ある日の五車学園。未だにヒクソスとの戦闘が続く中で授業が行われていたが、授業は午前中の自習でのみという形で終わり、生徒達は家に早く帰れるという事で浮ついていた。
その中で春輝は五車の森の中で、1人剣術、水の呼吸の修行をしていた。
「(壱の型、水面斬り!壱の型から参の型、流流舞い!そして、参の型から拾の型、生生!)……っ!がはっ!?げほげほっ!」
今放てる最強の型である生生流転に繋げようとした瞬間、春輝は肺に凄まじい痛みを感じ、その場に膝をついて咳き込んでしまう。
そして、その場に大の字になって寝ると、空を見上げて深く深呼吸をする。
「……はぁ、くそ。(生生流転……。今の俺が出来る剣術の中で最も強い一撃。だけど、それに合わせた呼吸をした瞬間、肺が刺されるように痛むんだよなぁ。全集中の呼吸を常にやる“常中”ってのが毎日出来るようになれば良いんだが……。)なぁんか違うんだよなぁ。」
「こんにちわ。」
「うおっ!?ビックリしたぁ……篠宮さんか、脅かさないでくれ。」
春輝に話し掛けてきたのは、篠宮 咲弥だった。
「こんな所で何してるんですか?」
「技の練習をしてたんだ。けど、どうにも上手くいかなくて。今は休憩中なんだ。」
「あらあら、水城くんは本当に熱心ですね?でもあまり根を詰めすぎると良くないですよ。適度にやるのが大切って、姉さんも言ってましたし。」
適度にやる、そう言われて春輝は横になったまま腕を組みながら考えていると、何かを思い付いたのか起き上がると、咲弥に頭を下げる。
「篠宮さん、ありがとう!何となく分かった気がする!」
「それは良かったです。では今度、稲毛屋の白玉あんみつをご馳走してくださいね♪」
「おう……ちゃっかりしてる。」
咲弥と笑い合ったその時だった。
ドゴオオオオオッ!!!
「「!!?」」
校舎の方からけたたましい音が鳴り響き、春輝と咲弥は急いで校舎に向かった。
すると、そこにはアサギが金髪の褐色肌をした筋肉質の男の前に膝を付いており、明らかに疲れきった様子で肩で呼吸をしていて、周囲には不知火や さくら、紫が怪我を負い倒れていた。
「アサギさん!!」
「っ!?春輝!来てはダメ!!」
「……ハルキ?貴様がハルキか?」
金髪の男は春輝に剣の切っ先を向けて睨み付けると、春輝も男を睨み付ける。
「あんた、何者だ?ヒクソスか?」
「如何にも。俺の名はラムセス……。我らが王の刃である。ハルキとやら貴様がダンク、ザヒ、そしてマハンを討ったのか?」
「……俺一人でやった訳じゃねぇけどな。」
「それでも貴様が戦ったのには間違いはない。なればこそ、俺は貴様を討ち、同士達への手向けとする。」
ラムセスは春輝に突貫していき、春輝は“颪”を口寄せすると閉じた状態で応戦していく。さらに影分身を数体出していく。
「アサギさん達を避難させてくれ!!」
「「「分かった!!」」」
春輝(本体)の指示に分身達は従うと倒れている面々を避難させていき、ラムセスの剣を蹴って距離を開ける。
「……何だ?人質とかにはしないんだな?」
「その様な真似をするか。そんな事をするのは品のない連中だけよ。俺は実力で貴様を倒す……俺のやり方でな!!!」
颪とラムセスの持つオリハルコン製のロングソードがぶつかり合い、火花を散らす中、春輝は飛び上がって空中に跳ぶと、颪を開く。
「天狗!!」
「風か。ならば、こちらも“風纏い”。ふんっ!!」
ズバッ!!
「なっ!?て、天狗が!?」
「どうした?この程度か?」
「っ!だったら、雷遁!雷光大蛇!」
「雷か……ならば、“雷纏い”。ふんっ!!」
ズバッ!!
ラムセスは風、雷と2つの属性を同じように扱い、刀身に纏わせると春輝の術を切り裂いて見せたのだ。その状況に流石の春輝も困惑し、颪を構えて睨むとラムセスは笑みを浮かべている。
日本に来た際、ラムセスは同胞であり対魔忍との戦闘で戦死したフェイザー、ダンク、マハン、ザヒの生き残った部下たちから春輝の情報を聞き、対魔忍の中で一番厄介な者と認定し春輝抹殺のため自身の部下と死んだ彼らの部下たちを使って春輝の能力と情報をあらゆる面から収集し対春輝用の策を練り、五車を襲撃したのだ。
「くっ!こいつ……!」
「春輝!!」
「俺らも加勢するぜ!」
「真!晃!!みんな!」
「させるか。来い、魔蟲スカラベよ!」カサカサカサカサカサカサカサ!
