女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
星明かりを頼りに、昼間来たルートをまた進んでいく。足元が見えないのでゆっくりとしか進めないのが苛立たしい。
もうすぐ運河への分岐というところでオレたちは足を止めた。前方を火がいくつも並んで進んで行くのだ。並ぶ火の正体は盗賊団のようだ。
「なんだ、あれ?」
「まさか……盗賊団がどこかを襲うんじゃ……」
オレたちは用心しながら進んでいく。やがてそれが馬車と、馬車の前後についた男たちが掲げる松明だとわかった。
「あ……」
馬車の荷台には二十人あまりの人間が、ロープで縛られて荷物のように乗せられている。何か声を上げた人が、荷台に立っている男に棒で殴られた。
「あれ……攫われた人たちかな? どうするんだろ?」
らんまがオレに顔を寄せて聞く。
「ありがちなのは、奴隷として売り飛ばすってやつ」
「マジかよ、この時代に……あ、世界が違うか」
盗賊団のアジト突入は中止だ、先にあの人たちを助けなくてはいけない。オレたちは松明の火を見失わない程度に距離を保って馬車を追った。
どれほど進んだろうか、いい加減に止まってほしいと思いはじめた時に馬車が停まってくれた。オレとらんまは足音を立てない程度の早足で進み、松明の明かりが届かない馬車の側面にとりついた。
馬車の下から覗き見ると、二人が道端で立ち小便をしているようだ。もう一人、松明を持った奴は馬車の先で立ち止まっている。
「らんま、やろう」
相手は3人と馭者、奇襲で充分勝ち目がある。
「オレがあの二人を一撃でノシて馭者蹴落とすから、達也はあっちの一人足止めしといて」
「オッケー」
ひそひそと打ち合わせた。
「いち、に、さん!」
らんまが跳び上がって馬車を飛び越える、どうやるのか見ている余裕なんかオレにはない。走って、松明を持っている野郎に飛びかかった。剣を抜こうと思ったけど、そいつは口を開けて立ちすくんでいる。
「おらぁー!」
らんまにはかなわないけど、走る勢いのままハイキックをそいつの顔面にぶちかます。笑っちゃうほどきれいに吹っ飛び、そいつは道に大の字に延びた。
完全制圧まで、たったの30秒だった。気を失っている盗賊4人を縛り上げて、少年の元へと馬車を向けた。
「さてと……」
明け方近くに村に到着。泣きながら抱き合う村人たちを見て、オレたちはほっと息をついた。だが、まだぜんぜん終わりじゃない。
「馬車が戻ってこなかったら……当然、探すよね?」
らんまが、最後のドワーフパンをかじりながら言った。
「どこまであの人たちを連れていく気だったのかな」
「聞いてみよう」
縛られて転がされている盗賊の一人に近づき、らんまが横にしゃがみこんだ。
「ねえ。あの人たち、どこまで連れて行く予定だったの?」
男は横を向いて答えない。
「答えてくれないと、痛くしちゃうよー」
らんまがにっこり笑いながら言うと、男が馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「達也ぁー。こいつの縄、ほどいて」
「あ? どーすんだよ、解いて」
「いいから解いちゃって」
村人もざわついた。らんまが何をする気なのかわからないが、こいつが素手でらんまに勝つことは不可能だろう。
「それじゃおじさん。立ってぇ~、あたしと勝負ぅ」
らんまが『ぶりっ子』ポーズで言う。盗賊は一瞬あっけにとられて、それから馬鹿にされたと気がついて顔を真っ赤にした。村人たちが後じさる。
「このアマぁ! その首へし折ってやる!」
わめいてらんまに飛びかかる、女性たちが悲鳴を上げた。2度、3度、らんまはひょいひょい男の手を逃れる。軽いステップで男の背後に回った。
「うぐお!?」
男の呻き声。らんまが、男の背中にナナメになってしがみついている。いやこれは、体格差があるのでそんな風に見えているがコブラツイストだ。
