女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
ベリーヌランドを出発して4日、ベリーヌ騎士団を率いたオレとらんまは山の中にある町に到着した。
「けっこう……建物あるんだね」
広い通りの両側に宿屋や酒場の看板を下げた建物、ギルドの交換所を示す剣と杖を描いた看板もある。だが今は全部が廃墟になっている。
「ロックトントという町でした」
地元で案内人として雇った猟師が言った。
「10年くらい前までは、銅の鉱山で景気が良かったのですが。鉱山の奥で魔物がいる洞窟を掘り抜いてしまったらしくて、それで採掘ができなくなってこの有様でさ」
今はもう住人はゼロだ。ふもとの町でこのことを聞いて、宝玉に関係があるかも知れないとらんまが言いだした。
「魔物、何が出るんですか?」
らんまが聞くと、猟師は首を振った。
「坑道の奥で、見た人間はいません。みんな殺されました。話しでは、50人の兵士が魔物退治に入ったそうですが、一人も戻ってこなかったそうです」
オレとらんまは顔を見合わせた。強いヤツがいるようだ。
廃墟の中でもマシな建物を宿舎にして、今日は坑道の入口を確かめるだけにした。山の中に5箇所あって、一番大きな穴はソリで地下深くから鉱石を引き上げるらしい。
「そう言えばさ……」
らんまが、豆と肉のスープが入った木のボウルを抱えて言った。贅沢なことに騎士団には荷馬車が同行していて、それには料理専門の従者まで乗っている。朝と夜は野宿でも温かい食事にあるつけるのだ。
「ベリーヌが、気になること言ってたよね」
「ああ……宝玉を狙ってた集団?」
ベリーヌ家には家宝として橙の宝玉が伝わっていた。武装した集団がそれを狙って屋敷を襲撃して、騎士団に撃退された。八宝斎が宝玉を盗み出したのはその後のことらしい。
『集団のリーダーは魔道士だ。宝玉のありかを知る術を使うらしいから、君たちが宝玉を手に入れたとたんに奪いにくるに違いない。気をつけてくれ』
ベリーヌは出発の時にそう言った。
「八宝斎だけでも面倒なのに、これ以上変なのに出てきてほしくないよな」
荷馬車に積んであるストーブで焼いたパンが配られてきた、パンと言うよりナンに近い。温かいうちはけっこう美味い。
金持ちの軍隊はこんなときの装備も凄くて、体の下に敷くワラを編んだマットと毛布まで用意されていた。
「いたれり尽くせりって、こーゆうことだよね」
らんまが満足そうに言うと、すぐに寝息を立て始めた。オレは『これなら外でセックスするときも楽だな』とか、またろくでもないことを考えていた。
翌朝はパンと、インドカレー屋のチャイみたいなやたらに甘い飲み物が朝食だった。それから全員に地下探検用の装備が渡される。
「あっ、ランプだ」
ここまで探検用の明かりと言えばたいまつしかなかったのに、ローソクランプとは言え、さすが金持ちだ。
地上の見張りに10人を残して、オレとらんまは20人の兵隊と一緒に坑道に入る。メイルは邪魔になるので、胴あて以外は全部外して行く。
「なんでオレが先頭なんだよ……」
「特命係……だったっけ? それはオレと達也のことで、兵隊さんはその護衛だからじゃない?」
その護衛が後ろにいてどうするのか、ちょっと不満だ。しかも兵隊さんたちは、何となく腰が引けているように見える。
「何で騎士団の隊長、来ないんだ?」
らんまがひそひそ声で聞く。
「それは……中で万一のことがあってオレたちも隊長もやられたら、誰も指示出す人間がいなくなるからだって」
「ただ単に……入るのが嫌だったようにしか見えなかったぜ」
らんまがさらに声を小さくして言った。オレは隊長と話してそれで納得してしまったけど、今になってそう言われてみるとそんな感じもした。
「お前、単純だからすぐ人を信用しちまう」
「うるせえ」
何だか腹立たしくなって、オレはランプを掲げてずんずん坑道を下って行く。入口が全く見えなくなったとき、踏み出しかけたオレの足に何かがひっかかった。
