女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
オレたちの予想は当たり、麓の村では魚や蛇のような顔の黒い翼竜が暴れまわっていた。
鳴き声の主はバハムート(漆黒龍)だった。
らんまとこの異世界での旅を開始してからの最初の超強敵であるバハムートが村を燃やし尽くしはじめていた。逃げまどう村人たち。
「らんま……どうする、カイさんたちを呼ぶか」
「さすがに相手がバハムートで、なおかつ、村もこの状況じゃ呼ぶしかねーな……」
オレは雑嚢から山笛を吹いた。ピーと高音が山中に鳴り響いた。この山笛は特殊な魔力を放ち、遠くにいる賢者カイと魔法剣士パラムの二人に届くはずとなっていた。先代の勇者のパーティでもあるカイとパラムから、今後はなにかあれば、これを吹いてくれれば、転移魔法でかけつけると渡してもらったマジックアイテムだった。
しかし、すぐには二人の姿が現れることはない。
「仕方ねー! ひとまずは、オレたちで食い止めるぞ、達也」
「おぅ」
―パラディアム!
らんまの髪飾りに触れて、オレは勇者の力を呼び覚ました。この山籠りにはオレも聖剣エクスカリバーと、らんまはロンギヌスの槍を持ってきているので準備は万端だ。バハムートを討伐する事もできるはずだ。
「みなさん、ここはオレたちに任せて、避難を!」
オレは逃げる村人たちを必死に避難させようとしたが、村を簡単には焼失させないと、火消しを行なっている者は逃げようとはしなかった。
「くっ……バハムートを別の場所に移動させるしかねえな」
漆黒龍バハムートの背中から小さな影が現れた。
「わーっはははっは!ハッピー参上じゃ」
八宝斎だ。やっぱり、あのとき、楽京斎と仕留めたと思っていたが、生きてやがったな。まさに不死身の妖怪スケベじじぃ。矮躯である八宝斎がバハムートの背に乗っている。
しかも、その手には紫の宝玉を持っている。
「八宝斎!」
「おい、じじぃ、バハムートを使ってなにしてやがる!」
「はっははっは!こうやって村を焼き尽くして、人々に恐怖を与えれば、ゼノリスが最高の下着コレクションをワシにくれると約束してくれたんじゃ♪」
「ゼノリスだぁ?」
おそらく、手始めにその威力を確かめるべく、大きな街ではなく、この村を選んだのであろう。しかも八宝斎までも仲間にしているとは周到なやつめ。
「くそじじぃめ……ゼノリスなんかの仲間に成り下がりやがって」
そのとき、転移ゲートが村の中央に開かれた。そこから現れたのは魔法剣士のパラムと賢者カイ。
転移ゲートから出てきた二人はすぐに状況を理解した。
「なるほど……これはひどい。それにバハムート」
「ふっふふふ、おひさ♪らんまちゃんに達也くんって、呑気に再会を喜んでいる場合じゃないわね」
パラムはカイと顔を見合わせ、頷くと二人は冷気と吹雪の呪文を詠唱しはじめた。
「ディコル・ブリザ・イスア・ザリブ・ディコラーレ!氷結吹雪呪文・ブリザードシグナル!」
二人の腕から冷気と吹雪が放たれ、家屋たちに放たれた火を消火しはじめた。
「カイさん、パラさん。すいません!」
「冷気の呪文を使えるものは残って、火消しを手伝ってください」
残った村民たちに的確に指示をだし、消化活動をはじめるパラム。
「ほっほっほほ、これは美人金髪エルフさんじゃ、ワシと遊ぼ~」
鼻の下を伸ばしてパラムに近づく八宝斎。それを制したのはらんまの槍だった。
「おい、じじぃ。てめえとバハムートの相手はこっちだ、今日こそ、決着つけてやる。勝負しろ」
「ふっふふふ、よかろう。相手してくれようぞ。らんまと達也を倒した後は、この賢者と美人金髪エルフさんを血祭りにあげてくれるわ」
らんまがうまく、八宝斎を挑発してくれたおかげで、オレとらんまを追いかけるように八宝斎を乗せたバハムートを見晴らしの良いフィールドまで移動させる事に成功した。
―グギャォオオオン!
