春輝と きららが交わり、百愧龍宮の里に来てから3日後の朝。その日きららは女子組と朝風呂に行き、春輝も男風呂で体に付いた臭いを洗ってから朝食の席に着いたが……。
「!!?」
「……?」
薫は顔を背けてしまい、春輝は首を傾げた。
それは朝、薫と鉢合わせた時も……。
『あ、芳廼さん。おは』
『お、おはようございます!し、しし、失礼しますううううううう!!!』
『あ、ちょ、芳廼さん!?……何だったんだあれ?』
何故か薫は顔を紅くして、物凄い勢いで走り去ってしまい、その様子を精神の中で見ていた九喇嘛は、笑うだけで答えず春輝はますます困惑するのであった。
その様子を見た武頼達に弄られ、戸惑いながらも春輝は百愧龍宮が所持する山に行き、そこで修行をすることにした。
「ふうぅぅぅぅ……。」
春輝の周りには50個程の水球が漂っており、その一つ一つを雷球のように意思だけで操作していくと、森の木々の周りを浮遊している灯りをに向かって飛んでいき、全てを水の球を刃にして切り裂いていく。
すべて切り終えると、春輝は深呼吸をしてその場に寝転がると空を見上げる。
「……長閑、だなぁ。(平和だなぁ。だけど、いつヒクソスって奴が来るかも分からないんだし、気は抜けない。)」
【馬鹿野郎、気負いすぎるのもお前の悪い癖だ。
少しは気持ちに余裕を持て。それに線引きはどうするんだ?】
話しかけてきた九喇嘛に春輝は精神の中で返した。
「(朱愧さんや暁冥さんの言ってた“大切なモノ”と“そうでないモノ”だよな?
俺にとっては五車のみんなや母さん達が大切なモノだよ。そうでないモノは分かんないけど……。)」
【分かってるじゃねぇか。それならもっと簡単にすれば良い。
その家族や五車の仲間は護る対象、家族や仲間の命を脅かす、危機に陥れる輩は敵。
難しく考えるな。大体人間の線引きなんざそんな感じだろう?】
九喇嘛の言葉に、春輝は確かに……と、頷く。すると、九喇嘛は春輝に苦言を呈する。
【春輝、お前は何でもかんでも難しく考えすぎだ。
確かに考えなきゃいけねぇ時はあるだろうが、んなものはいちいち気にするな。
その時その時で判断しろ。だが、甘さは捨てろよ?そんなものはいらん。】
「(あ、ありがとう九喇嘛。)」
九喇嘛はその返事に満足したのか眠りに着き、春輝は起き上がって修行を再開した……。
◆◆◆
春輝がソウマと会っていた頃、獅子堂の住む屋敷、そこにある道場では病院から退院した獅子堂 翔馬と当主の宗一郎が稽古をしており、翔馬は何度も倒される。
「がはっ!!?はぁ、はぁ……!!?」
「どうした?もうへばったか?」
「冗談、言わないで下さい……!まだまだ行けますよ!!」
翔馬はそう言うと宗一郎に向かっていき、それを見て宗一郎も楽しげに笑みを浮かべて翔馬との稽古を再開するが、その姿は実に楽しそうであり、道場に呼びに来た仲森 奈々華、スウ・ジンレイ、桃知 凪も柔らかな笑みになって見守っている。
翔馬は退院してすぐに春輝が修行に出たと聞き、自身も鍛練をしようと宗一郎に頼み込み、稽古をつけてもらっており、初めはスウや凪も心配していたが翔馬の以前と同じ優しい笑顔を見て内心安堵し、無茶をしないことを条件に修行を許した。
「いくぜ翔馬!」
「はい!!」
◆◆◆
隼を模した被り物をした男、フェイザーが空から目的地である“五車”を目指していた頃、同じく“日本”を目指してエジプトからフェイザーと仲間のヒクソスの幹部が向かっていた。
ある者は闇に紛れて……。
ある者は地中を掘り進めて……。
ある者達は堂々と海を渡って日本へと向かっていた。
その頃、ヒクソスの長である砂漠の王はピラミッドの中で、静かに、ただ静かにその時を待っていたのであった。
「ふふ……。ふふふ……!さぁ、魔界への門を我が下へ!
そして、愚かな人間共と浅ましい吸血鬼の王を滅ぼすのだ!」
高らかに笑いながら黄金の杯を掲げてそう宣言し、中に入った酒を飲み干すのであった……。
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