美少年ハーレムを作りたい!! ~モブおじだけど転生したらチート勇者でした。なので盗賊になって好き勝手に生きることにしました~ 作:とけそうだら
陽光が大地を照らし返す中、権蔵一行の馬車は王都セルフィアの関所へと近づいていた。
ドルテナを発って七日目、ついに旅の終着点が見えてきたのだ。
巨大な石造りの門は、昼下がりの強い光を受けて白く輝きながら、まるで王都の威厳を象徴するかのように堂々と立ちはだかる。
高さ十メートルを超える城壁は、白亜の石材で築かれ、その上部には鉄製の防御柵が幾重にも設けられていた。
門柱には王国の紋章が刻まれ、両脇には、整然と並んだ衛兵たちの姿が見える。
権蔵は馬車の手綱を握りながら、その壮麗な門をじっと見つめる。
前回の来訪時、彼は王都への侵入を急ぐあまり、検問所など眼中になく、力任せに門を破壊して通り抜けた。
それもすべて、あの美少年王エリオットにプロポーズするためだった。
(ほう、もう修復されておるか……感心感心!)
あれから幾ばくかの時間が経ち、その門はきれいに修復されている。
国の人々がしっかりと仕事をしている様子に、権蔵は妙な誇らしさすら感じていた。
「権蔵、絶対に検問所で暴れるなよ。陛下も粗暴な輩とはお会いにはならないのだからな」
馬車の荷台に腰掛けていたジュリアンが、鋭い視線で釘を刺してきた。
「なんじゃと!? わしを何者だと思っとるんじゃ! わしは紳士の中の紳士じゃぞ! いつでもどこでも暴れるような野蛮人ではないわ!」
権蔵がむっとした表情で抗議するも、ジュリアンはそれ以上何も言わず、ただ警戒するような視線を送るだけだった。
三時間後――。
「くそっ、まだか……もう三時間も待たされとるんじゃぞ」
馬車を降りた権蔵たちは関所の前での待ち時間が続いている。時間がゆっくりと流れ、権蔵は次第にイライラが募り始める。
「はい、この警備の厳重さはただ事じゃありませんね。いったいなにがあったのでしょうか」
グレイが眉をひそめながら、衛兵たちの動きを観察している。
「ううー……ぼく、お腹が空いて倒れちゃいそうです~」
カイトがお腹を押さえて弱音を吐く。
「カイト、しっかりしろ。勇者に仕える従者ならば、そのような情けない姿を見せるものではない」
「でも~。ぼく、まだ子供ですし我慢できないです~」
ジュリアンがカイトの頬を指でつつくと、カイトは情けない声で反論する。
「おい、お前ら! 静かにしろ!」
権蔵の横で警備にあたっていた衛兵が、鋭い声を上げた。
「なんじゃと? わしらは腹が減って死にそうなんじゃぞ! 黙って待てなどと、無理な要求をするでないわ!」
権蔵が怒りを露わにする。
衛兵は彼の身なりを値踏みするように見下ろし、侮蔑的な笑みを浮かべた。
「ふん、乞食か盗人か? どちらにせよ、この関所を通れる身分ではあるまい」
「はぁっ!?」
権蔵の額に青筋が浮かぶ。
「ここは王都の関所だ。お前らのような身なりの怪しい連中が、のこのこ入ってこられては困る。さっさと失せろ!」
「な、なにをぉ!? 誰が乞食じゃと! ええぃ、もう我慢ならん! その首、へし折ってくれるわ!」
権蔵が拳を振り上げようとした瞬間、ジュリアンが慌てて制止する。
「待て、権蔵! そんな暴挙は――」
しかし、その声も空しく、権蔵の拳が衛兵の顔に向かって伸びかけた時――
「やれやれ、みなさん。随分とお疲れのようですね」
赤い羽根帽子を被った長身の男が、まるで舞台から現れた役者のように颯爽と割って入った。
その端正な顔立ちには、優雅な微笑みが浮かんでいる。
「貴様は何者だ?」
衛兵が警戒の色を露わにすると、男は帽子を取って優雅に一礼した。
「私はとある方のご依頼で旅をしている冒険者。それ以上でも以下でもない、ただの通りすがりの者です」
男の言葉には不思議な説得力があり、その穏やかな物腰は周囲の空気さえも和ませていく。
「冒険者風情が余計な口出しをするな! さっさとここから失せろ!」
衛兵の怒声に、男は柔らかな笑みを浮かべたまま、何かを差し出した。
「まあまあ、そう仰らず。これで少しばかり心を落ち着けていただけませんか」
衛兵の手のひらには、一枚のギルダ金貨が置かれていた。
「これは……!」
「いかがでしょう? これで少しは穏やかな気持ちになられましたか?」
男は優雅に微笑むと、衛兵に向かって軽くウインクを送った。
「……お前たち、馬車から降りて大人しく列に並べ。変なことはするなよ!」
衛兵は金貨を素早くポケットに滑り込ませ、そそくさとその場を立ち去る。
その後ろ姿を見送りながら、男は権蔵たちに向き直った。
「やれやれ、随分と厄介な目に遭われましたね。ああいった連中には、時には従うふりをするのも手かと」
「なんじゃ、おぬしは。余計な真似をしおって。用が済んだならさっさと失せろ。しっしっ」
権蔵が不機嫌そうに手を振る。
