。
広場のあちこちで石が割れ、骨が湧く。
まるで町そのものが墓場に変わったみたいに、地中から“死”が這い上がってきた。
骨獣は一直線に人へ飛びかかる。
爪――ではなく、刃物みたいに尖った骨が、逃げ遅れた男の外套を裂いた。
「うわっ、やめ――!」
悲鳴が途切れ、群衆がさらに押し合う。
逃げるための人混みが、今度は骨獣の餌場になりかけていた。
「だ、だめですってぇ! 押したら転んじゃいますってばぁ!」
カイトが慌てて両腕を広げ、子供を庇うように前へ出る。
だが骨獣は躊躇しない。赤黒い火を宿した眼窩が、獲物を見定めた。
赤い目が、カイトの喉元へ一直線に――
「……そこまで」
低い声が、喧噪の底をすっぱり割った。
瓦礫の影。広場の隅で気配を殺していたサジースが、水晶玉を掲げる。
次の瞬間、玉の内部で紅い光が収束し――細い一条の閃光となって弾けた。
キィンッ!
撃ち抜かれたのは骨獣の眼ではない。胸骨の奥。肋の隙間に灯る、豆粒ほどの赤黒い“核(コア)”。
パキン――!
乾いた破砕音。コアが砕けた途端、骨獣の動きが糸を切られた操り人形みたいに止まる。
跳びかかった姿勢のまま、全身の骨がばらばらとほどけて、石畳に崩れ落ちた。
「……え、い、いまの……?」
カイトは喉元を押さえたまま、へたり込みそうになる。
その足元に転がる骨片から、赤い火はもう灯らない。
サジースは水晶玉を下ろし、淡々と一言だけ吐いた。
「……コアを割れば、止まる」
「サ、サジくん……! たすかりまし――」
言葉は、途中で喉に引っかかった。
別の方向で、石畳が“腹を持ち上げる”みたいに、ぐにゃりと盛り上がったからだ。
ミシ。
嫌な軋み。亀裂が走る。
次いで――内側から突き上げる力。
「……うそ。まだ、来るんですか……?」
骨獣は一体じゃない。
地面の下から、次の“死”がせり上がってくる。
赤黒い火が、割れ目の奥で瞬いた。
「わわわわ……こんなにたくさん……! む、無理ですぅ……! みんなパニックなのに、誘導しながら、この数なんて……!」
カイトの声が震える。
守るべきものは目の前にいるのに、足は後ろへ下がりたがる。
怖い。
けど、退いたら列が崩れる。
その瞬間――
「――お聴きなサーイ! 迷える子羊たちヨ!」
夜空を切り裂くような声が響き渡る。
広場の中央、噴水の像の上に立っていたのは、ボロボロになった紫の衣装を纏った道化師――ジャ・ドゥだった。
「今宵のショーは、特別演目『巨人と鬼ごっこ』! 主役はあちらで走り回っているグレイ様! そして観客である皆様の役割は、華麗なる『退場』デース!」
言葉と一緒に、紙吹雪が舞う。
その瞬間だけ、人々の目が“上”を向いた。
骨獣の恐怖で視野が地面に貼り付いていた群衆が、ほんの一拍だけ、呼吸を取り戻す。
「見て、前を見て! 転んだら終わりデース! 走る者は転ぶ! 押す者は嫌われる! ここは一流の退場を――」
ジャ・ドゥは喉を震わせながらも、道化の仮面を貼り付けて叫び続ける。
恐怖の中に、薄い“型”を流し込む。
パニックの群れに、指揮棒一本を突き立てる。
「……サジース!」
合図は短い。だが、意味は重い。
サジースが水晶玉を掲げた。
「……誘導灯、展開」
玉から無数の光の球が放たれ、西の森へと続く道を明るく染め上げた。
夜の闇に引かれる、一本の光の回廊。
人は光に縋る。
逃げ道が“見える”だけで、足は前へ出る。
「さあ皆様! 光の道を通り、森へお急ぎくだサーイ!」
だが、骨獣はその光を気にしない。
むしろ獲物が整列し始めたことで、狙いが定まったように、骨の群れが“道”へ殺到する。
「う、うそ……こっち来る!」
「誰か、止めて――!」
サジースの紅い瞳が、骨獣の数と進路を一瞬で測る。
そして、吐息を一つ。
「……ゴーレム。召喚」
水晶玉が低く唸る。
広場の石畳に刻まれた古い溝へ、淡い光が走った。まるで地面そのものに血管が浮かぶように、魔力が巡る。
ゴゴゴゴ……。
噴水の縁石、割れた石畳、崩れた壁の石材――それらが勝手に集まり、積み上がり、組み替わっていく。
次の瞬間、石の巨人が“立ち上がった”。
肩幅だけで馬車ほど。腕は丸太の束。指は杭。
無表情の石面が、湧き出る骨獣を見下ろす。
「……迎撃」
サジースの一言で、ゴーレムが踏み出した。
ズン、と地面が鳴っただけで、近くの骨獣が体勢を崩す。
そして巨大な掌が、蝿を潰すように叩きつけられた。
バギャァンッ!
骨が砕け、赤黒い火が散る。
一撃で三体が“ただの骨片”に戻った。
骨獣が飛びかかり、ゴーレムの脚に噛みつく。
だが牙は石に立たず、逆に顎の骨が欠けた。
ゴーレムは気にも留めず、足を引きずるようにして骨獣を地面へ擦り潰していく。
「す、すごい……! サジくん、かっこいいですっ!」
カイトは目を輝かせ――すぐに頬を叩いて引き締めた。
いま必要なのは感動じゃない。救助だ。
「小さい子、こっちです! 光の道の内側に入って! 転んだ人、手を貸しますー!」
カイトが転んだ老人の腕を抱え、列へ押し戻す。
その背後でジャ・ドゥが、必死に“明るい声”を張り上げる。
「いいですカー! 前の人の肩、掴む! 泣いてる子は抱っこ! 立ち止まったら骨にかじられマース! さあ、優雅に! しかし迅速に! 退場こそ芸術デース!」
骨獣がなおも湧く。地面が割れるたび、悲鳴が上がる。
だが、ゴーレムがそのたび前へ出て、骨の群れを“壁”で押し返す。
サジースは水晶玉を握りしめ、淡々と魔力の糸を繋ぎ続けた。顔色だけが、薄紙のように白くなっていく。
「……あと、三波。耐えれば……流れ、作れる」
その呟きに応えるように、誘導灯の光が強まった。
人の列が、一本の川になる。押し合いではなく、流れとして森へ向かう。
そしてゴーレムが最後の一撃で、骨獣の群れを広場の外へ叩き出す。
ドォン――!
砕け散った骨片が、石畳に雨のように降った。
赤黒い火が、いくつか、すうっと消える。
その光景を背に、ジャ・ドゥは噴水の上で大きく腕を広げた。
「さあさあ! ショーは続行! 観客の皆様は、最後まで“退場”を楽しんでくだサーイ!」
カイトは息を吸い、もう一度叫ぶ。
「みなさーん! 大丈夫です! 光の道に沿って行けば安全ですよー! ほら、遠足みたいに並んでくださーい!」
広場はまだ地獄の匂いがする。
それでも――秩序は戻った。避難誘導は、劇的にスムーズになった。