女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
月日が経つのは早いもので、オレとらんまがこの街・エドワルディアへ来てから、数日が経過した。
今日、オレとらんまは昼飯を食べにエドワルディアの中心部にあるレストランに入ってみることにした。
店のドアを押し開けると、ウェイターがニコニコしながら迎えてくれた。
「おや、達也さんとらんまさんじゃないですか!いらっしゃいませ、いつも公演を楽しみにしていますよ!こないだのバトルもすごかったですね」
店内には、すでにいくつかのテーブルが埋まっていて、客たちがこちらに気づくと微笑みを向けてくれる。どうやら、オレたちのことを劇場で見たことがある人が多いようだ。
この数日間、劇場での公演が続いていて、どうやらオレたちのことを知っている人が増えていたらしい。
「こちらへどうぞ」とウェイターが案内してくれた席に座ると、すぐにメニューが手渡された。らんまはメニューをパラパラとめくりながら、いつもの男口調で言った。
「へぇ、結構いいもん揃ってんじゃん。何食う?」
オレは「んー、まあ、何でもいいかな」と返しながら、ちらりとスペシャルメニューを眺めていた。そんなとき、レストランのオーナーが自らテーブルにやってきた。
「達也さん、らんまさん、いつも素晴らしい公演をありがとうございます。私も何度か拝見しましたよ。今日はぜひ、こちらのお食事をお楽しみください。お会計は不要ですから、どうぞ遠慮なく注文してくださいね。」
「えっ、いや、そんな、お金はちゃんと払いますよ」
オレが答えていると、らんまが肩をすくめてニヤリと笑った。
「まぁ、そんなに言ってくれるんだったら、ありがたく頂くか」
「ちょっと、らんま。公演でお金ももらっているんだから、ここはちゃんと払わないと」
「べつにいいじゃねーか、タダ飯よりも美味いものはないだろ?」
らんまったら、ゾレム市の料理屋でのことを忘れたんじゃないだろうな。ついこないだだと言うのに。
「いえいえ、本当にお代はけっこうですし、私どもとしても、二人に召し上がってもらえるだけで感激ですので」
「わかりました……。本当にありがとうございます。じゃあ、このフライド・ピーシューツ・ライス」をお願いします」
オレは値段も安い、日本でいえば、豆苗炒めご飯なるものを注文することにした。
「オレはステーキとナポリタンとハンバーグにチョリソーかな。あ、それとこのスイーツポテトも」
「おい、らんま。頼みすぎ。それに、肉料理が三つも入ってるじゃないか」
「べつにいいじゃねーか、腹減ってるんだからさ、食えるときに食っておこーぜ」
昨夜は支配人に連れられて、ご馳走になっているというのに。らんまのお腹はどれだけ四次元になっているんだよ。
オーナーは「もちろんです、すぐにご用意いたします」と応じて、厨房に向かった。
オレたちが注文を終えて待っていると、ある若者がテーブルに近づいてきた。彼は緊張した面持ちで、ちょっと落ち着かない様子だ。
「あの、らんまさんですよね?すごくファンなんです!サインをもらえませんか?」
「ああ、いいぜ、べつにサインくらい」
らんまは快く答え、若者の出したノートに向かってニヤリ。渡されたノートに大きく「らんま」とひらがなでサインをした。
その様子を見ていた他の客たちも興味を示し始め、少しずつサインを求める人の列ができていった。ウェイターも仕事をさぼり、その列に並びはじめる始末。数秒で、まるでアイドルのサイン会のようになってしまった。らんまは全く嫌な顔一つせず、一人一人に丁寧に対応している。
「ほら、達也もサインしろよ」
らんまがオレを誘う。
「え、オレはいいよ。だって、らんまのファンだろ?」
「いえいえ、達也さんもぜひ、お願いします」
らんまのファンの男が、そう伝えると、らんまもオレを見ながら笑った。
ちょっと照れながらも、渡されたノートにオレは自分の名前を書いた。筆記体で「Tatsuya」と。でも、心の中はそれほど穏やかじゃなかった。