「う、うわあああああっ!!?た、助け─────」
「「「「っ!!!?」」」」
ラムセスは魔方陣を産み出すと、そこから大量の甲虫達が湧き出て仲間達に迫っていき、その甲虫は1人の男子生徒に群がると、あっという間に肉も内蔵も髪も食べ尽くして、骨のみになってしまい、それを見た一同は流石に足を止めるしかなかった。
「みんな下がって!火遁、業火球!!」
そんな中、迫る甲虫に春輝は火遁で焼き殺していき、仲間達の退路を作っていく。
「火か。そちらが火ならばこちらは氷だな……来い、ホルスよ。」
「キェエエエエエエエエエッ!!」
ラムセスは空に魔方陣を張ると、そこから10羽の隼を召喚した。その隼達は周囲の水分を固めると鋭い氷柱にしていき、春輝や仲間達へと氷柱をミサイルのように放っていく。
「くっ!!土遁、土流壁!」
ドンッ!ガガガガガガガガガガガガガッ!!
「ほう?中々粘るな。だがどこまで持つかな?」
「くっ!多重影分身!!さらに業火球!!」ドドドドドドドドドドドッ!!
ホルス達は春輝や土壁に氷柱のミサイルを放ち続けており、春輝も避けるか弾くので手一杯であったが、多重影分身で50体出すと業火球で一斉にホルスを焼き殺していく。
形成は逆転したかに見えたが、ラムセスは余裕の笑みを浮かべており、新たな僕を召喚した。
「来い!スフィンクス!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
「おいおい、勘弁してくれよ……。」
ラムセスが新たに召喚した怪物の名は“スフィンクス”。
鋭い爪と牙を持つその怪物はアフリカ象と遜色ないほどに巨大であり、その数はおよそ100。春輝の影分身達も応戦するが、スフィンクスの咆哮で起こした雷によって春輝も押され始めていた。
「春輝!!」
「お兄ちゃん!?大丈夫!?」
春輝の側に藤孝とゆきかぜが駆け寄り、真達も駆け寄ろうとするがラムセスはそれを許さなかった。
「貴様らの相手はこいつだ!来い!キングスフィンクス!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ラムセスが真達に差し向けたのは、スフィンクスの数十倍は有ろうかという巨体のキングスフィンクスであった。これはスフィンクスの上位種であり、体躯は鯨を遥かに越える巨体である。
「わおっ!?ヤバいぜでかいぜ!!?」
「デカすぎる!守鶴達と同等の巨体だ!?」
「マジで学園潰す気か!?」
「そうは、させるか!!(九喇嘛、力を貸してくれ!!)」
春輝がラムセスと体術で肉薄する中、九喇嘛にそう呼び掛けると九喇嘛も起き上がった。
【しゃあねぇ、今回は流石にヤバイからな。力を貸してやる!!】
春輝が九喇嘛とリンクしようとした瞬間、ラムセスは春輝に近付くと右手の五指に魔力を纏わせて春輝の腹に押し込んだ。
「がはっ!!?な、なにを……!!?」
「貴様の中にいる怪物を使われたら面倒だからな?“封印”させてもらう!!“魔獣封印”!!」
ガチャッ!!!
【春輝!!春輝!!くそがッ!!結界か!?】
結界で封じられた九喇嘛は真っ暗な闇の中で、舌打ちをするも何処にも光が見えずにその場に止まるしか出来なかった……。
「がはっ!!?げほげほっ!!?」
「お兄ちゃん!!?お兄ちゃん、大丈夫!?」
「お、俺は平気……(九喇嘛?九喇嘛!!?これは、封印術式か!?)くっ!!?このっ!」
「ふんっ!!」
バギィンッ!!ラムセスの刃によって颪は粉々に破壊されてしまう。
「なっ!?だったら」
颪が破壊されたことに驚くがそれに怯むことなく体術で挑むが、ラムセスは焦ることなく冷静に春輝が繰り出す拳打を捌き、逆に春輝の体にラムセスの拳打が突き刺さり、更に強烈な蹴りの一撃を喰らい吹き飛ばされる。
「がはっ!!くっ、だったら火遁“豪龍火の術”!!」
ゴオオオオオオオオォォォォォッ!!