しかし、男はその態度にも動じることなく、穏やかな笑みを崩さなかった。
「まあまあ、そう言わずに。これは暇つぶしのお裾分けです。坊やたちも、どうぞ」
男は腰の袋から焼き菓子を取り出した。
「ほう、クッキーか。まあ、一応もらっておくかの」
「私はゲルマー帝国の冒険者でしてね。北部戦線の調査を依頼されまして。このセルフィアは、その途上なのです」
「ふん、そりゃご苦労なことじゃ」
権蔵は興味なさげに聞き流しながら、クッキーを口の中に放り込んだ。
サクッとした歯ごたえとバターの風味が口の中に広がり、思わず笑みが浮かぶ。
「ここ数年、オルレアヌ北部は魔王軍との戦いが絶えませんでな。特に最近は激化の一途を辿っております。我々冒険者も、もはや傭兵同然の扱いですよ」
男は肩をすくめながら、その声には疲労と皮肉が滲んでいた。
「そうか。わしも昔は冒険者として各地を巡ったことがあるが、戦争に駆り出されることはなかったのう。まあ、わしの場合は冒険者というより、ただの放浪者じゃったがな」
権蔵はクッキーをもう一つ頬張りながら、どこか懐かしそうに語る
「それは興味深い話ですな。ぜひとも詳しくお聞きしたいところですが……残念ながら私も時間に追われておりまして。この検問の厳重さには閉口するばかりです」
男は苦笑いを浮かべながら、検問所の列を見やる。
「まあ、確かにな。ここは王都の関所じゃ。警備が厳重なのも当然のことよ」
「ええ、その通りです。ただ、この厳重さには訳がありましてね。噂では『山賊勇者』という者が関所を破壊し尽くしたとか。それ以来、警備が一段と厳しくなったそうで」
権蔵は思わずクッキーを噴き出す。
「ぶほっ!? ほ、ほう……『山賊勇者』がのう…………それは大変なこっちゃ……」
権蔵は動揺を隠すように、大げさな咳払いをする。
「その『山賊勇者』、我が帝国では少々違った評価を受けておりましてね。王国では厄介者扱いですが、我々の間では別の見方をされているのです」
「ふぅん……そうなのか?」
権蔵はカイトとグレイにクッキーを分け与えながら、さも興味なさげに聞き流す。
カイトは無邪気に頬張り、グレイは無言で口に運ぶ。
「悪名は無名に勝ると言います。我がゲルマー帝国では、実力こそがすべて。彼がたった一人であの難攻不落のドルテナ要塞を占領したという話には、帝国中が驚嘆しましたよ。あの山賊勇者の名は、我々にとってはむしろ英雄譚のようなものです」
赤い羽根帽子を被った長身の男は穏やかな笑みを浮かべながら語る。
その声にはどこか含みがあり、まるで権蔵の反応を楽しんでいるかのようだった。
「ほう、そなたらは勇者を高く評価してくれとるんじゃな」
「ええ、できれば我が帝国に彼をお迎えし、国賓として丁重にもてなしたいと考えているほどです。ただ……オルレアヌの勇者さまを我が国へ招くことでオルレアヌと外交問題になりかねませんし、それは叶わぬ夢ですがね」
男は肩をすくめながら苦笑する。
その言葉には皮肉めいた響きが混じっていた。
「ふむ、悪名は無名に勝るか。そなた、なかなか見どころのある男じゃな。わしもその通りだと思うぞ」
権蔵はクッキーをもう一つ口に放り込みながら、不敵な笑みを浮かべた。
男はその反応に満足そうに頷くと、興味津々といった表情で尋ねてきた。
「おほほほほ、ところで皆さん、一体どのような目的で王都へ?」
「わしらか? わしらは王様に会うために来たんじゃよ」
「ほう、エリオット王に? それはまた大層な目的ですね。あなたたちはさぞかし名のある御仁なのでしょうね」
ジークは感心したように頷きながら、一礼した。
「ああ、それと遅ればせながら自己紹介を。私はジークと申します。以後、お見知りおきを」
「うむ、わしは権蔵じゃ。そしてこの三人はわしの仲間でな――グレイ、カイト、ジュリアンだ」
権蔵は三人を指差しながら簡単に紹介する。
カイトは元気よく手を振り、グレイは無表情のまま軽く頷き、ジュリアンはどこか不満げな顔で視線を逸らした。
「これはこれは! なんとも頼もしいお坊ちゃん方ですね!」
ジークは目を細めて微笑む。
「ちなみに私はこれでも金等級(ゴールドクラス)の冒険者です。戦闘も多少できますので、困ったことがあれば何なりとお申し付けください」
「そうかそうか。でもな、おっさん――いやジークよ。わしにはおぬしみたいなおっさんの助けなど必要ないんじゃよ」
権蔵はニヤリと笑いながら手を振る。
その態度には余裕すら感じられるが、どこか挑発的でもあった。
「あらあら、振られてしまいましたか。それは残念です」
ジークが苦笑する傍らで、木陰から二つの影が滑るように現れた。
褐色の肌をした少女と、白磁のような肌の少女。
どちらも暗殺者のような黒装束に身を包み、腰には短剣を忍ばせている。
「ミチル、チル、行きますよ」
「はい、ジーク様」
「承知しました」
