源太との戦闘訓練の後、春輝が白嶺に呼ばれて修行の空間に向かった。すると、そこには白嶺とローブを着た人物がいた。
「白嶺さん。この人は?」
「貴方の新しい“師”よ。貴方も知ってると思うわ。」
春輝が首を傾げていると、ローブを着た人物が春輝の前に一歩踏み出し、彼を頭の天辺から爪先まで見るとつまらなさそうにため息を吐く。
「白嶺、このような“小童”を鍛えねばならぬのか?はっきり言って時間の無駄だ。」
その言葉を聞いた瞬間、春輝は目を見開いた。
目の前の人物は自分の事を子供扱いし、しかも時間の無駄と言い放ったのだ。当然である。しかし、白嶺は笑顔で返した。
「まあまあ、そんな事言わないで下さい。この子はきっと強くなりますよ。」
「ふんっ。どうであろうな?わしから見れば“単なる子供”にしか見えん。何故兄者はこのような小僧を……。」
「・・・っ!」
自分に対する評価を聞いた春輝の顔はみるみると怒りの色に染まっていく。だが、彼はそれを必死に抑えた。ここで怒ってしまえば、自分を鍛えてくれた師匠に対して失礼になってしまうと思ったからだ。
しかし、それでも我慢出来ない部分もある。それは、自分を子供扱いする事だった。だから、彼は勇気を振り絞って目の前の人物に向かって言い放つ。
「お、俺はもう立派な大人です!!誰だか知りませんが、俺はそんなに子供じゃないです!!」
そう言った直後、春輝の言葉を聞いたローブの人物は一瞬で間合いに入ると、見えない早さで春輝の腹に掌底を撃ち込み、春輝を吹き飛ばした。
「ガハッ!?」
突然の攻撃に受け身が取れず、地面に倒れた春輝を見て、ローブの人物は彼の頭を踏みつける。
「ぐあっ!?」
「・・・大層な口を利くな?兄者から鍛えられ、多少強くなった程度で天狗になるな、小僧が。貴様なんぞ、有象無象の1人でしかない。」
踏みつけられたまま春輝にそう言うローブの人物。しかし、春輝は両手でその足を掴むと足首を折ろうとしたが、それも見切られて蹴り飛ばされる。
「ぐぅっ!?(なんだこの人、容赦が無さすぎる!それにこの声って……まさか!?)」
蹴られた勢いで地面を転がった春輝はすぐに起き上がると、ローブの人物に向けて走り出す。そして、右手を前に突き出すと拳を握って突きを放つ。
「うおおおっ!!」
「ぬんっ!!」
しかし、その攻撃も簡単に防がれてしまい、今度は逆に腹部に蹴りを入れられてしまう。
「ぐふっ!?」
再び地面に倒れる春輝は、ローブの人物を睨みながらもゆっくりと立ち上がり、構えると殴りかかるがそれも受け止めると春輝を蹴り飛ばす。
その後も春輝はローブの人物に立ち向かうが、結果は同じで彼に一方的に殴られたり蹴られたりされ続けた。数十分後、春輝は倒れ伏していたがローブの男はつまらなさそうにため息を吐く。
しかし、春輝はゆっくり起き上がり、肩で息をしながら目の前の人物を睨み付ける。痣だらけになりながらも、春輝は立ち上がり目の前の相手を見ている。
「ハァ……ハァ……。まだ、やれますよ……。俺はまだ戦えます……。」
「・・・ほう?根性だけはあるようだな。ならばわしに一撃でも入れてみよ。」
そう言うと、ローブの人物は口角を上げると春輝を見据えながら構えを取った。それを見た春輝も構えを取る。そして、互いに睨み合い、機会を窺っていた瞬間に2人は即座に術を出した。
「風遁・風切狐!!」
「水遁・水龍咬爆!!」
2人の術はぶつかり合うと相殺される。その後、お互いに間髪入れずに次の技を出す。
「火遁・業火球!!」
「水遁・水陣壁!!」
互いの術が再びぶつかると、爆風が巻き起こり水蒸気が起こるがローブの人物は腕を組みながら平然と立っている。その瞬間に春輝はその眼前に現れ、拳を振るった。
「はぁ!!」
その拳はローブの人物に止められたが、そのローブを着た人物が誰かは春輝の目にはっきりと捉える。
銀髪に赤い瞳をしたその人物を見て、春輝はある意味予想が当たったと言うような顔をしていた。
「やはり貴方でしたか。2代目火影……千手、“扉間”さん。」
「・・・何故わしだと分かった?」
春輝の言葉を聞いたその人物……扉間は質問すると、春輝は気にせずに言葉を続ける。
「初めは分かりませんでしたが、声と水遁の術で何となく気が付いて、それに、あなたの言う“兄者”は柱間さんしかいません。」
