すみません!
葵side
「(外が騒がしい……。何かあったのかな……。)」
磯嘸の中にいる私には外で何が起こっているのかは分からない。
家を出てから私は磯嘸とこの場所に来て、ひっそりと静かに暮らしていた。磯嘸は優しくて、私をいつも護ってくれたし、何より一緒にいて楽しいと思えたし、何より気持ちが暖かくなった。
変な力に目覚めてからの私は、化け物と呼ばれてお父さんには殺されそうになるし、お母さんにはお金と引き換えに売られそうになるし……もう全てが嫌だったけど、磯嘸はそんな私を優しく助けてくれた。
でも磯嘸と静かに暮らしていたのに、つい最近色々な人たちが来たせいで騒がしくなった。
私を殺しに来た人、私や磯嘸を狙って来た人、力を狙って来た人……色々な人が来たせいで磯嘸はその人たちを追い払ってくれた。けど、そのせいで磯嘸には辛い思いをさせちゃって、本当に辛かった。
でも今回は今までの人たちより強い人が来て、磯嘸の中に避難したけど、それでも外の騒ぎはまだ続いている……。
「(もう嫌だ……!放っておいて……!私と磯嘸の居場所を……汚さないで……!!)」
◆◆◆
「ッシャアアアアァァァァッ!!!」
源太は春輝の分身と共に荼毘とミサキ相手に激しい戦闘を繰り広げており、荼毘と源太の戦い、その余波で周囲の氷は溶け、辺りは木々が折れ、僅かに燃え残りが燻る中、源太の凄まじいラッシュが荼毘を追い込む。
荼毘は源太の“火遁武芸”を避けているが、源太は構わずに迫っていた。
「ッシャアアアアァァァァッ!!!オラオラオラッ!」
「っち!暑苦しい野郎だな。」
「オラオラオラッ!逃げんな!男は拳で語り合うもんだろうがよ!!!!ッシャアアアアァァァァッ!!!」
「っち!脳筋野郎が……。失せろ!“鼠……火玉”!!」
荼毘の放った蒼白い大量の鼠。それは荼毘の蒼白い炎で出来た物であり、その炎がぶつかった木々は黒煙を立ち上らせて燃えながら倒れていき、さらにその蒼白い炎はまるで伝染するかのように拡がっていた。
それを見て源太はその蒼白い炎に“違和感”を感じ、即座避けた源太は燃えた木々を、目を細めながら見て思考していた。
「っ!?(あの蒼白い炎……普通の炎じゃねぇな。恐らく何か“別の炎”だが、あの炎は“ヤベぇ”……!何がヤバいとか、どうヤバいとか、そういうのじゃねぇ。触れたら骨まで焼かれる。それにあの炎、何かヤバい!)」
「どうした?逃げるだけかぁぁ!!」
「んなわけあるかぁ!!!」
「逃げてねぇよ!!“光炎”!!」
荼毘の放った蒼白い炎と源太の拳に纏った手甲脚絆“烈火”から圧縮した直線の炎、その2つがぶつかり合い爆発する。粉塵が舞い、けたたましい爆音が辺りに響く中、源太の中にいる穆王は荼毘の中にいる又旅に必死に語りかけていた。
【又旅!又旅!!聞こえてますか!?又旅!!】
穆王が話しかけても又旅は応えることはなく、穆王は源太の援護をするために語りかけるのを止め、大量の高温蒸気を吹き上がらせて荼毘と距離を開けさせた。
「(おい穆王、どういうつもりだ!?勝負の邪魔を!?)」
【源太!彼もあなたや春輝と同じ存在です!しかし、聞こえないんです!】
「(あ?何が聞こえないんだ!?)」
【又旅の声です!彼女の声が聞こえない!】
「(あ?それってどういう……)っ!!」
源太が僅かに気を逸らした瞬間に源太に向かって“鋭い爪”らしき物が伸びて迫ってきていたが、源太は咄嗟に体を捻って避けると、その鋭い爪を指から伸ばしていた荼毘の方を見る。
「テメェ、そんな事も出来るとはな?器用な奴だな。」
「生憎、炎だけじゃねぇんだよ。“化け猫の力”で傷もすぐに治るし、自在に爪も伸ばせる。ちなみに切れ味は本物だ。」
荼毘はそう嗤いながら言うと、源太は荼毘に向かって突貫を仕掛けるのであったが、その余波で影分身は2体とも消えてしまい、ミサキは磯嘸の隠れている湖に近づいていった……。
◆◆◆
その頃、春輝、薫、咲弥、藤孝、紫は“冥”の新たな幹部である蒼都と対峙しており、互いに相手を警戒していた。その中で紫の治療を終えた藤孝が春輝に話しかける。
「春輝、篠宮。あの蒼都についてなんだが……。奴の能力は“鋼遁”、近距離パワー型で八津教官の大斧ですら傷を与えられてない。強度と硬度は並みじゃない。しかも体付き……あれは恐らく拳法のそれに近い。」
「近接戦の拳法使い、その上“鋼遁”まで……。この上なく厄介な奴だな。」
「確かにそうですね……。」