「何だ?」
オレはしゃがみこんで足元をランプで照らしてみる。
「どうした?」
らんまも横にしゃがみこむ。
地面から10センチくらいのところに、細めのロープが張られている。
「何だろ?」
引っ張ってみると、坑道の壁にひっかかっていた部分が外れた。そして奥で何か音がした。
「うわ!?」
オレの頭の上を何かがかすめた。後ろで悲鳴、呻き声。ランプが落ちてガラスが割れる音。
「なに?」
「矢が!」
「矢って?」
「弓矢だよ! 達也、ランプ消して! 伏せて!」
らんまに引きずり倒されるようにして、オレは湿った地面に腹ばいになった。後ろの方でもあわててランプの火を消したので、坑道の中は真っ暗になる。
「矢を、誰かが撃ってきたのか?」
「そう……だろうね」
「1人死んで、2名負傷しました。外に出ます」
後ろから騎士団兵の声。
「あ、お願いします」
オレがそう答えると、後ろの方で聞こえていた呻き声が遠ざかって行った。
「あれだけかな?」
らんまが囁く。次の矢は飛んでこないし、暗闇の先には何の気配も感じない。
「撃って、すぐ逃げたのかな?」
「行ってみようか」
だがその前に、ランプのローソクに火をつけなければいけない。百円ライターやマッチなんてこの世界にはないから、火打ち石で火花を出して綿のようなものに小さな火だねを作るのだ。
昼間にやっても難しいのに、手元も見えない真っ暗闇の中で手探りなんてムリだ。
「何やってるんだよ」
らんまが苛立たしそうな声を出す。
「静かにしろ。あ……火打ち石落としちゃったじゃねーかよ!」
「お前、ホタルみたいなの。あれどうした?」
「あ……」
オレはピクシーのことをすっかり忘れていた。
「幻獣出して、兵隊さん驚かないかな?」
「あのー」
らんまが後ろの兵士たちに声をかけた。でも返事はなく、らんまの声だけが反響する。
「なんか。いなくなってる……みたい」
「うええ?」
慌てて瓶の蓋を開けてピクシーを出す。オレとらんまの周り2メートルくらいがぼんやり明るくなった。
「あ……」
割れたランプがいくつか落ちているだけで、兵隊は一人もいない。「外に出ます」と言ったのは、けが人を運び出すのではなく全員が退却する意味だったらしい。
「ひでー。意気地無い奴らだな……」
オレが言うとらんまがため息をついた。
「盗賊とは戦ったけど、屋敷の外で化け物を相手にしたことなんてないって言ってたぜ。大丈夫かなーって思ってたけど、やっぱりこうなったか」
金持ちの兵隊は、冒険じゃ使いものにならない。
「どうする?」
オレが聞くとらんまは肩をすくめた。
「最初から二人だけだったことにして、行けるだけ行ってみよう」
坑道の左右の壁に貼り付くようにして進むと、やがて弓を発射した仕掛けを見つけた。オレがひっかけたロープが壁から抜け落ちると発射されるのだ。
「これは……入って、ほしくないってことだよな?」
ピクシーを少し先に行かせて用心しながら進んで行くと、落とし穴や石が落ちる仕掛けが待っていた。これは手元のランプでは気がつかない。その証拠に、落とし穴の底には白骨化した死体が積み重なっていた。
やがてオレたちは坑道の突きあたりまで来た。岩の壁に、ようやく人がくぐれるほどの穴が開いている。これが『魔物がいる洞窟』に繋がっている場所なのだろうか。オレはしゃがみこんで穴の向こうを覗いてみた、真っ暗で何も見えない。
ピクシーを呼び寄せてちょっとだけ中を照らすと、穴の向こうは広い空洞らしい。オレが先に入って、らんまも穴をくぐって洞窟に出てきた。
「ここが、魔物がいる洞窟か?」
モロに鍾乳洞だ。どこかで水滴が落ちる音がしている。
「どこに……いるんだ?」
らんまが中を見回しながら言った。そのときオレは、二人で出てきた穴の横に垂れ下がっているロープに気がついた。
「これ、なんだ?」
「バカ! 触る……」
らんまが言う前にオレはロープを引いてしまった。その瞬間、足元が崩れた。オレとらんまは積み上げてあった岩と一緒に、勢いよく斜面を転がり落ちた。