春輝が大きな悩みの壁に衝突していた頃、三尾と謎の少女のいる湖では腕を珊瑚状にされた荼毘は、忌々しそうに湖の方を睨んでいた。
「あのクソガキ、俺の手をよくも……!」
「強引なのはダメよ。レディにはデリケートに相手しなくちゃ。ここからは任せて。」
「殺れるのかよ?」
荼毘の問いに金髪の女性は楽しげに笑みを浮かべながら答えた。
「あら平気よ。少し世間話してくるついでに殺るから。」
◆◆◆
次の日、春輝は学園を連続して休んでしまい、きららと薫と言った中の良い面々は若干不審に思っており、特に同じ人柱力である真達は九喇嘛から事情を聴いていたので、余計に心配していた。
そんな中で薫はきららと共に春輝のお見舞いに行くといって彼の家に行くことにしたのであった。
「あの……水城くん、大丈夫かしら?」
「まあ、多分ね。けど、なんで休んでるのかしら?」
薫の言葉にきららはそう返すが、どこか心配そうである。
そんな会話をしながら二人は春輝の家に向かって歩いて行くと、家の前までやって来てインターホンを押す。しかし、誰もでなかった。
「いないみたいね……」
「仕方ないわね。明日学校来た時にでも様子見ようか」
そう言って帰ろうとしたその時だった。不意に玄関の鍵が開き扉が開かれたのだ。そして中から現れたのは……
「……あぁ、きららと芳野さんか。」
「あっ!春輝、って!?」
「ど、どうしたの水城くん!?」
春輝は目の下に隈を作っており、フラフラしながら出てきた。その姿を見た二人は驚いて尋ねる。
「いや~、その、ちょっと徹夜しちゃってさぁ……。もう眠くてしょうがないんだよね……。あはは……っ。」
疲れきった様子で笑いながら、欠伸をして涙を浮かべながら答える春輝。そんな彼に2人は若干驚いたように声を掛けた。
「な、なにどうしたの?徹夜なんて珍しいじゃない。何かあったの?」
「いや、別に大したことじゃなくてさ……。まぁ色々有って、2人はどうしてここに?」
春輝の言葉を聞いたきららと薫は取り合えず家に上がらせて貰うと、春輝は2人にお茶を出した。ゆきかぜと不知火は任務で居ないため、春輝しかいない。
「それで?何で学園を休んでるの?あなたらしくないわよ。」
「水城くん、悩みがあるなら話して。力になれるかは分からないけど、アドバイスくらいなら出来るから。」
2人の真剣そうな表情を見て、少し困りながらも春輝は正直に言うことにして口を開いた。
「ありがとう……。」
春輝は2人に対魔忍を、忍を続けようか悩んでいることとその理由となった人物に忍の才能はないと言われたことを話した。
それを黙って聞いたきららはため息をつくようにして答えた。
「……あんたがどうしようと思ってるかは何となく分かったわ。まあ確かに才能ないと言われて悩む気持ちも分かる。でもね、あたしだって同じ状況になったら悩むと思う。だけどさ、それはただ自分が諦めてるだけじゃん!」
きららの一言を聞いて、今度は春輝の方が目を見開く番であった。そんな春輝の反応に気付いたのかきららは言葉を続けた。
「春輝は春輝なんだよ!?誰だか知らないけど、そんな奴の言うこと気にしたら駄目だよ!春輝は任務やってる時や修行してるとき誰よりも一生懸命だったのに、そんな簡単に辞めるなんて言うの!?らしくない!!」
「きらら……。」
「水城くん、鬼崎さんの言う通りだよ。誰かは知らないけど、一番は水城くんの気持ちだと思う。水城くんは知らないかもしれないけど、貴方は周りから認められてるんだよ。だから、立ち直ってほしいと思う。」
「芳野さん……。」
2人の言葉を受けた春輝は自分の中で整理をつけると言って、春輝は2人の帰りを見送った。その中で春輝は自分がどうしたいのかを考えることにした。
「(俺がどうしたいか……か。俺は正義のヒーローとかじゃない。俺はただ忍が好きだったんだ。だけど、今は……ただ好きなんじゃない。好きな忍を極めて、母さんもゆきかぜも、“大事なものを護るため”に俺は……!!)」
そんな事を考えながら部屋に戻った春輝は再び布団の中に入るとすぐに深い眠りについたのであった。
そしてその翌日こと。春輝は白嶺の待つ異空間へと来ていた。そこには扉間と兄である柱間の姿があった。
「どうだ、辞める決心は着いたか?」
「……いいえ、辞めません!!」
「ほお?何故だ。お前でなくても忍やそれに勝る強者は大勢いる。それなのに何故忍を続けようなどと思うのだ?訳を話せ。」
「それは……。」
扉間の質問に対して春輝は、自分の考えを口に出した。
「確かに自分は忍には向いていないのかもしれません。それでも俺はこの力で皆を、家族を、大切な人を守るために使いたいんです!何より俺は忍者が好きです!俺はそれを極めたい!」
春輝がそこまで言い終わると扉間は小さく笑みを浮かべながら、腕を組んだまま話を始める。
「そうか……。だがそれではいずれまた壁にぶつかり、挫折するぞ。その時にお前は何を支えに生きていく?何の為に戦う?」
「俺がこれから先挫けそうになったときは、仲間に支えられながら支えます。そしていつか必ず壁を乗り越え、夢を叶えて見せます。その時まではどんな敵にも負けません!!」
春輝の言葉を聞いた扉間はしばらく黙っていたが、再び口を開く。
「ならば証明してみせろ。貴様がわしに勝てたなら……認めてやろう!!!」
扉間が指パッチンをすると同時に、巨大な水の龍が現れた。
それはかつて戦った柱間の木龍に酷似していたが、それよりも更に巨大であり凄まじい圧力を放っている。その大きさと迫力は以前とは桁違いであり、最初に出会った扉間とは別物と言えた。
「貴様の言う壁を乗り越えると言う言葉!それは楽ではない!