二人の少女は無表情のまま、ジークの背後に控える。
その動きには獣のような危険な気配が漂っていた。
「では私はこれで失礼します。宿でも探しに向かいますので。またどこかでお会いしましょう、ごきげんよう」
赤い羽根帽子を風になびかせながら去っていくジーク。
その両脇で、二人の少女が影のように寄り添う。
その背中を見送りながら、権蔵はクッキーを最後まで食べきり、不敵な笑みを浮かべた。
「まったく、『山賊勇者』の噂が帝国にも広がっておるじゃと? わしもまぁ、随分と有名人になってしまったもんじゃなぁ。げへへへえ」
「……有名人というより厄介者だろう?」
ジュリアンが冷ややかな視線を送りながら呟く。
「まあまあ、ジュリアンくん。ご主人さまはすごい人なんですよ! だって知らないおじさんからタダでクッキーまでもらっちゃうんですから!」
カイトが無邪気に笑顔でフォローする。
グレイはそんな二人のやり取りに小さくため息をつきながら、「……あの男、ただ者ではないな」と呟いた。
その黒い目隠しの奥の瞳には、去っていくジークへの警戒心が色濃く滲んでいた。
♦
「もう待てぬ!!」
夕陽が茜色に染まり始めた頃、権蔵の忍耐は完全に限界を迎えていた。
ジークと別れてからさらに三時間が経過し、関所の列は一向に進む気配を見せない。
「なんじゃ、あの門番どもは! たかが刃物を持った悪人面の男一人の荷物検査ごときで、一時間もかけおって! 仕事というものをわかっておらん! さっさと処刑でもして次に進めばいいものを!」
馬車に戻った権蔵は地団駄を踏みながら、まるで噴火寸前の火山のように不満を爆発させる。
「まあまあ、落ち着いてください、ご主人さま。お仕事なんですから、仕方ないですよ♪」
露店で買ってきた飴を愛らしくくわえながら、カイトは権蔵をなだめる。
「そうはいってもな。わしは王様に招かれた客じゃぞ! それなのにお利巧さんに順番待ちじゃと? 少しは融通してくれてもバチは当たらんのではないか?」
権蔵の声には、特別な立場であるという自負が滲んでいた。
「権蔵さま、俺が検問の手続きを行って参ります。 国王からの招待状があれば、特別に通してもらえるでしょう」
グレイが冷静に提案する。
「 「おお、さすがグレイちゃん! いつも頼りになるのう!」
しかし、グレイが馬車を降りようとした瞬間――
「待て! それは許されない!」
ジュリアンが荷台から身を乗り出し、鋭い声を上げた
「はぁ……また余計な口出しか?」
グレイが冷ややかに問い返す。
「この列をよく見ろ。私たちより早くから待っている人々がいる。たとえ王国の招待状があろうとも、公平さを失うことは許されない。それが騎士の誇りだ」
「騎士の誇りねぇ……。だが、国王が権蔵さまを招いているのに、こうして無為に時を過ごすのは、それこそ騎士の不名誉ではないのかな? 巻き毛の『見習い騎士』くん?」
グレイの言葉には鋭い皮肉が込められていたが、ジュリアンは毅然とした態度を崩さない。
「む……確かに私はまだ従騎士の身分かもしれない。だが、騎士道精神と正義を重んじる心は誰にも負けはしない! 貴様のような『子羊のなんちゃら』という山賊の手先とは違うのだ。他者を踏みにじってまで進む道など、この私には選べない!」
「てめぇ、権蔵さまと俺たちの『子羊の産声』を馬鹿にすんのかよ。いい度胸だな、巻き毛ぇ……死ぬ覚悟はできてんのか、あぁ!!」
二人の激しい言い合いが続く中、権蔵はため息をつきながら、ぼんやりとした目で彼らを眺めていた。
(やれやれ、ほんとに面倒くさい奴じゃのう……)
空腹と長時間の待機に苛立ちが募る中、グレイとジュリアンの絶え間ない言い争いが権蔵の頭痛を加速させていた。
腹の虫が不機嫌そうに鳴り、待たされるストレスが頭の中で渦を巻く。
まるで戦場のような二人の言い争いが、さらに彼の気分を重くしていく。
ふと、権蔵の脳裏に懐かしい記憶が浮かんできた。
(ん? この状況、どこかで……)
記憶の糸を手繰り寄せていくと、やがてその場面が鮮明に蘇ってきた。
(ああ、そうじゃ! 前世の日本で小学生だった頃のゲームじゃ……)
【勇者とクズとファンタジー】――
そのタイトルを思い出した瞬間、懐かしい記憶が権蔵の心を温かく包み込む。
一見すると王道の勇者ファンタジーRPGだったが、物語は次第に奇妙な展開を見せていった。
ゲーム内の一場面が、まるで昨日のことのように鮮やかに蘇る。
「俺たちは勇者だぞ。世界を救う英雄なんだ。なのに、なんで他の連中と同じように並んで待たなきゃいけないんだ?」
「そうよね! 私たち、世界の命運を背負ってるのよ? 優先的に装備を整えさせてもらって当然でしょ!」
困惑した表情の武具屋の店主が、申し訳なさそうに首を振る。
「申し訳ございませんが、勇者様でも順番は守っていただかねば。皆さま平等でございます。先に並んでおられる方々も、長時間お待ちなのです」
