美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
西の森の入り口。
サジースが展開した無数の光の球が夜空へ溶けていく中、最後の避難民である母子が、木々の奥へと駆け込んでいった。
「……これで、最後」
サジースが低く呟き、水晶玉を下ろす。
同時に、広場から森への道を死守し続けていた巨大な石のゴーレムが、役目を終えたようにガラガラと崩れ落ちた。
土煙を上げてただの瓦礫へと戻っていくそれを見届け、サジースは静かに膝をついた。
「サジくん!」
カイトが慌てて駆け寄り、その背中を支える。
サジースの顔色は死人のように蒼白で、息も絶え絶えだった。極限状況での魔力の酷使による反動だ。
「平気、です……か?」
「……ギリギリ。でも、なんとか……」
サジースは擦れ枯れた声で答え、紅い瞳を町の方角へと向けた。
「ブラボー! 見事な大団円デース!」
ボロボロの紫の衣装を翻し、ジャ・ドゥが芝居がかったお辞儀をする。
道化の仮面には骨獣の爪痕が深く入り、彼自身も満身創痍であったが、その声だけは最後までパニックに陥った群衆を導く一筋の希望であり続けた。
「カイトくんも、サジースも、本当にご立派デシタ! これにて第一幕は無事に閉幕……しかし」
ジャ・ドゥの言葉が途切れる。
ズドォォォォン……ッ!
遠く離れた山の方角から、空気を震わせる重低音が響いた。
夜空の一部が赤黒く変色し、雷のような魔力の閃光が幾度も瞬いている。
「だんちょー……ジュリアンくん……」
カイトが両手を握りしめ、赤黒い閃光が瞬く山を見上げた。
あそこにいるのは、丸腰のまま規格外の化け物を引きつけている団長と、武器を届けるために死地を走っている見習い騎士だ。
「……心配いらない」
サジースが、よろめきながらも立ち上がる。
極限まで魔力を絞り出した体は限界を訴えているはずだが、その紅い瞳の光は少しも衰えていなかった。
「あの男は、こんなところじゃ死なない。……絶対に」
「はい……! でも、だからって待ってるだけなんて嫌です!」
カイトは不安を振り払うように顔を上げ、ぎゅっと拳を握り直した。
「こっちの避難誘導は終わりました! 次は、ぼくたちがだんちょーたちを助ける番です!」
「……ああ。加勢する」
サジースが短く応じ、水晶玉を懐へしまい込む。
その迷いのない横顔に、カイトは力強く頷いた。
休む間もない。
けれど、足取りに迷いはない。
二人は凄まじい地響きが続く山の方角へと、弾かれたように駆け出した。
◆
採石場跡地へと続く山道。
グレイは、背後から降り注ぐ骨棘の雨を紙一重で回避し続けていた。
ドガガガガガガッッ!!
地面が抉れ、大木が紙細工のように弾け飛ぶ。
かすっただけでも命を持っていかれる致死の質量弾。それが機関銃のような連射速度で、執拗にグレイの踵を狙ってくる。
「おほほほほ! ネズミらしく這いつくばりなさい! そして私の糧におなりなさい!」
巨人の胸奥に鎮座する夫人の狂笑が、夜の山に木霊する。
グレイの肺は焼けるように熱い。両足はとうの昔に限界を超え、踏み込むたびに筋肉の繊維がぶちぶちと切れる音が聞こえる錯覚すら覚える。
(当たらなければ、どうということはない。……この程度!)
恐怖はない。
あるのは、生存への冷徹な計算だけだ。
右へ、左へ。
着弾の兆候を肌で感じ、爆風すら推進力に変えて駆け抜ける。
やがて木々の密度が薄れ、視界が一気に開けた。
遮るもののない、荒涼とした岩肌。
採石場跡地だ。
あそこなら、どれだけ暴れようが誰にも迷惑はかからない。
町の人々を守るという第一目標は、これで達成された。
あとは思う存分暴れ回る、最高のダンスフロアだ。
だが、その“ステージ”の入り口で。
グレイは、あまりにも予想外な音を耳にした。
「ゼェ……ッ、ハァ……ッ! ぐ、グレイ……貴様ぁ……ッ!」
獣の唸り声ではない。肺が破れんばかりの、人間の荒い呼吸音だ。
「……酷いツラだな、おい」
そこにいたのは、騎士の威厳など欠片もない、ボロ雑巾のような男だった。
滝のような汗が顔を洗い、口の端からは拭う余裕もなかった
輝くはずの白銀の鎧は泥と骨の粉で汚れ、至る所に傷が入っていた。
愛馬の姿はない。
途中で馬が潰れたのか、両手と背中に重たい武器を抱えたまま、この急勾配の山道を自身の足だけで駆け上がってきたのだ。
足はもつれ、今にも地面にキスしそうになりがら、それでもジュリアンは、託された“荷物”だけは絶対に落とさずに駆け込んできた。
「はぁ、はぁ……! 死に損ないの、ネズミが……! こっちは、心臓が……止まるかと……!」
「止まってないなら合格だ。遅刻だがな。――ほら、よこせ!」
グレイは軽口を叩きながら駆け寄り、遠慮なく手を伸ばす。
背後からは、怒り狂った巨人が木々を踏み倒し、岩を砕きながら、すぐそこまで迫っていた。
「……受け、取れぇぇぇっ!!」
ジュリアンが、最後の力を振り絞って左手の刀を放り投げる。
黒い鞘が月光を弾き、空中で回転しながらグレイの手元へ吸い込まれた。
パシッ。
その感触。
掌に吸い付くような、確かな魂の重み。
柄を握った瞬間、グレイの全身の細胞が歓喜の声を上げた。限界を訴えていた筋肉の痛みが消え去り、代わりに暴力的なまでの熱が血管を駆け巡る。
「……ナイスデリバリーだ、巻き毛」
グレイは黒刀・不知火を構え、くるりと反転した。
目の前には、山道から溢れ出してきた絶望的なまでの質量。
骨の巨人が、天を衝くような雄叫びを上げながら、雪崩のように迫ってくる。
圧倒的な力の差。逃げ場のない死の化身。
だが、もう逃げる必要はない。ただ時間を稼ぐだけの鬼ごっこは、終わったのだ。
「さあ……ここからは
グレイの唇が、獰猛な笑みの形に歪んだ。
夜気の中、鞘から引き抜かれた漆黒の刃が、静かに、そして禍々しく鳴いた。