乗り越えられるのなら、己の力で、心の強さで証明して見せろ!!水遁、大水龍弾!!!」
巨大な水龍は口を開けて春輝に襲いかかる。その瞬間、春輝の瞳が六芒星の輝きを見せ、印を結ぶことなく同じ術を発現した。
「"水遁・大水龍弾"!!」
巨大な水龍が春輝の背後から現れ、扉間の水龍と春輝の水龍がぶつかり合ったが、打ち消されたのは……扉間の水龍であった。
「……なるほど、やはり面白い男だなあやつは……。」
「これは……!?」
驚く春輝。そんな彼に白嶺が鏡を見せると、春輝の瞳は六芒星の線を結んでおり、春輝はますます驚く。
「どうやら、扉間様に勝ったみたいですね?」
「あ、ああ。まさかあんな風になるなんて……それにこの眼はいったい。」
春輝の問いに白嶺が答えた。
「おそらく、それが貴方の新しい力なのでしょう。ですがその力は貴方自身を強くしたわけではありません。貴方の心の力が生み出した新たな可能性。貴方はその力をどう使うつもりですか?」
「……俺は、俺に出来ることをやる。それで忍を極めていく。どんなことがあっても負けないようにする!柱間さん、扉間さん!これからも修行をお願いします!」
春輝がそう言うと柱間は心底楽しそうに、扉間はやれやれと言った様子で呆れながらも笑いながら修行を始めるのであった。
その後、春輝は家に帰ると春輝はゆきかぜや不知火に心配を掛けたことを謝った。2人とも突然の事に戸惑ったが、2人は立ち直った春輝を見て安堵したのであった。
そして、春輝はもう一人の自分が居る空間に入って、彼と睨み合っていた。
『やぁ、自分からここに来るなんて……どうしたの?』
「いや、お前にお礼を言いに来たんだよ。」
『お礼?何の話し?』
「お前、俺に言っただろ?人間はみんなエゴイストだって。確かにその通りだわ、俺も自分の事しか考えてない……いや考えなかった。」
『……。』
春輝の言葉を黙って聞くもう一人の自分、しかし、春輝は構わずにそのまま言葉を続ける。その顔は心底楽しそうであった。
「でもさ、お前のおかげで少しだけ分かった気がするよ。自分がどうしたいのかって事が……。」
『……何笑ってんだよ。』
「別に?ただ、お前とこうやって話すのは初めてだからな。ちょっと新鮮だなと思って。」
春輝がそう言うともう一人の自分はため息を吐いて、春輝に問いかける。
『んで、結局何が言いたいんだい?』
「ああ……つまりな。俺は俺だ!!お前なんかにゴチャゴチャ言われたくないっての!!!」
そう言って春輝は拳を突き出した。その瞬間に九喇嘛がその場に現れ、もう一人の自分に牙を剥いて睨み付ける。
【こいつか。何か裏でコソコソ動いてたのは。】
『尾獣……九尾の九喇嘛。そんなデカいの出して勝ったつもり?このエゴイスト!偽善者!好い人気取りの御人好し!!』
もう一人の自分は春輝にありったけの罵声を浴びせていくが、春輝はそれを気にすることなく返す。
「だから?」
『えっ……?』
「お前の言うことは正しいかもしれないけど、それでも俺には関係ないね。俺は俺のやりたいようにやる!!例えそれが他人から見て悪であってもな!!」
その言葉を聞いたもう一人の自分は、しばらく黙っていたがやがて笑い出す。
『ふ……ははははは!あっははは!!やっぱり面白いよ春輝!!最高だよ!!それじゃあ僕も僕のやり方で行かせてもらう!!せいぜい頑張りな!!僕はずっと見てるから!!キミの行く末を!!』
そう言ってもう一人の自分は消えていき、入れ替わるようにして春輝は現実世界に戻った。時間は朝の6時。目を覚ました春輝は顔を洗いに洗面所に向かうのであった……。
◆◆◆
その頃、三尾と謎の少女のいる湖。
そこは軍服を着た女、ミサキによって氷と毒に覆われた死の領域と化し、三尾も少女の体内に呑み込んで水中に隠れて逃げるのが精一杯であった。
「さぁ、私をもっともっと楽しませて❤」
そんな三尾を見て、ミサキは楽しげに笑みを浮かべていた。