まさに破壊の漆黒龍バハムートだ。オレたちと戦いたくてウズウズしているらしい。
「よし、勝負だ、八宝斎!バハムート!」
オレとらんまがそれぞれ、剣と槍でバハムートに向かっていく。
その場を震わせる咆哮を上げ、バハムートがぐわっと口を開けた。すべてを焼き尽くすバハムートのブレス。
バハムートがブレスを解き放った。
「どぁ、熱ぃ!」
「らんま、バハムートはモンスターの中でも最高クラスの強さだ。気をつけろ」
さらにはバハムートに乗っている八宝斎もキセルを構え、自己の技である八宝大華輪という花火爆弾を投げつけてくる。
「わっはっははは!無差別格闘・八宝大華輪じゃ、喰らえ喰らえーっ」
まるでアクションゲームのように無数に飛んでくる八宝大華輪とバハムートのブレスを避けるオレとらんま。
「じじぃぃ、てめえぇ!」
「ワシと、このバハちゃんのコンビは最強じゃ。そーれ、力を与えてやろう」
八宝斎がバハムートの脳天に紫の宝玉を吸い込ませると、バハムートの眼が紫色に光り、さらに巨大化した。まさにラスボスの風格を持つ最強バハムートか。
「へっ……!じじぃ、今のが裏目に出たぜ」
らんまは槍をポールの代わりにして、棒高跳びの要領でハイジャンプする。噴き荒れる業火をかわし、バハムートの背中に飛び乗った。
八宝斎に向けて、槍を構えるらんま。
「ふっふふふ、ビキニアーマーらんまちゃん。ワシと一騎打ちのつもりか、所詮は勇者の腰巾着。この大魔導士八宝斎の相手になるかのぅ?」
「なんだとぉ?」
オレはバハムートの相手をしながら、らんまにエールを送る。
「らんま、八宝斎の手に乗るな、冷静に戦うんだ」
「わかってるって、でもな、じじぃ!オレは毎日、毎日、達也と特訓してきてんだ。簡単にはさせねえぜ。無差別格闘早乙女槍殺法・火中天津甘栗突きぃ!」
バハムートの上という不慣れな場所でもバランスを保ちながら、八宝斎に多段攻撃を放っていくらんま。
それを八宝斎はキセルで受け流していく。
カキン!カキン!カキィインッ!
「まぁまぁ、手数はあがっているようだが、ワシの敵ではない、それ。ファイアボールじゃ!」
八宝斎はキセルでらんまの槍を受け止めた後にファイアボールでらんまの足元を狙った。
「くぅっ、どわっ」
足元を打たれた結果、らんまはその場で腰つけてしまう。
「所詮は女の身、いくらスピードが上がろうとも、パワーのない突きでは倒せん」
「くぅ……なんだと」
「悔しかったら、男の姿になってみぃ」
「んな事、言われたって……」
そう。この世界に来たときにらんまは女の姿で転移してきたために、湯に触れても男に戻る事はなく、もう1年以上、女の姿のままに過ごしていた。
しかし、良牙は子豚の姿と人間の姿を元の世界同様に変身できたようで、この世界のどこかにも呪溺泉の変身体質を復活させる泉があるようだった。
「ふっふっふふ、はは。ワシはゼノリスから、こんなものももらったんじゃ」
八宝斎が懐から取り出したのは元の世界でよく見た、どこにでもあるようなヤカンだった。ほのかにヤカンからは湯気が湧いている。
「ヤカン?!なんだ、それ。じじぃ」
「このヤカンの湯はすなわち男溺泉と同じ効果を持つ。これをかぶれば、らんまちゃんも男の姿に、また戻れるという事じゃ。もちろん、女のらんまちゃんは恋しいが、男の乱馬を倒してこそじゃからな。ほら、はやく被らんかい」
らんまがオレのほうへと視線を向けた。なにかを気にしているようだ。この世界ではじめて男の姿に戻るとオレに許しを請っているのだろうか。
「達也……オレ、どうすれば……」
ここは素直に、男に戻ってほしくない!と叫ぶべきなのだろうか。でも、オレとしてはらんまの意思を尊重したい。そうするべきだと、考えていた。
八宝斎からヤカンを受け取ったらんまは、地上にいるオレに訴えかけている。
オレは素直になにも隠さずに、すべての想いを言葉にして、バハムートの上にいるらんまに叫んだ。
「らんまぁあ! そりゃ、正直、オレは男に戻ってほしくない。でも、らんまの人生だし、らんまの身体だ。らんまが男になっても、オレの気持ちは変わらない。愛するらんまがどんな姿だろうと愛するって決めたんだ。そんなヤワじゃないんだ、オレの愛は!」
元の世界でも、らんまの変身体質を悪くいう同級生男子はたくさんいた。いくら、あんなに可愛くても半分は男だからなとか、あんな変身男女を好きなやつの気持ちが知れないとか。
でも、オレは違う。らんまはらんまなんだ。どんな姿をしていようとらんまだから、好きなんだ。
「……達也、わかった。オレの答えは決まったぜ……」
らんまがヤカンを頭の上へと持っていった。