紅 藤十郎との激しい戦闘から一ヶ月後の事。春輝は凄まじい回復力と隠れて行っていた医療忍術の効果によって皆の予想よりも早く退院し、学園に復帰したのである。
まさか僅か一ヶ月で退院するとは誰も思っていなかったので、不知火やアサギ達教員は驚きで言葉を失って呆然としていた。春輝はアサギから話を聞きたいと呼ばれて、彼女の待つ理事長室へと向かうと、そこにはアサギとさくら、紫が来ていた。
「全く、全身粉砕骨折して重傷だったのに、何で一ヶ月で退院出来たのかしら?お医者様や沙希
が頭を抱えてたわよ。まさかまだ力を何か隠してるのかしら?」
「あ、あははっ……た、たまたまじゃないですかね?」
「……まぁそれはいつか聞くけど必ず教えてもらうわよ?取り敢えず今は授業に集中すること。」
「はい!失礼します!」
アサギにそれだけいうと、春輝は一礼して部屋を出ていく。すると、さくらが耳打ちする。
「良いのお姉ちゃん?春輝くんから詳しく聞かなくても?」
「本人が言いたくないのなら、その時を待てばいいだけよ。」
「それはそうだけど……ムッちゃんはどう思う?」
「藤十郎に勝ったというのは、まぁ信じられないが……本人が言いたくないのなら、待てばいいだろ。それよりも仕事に戻るぞ!」
「あぁ〜ん!ムッちゃん痛いよ〜!お姉ちゃん助けて〜!」
「いってらっしゃい……ふぅ。」
アサギはさくらと紫が部屋を出ていったのを確認して、彼女は自身の仕事に取り掛かったのであった……。
◆◆◆
一方、その頃春輝はというと凜子と達郎、ゆきかぜと共に教室に向かっていた。3人は春輝が大怪我をして運ばれたのを見た時、本気で心配し涙を流した。
特にゆきかぜはお見舞いの時には不知火に駄々をこねて一緒に何度もついてきたほどであり、凜子と達郎も同じであり2人と一緒に見舞いに着いて来たり、きららも見舞いに来て、その際にゆきかぜと火花を散らせる事が多くあったが……。
「無事に退院できて良かったな、春輝。」
「ありがとう、凜子達には心配掛けたな。ゆきかぜやきららもありがとうな!」
「無事に退院出来て良かったです!ねぇ、ゆきかぜ!」
「うん!」
4人はそんな事を話しながら教室の前に着くと、そこで春輝達を待っていたのは高等部の生徒達であった。その全員が明らかに春輝の事を睨んでいる。
春輝が首を傾げていると、1人の大柄な生徒が春輝に歩み寄ってきた。
「お前が水城 春輝か?」
「そうですけど、あなた達は?高等部の人、ですか?」
「あぁ、そうだ。しかしこんなガキが本当に紅さんに勝ったのか?そんなに強そうには見えねぇな。」
大柄な生徒の言葉に他の高等部の生徒達が笑みを浮かべる。
「春輝、行こう。この人達よりも授業だ。」
「?そうだな「そうはいかねぇな!」っと。」
春輝は自分達に向かって殴り掛かってきた生徒の拳を避けると、3人から離れて後ろに躱すと、その生徒以外の者達が壁となって辺りを囲んだ。
「これはいったい?」
「お前が中等部の眞田や上官である紅さんに勝ったっていう噂を聞いてなぁ。……ガキが調子づくといけねぇから今から社会の厳しさを教えてやるんだ。」
「いや、これってただのイジメじゃないですか。」
「はっ!ガキの癖にうだうだ言ってんじゃねぇよ!今から、世の中の厳しさを教えてやる!!覚悟しやがれ!!」
そう言うと大柄な男子生徒は、春輝に襲いかかろうとする。
春輝も迎撃態勢を取ろうとした瞬間、大きな影が現れその男子生徒の頭を掴み上げた。
「あが、あがががっ!?」
「お前ら、だいぶ面白そうな事してるじゃねぇか?あぁっ?」
「「「「く、紅教官!?」」」」
「藤十郎さん!」
「おぉ、春輝。元気そうで良かった。まぁ、それは良いとして……お前ら、随分楽しそうじゃねぇか?年下大勢で甚振ろうとしてそんなに楽しいか?」
「い、いや、それは。この坊主がアンタに勝って、それで調子に乗らねぇように「は?」ひぃっ、す、すみません!?」