静かに佇んでいた蒼都、しかし、即座に姿を消すと真上から咲弥に向かって鉤爪を降り下ろすが、それは同じく“鋼遁”を纏った春輝の腕によって弾かれて後ろに飛び退くが、防いだ春輝の腕からザシュッ!と出血したのだ。
「なっ!?」
「(こっちは強化した鉄塊を使って防御したんだぞ!?それなのに何故?……まさか、奴の鋼遁の方が上なのか?!)」
鋼と鉄……この2つの違いがあるとすれば鋼は鉄よりも強度と靭性(粘り強さ)、加工性に優れているという点であり、中に含まれている“炭素量”によって違ってくるのだ。
鉄は炭素量0.02%未満の金属で、脆く酸化しやすく加工が困難であり、鋼は炭素量が多いと硬くなる傾向があるが、その反面、粘り強さが弱くなるという欠点がある。
しかし、人間を鉄や鋼と同じ位にまで硬化させるには相応のエネルギー量と精密なコントロール、そして集中力が必要となり、特に意識しすぎると動けなくなってしまうという欠点が生まれてしまう。
しかし蒼都の鋼遁は通常とは別であった。
「……どうやらキミも多少は同じような力が使えるようだね。それなりに体術は出来るようだが、まだまだといった所だ。」
蒼都は鋼遁を使う際に“一定の箇所”に“何割”という分け方で鋼遁を使っており、その中で硬度や強度を即座に変えることができるため、オリハルコンに並ぶ強度を得ることが出来る。
「キミ達では僕には勝てないよ。」
「そいつはどうも……!あと、ナメるのはやめてくれないか!!(土遁、
印を結ぶと蒼都の足元から圧縮された土壁が蒼都を、拘束するように覆う。しかし、蒼都は全ての細石を砕くと何事も無かったように出てくる。
その余裕そうな雰囲気を見て、春輝は苦笑し全員が警戒する。
「どうした?早く掛かってきたらどうだ?僕は本気すら出してないんだがね。」
「こっちとしては聞きたいことがあるんだが……お前ら“尾獣”揃えて何する気だ?あいつら使って戦争でもするのか?」
春輝の問い掛けに蒼都は眼を細め、睨み付けていく。
「……それを答えてどうする?キミ達には関係無いだろ。僕達の目的は“尾獣”が全て集まれば叶うんだ。“大いなる果実”が手に入ればな……。」
「「「「大いなる、果実?」」」」
「(大いなる果実……まさか、新樹の実か!?けどあれって……。)」
「キミ達には関係無い事だ。まぁそもそも……キミ達にはここで消えてもらう。」
蒼都はオリハルコン製の鉤爪をギラリと光るのを見て、春輝達は得物を強く握る。すると、遠く源太達のいる場所で巨大な火柱が立ち上り、湖の方からも水柱が上がるのが見え、それを見た春輝達と蒼都は動きを止める。
「な、なんだあの炎は!?」
「まさか……源太になにかあったのか!?(影分身も消えた!?)」
「……なるほど。分かった、今から合流する。」
蒼都は後ろに大きく跳んで木に飛び乗ると後ろを向く。それを見て藤孝が叫んだ。
「おい、どこ行く気だ!?」
「悪いがキミ達と遊んでいる暇はない。僕らにはやるべき事がある……ここでキミ達を倒すよりも、早めに三尾を手に入れないといけないからね。」
蒼都は即座にその場から荼毘達の下へと駆けていったが、春輝達は動けずにいた。春輝は紫に近付く。
「紫先生、源太が危ないかもしれません!今すぐに向かった方が!?」
「分かっている!だが、“尾獣”というのがどのような存在なのか分からない以上、その“尾獣”というのが出てきたら即座に撤退する!行くぞ!」
「「「「了解!!」」」」
紫の指示に4人は頷くと、即座に源太の下へと駆けていく。そして、源太の下へ駆けていくとそこには火傷や切り傷だらけで片膝を地面に付きながら、肩で呼吸している源太がおり、春輝は即座に雷球を放つ。
その場にいた荼毘と蒼都はその雷球を見て後ろに跳んで避け、春輝達は即座に源太の近くに集まる。
「源太、大丈夫か?」
「あぁ、何とかな。助かったぜ。」
「お仲間の到着か……。おい、鋼野郎。何で倒さねぇんだよ。」
「いつでも殺せると思った結果さ。それよりミサキは?」
「……“彼処”だ。」
「な、なんだ!?」
荼毘が湖の方を見るとゴゴゴ……!という音が響き、そして、ザッパァーーーンッ!!と湖の中から磯嘸とその背に乗っているミサキがいた。
【このぉ!!落ちろぉぉぉ!!!】
「元気が良いです、ね……!!」
磯嘸は必死に暴れながらミサキを振り落とそうとするが、その体には“鎖”のような物が巻き付いており、まるでその“鎖”は磯嘸の体を拘束しているようにも見えたが、それ以上に春輝の中にいる九喇嘛は警戒心を牙を見せながら唸っていた。
