女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
『達也……聞こえるか、私だ……カイだ。パラムが倒れた今、私の最大奥義を剣に宿せるのは達也しかいない。今、アム姫が詠唱をしている。その最大魔力をオーラソードに宿し、必ずやゼノリスを打ち取ってくれ』
オレが振り返るとアムが両手を掲げて、詠唱を開始していた。
「ディアナ……スカイ……ボルティカ……サンドラ……ディアナ……スカイ……ボルティカ……サンドラ……いけます!」
アムが呪文を唱え終えると地底魔岩城の天井が突き破り、空が見えてきた。何十メートル先なのか、よくわからないが、青空が一瞬、見えれば、すぐにそこに暗雲が集まってきた。
「達也さん、オーラソードを!」
「わ、わかった……」
オレはオーラソードを一本にし、それを暗雲に向けた。
「はっはははは、いいぞいいぞ、呪文はイメージが大切だ、これは楽しませてくれそうだ、さぁ、最大出力でかかってこい」
「ディアナ……スカイ……ボルティカ……サンドラ……ディアナ……スカイ……ボルティカ……サンドラ……ボルティカ……雷鳴撃呪文ライトニング・サンダーストーム!達也さん」
アムは詠唱を完了すると魔力が尽きたのか、その場で倒れた。
オレのオーラソードに高エネルギーの雷鳴が降り注いできた。試合会場でカイとパラムが放ったときよりも、数倍のエネルギーだ。これなら……。
「ゼノリス……! 喰らえぇえええーー雷鳴剣・極!」
「ほぉ。本日、最大のイメージと魔力とパワーだ。来い」
ゼノリスはオーラシールドを作り出して、オレは雷鳴を纏ったオーラソードで何度も、それを打ち付けていく。
「すごいエネルギーだな、さすがは勇者と賢者。そのような技は好きだぞ」
ゼノリスのオーラシールドに亀裂が走る。よし、これなら。
「これは少しまずいかもな、達也のオーラエネルギーとアムの最大魔力が作り出した剣だからな」
オレはゼノリスに何度も何度も力の限り、雷鳴ソードで打ち付けていった。シールドさえ、破れれば……。
「達也!!まずい、足元を見ろ」
らんまの声が聞こえた。オレの足元がゼノリスに螺旋のステップに誘われていた。
「し、しまった……」
「達也、オマエを仕留める技はこの技だと決めていたのだ。達也とらんまが何度も危機を救ってきたあの技でな」
「まずい、逃げろ、達也!」
「もう、遅い……飛龍昇天波ぁ!」
ゼノリスの拳がオレの闘気エネルギーと魔力をすべて、打ち返した。オレの身体が黒い竜巻に巻き込まれて、飛ばされていく。
飛ばされ、その後に落下してきたオレの身体が地面へと打ち付けられた。
「ぐはぁ…………」
身体中が痛い。
「どうだ、己の技の威力は……はっははは、未熟な勇者だ、自ら螺旋のステップを作るとは。愚か、愚か」
「く…………」
言葉が出ない。オレたちが負けたら、この世界はどうなる。こいつに支配されてしまうのか。
ゼノリスがうつ伏せに倒れたオレに寄ってくる。
「ジ・エンドだな、達也」
「やめろ!ゼノリス」
起き上がったらんまがボロボロの身体でオレとゼノリスの間に立ちはだかった。
「ほぉ、これが愛か。愛するものを守る、人間の言う綺麗な愛ってやつか?」
「らんま……」
「うるせぇ、さっきから、繁殖行動だ、なんだって。オレと達也のことを馬鹿にするのもいい加減にしろい」
「らんま、危ない……逃げろ」
「死ぬときは一緒だって言ったろ、達也」
ゼノリスが影のように暗く笑った。山羊仮面で見えない顔が確実に笑っている。
「ふふ、達也、私の仲間になれ、オマエなら、ゼノリス魔騎士団の団長にしてやってもいいぞ」
「な、なんだと……、そんなのなるわけないだろ」