「教えてくれないと、もっと苦しいことになるよぉ~」
悪魔の笑顔でらんまが言って、男の顔が赤黒くなって歪んだ。コブラツイストを本気でかけられると死ぬほど苦しいのだ。
「ソイツエストだ……ソイツエストの港だ! やめてくれ、やめてくれー!」
らんまがそいつの背中から離れると、おとこは前のめりにぶっ倒れる。
「ソイツエストって、どこですか?」
オレは村長に聞いてみた。馬車で半日のところらしい。
「すると、今日の夕方には戻ってくることになってるんだな? そう?」
らんまが聞くと、ひどい顔色になってまた縛られている男が頷いた。
「ねえ。あと、あそこに何人残ってるの?」
にこにこ笑いながららんまが聞く。
「オレたちを入れて、全部で30人だ」
「ホント?」
らんまが笑顔のままで男の背後に回った。
「ぐあぁぁぁっ! やめろ! やめてくれ! あと、7人だ、7人だー!」
らんまが何をやったのかわからないが、男の顔が赤くなってから真っ青になった。
夕方。馬車の荷台には盗賊の格好を真似たオレが女を縛り上げて乗り、村人にお願いして馭者をやってもらった。『女』は当然らんまだ。
「途中で、旅の奴らをとっ捕まえてきた」
見張りはらんまに気を取られて、オレのことなどろくに見ていない。
「ダージョとヨゼンは?」
残り二人の盗賊の名前だ。
「こいつが乗ってた馬車で、後から来るよ。さ、入んな!」
オレはらんまの背中を押して、首尾良くアジトの中へと入り込んだ。洞窟か鉱山だったのか、石を刻んだ階段で地下へ降りる。
「お頭ぁー。途中で女とっ捕まえてきましたぜ!」
中はそんなに広くない。オレは大きな声で言ったけど、すぐバレた。
「おい。お前、誰だ?」
一番奥にいるひげだらけの男が、座ったままオレに言う。その首に提がっている瓶が嫌な赤い光を放っている。あれがきっと『幻獣・バハムート』だ。
「誰でもいいでしょ。女、いらないの?」
らんまの背中を押し出す。ビキニアーマーで注目しない男なんていない。
「いやーん。お頭さんたらぁ、そんな恐い顔しないでぇ~」
らんまが躓いたふりをしてボスによりかかる。次の瞬間、バハムートの瓶はらんまの手にあった。ボスを椅子ごと蹴り倒し、飛びかかってきた数人を一撃で吹っ飛ばす。
「達也! パス!」
「おう! あっ!」
受け取りそこなった。革紐に手はかかったけど、瓶を盗賊にひったくられた。
「邪魔すんな!」
そいつの顔面に肘打ちを入れて、蹴り飛ばす。また瓶がふっ飛んで床に転がる。
「うぉりゃぁ!」
らんまがくるくる回って盗賊たちを打ちのめしている。立っているのはあと二人、ボスがようやく立ち上がってらんまを背後から羽交い締めにする。
「やめてよスケベー!」
背負い投げ、ボスが空を飛んで床に叩きつけられる。瓶の、上に。
「やべえ!」
盗賊団のボスの体下から黒い煙が噴き出した。
「らんま! 逃げるぞ!」
らんまが床の上でもがくボスを飛び越えた。オレがらんまの手を掴んで走り出した瞬間、もの凄い咆吼が響いた。ボスが仰向けのままで跳び上がって天井に叩きつけられた。それを背にらんまの手を引っ張り、走っていくオレ。
「うわぁー!」
バハムートだ。解放されてしまった。盗賊たちが上げる絶叫もバハムートの咆吼にかき消される。洞窟が揺れ動いてバラバラと岩の塊が降り注ぐ中、オレとらんまは死に物狂いで石段を駆け上がる。
ボロボロと盗賊団のアジトの天井が崩れていく。
「逃げろ!」
まだそこにいた見張りに叫んで馬車に飛び乗る。
「急いで、逃げるんだ!」
地面が、洞窟が開いている岩肌が振動した。
「あれ……絶対出られないよな。バハムート」
らんまが言った。一瞬だけ見えた大きさでは、あの中はバハムートの体で一杯になっただろう。そしてバハムートは石段の通路を通れない。
「みんな……死んだよな、あれじゃ」
「たぶん、ね」
岩山が遠くなる。バハムートの苦しそうな咆吼が響いてきた。