確かに、らんまには数え切れないほどのファンが、この街にいて、それがらんまを明るくしているのは明らかだった。でも、どこかでオレは、自分だけがらんまの一番のファンでありたいと思っていた。らんまのことを誰よりも理解し、支えてきたのはオレだ。そのらんまを他の誰かが同じように見るなんて、どこか納得がいかなかった。
サインを求める人々の顔を見るたびに、オレの中には小さな嫉妬が芽生えていた。嫉妬したくないと思うほど、胸がざわざわと苦しくなる。彼らはらんまのどこを知ってるんだろう?らんまのその笑顔の裏にある努力や、時に見せる不安を彼らは知らない。オレだけが知っている。それなのに、こんなにも簡単に「ファンです」と言われると、何だか自分の特別な存在が薄れていくようで居心地が悪かった。オレは、この世界ではらんまと結婚しているし、何度もセックスだってしているのに……。
「達也、何ムスっとしてんだよ。楽しもうぜ!」
らんまがオレの肩を叩いて、その表情を和らげようとした。
オレは固くなっていた表情を必死に作り直し、強く頷いたが、心の中ではまだ複雑な感情が渦巻いていた。でも、ここでそんな感情を表に出すわけにもいかず、ほほ笑みを返すのが精一杯だった。らんまが幸せならそれでいいはずなのに、どうしてもその場にいる他のファンたちが羨ましく思えた。オレもファンとして、らんまに笑顔をもらいたい。
それでも、らんまがこうして認められていることは素晴らしいことだ。オレはただ、らんまの隣にいられることに感謝し、自分の感情と向き合うしかなかった。オレはらんまの一番のファンであり続ける。この心だけは変わらないと、自分に言い聞かせた。
料理が運ばれてきたのはちょうどいいタイミングだった。サインを求める列が一旦途切れて、オレとらんまはようやくテーブルに向かうことができた。オーナーは丁寧にそれぞれの皿をテーブル上に配置して、にこやかに言った。
「ほらほら、みんなのらんまさんがお困りだぞ。ほら、どいた、どいた。らんまさんどうぞ、お召し上がりください」
みんなのらんま……?
オレの戸惑いも知らないらんまは待ちきれない様子で、さっそくステーキにフォークを突き刺した。その食べ方は、元が男だけあって、かなり豪快だ。ステーキを大きく切り分けては口に運び、満足そうにうなずきながらも次のナポリタンに手を伸ばしていた。その横でチョリソーをかじり、時折スイーツポテトに手を伸ばす。一つ一つの動作が大きく、エネルギッシュだ。
一方、オレはと言えば、フライド・ピーシューツ・ライスを前にして、どうもスプーンが進まない。らんまがファンに囲まれていた光景が頭から離れない。それにシェフの「みんなのらんま発言」も耳から離れない。当然、食欲がわかなかった。料理は美味しそうに見えるし、香りも良い。それなのに、なぜか一口食べるのが億劫で、スプーンを動かす手が重たい。
「達也、何してんの?食わないのか?」
らんまが口いっぱいに肉を咥えながら、オレに向かって言った。その顔は満足そうで、食べることに全てを注いでいるように見える。
「あ、うん。ちょっとね、食欲が…」
オレは言葉を濁しながら、小さくライスを一口食べた。味は確かに良い。豆苗のシャキシャキ感と炒めたご飯の旨味が口の中で広がる。でも、その味を楽しむ余裕が自分にはなかった。
「まぁ、無理すんなよ。でもさ、たまには楽しまなきゃ損だぜ?」
らんまが快活に言って、またステーキをほおばった。らんまの存在が、この瞬間、オレにとってはとても大きく感じられた。
食事をするらんまを見ていると、らんまがどれだけ自由で、どれだけこの場を楽しんでいるのかが伝わってきた。でも、オレはとてもじゃないけど、楽しめない。あんなことを言うオーナーの店には、もう来たくない。すぐにでも飛び出したかった。でも、ここでオレが店を飛び出せば、きっとオレは「嫉妬深い男」として噂が広まってしまうだろう。
でも、もう、それでもいいか……。
べつにこのエドワルディアに永住する気なんて、最初からなかったんだから。