「そーだ、そーだ、達也がオマエの子分になんか…………うっ!」
ゼノリスが指先をクイっと動かすとらんまに魔力の首輪が繋がれた。それが締まっていく。
「んぐ……んげっほ……ん、なんだこれ」
「ほらほら、はやく、答えを出さないと達也、オマエの大好きならんまの命はないぞ」
オレは迷う事なく、ゼノリスの要求を受け入れた。
「わ………わかった……」
「達也……オレの命なんて気にするな!ゼノリスをぶっ倒せよ」
「はははは、らんま。オマエより、この私のほうが達也のことをよくわかっているようだな」
「らんま……オレは、この世界がどうのってことよりもらんまのことが大事なんだよ」
「…………達也」
ゼノリスは開いていた指先を閉じた。
「死ね、らんま。達也の前で」
「らんまぁあああーーーー!!」
◆◇◆◇
オレはベッドの上で起きた。身体中が汗をかいている。
「ここは……」
オレが起きた場所は元の世界の『オレの部屋』だった。勉強机があって、本棚があって、TVがある6畳の部屋。ベッドの上で起きた。
元の世界だ。
部屋から出て、一階に降りていくと母親がウインナーと卵を炒めていた。父親が新聞を読んでいる。弟が地元中学校の制服を着ている。朝と夕方に仏壇にお経を唱える習慣のある、婆ちゃんのお経が和室から聞こえている。
「今日も学校でしょ、はやく着替えてきなさい」
オレはもう一度、自分の部屋に戻り、風林館高校の制服に着替え、朝飯を食べて、家を出た。
自転車で10分の最寄駅に停めて、電車の乗って学校へと向かう。
久しぶりに電柱や電線を眺めた。あっちの世界じゃ、そんなものはないから。
あれは、すべて夢だったんだろうか。オレは一晩で、1年以上の出来事を夢見ていたんだろうか。
電車を降りて、川沿いの道を歩く。川沿いのフェンス。ここは、らんまと一緒に帰ったときに、よくらんまが歩いた場所だ。オレもやってみようかと思ったけど、絶対に川に落ちるから、挑戦しなかったんだっけ。
学校について、席に座る。久しぶりの景色。つい1年前までは、毎日、同じ景色から1日がスタートしてたっていうのに、不思議だ。やっぱり夢を見てたのか。
らんまの席を見ると、まだ、来ていないようだった。天道あかねはすでに着席している。
時間になり、出席番号順に名前が呼ばれた。サイトウの名前が呼ばれ、次はらんまの苗字、サオトメだが。その名前は飛ばされ、サトウが呼ばれた。
オレは咄嗟に挙手して、先生に聞いた。
「先生! 今日、早乙女くんはお休みですか?」
「早乙女?そんな名前の生徒はうちのクラスにはいないはずだが」
みんなから、どうしたんだという顔をされて、オレは着席した。
天道あかねのほうを見たが、とくに変わった様子もなかった。
一時間目が終わり、オレは天道あかねのほうの席へと向かった。
「あの天道さん、今日、らんまはどうしたの?お休み?」
「さっきから、なに言ってるの?らんまって誰?」
「あ、早乙女らんまだよ、早乙女らんま。男だけどさ、水をかぶると女の子になっちゃうらんまだよ、天道さんの許嫁の」
「私の許嫁?なにそれ、誰が決めたの?」
「そ、それは、えっと、父親同士が」
「ははは、面白いこと言うわね。そんな許嫁いないわよ。それに水をかぶると女の子になっちゃう男って、達也くん、漫画読みすぎじゃない?そんな人いたら、もう、TVニュースで話題になってるわよ」
「そっか……わかった、ごめん、なんでもない!」
らんまがいない世界。どういう事だ、オレは元の世界に帰ってきたんだったら、らんまがいなくなるわけないじゃないか。元の世界で同じクラスだったわけだし。
まさか、いつのまにか、クラス変えが?