「はぁ? ふざけんな。お前、もしかして魔王の手先か? わざとこうして俺たちの妨害してんだろ?」
「そうに違いないわ! ねぇ、勇者くん。こいつをやっつけて、武具を全部いただいちゃいましょう! そうすれば装備も手に入るし、お金にもなるわ。一石二鳥よ!」
そして、物語は予想もしない悪夢のような展開へと突き進んでいく。
店主の死体が発見された翌日、勇者と恋人は瞬く間に指名手配された。
かつての仲間たちからも王国からも追われる身となり、二人は逃亡の日々を送ることになる。
人々の勇者への期待と信頼は、一夜にして裏切られたのだ。
追手から逃れながら、二人が辿り着いた先は皮肉にも魔王の城。
そこで彼らは、自らの意思で魔王の配下となることを選んだ。
もはや善悪の区別など意味を持たず、ただ力を求めて突き進む二人は、人間の国々を次々と蹂躙していく。
かつての仲間たちを躊躇いもなく裏切り、世界の支配を目指す二人。
最後には魔王の軍勢と共に人類を滅ぼし、世界を破滅へと導いた。
そのラストシーン――崩壊した人間の国を高みから見下ろす勇者と恋人の姿は、プレイヤーたちの心に深い傷跡を残す。
その顔に浮かぶ狂気と絶望の笑みは、救世主から破壊者へと堕ちた英雄の末路を如実に物語っていた。
世界を救うはずの勇者が、逆に世界を破壊するという衝撃的な結末に、誰もが言葉を失った。
その展開は、ゲーム業界に激震を走らせ、大きな議論を巻き起こすこととなる。
「斬新な展開」「真の人間性を描いた傑作」という絶賛の声がある一方で、「こんな救いのない終わり方は許されない」「子供たちの夢を壊す」という激しい非難の声も上がった。
ゲーム評論家たちはこの論争を『正義とクズのパラドックス』と名付け、その波紋は子供から大人まで、幅広い層を巻き込んでいった。
(そうじゃった……。あのゲームはただの冒険物語かと思わせておいて、最後はあんな救いのないエンディングになるとは……。ルールを破れば必ずペナルティが待っている――わしはあの時、それを身をもって学んだものじゃ)
権蔵はゲームの記憶を思い返しながら、目の前の状況に意識を戻した。
グレイとジュリアンの言い争いは、まだ収まる気配を見せない。
(まあ、思い出したところで何も変わらんのう。結局、待つしかないわけじゃが……)
そう考えていると、グレイがジュリアンの胸ぐらを掴み、人目のない場所へと消えていった。
権蔵はため息をつきながら、その様子を見送るのだった。
残されたのは権蔵とカイトの二人。
カイトは権蔵の足元でゴロゴロと喉を鳴らし、甘えるように頬をすり寄せてくる。
その無邪気な仕草を見て、権蔵は突拍子もない提案を思いついた。
「なあ、カイトよ。待ってる間も退屈じゃろう。一つ、エッチなことでもして時間を潰すというのはどうかのう?」
権蔵の提案に、カイトはぱちくりと大きな瞳を瞬かせて彼の顔を見上げた。
いつもの無邪気な笑顔が崩れ、頬がほんのりと赤みを帯びる。
「うん……ご主人さまがそう言うなら……ぼくも……エッチなこと、したいかも……♡」
カイトは、照れくさそうに小さな声で答えた。
甘く、震えるようなその声に、権蔵は思わずニヤリと笑みを浮かべる。
「げへへへ。おぬし、かわいいのう! よし、それなら決まりじゃ!」
豪快な笑い声を上げながら、権蔵はカイトを膝の上に抱え込むようにして、がっしりと座らせた。
「ええ~!? ご主人さま、まさかここでやるの!? みんなに見られちゃうよ……」
カイトは焦ったように辺りを見渡し、耳まで真っ赤に染めながらうろたえる。
周りには、検問待ちの旅人たちや商人たちが列をなしており、彼らの視線がちらりちらりと権蔵たちに向けられている。
何が起きているのかと訝しむ者もいれば、嫌な予感にそわそわし始める者もいた。
しかし、権蔵は周囲など気にする様子もなく、堂々とした態度で楽しげに笑みを浮かべ続けていた。
「気にするな、カイト。わしらは勇者とその仲間で世界を救う者なんじゃぞ! 堂々としておれば、誰も文句は言えんわい!」
その自信に満ちた声が、空気を震わせるように響く。
カイトはさらに恥ずかしそうに俯き、ますます頬を赤らめていった。
権蔵の手がカイトの体を這い始める。
その手の感触に、カイトの体が熱くなっていく。
「あっ……ご主人さまぁ……♡ やっぱり恥ずかしいです……♡」
まだ二次性徴も迎えていない少年の、鈴が鳴るような甘いソプラノボイスが口から漏れる。
周囲の人々の視線を感じながら、カイトの体は小刻みに震えた。
「大丈夫じゃ、カイト。すべてをわしに委ねるんじゃ」
「はい……ご主人さま、ぼくを可愛がってください……♡」
カイトは小さく頷き、権蔵の腕の中に身を委ねる。
周囲の騒めく視線を感じながら、カイトの体は徐々に熱を帯びていく。
二人が馬車の上で行為を始めると、周囲の人々は驚愕の目で見つめた。