「はぁ……お前ら、ズレてるぜ?こいつはなぁ、そんな小さい事はしないし、そんなことを考えてもいないぜ。お前らみたいに玉の小さい事はしねぇよ!」
「け、けど!」
納得がいってない生徒の一人が未だに食いつくが、藤十郎はその生徒を睨みつけると、睨み付けられた生徒は腰を抜かして尻餅をついてしまう。
それを見た藤十郎はため息を吐いて、掴んでいた男子生徒を放り投げると、彼らを睨みつける。すると生徒達が作った聞こえてきた足音に振り向くと、そこには赤い鎧を身に纏った者達を率いている眞田 焔がいた。
火遁衆である。
「「「「か、かかか、火遁衆!?」」」」
「良いか?もし今後こいつやこいつの仲間に手ぇ出したら、俺"達"がぶっ潰す。」
「そん時はあたしも混ざるからな?覚悟しとけよ?」
「「「「ひ、ひぃぃぃぃっ!!す、すみませんでした〜!!」」」」
春輝を取り囲んでいた生徒達は、火遁衆を見た途端にまるで恐れるように逃げていき、それを見ていた生徒達は口をあんぐりと開けていた。
それを見ていた春輝に藤十郎は近づくと、目線を合わせて微笑む。
「大丈夫だったか?春輝。」
「はい。ありがとうございました。」
「あぁ。あぁいう奴ら多くてな、それより……お前、あいつが殴りかかって来ようとした瞬間に、構え取って迎撃しようとしてたろ?」
「……まぁ、はい。すみません。」
「いや、責めてるわけじゃねぇよ。しかし、お前にはつくづく驚かされるなぁ。俺や焔には勝っちまうし、さっきの連中にビビってもいなかったし……お前、やっぱ面白いわ。」
そう言うと藤十郎は顎に手を置くと、う~んと考え込むと……ある事を思い付いた。
「そうだ!春輝、お前今度俺ら火遁衆のやる"特別任務"に同行しろ!そこで俺が鍛えてやるからよ!」
「はい?」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」」」」
藤十郎の言ったこの一言に凛子達、初等部の生徒達、そして騒動を聞きつけて駆けつけたさくらが驚きで声を挙げるのだった……。
ちなみに火遁衆の特別任務に誘われたと不知火に春輝が話すと、不知火は笑顔で手をプルプル震わせながら小声で
「……あの男、どうしてくれようかしら……。」
と、呟いたらしいが春輝は聞かない事にしたのであった……。
◆◆◆
その頃、五車学園では藤十郎の春輝に対しての特別任務への勧誘の話がアサギに向かい、その話についての騒動が起きており、アサギは藤十郎を呼び出していた。
「藤十郎、あなた何考えてるの!?まだ初等部の子を特別任務に参加させるなんていうなんて!!」
「何だよ、なにか問題があるのか?あいつの実力なら特に問題はないだろ?それに、遅かれ早かれ任務には出るんだしな。」
「それはそうだけど、担当上忍も決めていないのに危険だわ!それに、特別任務には危険が伴うのよ!?」
対魔忍にはいくつかの任務が政府から言い渡される。
種類としては"潜入"、"暗殺"、"諜報"などがあり、その中でも魔族や敵対組織との戦闘が起こる確率が大きいが、その中でも藤十郎の言った"特別任務"にはかなりの危険が伴う。
特別任務の内容とは、魔族が絡んでいる企業や組織に入り込み、その存在を討ち滅ぼす、という物であり、非常に危険とされていて、上忍と選抜された者達でしか受けることのできない任務である。
「あなたねぇ、いくら彼が強くてもまだ初等部なのよ!?何かあれば、どう責任を取ると言うの?」
「その時は俺が全責任を持つ!せっかくの才能があっても、それを燻らせておくのは、良くないだろう。」
「あのねぇ……はぁ、まぁいいわ。不知火には私から説明しておくけど、無茶をさせないようにね。まだ彼は幼いんだから。」
「分かってるっての。そこまで無茶はさせねぇよ、それじゃあなアサギ。」
藤十郎はそれだけ言うと学園長室を出ていき、アサギはその背中を見ながらため息を吐くのであった……。