女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
オレたちのカフェ、PANDは、今日も無事に閉店時間を迎えた。日々の喧騒から解放され、らんまと二人で片付けを始める。厨房から顔を上げると、らんまはカウンターを拭きながら、オレに声をかけてくる。
「ふう、今日も忙しかったな」
「そうだな。お疲れさん、らんま」
店の灯りを少し落とし、そろそろ戸締まりをしようとしていたその時だった。ドアベルがカランカランと鳴り、予想外の訪問者が現れた。数人の男性が、何やら重々しい雰囲気を纏いながら店内に入ってくる。奥の男の顔には深い皺が刻まれ、その目はとても鋭い。
らんまは、すぐさまカウンターの向こうから顔を上げ、その男たちに向かって歩み寄る。
「悪いな、今日はもう店終いなんだ。営業時間は終わってるから、また明日にしてくれ」
らんまに手で払われた男たちの中から、一番貫禄のある男が後ろから一歩前に出てきた。
「実は、サラトバの戦乱を収めた勇者であるお二人に、どうしてもお願いしたいことがあって、ここまで来たんだ。閉店後に申し訳ないが、少しだけ時間をいただけないだろうか?」
「らんま、なにか事情があるようだし、話を聞こう」
日々を暮らす上で勇者の肩書きは不要だ。だから、この港町ソイツェストで喫茶店を営むときは、オレはただのオーナーで、らんまはその若妻として、素性を隠している。ま、そのわりには、冒険で閉店も多いのだが……。
勇者であるオレと、その相棒であるらんまが、ここに住んでいるということは、ごく一部にしか知られていない。だとすると、友人であるレムール王国のアム姫か、側近のパロムから情報をもらったとかだろうか。
「オレたちの素性を知っているってことは、アムから聞いたのか?」
ぶっきらぼうに、らんまから、どうしてオレたちが勇者である事が知られて、今日、訪ねてきたのを聞く。
その銀髪の男は軽く笑みを浮かべ、口を開いた。
「オレの名はザンバ。新しくソイツェストのギルドマスターに就任した者だ。あなたたちの話は、そのとおり、レムール王国の姫を通じて知ることができた。以前から、レムール王国とは旧知の仲で、彼女からあなたたちの話を聞いてね。どうしても力を借りたいことがあるんだ」
その風貌と名から、強さと経験を感じさせる男だった。オレはらんまと目を合わせ、深く頷いた。事情があるのなら、話を聞くしかない。
「わかった、ザンバ。中で話を聞こう」
オレはザンバを招き入れた。
◆◇◆◇
オレたちはザンバとその仲間たちを店の客席に案内し、テーブルに向かい合わせに座った。閉店後の静かな店内に、わずかな緊張感が漂っている。ザンバは大きな布袋から広げた世界地図をテーブルに広げ、その地図の上に指を置いた。
その地図には見覚えのある場所がたくさん描かれていたが、ザンバの指が指したのは、南の大海のど真ん中だった。何もない青い広がり、島さえも描かれていない場所だった。
「君たちにお願いしたいのはここだ。この海域には、かつての古代文明が隠した秘密の島があるとされている。その島には強力な魔力を持つ薬草が眠っているという伝承が残っているんだ。具体的な位置はわからないが、この辺りだと言われている。君たちの力と経験なら、必ずその島を見つけ出せると思う。ぜひ、君たちにこの探索をお願いしたいんだ」
らんまは地図を覗き込み、眉をひそめた。
「ここに行くって言うのか?地図には何もないじゃないか。ただの海だろ?本当にそんな島があるのかよ?確証もなしに海をさまようなんて、馬鹿げてるぜ」
オレも同じ疑問を抱いたが、ザンバの言葉には真剣さがあった。その場所を見つけることができれば、何か大きな発見があるのかもしれない。だが、らんまの言う通り、確証がなければただの無駄足になりかねない。その時、ふと思い出した。オレとらんまがかつて漂流した羽和井島のことを。たしかに、あの島は地図にも載っていない。オレとらんまが帰ってきた航路としても場所は、ほぼ合っている。もしかすると、ザンバが指しているのはあの島のことかもしれない。
オレはその記憶を頼りに、らんまに目配せをする。
「あの時の島のことかもしれないな」
「さすが、勇者達也。羽和井島をよくぞ、ご存知で。なら、話は早い。ぜひ、羽和井島を探索してほしい」
「おいザンバ、本当に羽和井島のことを言ってるのか?」
ザンバは頷き、深い声で語り出した。
「そうだ。君たちが知っているその島が、羽和井島だ。そこには古代の薬草が眠っている。しかし、その秘密に辿り着くには、ある方法が必要だ。暖かい湯を吐き出す偶像を動かすと、島の地中へと続くダンジョンが現れるという伝承がある。この偶像は島のどこかに隠されていて、それを見つけ出し、正しく動かさねばならない。君たちなら、その謎を解き明かすことができると信じている」
らんまはさらに眉をひそめる。
「暖かい湯を吐き出す偶像?そんなものが本当にあるのかよ。それに、どうやって見つけるんだ?」
オレは深く考え込み、らんまと再び目を合わせた。
「暖かい湯を吐き出す偶像。あの温泉にあった偶像かもしれないな。もしそれが本当なら、オレたちがあの島で見たことと合致する部分がある。試してみる価値はあるかもしれない」
らんまも、偶像のことを思い出し、顔を赤らめた。無理もない、あの偶像に手を置いて、オレとらんまはセックスをしたのだから。ずいぶんとバチ当たりなことをしたもんだ。それはともかくとして。まだ、オレの疑問は残る。
「この依頼を引き受ける、引き受けないの前に、その薬草がなぜ、必要なのかを教えてもらってもいいですか?まぁ、ダンジョンの攻略が難しいから、オレたちにお願いしてくるというのはわかりますが」
ザンバは一瞬ためらいながらも、説明を始める。
「その薬草は、紫色の薬草で、魔力増強剤として非常に強力だ。それが侵略者などの手に渡ると、成分を分析されることで大きな脅威となりうる。だからこそ、ギルド本部としてその薬草を確保し、管理することが必要だと判断した。これはただの探索ではなく、重要な任務なんだ」
「なるほど、確かにそれは見過ごせないな。でも、本当にその薬草があるのか確証はないんだろ?オレたちが行ってみて、何もなかったらどうするんだ?」
「それでも、君たちの力なら、その可能性を追い求める価値があると信じている」
「わかりました。やってみましょう、ただし、報酬は頂きません。ギルド本部、直接の依頼であるなら、重要任務ですし。ただし、これ以上、オレたちが勇者とその妻であることは内緒にしてもらえますか?」
「あぁ、わかった。約束しよう」
オレたちは再び顔を見合わせ、らんまも頷いた。「よし、やってみよう」とオレは答えた。新たな冒険の始まりを感じつつ、オレたちはこの任務を引き受ける決意を固めた。そうして、再び、らんまと一緒に異世界の冒険が始まるのだった。