思わず息を呑む者、目を見開く者、耳を疑う者――様々な反応がその場に巻き起こる。
「な、なにをやってるんです!? あの人たち……」
「おい、誰か衛兵を呼んでこい! ここに変態がいるぞ!」
旅人や商人たちは騒ぎ始め、周囲には戸惑いと不安が広がっていく。
だが、周囲の困惑した視線や戸惑いの声など、権蔵にはまるで届いていなかった。
むしろ、彼はその混乱を楽しんでいるかのように、高らかに笑い声を上げ、目の前のカイトを力強く引き寄せた。
「ぐへへへ! おぬしら、よーく見ておけ! これが勇者と仲間が繰り広げる、エッチな夢物語じゃ!」
権蔵は腰を激しく上下させ、幼いカイトを相手に濃厚なまぐわいを楽しみ続けていた。
馬車の上は、まる二人だけの特別な空間でセックス遊技場だった。
周囲のざわめきや驚きの声は、もう何の意味も持たない。
「あんあん!♡ ご主人さま、気持ちいいれす!♡」
カイトの身体は、権蔵の力強い動きに反応し、悩ましげな声を漏らしながらも野生の獣のごとくもだえ続けた。
権蔵はその姿をますます楽しみ、笑いながらさらに強く押し倒していく。
周囲に広がる音は、のどかな関所の雰囲気とはまるで対照的だった。
カイトの声、そして激しく水が跳ねる音と、肉と肉がぶつかり合う鈍い音が、静寂を引き裂くように響き渡り、関所の商人たちや通行人たちはその光景に混乱と戸惑いを隠せなかった。
「うぅ……ご主人さまぁ……♡ ぼく……もうイきそうですぅ……♡」
カイトの切なげな声が、激しさを増す音の中でひときわ際立ち、周囲の人々にもはっきり届く。
「おお、そうか! よし、一緒にイクぞ!」
権蔵は嬉しそうに笑いながら、カイトをさらに強く抱き寄せた。
カイトの幼い身体では受け止めることの出来ないほどの衝撃と快楽が、その華奢な体に容赦なく襲いかかる。
関所の中はすっかり騒然となり、見守る人々の視線が混乱と驚愕で交差する中、権蔵はそんなことにはお構いなしに、馬車の上での濃厚なオス同士の「交尾」を続けていた。
そして――
「ああ、イクぅ!♡ ご主人さまぁ……ぼくもうダメぇ……!♡」
カイトの一際高いわななき声が馬車の上から響き渡り、その瞬間、カイトの身体はぐったりと権蔵に倒れ込んだ。
疲労と満足の入り混じった表情を浮かべたまま、カイトは完全に力を失い、権蔵のでっぷりとした体に身を預ける。
その瞬間、観客たちは誰もが悟った。彼ら二人だけの激しい「交尾」が、ついに幕を閉じたことを――。
白昼の馬車の上で繰り広げられた二人の”性なる戦い”の終幕に、野次馬たちは呆然と立ち尽くす。
「げへへっ! カイト、最高じゃったぞ!」
権蔵は満足げに笑うと、汗まみれになったカイトの頭を撫で回し、優しく抱きしめてやる。
カイトもまた甘えるように頬を擦り寄せながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「おい! そこの二人、何をやっているんだ!」
突然の怒号に、権蔵は呆れたように顔を上げると、肩をすくめて平然と答えた。
「あ、何をやっているかじゃて? 見りゃわかるじゃろ。ただのプロレスごっこじゃよ」
その言葉に、番兵たちはさらに眉を吊り上げ、顔を赤らめながら声を荒げた。
「ここは王都前の関所だぞ! 貴様らのような不届きものが、そんな不埒な真似をしていい場所ではない!」
「おいおい、そんな堅苦しいこと言うなって。ちょっとした暇つぶしじゃ。プロレスは立派なスポーツなんじゃぞ」
権蔵は相変わらず飄々とした態度で応じ、あくびをしながら肩をすくめて見せた。
「この露出狂が……! おい、お前たち! こいつらをひっ捕らえろ!」
怒りが爆発した兵士たちは、槍を構えると、そのまま突撃してくる。
足音と共に地面が揺れ、番兵たちの怒声が響き渡る中、権蔵は微笑を浮かべたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「ほう、こりゃあちょうどええわい。わしはおぬしらみたいな愚かで無能な番兵どもが大嫌いでな。軽い運動にはもってこいの相手じゃ」
権蔵はカイトをひょいと抱きかかえ、対面で抱っこしたまま軽やかに構える。
「わ、わ……ご、ご主人さま!?」
カイトは驚きの声を上げ、慌てて権蔵の首に腕を巻き付けた。
「ぐふふ、振り落とされるなよ、カイト!」
権蔵は愉快そうに笑いながら、そのまま兵士たちに向かって猛然と駆け出した。
「にゃああああっ!? ご、ごしゅじんさまぁぁぁ!!」
カイトは目をぎゅっと閉じ、必死に権蔵にしがみつく。
その瞬間、権蔵は大きくジャンプし、まるで重力など無視するかのように空中へと舞い上がった。
「な、なんだこの跳躍力は!?」
兵士たちが驚愕の声を上げる中、フルチンの権蔵は空から拳を振り下ろした。
「うりゃーっ!」
どごーん!!
