女らんまと異世界冒険記 ※AIイラスト挿絵920枚付き 作:RNOVEL
2-10.空前のミスリル鉱石ブーム
この世界は空前のゴールドラッシュ、ならぬ、空前のミスリル鉱石ブームだった。魔王討伐の影響が関係あったのか、ないのか、不明だが、時期を同じくして、各地の鉱山でミスリル鉱石が発掘された。微量な魔力を持つミスリル鉱石にはやはり魔王復活の影響もあったと考えるのが妥当だろう。
ミスリル鉱石を精錬したミスリル金属は銀の輝きと鋼をしのぐ強さを持つ事から貴族や富裕冒険者たちの間でも大流行だ。その実用性とファッション性の高さからミスリル金属で作られたミスリル防具やミスリル武器は高値で取引されている。鉱石自体の産出量が極端に少なく、希少で貴重であるのもブームに拍車をかけた要因の一つだろう。
港町ソイツェストでオレとらんまが営む喫茶・PANDにも常連客が知人たちにミスリル鉱石を原材料に作られたミスリルナイフを見せびらかしに来ていた。
「へっへー、やっと。買ってしまいましたよ、ミスリルナイフ」
歯の部分のみミスリルを使っていて柄の部分は鉄でできているナイフを掲げて、男の冒険者が自慢している。冒険者というよりも商人といった風貌の戦闘には役に立たなそうな小太りの男だ。
「コブさん、ミスリルナイフ買ったんですか」
「伝説の勇者のパーティの『魔法剣士のエルフ』は己の魔力を高めるためにミスリル装備を着けて魔王に挑んだという言い伝えもありますよね」
「それじゃ、このコブが、その魔法剣士になっちゃおっかな!」
「ははは、コブさんは魔法どころか剣の扱いもままならないじゃないですか」
「それはこれから練習するんだよ、ファイヤーボール!無詠唱!なんちゃってね」
ミスリルナイフを自慢し、出もしない魔法を陽気に唱える小太りの男・コブを中心した談笑テーブルにらんまが注文の品を届けた。
「はい、お待ちどうさん♪ ストロベリーパフェでーす」
「らんまちゃん、今日も可愛いねー。見てよ、これこれ。ミスリルナイフ」
「へぇー、見たこともない材質だな。じゃなかった、ですねー、これが巷で噂のミスリル?」
「そうなんだよ、高かったんだから。でも、らんまちゃんなら、いいよ。ほら。ちょっとだけなら触らせてあげる」
コブからミスリルナイフを渡されれば、それをミスリルの刃の部分を太陽光に照らしてみるらんま。その刃がプラチナや銀とも違う独特の光沢を放った。
「ほえ〜、鉄やはがねとも違う材質。それに金や銀よりも重くない」
「そうなのよ、これからはミスリル装備の時代ってね♪」
「まだ、ナイフしか持ってないくせによく言いますねー」
らんまから返されたミスリルナイフを大事にしまったコブが周りの常連客に野次を飛ばされていた。
ストロベリーパフェをテーブルに運び終えたらんまがオレのほうへ戻ってくる。
「あれが、噂のミスリル武器ってやつか」
「あぁ、流行しているって聞いたけど、ついにこの店にも持ってくる奴が現れたな。鋼や銀よりも耐久性も良いし、見たとおり、錆びによる経年変化も起きづらい。金持ちの間では流行するだろうな」
「ふむふむ」
「それに装備者の魔力を高める効果もあるが、魔術師が装備するには重すぎるので、店の客も言ってたが魔法剣士に最適の防具素材だそうだな」
「いいなぁー、達也。オレもミスリル装備ほじぃよお」
元が貧乏暮しなのだろうか、らんまの『無いものねだり』がはじまった。
「無理無理、あのナイフ一本だけでも、この店の売り上げ一ヶ月分以上はすると思うぜ」
「うへー、そんなに高いのかよ。コブのやつ、金持ちなんだな」
「今は原材料のミスリル鉱石が不足しているしな、供給過多になれば、安くなるだろうけど。その頃には街歩く冒険者のほとんど全員がミスリル装備を持っているかもな。ま、オレたちには不要の装備だよ」
そう、オレたちは魔王を討伐した勇者とである。武器なら、地下に厳重に保管した神器があるし、防具にいたってはチート性能のあぶない水着やブレイブアーマーを所有しているわけで、わざわざミスリル装備を買い揃える必要はなかった。
しかし、ミスリル鉱石は今は高値で売れるわけで、見事発掘できれば、大金持ちになるチャンスはあるとも、オレは考えた。
