女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
29.久能小太刀
フレイヤ様のところから、知った道を辿って幻獣・バハムートに焼かれた村へ行ってみた。焼け跡に新しい家が建ち始めていて、オレたちは村人の歓迎を受けた。ここはこの世界で安心していられる数少ない場所だ。
そこで『岩溶けの洞窟』へ向かう方法を聞いてみる。
「北西の大陸ねえ……」
洞窟どころか、北西の大陸を知っている人もいなかった。
「また、ソイツエスト(港町)に行かないとダメか?」
らんまが憂鬱そうな口調で言う。でも、前は乗せてくれる船が見つからなかった。乗せてもらったら、それは何と奴隷船だった。
「荷扱いの商館に聞けば、行きかたを知ってるかも知れない」
村人の一人が言った。次の日オレたちは馬車でソイツエスト(港町)に連れて行ってもらい、商館を訪ねた。
「北西の大陸って、ノードヴェスト大陸のことか?」
商館の番頭は呆れたような表情で言った。
「ここから直接行く船なんかないぞ」
かなりショックなことを言われた。
「ノドレスターツの漁港へ渡って、そこなら船は出ているはずだけど。ひと月に1回くらいだろうな」
オレとらんまは顔を見合わせた。でもそのルートしかないのなら、進めるだけ進むしかなかった。
「ノドレ……あっちの、港へ行く船は。ありますか?」
「いま荷を積んでいるあれだ、夕方には出る」
「乗せてもらえませんか?」
らんまが急いた口調で言う。
「乗る? お前さんたちが?」
「はい」
「二人ぐらいなら乗せてやることはできるけど、荷物の隙間になるよ」
本当に隙間だった。穀物やら農産物を詰めた大きな麻袋と天井のわずかな隙間に押し込まれた。天井は甲板の裏側で、船員が上を歩く足音がうるさい。
「奴隷船と、どっちが快適?」
らんまがうんざりした声で聞く。
「まあ……安全なことがわかってるから、これでガマンするしかないよな」
甲板に出て体を伸ばすのは自由だったけど、船が常に斜めになっているから快適じゃない。そんな船旅で丸一日、ノドレ何とかって港に着いた。
「ありがとう……ございましたぁ……」
お礼を言って桟橋に降りたけど、まだ体が揺れているような気がする。
「達也ぁ……ここ、見覚えあるような気がするぅー」
オレと同じく、ほとんど眠れなかったらしいらんまがふぬけた声で言う。
「ああ……あそこ、か……」
なんと、ノドレスターツ(漁港)は奴隷船が最初に到着した港だった。また戻って来たのだ。徒労感は無視して、とにかく寝る場所を確保しなくてはならなかった。ゲームをプレイしてキャラを動かしているなら、あっちこっちを移動しても疲労もなにもないが、同じところを2度と訪れると心に疲労が蓄積する。
「おーい、お二人さん。船員宿ならあるぞ!」
甲板から船長が声をかけてきた。
「誰かに案内させるから、そこで待ってな!」
体力はともかく二人とも気力が尽き果てているので、ありがたくそうさせてもらう。
連れて行かれたのは、宿と言えるかどうかも謎な建物。やたらに細長い小屋で、片方の壁に二段ベッドがずらーーーっと並んでいる。ベッドの脇は通路でカーテンすらない、食事も出ない。ガサガサするワラマットの上で寝るだけ。
「すっげー待遇」
でも銅貨一枚なので文句は言えない。らんまはマントに包まって寝られるけど、オレはもう一枚銅貨を出して何だか臭う毛布を借りた。
翌朝はソイツエストの商館で書いてもらった紹介状を持って、この港の手配商館を訪ねた。
「ノードヴェスト大陸(北西の大陸)へねぇ……」
そこの番頭さんは、机の後ろに貼ってある地図を指した。
「船はノードヴェスト大陸(北西の大陸)のここへ着く」
どうやら、このノドレスターツ(漁港)からの航路を示すらしい線を指でたどって、番頭さんはかなり離れた土地を指した。
「その、岩溶けの洞窟ってのは。ノードヴェスト大陸(北西の大陸)のどこにあるんですか?」
「ホログラード地方ってところです」
「ホログラード地方! そりゃまた遠いな。ノードヴェスト大陸(北西の大陸)の真ん中あたりだ」
次々と、憂鬱になることばかり聞かされる。ノードヴェスト大陸(北西の大陸)のホログラード地方にある
「次の船が出るのは20日後だよ」
それまでこのノドレスターツ(漁港)で待っていたら、所持ゴールドが尽きてしまう。オレたちはまた来ることを伝えて、冒険者ギルドがある場所を教えてもらった。
残念なことにノドレスターツ(漁港)にはギルドはなくて、一番近いのは
「どこか、近くに町にないですか?」
「南へ行けば、チッタソラーレ(太陽の街)があるけど、歩きだと二日かかるよ」
「いいです、そっちへ行ってみます」