クラスの入り口を確認すると、ちゃんと1年F組と書かれていた。まさか、元の世界に戻ってきたけど、タイムリープしているとか? いや、でも、天道あかねの髪が短い。たしか、4月にオレも天道あかねも、この風林館高校に入学してきて、それから間もなくして、らんまも遅れて入学してきた。その後に、天道あかねの髪が短くなっているから。
むこうの世界には、一年以上いたはずだが、こっちでは、どれくらい経っていたんだろうか。
オレはここが元の世界なのか、それとも、異世界は夢の世界で、はじめから、そんなものはなかったのか。わからないまま、その日を過ごした。
学校が終わり、家についたオレは、らんまが写っている写真があれば、天道あかねや学校のみんながらんまのことを思い出すんじゃないかと思い、クラスの集合写真を勉強机の中から探し出した。
「あった……えっ……いない」
どこにもいない。記憶が曖昧だが、たしか、この日の乱馬は後列の真ん中で撮影されたはずだが、いない。そこがポッカリ空いているというよりも、「早乙女乱馬」という生徒がまったくいないクラスのようだった。
「そうだ……あとは、らんまの写真!」
オレはこっちの世界にいるときに、天道あかねの姉、なびきから、らんまの写真を購入していた。金持ちの久能先輩に張り合うのは金銭的に辛かったが、なびきが売っているらんまの写真は全部買っていた。その写真らは本棚のフォトアルバムに収納しているはずだった。
フォトアルバムはあり、写真はあるものの。そこにも、らんまの姿はなかった。虚しい空間だけが映された写真。
「くっそ、いったいどういう事なんだ。らんまが存在していないなんて……!」
それから、何日も過ごした。らんまのいない世界を。
何の展望もなくじじりと枯れていくように日々が過ぎてゆく。
寂寥感に苛まれながらも、家と学校を往復する日々。身体の真ん中にぽっかり穴が空いたみたいだ。オレは毎晩、寝る前にベッドの中でらんまのことを思い出して、オナニーした。らんまのことを忘れないようにオナニーした。
「はぁはぁあぁ……はぁ……はぁはぁ、らんま……らんま、どこにいるんだよ……うっ」
それでも、寂しい気持ちが満たされる事はなかった。
◆◇◆◇
それから1ヶ月以上、経ったある夜。
ふと、ラーメンが食べたくなって、家を抜け出した。オレは自転車で風林館高校近くのラーメン屋に行った。オレの大好きな『なりた屋』だ。
「そういえば、ここの話をらんまとアマゾネスの島から帰った後に話したよな」
そう、都合良くらんまが現れるなんて思っていない。だいたい、もう、1ヶ月以上、いろんな人に聞いたが、そんな人知らないというのだから。
当然、なりた屋の近くにも、らんまはいないし、店の中にもいなかった。
オレは入り口近くの食券売り場でネギラーメンのボタンを押す、太ってしまうとわかりながらも、ライスのボタンも押した。どうせならと、チャーシューもトッピングしてしまった。
席に座り、食券を差し出すと店員が油の量を聞いてきたので、いつものように『普通』と答えた。深夜0時を過ぎていて、平日の夜だったので客席はオレだけだった。
(これ、食べ終えたら……もう、らんまのことも異世界のことも考えるのやめよう。)
店員がオレのテーブルにライスを置き、ラーメンを出した。
オレは割り箸を割った後に、酢もたっぷり入れて、ニンニクもスープに溶かした。これがオレのスタイルだ。
ラーメンを食べ始める。やっぱり美味い、深夜のラーメンは美味い。悪魔の味だ。
そう、いつも。こうやって悩んだときには深夜のラーメンを食べて、気持ちをリセットしていた。オレの心の平穏を保つためのラーメンだ。
(でも、そうやって、らんまのことも、やっぱりいなかったって割り切れるのかな……。)
そのとき、もう一人の客が入ってきた。