「まぁ、でも、ミスリル鉱石を探す旅ってのは金策としては悪くないかもね」
「ホントか?行くか?」
「ちょっと待って、計算してみる」
オレは手帳を開き、今月の喫茶PANDの売り上げを計算してみた。明日から一週間程度休みを入れても、生活費のほうはなんとか、なりそうだ。そもそも、魔王を討伐した勇者がなんで、こんな家計簿をつけながら、窮屈な生活しないといけないんだとは思ったが。
「明日から一週間くらいなら旅費の分をミスリル鉱石で補えば大丈夫かもな。そんじゃ、ミスリル鉱石発掘にいくか?」
「まじ?達也とまた、冒険。行く行くー、絶対、行くぅ!」
おいおい、らんま、その面でイクイクを連発されるとオレだけじゃなく店の客も興奮しちまうよ。
◆◇◆◇◆
そんなわけで、オレとらんまは再び、冒険というか、ミスリル鉱石発掘の旅にでかける事になったのであった。調べてみるとミスリル鉱石は各大陸で発掘されていて、この港町ソイツェストから船で行ける距離にミスリル鉱石が発掘されたという鉱山があった。まずはカザフ村へと船で行き、そこから南下したところのゼンベルグ地方の火山の麓にある鉱山に向かう事にした。
こういう世界で港町に住むというのは、元の世界でいうところの新幹線が停まる駅の最寄りに住むのと似てるな。アクセスが非常に便利だ。
オレとらんまは1週間程の旅であるため、必要最低限の荷物で出発した。当然のように神器も留守番だ。らんまはビキニアーマーに鋼の槍。オレは旅人の服のみ。マントはお揃いのものを用意した。オレたちは魔王を倒した勇者一向である事を隠して生活しているので、いかにもな格好は避けた。
この旅行のためではなかったが、また冒険をするときの荷物を減らすためのオレは新しい技も開発していた。その名も『オーラソード』
闘気のエネルギー波を剣や弓矢や斧の姿に変える技だ。これがあれば、武器を持ち歩かないでも、瞬時に戦う事ができる。移動でも戦闘でもチート技だ。オレがこの技をらんまに見せたときは、それで栓抜きの形も作れれば、瓶の蓋を開けるときに栓抜きがなくても開けれるなと呑気な事を言っていた。
朝に出発したので、オレたちを乗せた船はその日のうちにカザフ村に着いた。大きな河と山に囲まれたのどかな街のカザフ村は、数多くの冒険者で賑わっていた。事前に調べた情報だとカザフ村は温泉村として旅先としては有名だが、それほど、人で賑わう街ではなかったようだが。
日が暮れていたので村に着くなり宿屋に入った。もうオレとらんまは夫婦なので同じ部屋だ。
「なんか、久しぶりの冒険って感じがしてワクワクしちまうな」
「ふふ、らんまがそうやって喜んでくれるだけで嬉しいよ」
山羊仮面の魔道士・ゼノリスの動きには引き続き、警戒しなければいけないが、ミスリル鉱石発掘をしながら、他の地方の様子を知る事も必要な事ではあるから。
◆◇◆◇◆
翌朝、ゼンベルグ地方へ出発すると考える事は同じというか、村から鉱山へ行く山道は人でいっぱいだった。発掘の業者はもちろん、普段はモンスターを倒しているような冒険者たちが、ぞろぞろと鉱山に向かっていってる。
「あっちゃー、こりゃ無理だな」
まるでテーマパークの人気アトラクションなみの混雑具合。
「みんな、考える事は同じってことか」
「どうする、らんま、引き返すか?」
「うーん、いちおうは見ていくか」
オレたちも冒険者たちにまじって鉱山へと入っていった。ピッケルを持った人たちが、洞窟の壁という壁を削りまくっていた。
『おぉ? ミスリルでたか? なんだ、金かよ。金はおよびじゃないっつーの』
『こっちも出るのは金ばかりだ』
『掘り過ぎて、手が血豆だらけで痛ーっ』
『高い旅費でここまで来たんだ、ミスリル見つけるまで帰れまてん!』
鉱山を掘り合い怒声が飛び交う。もはやミスリルは、これまで最も貴重だった金よりも希少価値があがっていた。
「むぅー、こんなんじゃ、ちょっとでもミスリルが出たら、もう取り合いだな……らんま、帰ろう。これはもう、一週間、カザフ村に旅行に来たってことで」
「残念だけど、それもそうだな……」
らんまがガックリ肩を落として歩く。申し訳なかったが、オレたちはカザフ村へと、戻る事にした。