体勢を直ぐに立て直し巨大な龍の形をした炎をラムセスに向けて放つ。しかし……。
「同じことだ。“セベクの牙”!」
ドオォォンッ!!じゅううぅぅぅぅぅっ!!
ラムセスの前面に魔法陣らしき物が現れ、そこから巨大なワニの形をした水が出てきて炎を消し去ってしまう。
「くっ!まだだ!?影分身の術!!」
『うおおおぉぉぉぉ!!』
30体の影分身を出しラムセスに向かわせるが、ラムセスは焦りの表情を見せない。
「その分身はオリジナルと同じように自立と思考ができる厄介な物だ。しかし……はあぁぁっ!!!」
ブンッ!!
ラムセスが気合を入れ、愛剣のロングソードを振るい衝撃波を発生させて影分身に向けて放つ。
ズバッ!!!
『うわぁぁぁぁぁ?!!』
放たれた衝撃波は30体の影分身を一撃でかき消してしまう。
「だが、強度は大したことないらしいな。
まぁ、分身体の魔力の配分量を変えれば知らんがな。」
「……そんな、‥‥俺の力が、通用しない!!?」
「当然だ。貴様の力は俺の部下と、死んでいった同士達の生き残った部下達も使い徹底的に調べ上げた。
貴様の能力は“発展途上”。故にここで消すに値する。」
「なっ!!?」
衝撃の事実に驚愕する春輝。
今まで相対してきた敵は自分の力を過信し舐めてかかって来たのが殆んどで、自分の力を研究され対策されてきたことは皆無だった。
だがこの男、ラムセスは違った、五車を攻める前に自分を一番の脅威と判断し念入りに情報収集をし、対策を練り挑んできたのだ。自分の能力を徹底的に研究され対策を取られことがない春輝には衝撃が大きかった。
ただでさえ自分と同じ多彩な能力持ちと今まで戦ったことがなく苦戦しているのに対策を取られている事実は春輝を打ちのめし肉体と精神を疲弊させた。
その様子を見た真や晃といった仲間達は春輝を助けようと近づこうとするが、ラムセスの生み出した魔獣がそれを止める。
「クソ、魔獣が邪魔で近づけない!?」
「こいつら、普通の魔獣じゃないぜ!?バカヤロー!!コノヤロー!!?」
「邪魔しないでよー!!」
ラムセスが召喚した魔獣達の妨害で近づくことすら出来ずにいた。
仲間達の連携も魔獣によって断たれ影分身の物量戦も召喚獣によって相殺され孤立無援の状態となった春輝、その眼には先ほどまであった戦意はなかった、あるのは“絶望”と“恐怖”であった。
「(駄目だ、何一つ通用しない‥…。俺、ここで死ぬのか?)」
そんな春輝にラムセスは剣の切っ先を向ける。
「貴様の力は削いだ。ここで幕引きとしよう。
その首、我が主に捧げよう。」
「お兄ちゃん!!」
「「「春輝!!?」」」
ラムセスが春輝に剣を降り下ろそうとした瞬間……。
「はぁ!!!!」
ダァァァンッ!!
「ぐっ!!!?何者だ……!?」
「お前、ウチの後輩に何してくれてんだ?」
「あの人って、確か獅子堂の?」
「獅子堂、宗一郎……。」
ラムセスを蹴り飛ばし、春輝を助けたのは獅子堂 宗一郎だった。
ラムセスは一撃で宗一郎の危険度を理解したのか、キングスフィンクスを宗一郎に向かわせる。
「はぁ!!」
ズバッ!!……ドォオオオオオオオオオオンッ!!
「「「「えええええええええええええっ!!?」」」」
宗一郎はなんと手刀のみでキングスフィンクスを倒してしまい、明らかに分が悪いと見たラムセスは風の魔法で浮く。
「やむを得ん。ここは退かせてもらおう……だが、そのハルキとの決着は必ず着ける。首を洗って待っていろ!!」
「ふぅ、あいつかなり強いな(それにしても。)」
宗一郎は春輝を横目で見た。彼の顔には“絶望”が残っていた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん大丈夫!?」
「あ、あぁ。ありがとう、ゆきかぜ。みんなは?」
「無事!なんとか無事だよ!」
「そうか、良かった。」
春輝は安堵の笑みを浮かべると、宗一郎に頭を下げるのであった……。
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次回、春輝の剣技が煌めく!