地面に拳が叩きつけられた瞬間、轟音と共に衝撃波が四方八方に広がり、番兵たちは砂埃と共に宙を舞った。
「うぎゃあああああっ!?」
無力に飛ばされた兵士たちが次々と地面へと叩きつけられ、関所は一瞬にして混沌の渦に飲み込まれた。
立ち昇る砂煙が、まるで戦場のような光景を作り出す。
「ふむ、これでちょっとは気が晴れたかの」
権蔵は満足げに頷きながら、地面に転がる兵士たちを見下ろした。
周囲には呻き声だけが虚しく響いている。
「ご、ごしゅじんさま……す、すごすぎですぅ……」
カイトは権蔵の背中にしがみついたまま、目をぐるぐる回しながら震える声を漏らす。
「げへへ、わくわくしたじゃろ? 次はもっと高く飛ぶからな!」
権蔵の豪快な笑い声が砂塵の中に響き渡る中、一人の兵士が震える足で立ち上がった。
隊長らしき男は、顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。
「な、何者だ貴様ら! まさか魔王の手先か!?」
その声は怒りと恐怖が入り混じり、微かに震えていた。
「くそっ、なんでこんなところに……だが我が家は代々、王国に忠誠を尽くしてきた名門なのだ! ここで退いては家名に泥を塗る!」
隊長は震える手でロングソードを引き抜き、覚悟を決めたように権蔵へ突進する。
その顔には恐怖と決意が混ざり合っていたが、権蔵にとってはただの蟷螂の斧に過ぎなかった。
「ふん、そんな玩具でわしに勝てると思うてか?」
権蔵は冷笑を浮かべながら、まるで子供の手からおもちゃを取り上げるように、素早く兵士の剣をはじき飛ばした。
そして足をかけて相手のバランスを崩し、軽々と足首を掴んで放り投げる。
どごーん!!
「ぎゃあああああああ!!」
悲鳴が響き渡る中、隊長は壁に激突して崩れ落ちた。
権蔵は勝ち誇ったように胸を張り、周囲に向けて堂々と宣言する。
「ふん、思い知ったか! わしの力を侮るなんざ百万年早いわ! このわしは、この世界最強の男、権蔵さまだぞ。逆らえばどうなるか、よう分かったか?」
その威圧的な宣言に、検問所の列に並んでいた旅人や商人、冒険者たちの顔が青ざめていく。
彼らの目には、権蔵の姿が人間離れした怪物のように映っていた。
三百人ほどの群衆は、先ほどまでの活気が嘘のように、次々と恐怖に支配されていく。
「ひゃあああっ! 裸の怪物だ!」
「誰か助けてくれえぇ!!」
「ひいいいいっ! 死にたくない!」
人々の悲鳴が四方八方から響き渡り、広場は瞬く間に混沌の渦に飲み込まれた。
転んで地面に這いつくばる者、恐怖で泣きわめく者、右往左往する群衆の姿が入り乱れる。
その混乱の中心で、権蔵は豪快な声を轟かせた。
「おい、貴様ら! わしを誰だと思っておるんじゃ!? この世界最強の勇者――山賊の王、権蔵さまの名を知らぬとは、命が惜しくないのかのう!」
その声が広場に響き渡った瞬間、誰かが恐怖に震える声を上げた。
「ひ、ひいっ! あの男は……『山賊勇者』権蔵! 伝説の無法者だ!」
その言葉が引き金となり, パニックは一気に広がった。
「『山賊勇者』だと!? 勇者として召喚されたはずなのに、盗賊団を率いて暴行、強盗、誘拐、殺人……ありとあらゆる悪事を働き、この国を恐怖のどん底に叩き落とした怪物が……魔王よりも恐ろしい奴がここに現れるなんて……もう俺たちは終わりだ……!」
その名が叫ばれるたび、人々の恐怖はさらに膨れ上がっていく。
腰を抜かして地面に倒れ込む者、失禁する者まで現れ、広場は絶望と混沌の坩堝と化していた。
権蔵はそんな騒ぎを高みから見下ろし、満足げに頷く。
その顔には、自分の悪名が遠くまで轟いていることへの誇らしげな笑みが浮かんでいた。
「げへへ……わしの名を聞いただけでこの有様か。さすがじゃな。これぞ真の勇者の威光というものよ!」
そんな権蔵の前に、数人の商人たちが震えながら這いつくばった。
恐怖に歪んだ顔で、小さな袋から金貨を差し出す。
「ど、どうか命だけは……これで今日のところは……!」
商人たちは地面に額をすりつけ、必死に命乞いをする。
その哀れな姿に、権蔵の笑みは更に深まった。