「よくそこまで見抜けたな。なるほど、噂の獅子堂ほどではないが、少ない情報でよく分かったものだ。」
「それはどうも。けど、さっきのあれ……“天狗”とか“有象無象”とか意外と傷付きますよ。俺だって鍛えてるのに。」
「鍛える、か。兄者や他の者がどのような鍛え方をしてるかはある程度聞いたが、それでは足らん。だが、わしはまだお前を認めてはおらん。」
「それは……。まあ、それはいいです。だったら、何をしにここへ?」
春輝がそう聞くと、扉間は真剣な表情を浮かべる。その顔から、何か重要な話があると感じ取った春輝は黙って待つ。
そして、数秒後に扉間の口から衝撃的な一言が出る。
「わしは……貴様に忍を
「・・・えっ!?」
突然の事に春輝は驚いた表情を見せるが、扉間はそんな彼を無視して更に続ける。
「貴様には才能が無い。どんな鍛え方をしてるのか知らんが、このままでは貴様はいずれ死ぬ事になるだろう。だから来た。だからわしが貴様を鍛える必要は無い。」
「なっ!?ふざけないでください!!俺は……絶対に忍をやめるつもりはない!!俺は……!」
「……ふんっ、ならば聞くがお前は何故忍になった?貴様よりも有能な忍は掃いて捨てるほど居る。それなのに何故忍に拘る?」
「そ、それは……!」
「言っておくが、“家族を守りたい”だとか“仲間を守る”という理由は意味を成さん。」
「えっ!?」
「確かにそういう理由で頑張れる奴も中にはいるだろうが、殆どは違う。金の為、名を上げる為、女を自分のものにする為、権力を得る為、あるいは単に戦いが好きだから。色々あるが結局は皆、自分勝手に動いているだけだ。そんな理由の為に命をかけるなどバカらしいにも程があるぞ。」
「・・・!!」
春輝は何も言い返せなかった。何故ならその通りだと思ったからだ。今まで戦ってきた敵達には様々な欲望があり、春輝もそれを感じていたが自分はただ、忍になるという事しか頭に無かった。
それが、この目の前にいる人物によって完全に打ち砕かれた。だが、それでも彼はまだ折れてはいなかった。
(確かにそうだ……。でも!)
「わしや兄者、その後に続いた影達はそれぞれに意味を持っていた。だが貴様のはただ格好つけて生きようとする子供にしか見えん。その証拠に貴様は幾度も間違いを冒している。」
「うぅ……そ、それは!!」
春輝は否定できなかった。これまで戦った相手に対して何度も油断したり、相手の罠に嵌ったり、時には敵の策に利用されたりした事もあった。
扉間の言葉は正論であり、反論の余地が無かった。
「もう一度言う。貴様は忍になるべきではない。大人しく引き下がれ。」
「・・・嫌です。俺がどれだけ言われようと構わない。でも、家族が侮辱されるのは許せない!!」
春輝の叫びを聞いた扉間は溜め息をつくと、呆れたような目で見る。
「はぁ……ここまで馬鹿とは思わなかった。」
「・・・っ!」
「貴様が何を言おうと無駄だ。それに言ったはずだ、貴様に忍の才能は全く無いと。」
「くっ……それは……!」
「はっきり言えば、兄者やわしが生きてればお前のような奴に期待する事は無かった。」
「・・・っ!!!」
春輝はその言葉を聞くと怒りの形相で扉間を睨みつける。しかし、扉間は気にせずに言葉を続ける。
「何故、そこまでして意地を張る?貴様にそこまでさせるのは何なんだ?」
「・・・それは……」
扉間の質問に春輝は言葉を詰まらせる。すると、扉間は振り返るとつまらなさそうに言った。
「どうせ答えられないんだろう。ならさっさと失せろ。」
「ぐっ……!」
春輝は拳を強く握り締めながらも、春輝はゆっくりとした足取りで家へと帰っていき、扉間はそんな彼の後ろ姿を静かに見送りながら、異空間へと消えて白嶺も帰っていった。
その日の夜、春輝は自室で横になっていた。春輝にとって今日ほど最悪な日はなかった。自分がいかに無力なのかを思い知らされたのだ。ゆきかぜや不知火と食事をせずに部屋に籠ってしまい、心配されたが、立ち直る事が出来ずにいた。
だが、扉間に言われた事は事実であった。自分には忍としての才能が全く無く、このままでは近いうちに下手を打てば死ぬ事になるだろう。
そう考えると、悔しくて仕方がなかった。
(俺は……何のために強くなった?誰を守るために?)
春輝は心の中で呟きながら天井を見つめながら、そのまま眠りに着くのであった……。