そんなわけでチッタソラーレ(太陽の街)へ向かう道の途中で、オレたちはその夜、久々の野宿をすることになった。
「達也ぁ、なんで海の近くがいいんだ?」
らんまが、たき火で干し肉を炙りながら聞いた。
「まあ……山の中とか、もう飽きたし。食糧調達もできるし」
「食糧調達? 釣りでもするのか?」
「釣り道具なんかないから、潜って貝獲るとか……いろいろできるだろ?」
「ふーん」
らんまが肉を食いちぎって、唇の脂を舌で舐め取りながらオレを見た。
「それをオレにやれって、言う気じゃないよな?」
「えっ?」
あっさり見破られた。海に入るには、水着に着替えなくてはならない。
「アレは、そーゆーコトに使う物じゃないだろよ」
だったらいつ何の時に使うのか、その効果をフレイヤ様は説明してくれなかった。もしかすると説明してくれたのかも知れないけど、『あぶない水着』で舞い上がっていたオレが聞いていなかったのかも知れない。しかし、共通のリュックに入っている『あぶない水着』をらんまがコッソリ捨てたりしていないという事は少しでも着衣の可能性があるからだろうか。
翌日の昼には、ギルドがあるチッタソラーレ(太陽の街)に入った。赤い屋根の建物が多く、太陽が反射するせいもあるだろうが名前のとおりに太陽が眩しい街だ。活気づいている。さっそくギルドに行ってみると、今日のクエストは全て応募のパーティーが向かった後。掲示板には何もない。
「ざんねん、外れ」
らんまが小さな声で言った。
らんまとチッタソラーレ(太陽の街)を歩いていると、聞き馴染みのある高飛車な笑い声が聞こえてくる。隣を歩くらんまとオレは目を合わせた。
「らんま、今の声、聞こえたか?」
「あぁ、聞こえたぜ。忘れもしねぇ、あの笑い声…」
オレとらんまが振り返ると、そこに居たのは黒バラの小太刀だった。
『うわ?!オマエは小太刀。なんで、ここに!?』
声を揃えて驚いたオレとらんま。レオタード姿の小太刀が近づいてくる。
「あらあら、乱馬様の名を語る不届きな女。そして、そちらの殿方は?」
「あぁ、オレの名は達也。この世界ではらんまと旅している」
「この見ず知らずの土地でも、乱馬様の名を語るとは、この黒バラの小太刀が成敗してくれる」
小太刀はどこからか新体操のクラブを取り出し、らんまを狙い撃ってきた。
「格闘新体操・奥義!千手棍棒、乱れ撃ち」
「うあ、わぁ!小太刀、ちょっと待てって」
街中で戦闘、いや、格闘新体操をはじめてしまう小太刀。振り回されるクラブを避けるらんま。兄の久能帯刀こと、久能先輩の妹で兄と同じように早とちりが過ぎて、男のときの乱馬と女のときのらんまが同一人物だって気づいていないんだよな。過去には、あかねの代役でらんまが小太刀と格闘新体操で勝負したんだっけか。あのときのらんまのレオタード姿、良かったよな〜。
「だぁ、待て待て!なんで、小太刀がここにいるんだよ、どうやって来た」
新体操のクラブを振り回し続ける小太刀の攻撃を避けながら、らんまが小太刀と会話を試みた。
「どうやって、ここへって?お兄様にお使いを頼まれて、それを買った後に神社の鳥居をくぐったら、この近くの草原にいたのですわ」
なるほど。小太刀もオレたちと同じようにゲームソフトを持って、鳥居をくぐったんだな。この世界がゲーム世界という事も気づいていなそうだから、おそらくは、まだ、この世界に転移してきてから、それほどの時間は経っていない可能性が高いな。
「待て、小太刀。勝負なら、いつでもしてやるから、話を詳しく聞かせてくれ」
「まぁー、憎い女。わかったわ。この黒バラの小太刀、乱馬様の名を語る不届き者と格闘新体操で勝負してあげましょう」
「へっ、望むところだ」
「おいおい、らんま、いいのかよ。オレたちにそんな暇はないぞ」
いや、暇はあった、なんせ、船がノードヴェスト大陸(北西の大陸)に向かうのは20日後だから。
勝負と言われれば、なんでもかんでもすぐにOKしてしまうらんまを制したが聞き入れてくれるわけもなかった。
「そうねぇ、私が勝ったら、もう二度とと乱馬様の名を語らないと誓いなさい。そして、その隣にいる男も頂くわ。ふふふ…」
「えっ?!オレ〜?!!!」
まさかとは思ったが、オレがらんまと小太刀の勝負の賭けの対象になってしまった。
「いいぜ、いいぜ。この早乙女らんまが負けるわけないしな」
「ちょっと、らんま」
「勝負は3日後、この場所、同時刻で。それじゃ、達也様、しばし、ご機嫌よう」
さすがに小太刀に惚れられたという事はないが、名前とオレを賭けて、らんまは小太刀と格闘新体操の試合をこのチッタソラーレ(太陽の街)でも行う事となってしまったのだった。
神斧ラブリュス(オレが最強になる武器)を手にする日はまだまだ、先のようだ。