女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
33.水門のクエスト
格闘新体操の試合を終えたオレたちは再び、チッタソラーレ(太陽の街)へと戻ってきていた。
「ちょっと、あんた、すっごい強いのね。見たよ、試合」
見知らぬ女の人が、らんまを見るなり声をかけてきた。昨日のらんまと小太刀の試合を見ていたのだろう。
「冒険者なら頼まれてくれない? ウチの屋敷に来て」
「何を、するんですか?」
「詳しいことは旦那様から聞いて。とにかく、困ってらっしゃるの」
オレたちは使用人らしい女性について、海の近くにある城みたいな屋敷に案内された。
「なんだ、たった二人か」
『旦那様』は名乗りもせず、オレたちを見るなりそう言った。
「屋敷の水門に化け物が取り付いてしまって開けられんのだ。町に船が出入りできなくて困ってる、退治してくれ」
「はあ?」
いきなりレベルが高そうなクエストだった。
「たぶん、やるっきゃないよな。これ」
らんまが首を傾げながら言う。船がらみのイベントなら、クリアすれば美味しいアイテムが手に入るかも知れない。
『旦那様』から頼まれたオレとらんまは屋敷の水門に棲みついているという化け物退治をする事となった。地下水路を辿った先の『水門』に数日前から化け物が棲みついてしまい、開けられないままになっているという。地下水路へは屋敷の地下の扉から行けるとのことだ。らんまはどんな敵でも構わないと言っていたが、オレはその化け物を見たという屋敷のメイドから情報を得る事にした。
「水門に棲みついたとしている化け物ってのはどんな姿なのですか?なにか特徴とかあれば教えてもらえますか?」
「顔は魚みたいで、私たち人間と同じ二足歩行です。寄生を発していて言葉は通じませんでした。頭頂部から背中にかけて背びれがあって、三又の槍やロッドを持っていました」
「ロッド?あぁ、杖の事か」
メイドからの情報と自分が持っているゲーム知識を照らし合わせると、おそらくは水門に棲みついている化け物は『サハギン』の可能性が高い。
「その化け物たちは一体、何匹くらいいたんですか?」
「それが、けっこうな数で、私が目撃したときは、たしか8匹以上はいたと思います。」
雑魚モンスターといえども、8匹以上を相手にするのはかなり困難だ。これはバーサク(狂戦士への変身)必須だな。
「色々、教えてくれてありがとうございました。必ず、オレとらんまが退治しますので」
そのとき、屋敷の中にあった大きな水槽の中身が気になった。蛇と龍の合いの子のような魚が泳いでいた。この魚、どっかで見た事あるような。
「この魚、珍しいんですか?魚というか水龍?」
「たしかに、美味そうじゃねーな」
珍しい見た目の生物なのに食べる事をイメージしているらんま。食い意地はどこの男たちよりも張りながら、水槽に顔を近づけて観察している。
「はい、その魚は旦那様の自慢の魚で、まだ、どの図鑑にも乗っていない珍しい魚だそうです。本日の正午には海洋生態専門の学者様がお見えになって、お調べになるそうです」
「へぇ、海洋生態専門の学者様ねぇ」
屋敷を出た後にオレたちは水辺の戦闘の準備のために水着屋に入ってみた。オレはトランクス型の海パンと白い無地のTシャツを購入する。足元はビーチサンダルに変えた。念の為、シュノーケルのようなゴーグルも購入した。全部、装備し終えるとファンタジー世界の装備というよりもマリンスポーツ部の学生みたいになってしまった。
一方のらんまはというと、なんの特徴もない地味なワンピース水着を選ぼうとしていた。探す手を掴んで止めるオレ。
「らんまはこれがあるだろーが、これ、これ」
オレは大事に大事にしているフレイヤ様からもらった『あぶない水着』をらんまに見せる。
「だから、なんで、オレが、んなもん着ないといけねーんだよ」
らんまがこうも言い出すと聞かないのは重々承知だ。元の世界でも断固、下着は男モノで通していたしな。
「だって、水辺でサハギンたちと戦う可能性があるじゃないか。水の中に引き込まれたら、そのアーマーじゃ沈むだけだぞ」
「くぅーーー」
論破か?説得成功か?
「わかった、それじゃ、着るけど……」
「おー、そうかそうか、らんま着てくれるか、ありがとうな」
「でも、サハギンに水に引き込まれるまでは、このバスタオルを身体にかけてる」
「へ……?」
というわけで、オレのらんまに『あぶない水着を着せろ』クエストは、未完了のままにサハギンたちが待つ地下水路へと向かうのであった。
Tシャツと海パン姿のオレが剣を持ちながら、コケだらけの洞窟を通り、地下水路へと進む。先には大きなマントに身を包んでいるらんまが歩く。あのマントの下にしっかりと『あぶない水着』を着用していると思うと、興奮が止まらない。いちおう、確認を試みてみる。
「らんま、ちゃんと着ているんだろうな?あぶない水着」
「うるせー、前見て歩け、前」
「ほらほら、教えろよ、らんまぁ」
「ちゃんと着てるから、前進め」
どうやら、本当に着てくれているらしい。オレはサハギンがらんまを水中に引きずり込む事を期待しながら、地下水路を進んだ。
「キィイキャ…キャッキャッキャッ…キャキィ」
角を曲がった先からモンスターたちの声が聞こえる。らんまと身を潜めて、角の影から声の主を覗いた。サハギンだ。数えたところメイドが教えてくれた数以上だ。おそらくは20…、いや、22匹はいるかもしれない。
「らんま、いくらなんでも、あの数はやばくないか」
「達也と手分けしても、1人11匹ずつか…、一回、引き返すか?」
引き返すにしても、どの道、応援を呼ばないといけない。それなら……。
「よし、らんま、サハギンたちに気づかれないまま、バーサーカー化して、オレが先陣を切る、らんまは後衛を頼む」
「は?いくらなんでも、バーサーカー状態でも無茶だろ」
「最強の戦士、俺tueee狂戦士・バーサーカー達也は無敵だ、信じろ」
オレは目を見開き、気合いを入れる。雄叫びを上げるとサハギンたちに気づかれてしまうので声を出さずにバーサーカー化を試みる。怒りの感情を作りだし、歯を食いしばる。身体が熱くなってくる。怒りの感情で、唸りながらオレの変身がはじまる。いつもよりも変身がうまくいかない。焦るほど、自分の中の熊と狼の野生本能を捕まえられなくなっている。
「グギギギギ、ギギ…」
しまった声が漏れてしまった。気づいたサハギンが槍を打ち鳴らし、近づいてくる足音が聞こえる。
「だー、はやく、しろ!達也!サハギンどもに気づかれた、来る」
「んな事、言われたって…、変身がうまく」
絶体絶命のピンチ。オレとらんまの異世界冒険もここで終わりか…?