「ほう、これは良い心がけじゃ。わしも機嫌がよいし、今日のところは見逃してやろう」
権蔵は差し出された金袋を手に取り、にやりと笑って商人たちを見下ろした。
ギルダ金貨の心地よい音を確かめるように袋を揺らし、満足げに懐へしまう。
「よし、おぬしらみんな、通行料を払え! 商人は10ギルダ金貨、冒険者は30ギルダ銀貨、一般の旅人は5ギルダ銀貨じゃ。さっさと支払わんと先には進ませんぞ!」
権蔵の声が響き渡ると、検問所は彼の私設関所と化していった。
恐れおののく人々は、震える手で金を差し出す。
「げへへへ……これだけあれば、王都で贅沢三昧じゃな。美味い酒に美少年、思う存分楽しめるってもんよ!」
権蔵は大袋を掲げ、金貨銀貨の音を楽しむように軽く揺らした。
その満足げな笑みには、悪戯っぽい色が混ざっている。
「すごいです、ご主人さま! 一瞬でこんなにたくさんの金を稼ぐなんて! でも、王さまにバレたら怒られちゃいませんか?」
カイトが心配そうに首を傾げると、権蔵は豪快な笑みを浮かべた。
「なあに心配することはない。わしほどの正義の勇者が、ちょっとした商売をしたところで誰も文句は言えんよ。それに、万が一王さまが怒り出したところで――」
権蔵は拳を握り締め、不敵な笑みを浮かべる。
「わしの無敵の力があれば、どうとでもなるわい!」
「さすがご主人さまです! ぼく、一生ついていきます!」
「ほほう、カイトは本当にかわいいことを言うのう。よし、今日はお前にたっぷりと美味しいものを食べさせてやるぞ。その上で……おまけにわしの“デカマラ”もな、ぐへへへへへ!」
権蔵が邪な妄想に浸り、笑い声を漏らしていると、遠くからグレイとジュリアンが戻ってきた。
ジュリアンは鼻から血を流し、よろめきながら歩いている。
その姿は先ほどまでの毅然とした態度が嘘のようだった。
一方のグレイは、何事もなかったかのように涼しい顔で歩いてくる。
その口元には微かな勝ち誇りの笑みが浮かんでいた。
ジュリアンは検問所の惨状を目にするなり、血の気が引いた顔でさらに青ざめ、権蔵に向かって震える声で詰め寄った。
「き、貴様! これは一体何をしたのだ!? 衛兵たちになにを!?」
鼻血を拭いながら必死に威厳を保とうとするジュリアン。
その目には怒りと困惑が渦巻き、握り締めた拳が小刻みに震えている。
権蔵はその様子を冷ややかに眺め、軽く肩をすくめた。
「なんじゃ、見ればわかるじゃろ? ちょいとしたプロレスを楽しんでいただけじゃ。気絶しとるだけじゃし、大袈裟なことを言うでない」
「何が"気絶"だ、このバカ者! 見てみろ、衛兵たちは血まみれではないか! どう見てもただの気絶では済まないだろう!」
ジュリアンは声を荒げながら衛兵たちを指差す。
しかし権蔵は、その怒号にも動じることなく不敵な笑みを浮かべたままだ。
ジュリアンは慌てて倒れた衛兵たちの元へ駆け寄り、膝をつく。
額の汗を拭いながら、必死に彼らの命を確かめていく。
「はあ……よかった。みんな息はある。怪我はひどいが、命に別状はない……」
ジュリアンは安堵の表情を浮かべながら、手際よく衛兵たちの手当てを始める。
「ふん、わしを怒らせたのが運の尽きじゃな。これでこやつらも門番の仕事というものがどういうものか思い知ったじゃろうて」
権蔵は満足げに腕を組み、倒れた衛兵たちを見下ろす。
その時、グレイがそっと側に寄り、小声で囁いた。
「権蔵様、たっぷりと稼げたようで、なによりです」
権蔵は不敵な笑みを浮かべ、軽く頷く。
「まあな。わしが本気を出せばこんなものよ。目的は達成したし、次はあの可愛い王様を攻略じゃな。げへへへ」
「さすがは権蔵さま。では、そろそろ王都へ向かいましょうか。美味しい料理も待っていますよ」
グレイの言葉に、権蔵は懐の金袋を軽く叩きながら満足げに笑った。
「そうだな。腹も減ったし、王都の美味い飯で祝勝会といくか」
「わーい! ご馳走だー! ごはん、ごはん♪」
カイトが無邪気に飛び跳ねながら喜びの声を上げる。
その天真爛漫な様子に、先ほどまでの緊張感が嘘のように溶けていく。
「こら、カイト。権蔵さまの前でそのような態度は慎め。我々は勇者の従者として、常に主を立てて行動するもので――」