【この感じ……!】
「(九喇嘛、どうした!?)」
【嫌な物だぜ……!まるでわしらを“ペット”みたいに縛るのを見るのは……ヘドが出そうだ!春輝!あの鎖壊せ!!見てて不愉快だ!!!】
「(あ、あぁ!)風遁、螺旋」
「させるかよ!」
荼毘が蒼炎を放つと春輝達の下に炎の壁に包まれ、春輝達が炎の熱波による熱さで動けずにいると、必死に暴れる磯嘸に対してミサキは印を結び、手を磯嘸に乗せて術を発動する。
「封印術“尾獣強制契約”!!」
【ぐ……!!ぐあああああ……!!は、春輝!!葵を……葵をお願い!!】
「!!?」
磯嘸はそう言うと、自身の人柱力である少女、葵を春輝達に向かって水の球体に包んで吐き出す。春輝は葵を包んでいる水球を跳んで横抱きにすると、何とか着地する。
その中で磯嘸の体には封印式らしき模様が全身を覆っていくが、その中で磯嘸は静かに眠っている葵を見て、片方の眼から涙を流しながらも優しげに微笑むように首を動かす。
【葵……。ごめんね、さような……----】
磯嘸の最後の言葉に、葵は涙を静かに涙を流した。
「マジ、かよ……!あの女、なにをしたんだ!?」
「分かりません……!でも、彼らの目的は“尾獣”という生き物ということですね。」
「それにしても酷い。無理矢理鎖で縛るなんて!」
藤孝が驚き、咲弥が納得し、薫が憤りを覚える中で、春輝は水球から解放された葵を地面に寝かせる中で湖の水を使って蒼炎を消すと、目の前にいる荼毘達を睨み付ける。
その中で磯嘸を封印したミサキは荼毘達の下に降りていくと、手をコキコキと鳴らしていく。
「どうだ、ミサキ。あの亀を受け入れた感想は?」
「……違和感は若干ありますが、それでもしばらくしたら馴染むでしょう。」
「これで2体目だな。残りを早く見つけなければ。」
「……お前ら、何が目的なんだ?磯嘸に何をしたんだ!?」
春輝の問い掛けにミサキはクスクスと笑いながら答え始めた。
「我々の目的は“尾獣を全て手に入れる”こと。そうすれば“目的の物”が手に入ります……そして三尾、いや磯嘸でしたか……磯嘸なら私の中にいますよ。ちなみに強制契約ですので、宿主は死にませんよ。詳しくは知りませんけど。」
「“化け猫”と“大亀”が手に入った。残りの尾獣も手に入れてやるつもりだよ。」
「そうかい。けどよぉ、ここでお前らぶっ倒して……2体とも解放してやるよ!!!」
春輝は風遁を纏うと3人に突貫していく。
荼毘と蒼都は蒼炎と武器である鉤爪を構えるが、ミサキは前に出ると右手を磯嘸の甲羅を纏うと春輝の拳とぶつかり合う。その灰色の甲羅を見た春輝は驚愕する。
「なっ!?それは!?」
「馴染むのに時間は掛かるとは言ったが、ある程度の力は引き出せるんだ……珊瑚掌!」
「っ!?がはっ!!」
ミサキが春輝の腕を弾くと左手で掌底を鳩尾に当てた。すると、春輝の鳩尾から白い珊瑚が拡がり始めたのであるが、影分身を生み出すと鉄塊を纏った拳で殴ると破壊された。
すると、ミサキは両手の甲羅を消すと黒い亜空間を生み出した。
「では、私たちは帰りますね。」
「またてめぇらを倒しに来てやるよ。獅子気取りの奴らにも宜しく伝えとけ。」
「失礼する。」
「ふざけんな!待て!!」
「春輝待て!?あいつらの事は後回しだ!これ以上は深追いするな!」
「藤孝……!くっ!!」
藤孝に止められ、春輝はその場に止まると拳を強く握って葵を抱えると、学園へと戻り毒などが入っていないかを病院にて精密検査を受け、葵は病院にて保護される事となった……。
◆◆◆
人気がない今は使われてすらいない日本の地下。そのさらに下には巨大な穴があり、そこに“冥”の本拠地があり、その中には1人の包帯を身体中に巻いた人物が1人、壁に飾られた石板を見て嗤っていた。
石板はカタカタと揺れており、そこに描かれていた9体の動物……“狸”、“猫”、“亀”、“猿”、“鹿”、“蛭”、“甲虫”、“牛”、“狐”の中で“猫”と“亀”の絵が紅く光り反応していた。
「我々の手元に尾獣が……2体。それだけでこんなに強く反応するとは……。
これが全て揃えば……!だが、まだだ……!まだ六と七の居場所が分からん。
だが……必ず……ふふふっ!!!ふっふっふっ!!」
包帯を巻いた男……“冥”のリーダーは石板を見ながら怪しく凶悪な笑みを浮かべ、後々の未来を想像して嗤うのだった……。
改善点、修正点などあれば送ってください。