女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
そうらんまを罵りながら歩いていて、オレはらんまを押して建物の隙間に入り込んだ。
「何だよ?」
「いいから、こっち」
建物の裏手に隠れて、頭だけ少し覗かせてさっきまで歩いていた通りを見た。馬に乗った兵隊が二人、ゆっくりと通り過ぎていく。
忘れていたわけじゃないけど、オレたちは軍に護送されている途中に逃げ出したのだ。オレたちは犯罪者じゃないけど、軍隊ではきっと探し回っているに違いない。
「探してるのかな、オレたちを……」
らんまが小声で言う。
「そう……思った方が良いだろうな」
考えてみたら、この村は元いた街からそんなに離れてはいなかった。たぶん砦があった西の岩山より近いかも知れない。暢気に温泉につかって滞在していい場所じゃなかった。
ぜんぜん平和じゃなかった、少なくともオレたちには。
「何もかも都合良くはいかないってことだ」
「逃げる? このまま」
らんまが言って、オレは頷いた。身の回りの物は全部持っている、もともと余分な物なんか持っていない。
建物の裏から裏を伝って、街道に繋がる小径に出た。
「うわ、だめだだめだ!」
小径には兵士が立っていて、通る人間を監視している。きっと男女二人の冒険者を探しているのだ。
「川の、支流の方。山に行こう」
たぶん道という道は全部監視されているだろう。山越えで脱出するしかなさそうだ。
「こんなとき。男に、戻れないの、不便だな」
道もない山の中を、喘ぎながららんまが言う。
「ソレか……オレが、女に、なるとか」
「
「何だ? ニャオ?」
「溺れたら、鳥に、変身、できるの」
オレはちょっと考えた。
「なんで、鳥が、溺れるん、だ?」
「言って、みた、だけ」
さすがのらんまも、道もない急斜面を登るのは辛そうだった。
「すこし……休もう、か」
大きな樹によりかかって休憩、だが水も食料もない。水の皮袋は持っているけど、水を汲んでいるようなヒマがなかったのだ。ずっと下の方には、つい数時間前まで退屈していた温泉郷が小さく見える。
「これから、どーする?」
らんまが言った。
考えたけど、進むか戻るかしか選択肢はない。兵隊がいなくなるまで待って村に戻るか、このまま登り続けて山の向こう側に出るか。
「戻れると思うか?」
聞くと、らんまが首を振った。
「無理だろ。兵隊がいつまでいるのかわからないし。きっと『美女と男の二人連れを見たら知らせろ』って、言って回ってるだろうし」
「美女?」
「湯太郎は認めただろ?」
らんまが革紐で首に提げた小瓶を振って見せる。その中では小さなアーヴァンクがくるくる泳ぎ回っている。
「湯太郎って……名前か?」
「勝手に付けたんだけどな」
美女を巡って不毛な言い合いをする気はないので、オレは樹に隠れてまだ見えない山の頂を見上げた。
「また、野宿だな」
水も食料もない、発見される危険があるから火も焚けない。辛い一夜になりそうだった。
「暗くなるまで、もう少し上に昇ろうか」
少し登ったところで切り立った岩に行く手を遮られて、山を巻くように進むしかなくなった。蔓草を切り払って歩いて行くとやがて水音が聞こえてきた。
「滝……お湯の滝だぞ」
山腹に掘られた穴、明らかに人が掘ったものだ。そこから湯気と一緒に勢いよく熱水が流れ出している。これが温泉郷の源泉なのだろうか。
「温泉、わざわざ掘ったのかな?」
らんまがつぶやいた。
「あ……」
オレは少し離れたところに崩れそうな小屋があることに気がついた。熱い小川をまたぎ越えて行ってみると、そこは簡単なさしかけ小屋だ。
「何かの鉱山で、温泉が出て掘れなくなったみたいだ」
大きな背負いカゴには、砕かれた岩が半分ほど入っている。草に埋もれかけている様子からすると、遺棄されてもう何年も経っているようだ。よく見れば山の麓からの道らしい痕跡もある。
「ここで、夜明かしする?」
「探しに来るんじゃないか?」
らんまが山道の跡を覗きにながら不安そうに言う。
「もう暗くなるから、これからは来ないだろ」
気温も下がってきている、もしこれで雨でも降り出したら最悪中の最悪条件になる。
「ま、仕方ないか」
飲めないことはなさそうなので、温泉の湯を皮袋に詰めた。しばらくは湯たんぽのようになる。屋根の下でらんまと体を寄せ合う。
「そのビキニアーマーってさ、何の効果があるんだ?」
「プレーヤーが。キャラクターを操っていて、楽しいから?」
「自分で、楽しい?」
「まあまあ、かな……」
プレイヤーは冒険者のはずだ。なのにここでは逃げ回っている、ゲームシナリオに問題があるのだ。らんまと一緒にいられること以外は、あまり楽しくない。
「この世界に辿り着いた草原に、戻ってみようか?」
らんまがちょっと顔を上げてオレを見た。
「どこだったか、覚えてるのか?」
「あの……らんまがそのビキニアーマーになった街を起点にすれば、だいたいわかる」
「達也は、帰りたい?」
「帰る方法があるなら、今のうちに確かめておきたい」
「達也」
ふいにらんまの声が小さくなって、緊張を帯びた。
「囲まれてるよ、いつの間にか」
「え?」
しばらくして、オレにもわかった。小さな足音が近づいてくる。
「らんま……動くなよ、ドワーフだ」