グレイの諭すような言葉を遮るように、突如として響き渡る音。
ぐぅぅぅ……
その腹の音は、まるで小さな雷のように周囲にこだまし、場の空気が一瞬凍りついた。
音の主であるグレイの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「おや? 今のはグレイの腹の音か? げへへ、しょうのないやつじゃ」
権蔵は思わず笑みを浮かべ、困惑するグレイを見やる。
「い、いえ、その……これは……」
グレイは慌てて腹に手を当てるが、すでに手遅れだった。
顔を真っ赤に染めて俯く彼の姿に、カイトは無邪気な笑顔を向ける。
「あはは! だんちょーのお腹、ぐうぐう鳴ってる! おもしろーい!」
その純真な言葉に、グレイはますます深く俯いてしまった。
「よしよし、気にするでない。金もたんまり稼いだことじゃし、王都に着いたらグレイもカイトも好きなだけ食ってええぞ。今夜は大盤振る舞いじゃ!」
権蔵の豪快な言葉に、グレイはぱっと顔を上げた。
先ほどまでの恥ずかしさは消え失せ、まるで子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます、権蔵さま。ずっとお側にいさせてください♡」
グレイは素早く権蔵の手を取り、指を絡めた。
その仕草には、どこか甘えるような色が滲んでいる。
「あ、ずるい! ぼくもご主人様と手を繋ぎたいです!」
カイトは駆け寄り、権蔵のもう片方の手をぎゅっと握る。
その瞳は無邪気な喜びに輝いていた。
「おいおい、両手とも取られてはたずなも握れないではないか。まあ、たまにはこういうのも悪くないか」
権蔵は照れくさそうに笑い、二人の少年と手を繋いだまま前方を見据えた。
馬車の中に、一瞬の静かな温かさが流れる。
まるで固い絆で結ばれた冒険者たちのような、心地よい空気が漂っていた。
「よし、忘れ物はないか? しっかり確認するんじゃぞ。それじゃあ、出発じゃ!」
権蔵の豪快な声が馬車内に響き渡り、馬車はゆっくりと動き出した。
グレイとカイトは権蔵の手を離さず、嬉しそうに揺れる馬車に身を任せ、再び旅路を進んでいく。
◆
一方その頃、ジュリアンは権蔵が殴り倒した兵士たちの応急処置を終え、ようやく一息つく。
額の汗を袖で拭いながら、胸を撫で下ろした。
「ふう、なんとか応急処置ができた……。だが、あの偽勇者め。何度忠告しても聞く耳を持たない。あいつから目を離すと、すぐこれだ……」
ジュリアンの眉間に深い皺が刻まれる。
心の中で権蔵への不信感が静かに、だが確実に膨らんでいく。
「このまま放っておけば、次はもっとひどい事態を引き起こすかもしれない。やはり、もっと厳しく監視せねば……」
治療を終えた兵士たちに視線を送り、彼らの回復を祈りながら、ジュリアンは馬車の方へ目を向けた。
しかし、その瞬間――。
「……ん? 待てよ」
目をこすり、もう一度確認する。
しかし、そこには先ほどまであったはずの権蔵の馬車も、権蔵たちの姿も、跡形もない。
まるで幻のように消え去っていた。
「は、はあっ!? どこに消えたんだ!?」
慌てて辺りを見回すが、どこにも彼らの気配はない。
馬車ごと霧散したかのような状況に、ジュリアンは一瞬言葉を失う。
「ま、まさか……置き去りにされたというのか? くそっ、いくらなんでもこれは……!」
ショックで呆然と立ち尽くすジュリアン。
まさか仲間に見捨てられるとは想像だにしなかった。
しかし、そんな感傷に浸っている暇はない。
彼は首を振り、必死に気持ちを立て直した。
「まずい……このまま放置するわけにはいかない。あの男を野放しにすれば、次はもっと大きな騒動を引き起こすだろう。早く見つけ出して、厳重に監視せねば……!」
冷静さを取り戻したジュリアンは、素早く荷物を確認すると、関所を飛び出した。
脳裏には、逃げた権蔵たちを追跡するという強い使命感が渦巻いている。
「待っていろ、権蔵! 今度こそ、お前を正しい道に導いてみせるからな!」
決意を胸に、ジュリアンは全速力で駆け出す。
その先には想像以上の困難が待ち受けているとも知らずに。 彼の視線の先には果てしない道が広がっていた。